7話 誤解を招くから止めてくれ
「体の調子はどう?」
翌日の朝。
珍しく俺の部屋で天莉さんと一緒に朝食を取っていた。
昨日は急に足が上手く機能しなくなって、彼女に支えられながら帰ってきたからな。きっと心配をかけた。
「もうバッチリだよ。ありがとう」
「そっか。よかった」
安心したようで、天莉さんは鼻唄を歌いながらヨーグルトを食べる。
朝食のメニューはトーストとスクランブルエッグにサラダ、そしてフルーツヨーグルだ。凄く美味しい。
けど一つ疑問がある。
「このヨーグルト何処から持ってきたの?」
俺の冷蔵庫にはヨーグルトなんて入れてなかった筈だ。フルーツヨーグルトなら尚更だ。
「ん、これ?私の手作り」
「君、本当になんでもできるな」
「ヨーグルトなんて簡単に作れるよ」
やべぇ。主婦力が高すぎる。ついこの間まで中学生だったとは思えないくらいのスペックだ。この子、中学時代一体何してたの?
「毎日が花嫁修行でした」
「君の家何なの?あと、サラッと心読まないでくれます?」
「普通の家だよ。有名会社の社長の娘とかそんな漫画みたいな設定はございません!」
「設定言うな」
「因みにえっちぃ花嫁修行も」
「はいアウト~」
これ以上はいけない。
どうしてこの子はいつも会話が続いてくるとそっち方面に誘導しようとするのだ。同性相手ならまだ許そう。だが異性相手にはその手の話をするのは許しませんよ!
「ねぇ、どんな修行したか聞きたい?」
「……君、そういうこと他の奴には言わないように」
「やだ真澄くんったら。俺以外の男には教えるなって言うのね。私束縛されてる」
ダメだ。勝てる気しねぇ。この子の耳にはなにやら特殊なフィルターがかかっているようだ。面倒臭い……。
「あ!今、面倒臭いって思ったでしょ!」
何故バレたし。
「思ってない思ってない」
「ホントかな~?怪しい」
「怪しくない。ご馳走さま」
訝しげな視線を送ってくる彼女をスルーして食器を片付ける。
食器を洗い終わる頃には登校するのに丁度良い時間になっており、俺は鞄を持って天莉さんと一緒に部屋を出た。
「…で、何故君は俺の腕に絡み付いているんだ?」
マンションを出ると、急に天莉さんが俺の腕に自身の腕を絡ませてきた。
「ダメなの?」
首を傾げて上目遣いで問いかけてくる。
別にダメではないのだがもう少し密着度を下げてほしい。俺の腕に彼女の二つのお山が押し付けられて落ち着かない。
更に周りの男からの殺気もヤバくて居心地が悪い。腕の心地は100点満点だが。
「恋人でもない男にこういうことするのはあまり褒められた事じゃないな」
「じゃあ恋人になれば万事解決じゃん」
「何も解決してない件について物申したいです」
「私はウェルカムだけど?」
「止めなさい。本気にしちゃうだろ」
「してもいいのに」
ああ言えばこう言うなこの子は。なんかニヤニヤしてるのも少し腹立つ。
たわいもない話をしながらしばらく歩くと校門へとたどり着いた。俺達は当然全校生徒の注目の的になった。
まぁ学校一有名になりつつある天莉さんが男と腕組んで登校してきたらそりゃあ驚くよな。俺も驚くもん。今回は当事者側に立たされているが。
だが、見るのは良いのだが止めて欲しいことがひとつある。
「嘘だろ…弥生さんが男と腕組んで学校来た……」
「あれ彼氏?ねぇ、絶対彼氏よね」
「なにアイツ超羨ましいんですけど~!」
「俺も弥生さんみたいな美少女と付き合いて~」
……俺達を恋人と認識するの止めてくれないかな?お前らの目はビー玉か何かか。俺達をどう見たらカップルに見えんだよ。釣り合わないだろうが。俺が彼女に。
「ありゃりゃ。誤解されてるね」
「呑気に言ってる暇があったらさっさと離れてくれ」
「え~もう少しこうしていたい~!」
「離れろ!」
更に抱き着いてくる天莉さんを必死に剥がしに掛かる。だが全く離れる気配がしない。なにこの子、めっちゃ力強い!?
「いいじゃん!この際だしもっと見せつけようよ!」
「何を見せつけんだよ!」
「私達がカップルだってことだよぉ!!」
「根も葉もない事を叫ぶのはやめてくれ!俺と君がいつカップルになった!?」
「今で~す!今なりました~!」
「なってねぇぇぇぇ!!」
彼女の腕を強引に振り払って俺は教室に向かって全力で走る。
こんな茶番にいつまでも付き合ってられない。ここは逃げるが勝ちだ。
背後で天莉さんが俺に何かを叫んでいたが今の俺には踏み止まって聞き返す事ができないくらいに余裕がなかった。