28話 やはり俺は神様に嫌われている
お久しぶりです。何て言うかもう『お久しぶりです』が挨拶になってきている気がしますね……毎度毎度すいません……。今回はただ遅れた謝罪を行おうと前書きを借りただけなので私個人では然程言うことも無いので早速本編へ行きましょうか。
それでは本編よろしくお願い致します!!
そして次は天莉さんが参加する種目。種目名は『障害物競争』。高校生にもなって障害物競争とはまた子供染みている。てかそもそも彼女が障害物競争に参加することが実は驚きだったりする。障害物競争といえば女子生徒があまり参加したがらないイメージがある。これは偏見なのか?障害物の内容にもよるだろうが正直小麦粉の中に入っている飴を探すために顔が真っ白になる種目として印象的だ。さてさて、この障害物競争の内容はどんなものやら。
「別に一人で参加するわけじゃないし、弥生くんが飴探しやるとは限らんだろ」
「だとしてもあまり女子はやりたがらないだろ」
「そうでもねぇよ?うちのクラスの参加者の過半数が女子だぞ」
「嘘っ!?」
「お前うちのクラスメイトが参加する種目くらい覚えとけよ……」
「どんだけ興味無ぇんだよ……」と柊に呆れられた。あまり体育祭とか好きじゃないから誰が何に参加しようがぶっちゃけマジで興味無い。せいぜい普段つるんでいるお前らくらいだよ。
「そう言われると複雑だわぁ。いや嬉しいけどよ」
「素直に喜ばれるとそれはそれで何かヤだな」
「酷くね!?」
こんなことをしている内に発砲音が鳴っていつの間にか障害物競争が始まっていた。
各クラス参加者は五人。つまり障害物は五つとなる。参加する選手はそれぞれ襷を掛けて課題をクリアする度に次の走者へと渡していくシステムとなっている。
一つ目の課題は案の定ベタな『飴探し』だ。小麦粉の中に隠された飴を手を使わず口だけで探し当てる課題。そして意外にもそれに当てられている参加者は半分が女子生徒。柊の言う通り、女子生徒でも参加したがる子は存外多いようだった。
二つ目の課題は『網抜け』だ。これは地面に敷かれた網を潜り抜けるという、まぁシンプルかつ地味さが出るのが少し面白さに欠ける課題だ。これは流石に全選手難なく抜けていっている。
三つ目は『風船割り』。風船を膨らまして中に入っている鍵を取り出して机の上に置かれている宝箱を開けて中のコインを取り出したら次に進める。これも簡単かと思ったが存外割りにくい風船が使われているようだ。中々苦戦してる。
さて後半になり、四つ目は『パン食い』。まぁこれは誰もが知っているパン食い競争と同じ、吊るされているパンを手を使わず口だけで取ると次に進める課題だ。だがうちの学校は何をトチ狂ったのか、何故か紐部分がゴムへと変わっている。いや難し過ぎるだろ。難易度爆上がりじゃないか。ほら皆凄い困惑した顔しながらビョンビョン跳ねるパンにひたすら食い付いているよ。これは来年は修正されるな。
何とか激難の四つ目をクリアした走者達はそれぞれのアンカーへと襷を渡した。
確か五つ目は………。
『さぁ!遂に障害物競争もラストとなりました!てかもうこの障害物競争、このラストの課題がメインなんじゃないかと言っても過言ではなぁぁぁい!!』
それを言ってしまったら今までは何だったんだと突っ込みたくなるが抑えよう。
『最後の課題は『借り物競争』!!先生が持つ箱の中に入れられた紙に書いてあるお題をこの会場から探し出し、それを持ってゴールすること!!実は紙に書かれたお題は我々司会や教員、誰一人としてどんなお題が書かれているかは知りません!!知っているのはなんとお題を書いた三年生のみ!!さぁどんなお題が出るかぁ見物だぁぁぁ!!!』
ここでやっと天莉さんの番となった。彼女なら借り物競争を選びそうだ。さて、彼女は何を引くのやら。
「お前選ばれたりしてな」
「何でだよ。俺何も持ってないぞ」
「お題が『物』だけとは限らないだろ?」
お題を引いた走者達が己のお題を探しに四方八方に走り出した。肝心の天莉さんはというと、何と真っ直ぐこちらに向かって走ってきた。
「真澄くん!!」
「はい?」
「来て!!」
…………マジで?
「ほれ見たことか」
「いや、俺?何で?」
「良いから!負けちゃうよ!早く来て!!」
天莉さんは俺の手を掴んで強引に走り出した。俺も引っ張られるように彼女と走り出す。
「ちょっ、天莉さん!何で俺!?お題は何さ!」
「私今ちょっと汗臭いけど我慢してね」
「答えになってない!」
汗の匂いとか知らんわ。寧ろいつも通り滅茶苦茶良い匂いするわ畜生。
俺達がグラウンドに出ていくと会場全体から黄色い悲鳴が響く。主に女子の。その次に多かったのは男子の落胆の声。何か公開処刑を食らってる気分だ。
俺達は勿論のこと一位となった。何しろ天莉さんはお題を見れば間髪入れずに俺の元へ来た。お題を探す時間は殆ど掛かっていたかった。俺達の後に続々と他の走者がお題にあった物を持ってゴールしてきた。
『さぁ!ここで最後の走者がゴールしました!!ではそれぞれのお題を開示して行きま~っしょう!』
何処ぞのVの者みたいな発音だ。霞ヶ丘が反応しそうだな。
『ではでは、え~それぞれのお題を開示します。走者の皆さんはお題が書かれた紙を先生に渡してください。はい、では先生から紙を受け取ったところで早速発表していきましょう』
六位:二組『魔法少女』
五位:七組『救急箱』
四位:四組『犬』
三位:五組『校長先生のブレザー』
二位:九組『マ◯オ』
一位:十組『尊敬してる人』
「ほう」
他のお題に対して突っ込みたい部分は多々あるがまぁそれは置いといて、天莉さんが引いたのは『尊敬している人』か………俺に尊敬できる部分無くない?
「そんなことないよ~。真澄くんとっても誠実だし真面目だしとっても尊敬できる人だよ」
「俺としては逆に君を尊敬しているけどね」
「そうなの?」
「そりゃあ行動力あるし頭良いし。人として普通に尊敬出来るけど」
「やったぁ嬉しいなぁ」
「お二人さん。イチャつくのは後にして退場の準備してくださいな」
勝手に盛り上がる俺達を止めたのは瑞木さんだった。彼女も参加者だったのか?
「いえいえ、私は実行委員してるので種目の準備や撤収役をやっているのです。ほら、ちゃんと並んで。すぐに退場の指示が出ますから」
「分かった。実行委員ご苦労様」
「ありがとうございます。天莉も一位おめでとう」
「ありがとう!また後でね!」
「うん。先輩もまた」
「あぁ」
そして丁度退場の指示が出たので俺達は瑞木さんに手を振ってグラウンドを出た。天莉さんと別れ、自分のクラステントに戻って来ると柊がにやけ顔で俺を見てきた。
「デートはどうだったよ」
「あれをデートってお前正気か?」
「可愛い女の子に手を引かれちゃって。男なんだからリードしねぇと」
「俺にそんなこと出来ないってお前が一番良く分かってるだろ」
「はははっ。でも随分と嬉しそうだな」
「えっ?」
「お前、今良い顔してるぜ。結構嬉しかったんじゃねぇの?」
嬉しかった……それは少しよく分からない。いきなり指名されてテンパってたし……けど、ただ………、
「ちょっと、楽しかった、かな……」
ほんの一瞬ではあったけど、こういうイベント事を嫌う俺が不覚にも少し楽しいと思ってしまった。これも天莉さんの存在のお陰なのだろうか。
「まぁでも、今日は、来て良かったかな」
「そりゃあ良かった。残りも楽しもうぜ」
「もう何も出ないけどな」
「バッカお前、体育祭で激しく動く女子生徒を観察するっていう大イベントがまだ残って、痛ぇ!!?いきなりチョップは止めろよ!」
「全くお前という奴は………」
いつか友が警察の厄介にならないか心配になりつつも、俺は残りの体育祭を楽しむことにした。
「お疲れ様」
「ありがとう夏蓮」
少し体を休める為に体育館の裏の日陰で涼んでいると夏蓮からスポーツドリンクの差し入れを貰った。本当は私が実行委員で動きっぱなしの彼女に差し入れを送るべきなのに先を越されてしまった。
「いやぁ流石天莉だね。結城先輩をすぐに見つけちゃうなんて」
「毎日真澄くん見てるからね。えっへん!」
「それだけ先輩のこと大好きなのに変なところで遠慮になっちゃうのは何でだろうね?」
「あはは……」
夏蓮が隣に腰を下ろすとジャージのポケットから先程の借り物競争の時の紙を取り出した。
「折角チャンスなお題だと思ったのに入れ替えちゃうなんてね」
夏蓮が持つ紙には『好きな人』と書かれていた。
「万が一の事を思ってダミーのお題をいくつか用意してたけどまさかこのお題で変えてって言われるとは思わなかったよ」
そう。私はお題の紙を先生に渡す前に夏蓮に紙を変えて貰っていたのだ。勿論バレないようにね。
「どうして変えたの?告るチャンスじゃん」
「ん~まあそうなんだけど、まだ早いかなぁって」
「そんな呑気な事言ってたら先輩取られちゃうよ?」
「そう言われると耳が痛い……けど今真澄くんに告白してもまた真澄くんに変な負担掛けちゃうかなって思ったんだ」
今の真澄くんは前と随分と変わってきて肯定的な考えを持つようになってきた。けどまだ彼は自分に自信が持ててない。そんな彼に好意を伝えてもまた彼の自尊心に壁を作りかねない。今はまだ変にプレッシャーを掛けるべきではないのだ。
「天莉は常に先輩に気遣うね」
「特に真澄くんのメンタルは常人よりも不安定だからね」
「私は先輩よりも天莉に幸せになってほしいんだけどなぁ。気を遣ってばかりで疲れない?」
「ありがと夏蓮。けど私、今でも十分に幸せだよ?真澄くんと一緒にいれるだけで幸せ」
「でもそれは先輩が卒業するまでじゃん。先輩が卒業したらここからいなくなるかもしれないんだよ?いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだよ?」
「分かってる。真澄くんが卒業するまでにちゃんと告白するよ。心配してくれてありがとう」
「約束だからね!」
「うん」
良い親友を持ったと思う。夏蓮はいつも私の心配をしてくれる。ちょっかい掛けてくる男子からも私を守ってくれる。とても優しい子だ。
「そろそろ戻ろっか」
「そうだね。あっ、夏蓮ジュース奢るよ!スポドリのお返し!」
「おっ、じゃあお言葉に甘えちゃう!!」
「じゃあ自販機にレッツゴー!!」
「「イエェェェイ!!」」
きっと夏蓮とはいつまでも一緒にいるだろう。私はそう根拠のない自信があった。
「ちゃんといつか告白してみせるから。待っててね真澄くん」
体育祭全ての種目を終え、俺達の中でのプチ騒動ではあったフォークダンスも何事もなく無事に終わった。勿論俺は早乙女先生に頼まれた通りフォークダンスの進行役をした。華京さんは足を痛めたから辞退したとして、天莉さんはどうしたのだろうか。俺が気にする権利はないとは分かっているが少し気になるものだな。
ジャージから制服に着替え、帰ろうと教室を出たらスマホが震えた。天莉さんからだった。
『打ち上げに参加するから今日は一緒に下校できなくなっちゃった!ごめんね!!』
との事だった。謝る事無いのに相変わらず丁寧な子だ。高校初めての体育祭だ。打ち上げもあって当然だし参加するべきだと思う。俺は去年断ったがな。今年も例外じゃない。
暗くなってきた空の下を一人で歩く。
今日は想像していた以上に充実した一日になった。去年とは大違いだ。恐らく以前の俺だったらこんな風にはならなかっただろう。
自分の変わりように不思議とおかしくなって笑ってしまった。そんな俺の目の前を小学生くらいの少女達が通り過ぎた。もう夕暮れだし家に帰る途中なのだろう。楽しそうに談笑しながら歩く姿はとても微笑ましい。
ただ一つ、小さな不安が生まれた。それは少女達の船頭を歩いている女の子。その子は後ろ歩きで他の子達と話をしている。そして少女達の進行方向にはとても長い下に続く階段があった筈。
まずい。
そう思ったのと同時に俺は走り出していた。鞄も放り捨てて死に物狂いで走った。ここから叫べば良かったかも知れない。けど少女は友達と話していて、ましてや赤の他人の俺の言葉に反応するとは思えなかった。
そして階段の存在を忘れていた少女は片足を滑らせてバランスを崩し、倒れるように宙を浮いた。
「手を伸ばせ!!」
流石の少女も俺の声に反応し彼女はこちらに手を伸ばした。俺はその手をしっかりと掴んで引き寄せ、乱暴ではあるが後ろへと少女を投げた。ギリギリではあったが何とか少女は救えた。
その一瞬の油断が駄目だった。
今度は俺が足を滑らせた。謂わずもがな俺は先程の少女と同じように宙を浮いた。少女の時は俺がいた。だが俺の時は誰もいない。支えを失った俺の体は降下し、長い階段を転がり落ちた。視界が回転しながら全身の至るところに鈍い痛みが刻まれていき、俺の意識は暗闇に落ちた。
どれくらいの時間を転がったのだろうか。とても長かった気がする。体が動かない。というか感覚が無い。手を動かそうとしてはいるが動いている気がしない。視界も酷く悪い。霞掛かって上手く周りが見渡せない。声も出ない。出せても言葉とは言えない一単語の物ばかり。
俺は一体どうなったんだろうか。辛うじて耳はまだ他よりも生きていたようで、必死に何かを叫ばれているのは分かる。あとサイレンの音も聞こえる。
あ~あ、折角良い感じに一日が終わると思ったのになぁ。やっぱり俺は神様に嫌われているんだな。
まあ良いか。何かもうどうでも良くなってきた。何故か異常に眠たいし、今はもうこの眠気に身を任せるとしようか。




