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可愛い後輩の隣人さん  作者: 堺川天馬
24/30

23話 結城真澄はまた自分で自分の人間関係を壊していく

本っっっっっっっっっっっ当に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

二ヶ月!二ヶ月以上も期間が空いてしまって申し訳ありません!!

正直に言います。まぁ仕事もありますが、モチベーションがありませんでした。

別にこの小説に飽きたわけではございません。ただやはり体力面でも精神面でも疲れが出ておりまして、中々執筆に移ろうという気が出てこなかったんです。はい、こんなのただの言い訳ですね。適当に流してください。

モチベーションの方は徐々に回復しつつあるので、今度は二ヶ月も空けないように頑張りますのでこれからもこの小説をよろしくお願い致します!!

それでは大変長らくお待たせ致しました!!(本当だよ)

23話本編をどうぞ!

「裏切り……者……」


 思考が凍った。

 まさか、この二人に限ってそんな事がある筈がない。けど、先輩がこんな時に嘘を吐くとは考えにくい。じゃあやっぱり、本当に裏切り者と呼ばれているのか。

 一体何故………。


「何で?っていう顔だな」

「だ、だって……」

「間違ってないからな。俺は結城を実際に裏切っている。コイツの望みを俺は無下にしてしまった。裏切り者と言われて当然だ」

「何をしたんですか……」

「人ってさ、皆現在(いま)が好きなんだよ」


 突拍子もなく先輩は話し出した。

 私はそれを黙って聞く。


「人は変われる、なんてよく言うけど実際は変われない。だって、皆現在が好きなんだから。実は皆、心の中で変わるのを怖がっている。変わってしまえば、現在の楽しい時間が壊れてしまうから。好きだと思える時間が失われてしまうから。確かに、変わった後も楽しい、好きになれる時間が待っているかもしれん。もしかすると悪い時間かもしれん。だが、どちらにせよ今まで味わってきた時間は失われる。どんな形であろうと絶対に」


 先輩はチラリと背中で寝る真澄くんを一瞥した。


「コイツは変わることを嫌う人種だった。自意識過剰になるわけじゃないが、当時、いじめを受けていた結城にとって一番の支えは俺だったんだと思う。俺はコイツを親友だと思っていたし、コイツもそう思っててくれた筈だ。けどそれを俺が壊した。俺は変わってしまったんだよ。コイツは、変わってしまう前の俺を望んでたんだよ。俺自身では分からないが、結城の目にはしっかり視えていたんだろうな。俺が変わってしまった瞬間が。情けない。自分の変化に気づけないなんてな」

「……………」

「君は、そうでないといい」

「えっ?」

「変わるな、とは言わない。だが、どうか()()()()()()()だけは変わらないで欲しい」

「変わってしまったら、どうなるんですか………?」

「何も。ただ、変わったものは元には戻らない。割れた皿のように、黒が落ちた白のように、完璧に元には戻らない。永久に」


 その言葉はまるで先輩自身を戒めているような、そんな感じがした。

 彼の眼光は真っ直ぐ目の前を貫いていたが、きっと彼の瞳には彼自身が映っていたのだろう。酷く、恐ろしい顔をしていた。


「ん………んぁ……?」

「起きたか寝坊助」


 眠っていた真澄くんが目を覚ました。

 彼は顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回し、私と先輩を見ては首を傾げてキョトンとする。


「俺、何で柊におぶられてるんだ?」

「何も覚えてないの?」

「どういうこと?」

「弥生くん」


 先輩は人差し指を立て、唇に当てて、何も言うな、と合図してくる。

 私はそれに従って、彼を先輩に任せた。


「ったくよぉ。お前、眠いのは分かるが道端で寝るとは思わなかったぜ」

「えっ、俺道端で寝てたのか?」

「それすらも覚えてねぇって、どれだけ寝惚けてたんだ?それか酒に酔い潰れたか?」

「俺はまだ未成年だよ!下ろせ!」

「駄目だ。まだアルコールが残ってるかもしれん」

「だから酒は飲んでねぇ!!」

「ぐえっ!おいやめろ。ネクタイを締めるのはやめろ。苦しいわ」

「お~ろ~せ~!!」

「ちょっ、おまっ、俺に背負われるのがそんなに嫌か!?弥生くんも何か言ってやれ!」


 そうですね。多分これが一番なんじゃないかな?


「真澄くん」

「ん?」

「暴れるなら今日一晩中真澄くんのベッドで過ごすよ?」

「喜んでおぶられます!!」

「どうですか?」

「流石っす。弥生姉貴マジパネェっす」


 ドヤ顔したけど、この条件出して迷いなくおぶられる事を選ばれると結構凹むんですけど。私ってそんなに魅力ない?自爆したな~。


「結城、あの条件出されて大人しくなるとか、お前それでも男か?」

「メンタルが破壊される」

「このへたれめ」

「ほっとけ。こちとら女経験零なんじゃ」

「チャンスあったのに拒否ったのは何処の誰でしたっけ~?」

「ちょ!なんで知ってんだよ!!」


 ん?ん~~?今流せない会話が出てきたぞ~?


「先輩、どういう事ですか?」

「あっ、やっぱ知らない?コイツってさ━━━」

「ああぁ止めろ!言うな!」

「真澄くん?やっぱ一緒に寝る?」

「黙ります!」

「どうぞ」

「コイツさ、実は華京さんに一度告られてんのよ」

「…………えっ?」


 耳を疑った。

 私は真澄くんを見た。彼はブスッと膨れて不機嫌そうな顔をしていた。


「そ、それでどうなったんですか?」

「結果はお察しの通り。フッたよ。それを聞いた時はマジでビビったけどな。まさかあの華京さんをフる奴が存在したとは。それも超身近に」

「な、何でフッたの?華京先輩、素敵だと思うよ?」


 言ってて胸が締め付けられそうだった。

 心の何処かであの人に敗けを認めている自分がいたんだなと思った。


「まぁ素敵だろうね」


 ズキリと痛んだ。

 やっぱり彼も華京先輩を好ましく思っているのだ。羨ましい………私も、彼に見てほしい………。


「けど、それと俺が彼女と付き合うのに何も関係ない」

「こりゃあまたきっぱりと言うのな」

「そりゃあそうだろ。何で素敵に思うからって付き合いたいってことになるんだよ。最近の奴等って頭ん中お花畑過ぎない?現実見ろよ」

「廃れてんな~。いやまぁ言わんとしてることは分かるけどさ」

「兎に角、俺は誰とも付き合わないからな。誰も愛さん。絶対だ」

「へいへい」


 良かったな、と柊先輩は私に視線を送ってくる。

 確かに、彼が華京先輩と何も無いのは分かった。けど、この様子だと私も彼と何も起こらないことになる。複雑だ……。


「あれ?何で天莉さん元気無さそうなの?」


 ………この人は……いつもは鈍感な癖に何でこういう時はこう目敏いのだろうか。ズルい。


「お前のせいだお前の」

「俺何もしてないだろ」

「これだからひねくれ者は」

「悪かったな」

「…………フフッ」


 二人のやり取りを見ていたら何だか楽しくなってきてしまい、つい笑ってしまった。

 真澄くんもいつもの調子に戻ったみたい。ちょっと安心。


「取り敢えず結城、お前は今日はゆっくり休め。課題もするな。明日俺が全部見せてやるから」

「そんな訳に行くか」

「黙れ。いいから休め」

「な、何怒ってんだよ………分かったよ。休む。休みますよ。ったく………」


 珍しく柊先輩の言葉に怒気を感じた。

 滅多に怒らない先輩がここまで言うんだ。今回の件はそれほど危険な物だったのだ。


「ほれ、マンション前だ。こっからは弥生くんの肩でも借りて上がれ」


 気がつくともうマンションまで帰ってきていた。

 やっぱり一人で帰るより誰か話相手がいた方が早く感じる。

 先輩から真澄くんを任せられ、二人で先輩にお礼を言ってから私は真澄くんを支えながら階段を上った。

 その時に「大丈夫だってのに………」と彼がブツブツとごねていたが、私も彼が心配だった為無理矢理言うことを聞かせた。勿論先程と同じ方法でね。彼の断る速度と言ったら……そんなに私と寝るのは嫌か!!本当に夜這いするぞこの野郎!!でもそういう誠実なところも好き!!






「結局こうなるのか………」


 昨夜、何故か俺は道端で寝ていたらしく、通り掛かった柊に見つかり、天莉さんまで呼ばれてこうやって自室へと連行されたのだ。

 俺が何故道端で寝ていたのかは本当に謎だが、それ以上に、天莉さんに添い寝された事がインパクトありすぎた。

 寝ないって言ったのに結局押しきられてしまった。自分の女からの押しへの耐久力が無さすぎて困る。正直泣きたい。

 そんな中でも手は出さなかった。偉いぞ俺。いくら人が嫌いでも本性は完全な男なわけで、悔しいことにそういう欲求もバリバリにあるわけだから、毎度の事ながら本当によく耐えてると思う。


「あははっ、ごめんごめん」


 そして当の本人は台所で呑気に笑ってるし。

 笑い事じゃねぇってばよ。貴女下手したら貞操無くしてましたよ?体の危機でしたからね?そこんとこ理解してます?


「てかさ、もっと厚着してよ。何でそんな薄着なのさ」

「駄目だった?」

「一人で寝る分には何も言わないよ。けど誰かと寝る時は厚着しなさい。体温がほぼ直に伝わるんですけど?」

「温かったでしょ?」

「皮肉で言ってんの通じてないのかな?(怒)」

「残念ながら通じておりません」

「この野郎………」


 オリハルコンメンタル過ぎるだろ。マジで壊れねぇ。

 最近のJKってこれがデフォなのか?強すぎるでしょ。メタルキングもびっくりだよ。いや、プラチナキングもすっ転げるわ。


「むぅ、私がいると駄目なの?」

「駄目。俺、男。君、女。一泊駄目。絶対。いつも言ってるでしょうに」

「我が儘言うとまた首に吸い付くよ?」

「やめぃ!」


 そうなのだ。なんと今朝、というよりさっき、寝起き直後にうなじに吸い付かれたのだ。

 被告人曰く『マンネリ化してきたモーニングコールに新鮮味を出そうかと思って』のこと。新鮮味もへったくれもあるか。心臓破裂するかと思ったわ。ただでさえ普段の噛み癖に頭抱えてんのに、そこに吸い癖まで付いたら性欲と羞恥心がスーパーベストマッチして俺のメンタルがオーバーフローしてヤベェェイする自信あるぞ。全身真っ黒になって襲うぞ。


「『ガタガタゴットン!ズッタンズタン!』ってね」

「心を読んで乗ってくるの止めてくれません?てか何で知ってんのさ」

「私も暇な時にたまに観てるから」


 マジっすか。ちょっと意外でしたよ。君でもそういうの観るんだね。俺?俺も暇潰し程度なら。てか霞ヶ丘が異様に勧めてくる。まぁ面白かったけどさ。


「はい!ご飯出来たよ!」

「いつもの事ながら凄く美味しそうだ」

「やだな~。そんな豪華な物じゃないよ~」


 けど味はプロ顔負けなんだよなぁ。うん。やっぱ絶品。高一でこの味は本当に凄いと思う。そこらの店よりも断トツ旨いもん。こんなのが毎日食えるとか俺本当に運がいい。人生の運は最悪だったけど。


「と、ところでは、真澄くん」


 旨い朝食に夢中になってると天莉さんが何やらモジモジしだした。ついでに顔も少し赤い。


「どうしたの?」

「き、昨日の昼休みにね、ちょっと言いそびれちゃった事があって………」


 あ~そう言えばそうだったな。

 俺もすっかり忘れていた。


「あれか。俺も聞かなきゃなとは思ってた。オーケー。食べながらは失礼だからね。ちゃんと手を止めて聞かせて貰うよ」


 箸を置いて、食事の手を一時停止。

 天莉さんの方を向いて、彼女が言い出すのを待つ。


「そ、そのね………」

「うん」

「体育祭、なんだけど………」

「ほうほう」

「フォークダンス………」

「あるね」

「真澄くんはその……カップル………いるかな……なんて………思ったりして………」


 ………………あれま。あれまあれまあれま。

 自意識過剰じゃなかったわ。マジであの時誘われてたんじゃんか。えっ、マジで?この子が?学園内で人気なこの子が俺にフォークダンスのお誘い?おいおい、反応に困りますぜ。

 だってさ━━━


「いないよ」

「いないの!?」

「うん。だって今年サボるつもりでいたし」


 そうなんだよな。俺、今年のフォークダンス参加しないんだなこれが。だって踊りたくないもん。俺去年カップルだった子に超拒否られたし。終了した直後に全力で逃げられたし。


「さ、サボるなんて駄目だよ!」

「やだよぉ~~俺踊りたくないぃ~~」

「駄々こねないの!」

「何でさぁ~~サボっても良いじゃんかぁ~~俺と踊っても楽しくないぜぇ~~クラスのウェーイ勢と踊った方がまだ楽しめるよぉ~~」

「す、凄い嫌がり様だ………」


 引き気味になっている天莉さんの目の前で顎をテーブルの上に置いてグワングワンと左右に揺れる。


「てかさぁ、君も華京さんも物好き過ぎでしょ。何で俺なのさ。俺ダンスヘッタクソだぞ。リードどころか足踏んじゃうよ?」

「やっぱり先輩にも誘われたんだね………」

「まあね。今は何か、君と正々堂々戦う為とかなんちゃら言って保留になってるけど。君達何の勝負してんの?」

「そ、それは内緒……でもそっか………先輩が………」

「なした?」


 急に俯いて何かを考え始めた天莉さん。そして勢いよく立ち上がり、ズカズカと俺に歩み寄ってきては顔を寄せてくる。

 はい、毎度の事ながら近いです。吐息がこそばゆいです。髪の毛良い匂いです。睫毛長いです。心臓バクバクです。


「真澄くん!」

「何でしょう?」

「放課後、華京先輩のところ行くよ!!」

「…………………………………………………はい?」








「で、連行されてきた訳と」

「あぁ。俺としては何でお前もいるのか謎だけどな」

「何か面白そうな臭いがしたから」

「この駄犬が」

「テラヒドス」


 ホント何で柊がいるの?そして何故俺は放課後に空き教室に連行されて、目の前で天莉さんと華京さんが見つめ合ってる景色を見させられてんの?この光景見てると違う世界の扉が開きそうなんですけど。誰か助けて。


『百合は良い文明』


 今は凄く嫌な空耳が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


「あっ、オタからメール来てる」

「開くな。そのまま閉じろ」

「『百合は良い文明。結城殿、そのまま止まるんじゃねぇぞ……』だってさ」


 もう俺の周り変な奴しかいないのぉ!?何でアイツ俺の心読めてんのぉ!怖いよ!!姿が見えない分余計に怖いよ!!


「あっ、セイバー金キタコレ!文明破壊剣だ!」

「タイミングドンピシャだなおい!」

「あとセイバー絶対にぶっ殺ウーマンも来た!」

「確かに復刻してましたね!!ああもう今回ネタ多すぎ!!」

「あとオルタニシ!」

「お前運すげぇな!!?」

「更にラムセス二世!!」

「あぁもう!帰り道には気を付けろよ!」

「俺今日死ぬかも!!」

「無事な事祈る!!」


 隣で凄まじいガチャ引きを見せる柊が無事に明日を迎えられる事を祈る。このゲームのガチャマジで当たらないもんな。


「ところでさ、何で俺ここに呼ばれたの?」

「見ろよ結城!またセイバー絶対にぶっ殺ウーマン来た!しかも二体!これで宝具三だ!」

「柊うるさい」

「また二体!?宝具マックスキタァァァァァ!!」

「お前本当に今日死ぬなよ?」

「死ぬ!」

「笑顔で言うことじゃないな」


 それはいいからマジで何で呼ばれたの?


「私と先輩、どっちが真澄くんと踊るかを決める為です!」

「ほう。それで私を呼んだわけか。君も私と正々堂々戦うと言うんだね。嬉しいぞ」

「そちらが抜け駆けしないんです。なのに私が抜け駆けしたら後味悪いです。正面から戦って、私が勝ちます!」

「良い心がけだ」

「何これ?」

「ヒロインズファイト」

「ワケわからん」

「そこは分かってやれよ………」


 隣でため息を吐かれてもどうしようもない。

 女の子二人は見つめ合うのが終わったと思えば、ヒソヒソと話し込んでは時々俺をチラッと見てくる。なんやねん。

 女子のヒソヒソ話って殆どろくな事がない。良くも悪くもな。

 それに比べ、男って分かりやすいよな。すぐ顔に出るし、声もデカイから大体周りに丸分かり。残念極まりない。


「ふむ、こうやって二人で話し合っても切りがないな」

「私もそう思ってました」


 おっ、進展ありか?けどなんか嫌な予感がするんですけど。


「「本人に決めてもらおう」」


 デスヨネー!って何を決めるんだよ。


「何って」

「フォークダンスの」

「カップルに」

「「決まってる」」

「仲良いね君達……」

「「で、どっちと踊るの?」」


 ずいずいと机に身を乗り上げるように迫ってくる二人。

 俺これ凄い既視感ある。漫画でよく見る『どっちを選ぶの!?』とすげぇ似てる。まさか自分が似たような経験するとは思わなかった。

 けど体験して思った。これ想像より遥かに疲れる。片方を選べば、選ばれなかった方がどうなるか。後の事を考えると迂闊に答えを出せない、まさしく崖っぷちの展開だ。


「あ、あの、だから俺サボる……」

「「駄目」」

「私か」

「私」

「「選んで」」


 こ、怖い。そして顔が近い。あと机に置いた俺の手に二人で片手ずつ自分の手を添えるの止めてくれないかな。振りほどけないし、逃げられない。それと指を絡めようとするのも止めて。心臓に悪いからマジで。


「折角の体育祭だぞ。良い物にしたいと思わないか?」

「そ、それは確かに」

「真澄くん、私ね、高校初めての体育祭なんだ。最後まで楽しくいたいなって思ってるの」

「そ、そうだね。それも分かるよ」


 あはは、と愛想笑いしか出来ない。今の俺は蛇に睨まれた蛙同然。それか猫に追い詰められた鼠。後者の方がまだ可愛いげあるな。

 よし、二人を猫と思おう。それなら少しは緩和される筈だ。

 天莉さんはそうだな……マンチカンが合うかな。華京さんはアビシニアン。うん、そっくりだ。いやいやいやいや、違うだろ俺。何を女友達を猫で例えてんだよ。変態か。………やばい、変態だと否定しきれない。だって今日も結局天莉さんと一晩同じ部屋で過ごしちゃったし……体、柔らかかったな。はい変態確定。もう誰か俺を殺せ!!


「どした?」

「俺って変態だなって………」

「今更?男は皆変態だ。ヤりたい盛りのお猿さんだよ」

「取り敢えず全世界の健全な男達に謝ろうか」

「俺はヤりたい」

「だまらっしゃい」


 お前の性事情なんか知りたくないわ。

 ため息ついていたら両頬をムギュッと掴まれた。掴んできたのは華京さん。彼女の目は少しばかり怒っているように見える。


「よくもまぁ私達を置いて呑気にお話が出来るな。うん?」

「ひゅ、ひゅひまへん」

「その真澄くんの可愛らしいお顔に赤いキスマークをつけてあげようか?」

「くひべにふぁこうひょくいひゃんだひょ」

「キスマークの付け方って口紅だけじゃないんだよ?」


 小悪魔な笑みを浮かべる天莉さんに俺は妙な危機感を感じた。最近の女子高生はませすぎだろう。特に天莉さんは貞操観念が疎かだから尚怖い。いつか俺が襲うより前に俺が襲われそうな気すらする。おっと勘違いするなよ。『気がするだけ』であって、そんな事実は有り得ない。俺の想像だ。


「さぁ、選べ真澄」

「いや…あの……」

「私を選んでよ真澄くん」

「だから……」

「さぁ私を」

「私を選んで」

「ふ、二人ともぉ…」


 逃げ出したくなった。俺にこの二人のどちらかを選ぶなんて出来ない。情けないとは思う。けど、選べば必ずどちらかを悲しませてしまう。そんな事はしたくなかった。そうなるくらいなら、蔑まれてもいいから逃げようと思った。

 では、早速行動に移ろうか。


「えっ!?」

「真澄くん!?」


 椅子を引き、立ち上がって出口に一目散に向かった。そしてドアに手を掛けてスライドして開けるとそこには━━━、


「おぉ!結城くん。丁度良かったです」


 ドアの前には早乙女先生が立っていた。先生は俺を見てニッコリと笑みを浮かべて言った。


「結城くんはこの前、今回の体育祭のフォークダンスに出ないと言ってましたよね?」

「は、はい」

「実は今回のフォークダンスの進行役がまだ決まってないんですよ。そこでです。サボるつもりの君に進行役を任せたいんですが如何でしょう?」


 なんて助け船だ。答えは勿論オーケーだ。だが、俺が言うもののあれだが、そんな勝手が許されるのだろうか?


「他の先生方も是非にとの事ですよ。まぁ大事な進行役がいない状況ですからね。背に腹は変えられないという奴ですよ」

「ちょっ、オトメン!今はまずいって!」

「結城くん、どうか助けると思って引き受けてくれませんか?実はこれでも今の段階で進行役が決まってないのは結構まずいんですよ」

「どうまずいんです?」

「私は今回の体育祭の管理を任されているんです。最年少の教師ということで上から変な圧力がかかってまして、何としても成功させたいのですよ……どうかフォークダンスの進行役を引き受けてくれませんか?この通りです!」


 早乙女先生は俺の目の前で深々と頭を下げた。

 天莉さんと華京さんには悪いことをする。いや、元々逃げるつもりだったのだからそれは今更か。

 今回はこの機に乗らせて貰おう。今更女の子二人に嫌われようが、もう嫌われるのには慣れた。


「先生がそこまでされるのでしたら、そのお願いを引き受けます」

「「なっ!?」」

「本当ですか!それはよかった!では他の先生方にもそう伝えておきますね!ありがとうございます!それでは!」


 早乙女先生はとても嬉しそうに職員室へと戻っていった。

 俺が引き受けると言った時、後ろから天莉さんと華京さんの驚くような声が聞こえたが、俺は敢えて何も言わず、天莉さんに先に帰ると伝えて教室を後にした。



 こうして俺はまた、自分で自分の人間関係を壊していくのだった━━━。



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