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可愛い後輩の隣人さん  作者: 堺川天馬
21/30

番外編 ○○○○ゲーム

『起立。気を付け~、礼~。ありがとうございました~』


「終わった~」

 午前最後の授業を終え、疲れのあまりに机に突っ伏して溜め息を吐いた。

「古典はどうも性にあわん………」

「お疲れのようだな」

 弁当を持って柊が俺の席にやってくる。今日は弁当を忘れなかったようだ。時々忘れて学食に行くからなコイツ。

「まぁ疲れは弁当を食って吹き飛ばそうぜ」

「だな」

 その意見には賛成だ。何故なら今からは俺が一日で一番楽しみしている天莉さんお手製の弁当なのだから。

 鼻唄混じりに鞄に手を突っ込んで中をまさぐるがここでハプニング。

「どした?」

「嘘っ……」

 鞄の中に弁当らしき箱が見つからない。

 やってしまった。恐らく家に忘れてきた。そんな……一日の楽しみがここで消え去ってしまった………。

「もう駄目だぁ………おしまいだぁ………」

「何処ぞのヤサイ人の王子みたいなこと言うくらいにはショックを受けてることは分かる」

「だってお前………」

 あの天莉さんの弁当だぞ。プロ並みに旨い弁当なんだぞ?そりゃあ食えないとなったら凹むに決まってんでしょうに。

「もう胃袋掴まれてら。弥生くんやるねぇ」

「弁当……グスッ……」

「泣く程かよ…………」


『ガラガラガラガラ』


「ん?おっ!結城、見てみろよ」

「んだよ………俺今絶望の渦にさ迷ってるから邪魔する━━━」

「真澄くん!」

「この声は!?」

 慌てて起き上がって教室の扉を見た。そこには瑞希さんと天莉さんがいた。二人は上級生ばかりの教室を微塵も動揺せずに歩く。

「やぁ二人とも」

 柊が爽やかに挨拶をする。俺の時はもっと雑い挨拶の癖に女子には凄く紳士的だ。猫かぶりめ。

 瑞希さんは柊の隣、天莉さんは俺の隣といつもの定位置につき、天莉さんは机に青い布で包まれた四角形の物を置いて胸の前で手を合わせた。

「ごめん!お弁当渡し忘れてたの!」

「弁当!?」

 四角形の物を手に取って笑みが溢れる。

「やったぁ~!これで今日も天莉さんの弁当にありつける~!」

「本当にごめんね!」

「いいのいいの!こうやって手元にあるんだから問題なし!」

「へぇ~。結城先輩、そんなに天莉の弁当が気に入ったんですね」

 ニヤけ顔が妙に腹立つけど俺は肯定する。

 天莉さんの弁当は今まで食った弁当よりも遥かに美味しい。味は俺好みで丁度良く、量も申し分ないし、毎日メニューが違って飽きない。最高の弁当と言えよう。

「やったじゃん天莉。先輩べた褒めだよ」

「う、うん………」

「どしたの?」

「馬鹿お前。照れてんだよ。察しろ」

「照れてる?」

 柊に言われて天莉さんを見る。彼女は珍しく瑞希さんの後ろに回って顔を隠していた。

 普段はもっと恥ずかしいことをしてくる癖にここは照れるのか。基準が分からん。あっあれか。攻められると弱いパターンか。何それからかいたくなっちゃう。

「先輩方、折角ですし一緒にお昼食べませんか?」

「俺はいいぜ。なぁ?」

「俺も問題ない。まぁ君達が良ければの話だが。ここ二年しかいないから君達には居づらかろう?」

「大丈夫です。私は気にしませんし天莉は結城先輩にしか目が行かないと思うので」

 一々言い方に何か引っ掛かるんだよなぁ。二人が良いなら構わないんだけど。





「真澄くん、あ~ん♪」

「ちょっ、天莉さん恥ずかしいよ。ここ教室……」

「いいからいいから」

「あ、あ~ん………」

「美味しい?」

「う、うん」

「やった♪」

「「何このバカップル。爆発しろよ」」

 いきなりキッツいなぁおい。俺は止めろって言ったよ。なのにも関わらず『あ~ん』をしてきたのは天莉さんだからね。俺が責められるのは納得いかないっす。

「いやもうお前も有罪並みにイチャつき具合だわ」

「理不尽ここに極まれり」

「天莉もよくこんなところでイチャつけるよね~。大胆」

「結城お前周り見てみろよ。男どもスゲェ睨んで来てるから」

「見たくねぇ……」

 さっきから体にビシビシと伝わってくる殺気はそれかよ。

「では!イチャついてばかりでそろそろムカついて来たところでゲームを始めましょう~!」

「お~!」

「やだ唐突」

 今ムカついてって言われた気がしたが気のせいかな?そして柊は何故乗っかってんだよ。お前は打ち合わせでもしてたのか?絶対にしてただろ。

「今回やるゲームはですね、一時期ネットで流行を呼んだあのゲームでございます!」

「ズバリ瑞木くん!そのゲームとは!?」

「キャラぶれてきてんぞ二人とも」

「チキチキ!照れたら負けよ♡『愛してるゲーム』!!」

「イエェェェェェ!!」

「はぁ?」

 瑞木さんが可愛らしくゲーム内容を言った途端に柊が某ピン芸人の如く雄叫びをあげる。ここ教室だから静かにしろ馬鹿が。

「ルールは簡単!どちらかが相手に『愛してるよ』と言い、言われた方が照れたら負けという至極簡単なゲームです!このゲームを今からお二方にやって頂こうと思います!」

「何で俺達が……」

「理由も至極簡単。俺達が暇だったから」

「その暇潰しに俺と天莉さんを巻き込むな」

「まぁまぁ落ち着けよ。お前はそう言ってるが弥生くん結構やる気みたいだけど?」

「ゲームとはいえ、真澄くんから合法的に『愛してる』と言って貰える……フフフッ……楽しそう…」

 あらやだ天莉さんったら凄くやりたそう!うっそだろおい。そこは断ってくれよ!

「なっ?」

「なっ?じゃねぇんだよ。俺は降りるぞ」

「因みに降りたら不戦敗と見なして私達二人にジュースを奢って貰います」

「じゃあ不戦敗で良いわ。こんなゲームするよりジュース奢った方がマシだわ」

「ちょちょちょちょストーーップ!」

 大人しく自動販売機に向かうとしたら天莉さんに服を掴まれて止められた。

 半分不機嫌になっていた俺は天莉さんを睨んでしまったが、彼女は気にも止めていなかった。

「ねぇやろうよ。楽しそうだよ?」

「俺はちっともそうは思えないな。そもそもやるメリットがない」

「私はやりたい」

「柊とやりなよ」

「真澄くんとやりたいの!ねぇお願い!やろう!やってくれたらお願いを一つ何でも聞いてあげるから!」

「女の子が無闇矢鱈にそんな条件を持ち出すのは止めなさい」

「ちょっとえっちぃなお願いでも聞いてあげるから!」

「はいストップ。落ち着け。やってあげるからそのお願いとやらは無しにしてくれ。色々危ないから。良いね?」

「やったぁ!」

 何だかんだでやることになってしまった……。天莉さんったら、大声であんな事を言うんだもんなぁ。もっと警戒しろってんだ。周りにいる男子の殆どが反応してたぞ。取り敢えず反応した男子達は頭を冷やしてくることをお勧めする。

「……で、何をすれば良いって?」

 席につき、再びルール説明を求める。

「先輩と天莉で向き合って、どちらかが相手に向かって『愛してる』と言ってください」

 簡単に言ってくれる。愛してるなんて普段滅多に言わない言葉だ。それどころか一生に何回あるかってくらいだぞ。

 全く誰だこんなゲームを考えた奴は。見つけたらただじゃおかないぞ。

「……で、どっちが言うんだ?俺か?君か?」

「真澄くんでお願いします!」

 だよなぁ。まぁ半分予想は出来てましたよ。こういう類いのゲームって男から始めるって決まってんだよなぁ。

 しかしまぁ……。

(ワクワク…ドキドキ…)

 めっちゃ期待してる。目が椎茸みたいに輝いてるよ。やめて。そんな目を俺に向けないで。童貞ヘタレ野郎に『愛してる』って言葉を期待しないで。

「……あ、愛してる、よ……」

 途切れ途切れだったが一応言った。だが、これは想像以上に恥ずかしいものだ。顔が超熱くなってる。

「うわぁ。あ~。はぁ♡」

 肝心の天莉さんは何か凄い嬉しそうだった。頬を両手で包んでクネクネしてる。

「……おい審判。これアウトだろ」

「いいえ。彼女のこれは照れているのではなく喜びに浸っているのです。つまりゲームは続行!」

「やべぇ。このゲーム、プレイヤーよりも審判が不正してきやがった」

「さぁ!まだまだ勝負は続いていますよ!先輩!畳み掛けてください!」

 畳み掛けろって……俺は、一体何のゲームをやらされてるんだよ……。

「愛してる」

「ん~!もう一回♪」

「愛してる」

「もう一回♪」

 て、手強い。ここはちょっと工夫していかないと終わらないぞ。

「天莉さん、世界一愛してるよ」

「くあっはぁ♡」

「おっとぉ!ここで天莉選手大ダメージ!解説の柊先輩!先程の攻撃、どう見ますか?」

「いやぁ結城選手中々やりますね。同じ攻撃では通じないと見抜いてやり方を変えてきました。これは流石の弥生選手も予想ができなかったでしょう」

 う、うぜぇ。何この解説組。滅茶苦茶鬱陶しいぞ。

「ふぅ…ふぅ……もう一回」

「まだやんのかよ!……愛してるよ。本当に」

「……ラスト」

「君以外考えられない。心から君を愛しているよ」

「はい♪私も愛してます♪だから付き合いましょっ♪」

「決まったぁぁぁ!!二つの意味で決まったぁぁぁ!!」

「待てぇぇぇぇ(怒)!!」

「結城おめでとう。弥生さん幸せにしろよ」

「おい待てやコラ。お前ちょっと調子に乗りすぎじゃないか?あん?」

「あっ、ちょっとお待ちになって?首。ネクタイが締まって首がヤバイです。ミチミチ言ってる。ねぇ、ストップ。俺が悪かったからネクタイ締めるの止めて。ステイ!」

「な~にをやっているんだ君達は」

 柊の胸ぐらを掴み、ネクタイを締め上げていると背後から溜め息と共に聞き覚えのある声が聞こえた。

「あっ、華京さんじゃん。やっほ~」

「哲哉、君はよくもまぁそんな呑気な挨拶が出来たものだな?」

「お?華京さん何か怒ってらっしゃる?俺っち何かした?」

「何かした?じゃないだろ。バスケ部のミーティングにキャプテンが来ないとはどういう了見だ?」

「あっ忘れてた」

「真澄、そのまま締め上げてやってしまえ」

「イエッサー」

「本当にすんませんでした!だからネクタイは止めて!頼むからぁ!」

「もう止めて!柊殿のライフはとっくにゼロよ!もう勝負は着いたのよ!」

「……今度はお前か。霞ヶ丘」

 次にやって来たのはオタクの霞ヶ丘慎。オールスター全員集合である。

「お前かとはご挨拶でござるな」

「俺は今疲れてんの。お前の相手もする力残ってないの」

「君達は何していたんだい?」

 答え辛い。相手が華京さんだから尚答え辛い。

「愛してるゲームだ」

「柊………」

「おっと!また善からぬ気配がするぞ!」

「その気配は当たりだよこの野郎」

「あぁ困ります!腕をそんな風に曲げられては困ります!お客様~!」

「愛してるゲームか。なるほどなるほど」

 お前が教えたせいで華京さんも食いついちゃったじゃんか。どうしてくれんだよ。

「私もやって貰おうか」

「えぇ………」

「何だその反応は?」

「俺もう天莉さんで疲れたんだけど………」

「ただ愛してるというだけだろう?」

「純粋な男子高校生にはそれがツラいってこと気づいて。お願いだから」

「ヘタレめ」

 酷い言われようだ。そんなもん女の子に愛してるなんて軽く言えるのは柊みたいなチャラチャラした奴くらいだぞ。

「それも中々酷くね!?」

「じゃあお前瑞希さんにやってみろよ」

「瑞希くん愛してるよ」

「ヒェッ!?(顔真っ赤)」

「ほら言えるじゃん」

「何の検証ですか!!」

 バコンッと良い勢いで瑞希さんに頭を叩かれた。仮にも先輩の頭をどつくとは度胸あるな。

「私を実験に使わないで下さいよ!」

「満更でもなさそうだけど?」

「い~や~で~す~!!」

「瑞希くん、流石にそこまで嫌がられると先輩傷付いちゃう………」

「柊先輩に愛してるって言われて喜ぶのなんかゴキブリくらいですよ!!」

「俺泣いていい?泣いていいよね?」

「知らん」

「勝手に泣きたまえ」

「我、男の涙に興味無いんで」

「真澄く~ん、もっとやろうよ~」

「弥生くん!せめて無視しないで!何か言って!」

「えぇ~、じゃあ泣くなら隅っこで泣いててください」

「皆俺に対して冷たくない!?」

 そんな事言われてもなぁ。そりゃあお前、

「「「「「そういうキャラだから?」」」」」

「なん……だと………!」

 この中で誰が一番いじりやすいって言ったら多分十中八九柊になるだろうな。基本軽いしあまり怒らないし。

「あぁじゃあ怒るぞ!俺今から怒るぞ!激おこプンプン丸だぞ!」

「真澄、私と『愛してるゲーム』やるぞ」

「聞けぇぇぇぇぇ!!」

 結局やるんですね………。まぁ半ば諦めかけたましたけど……。

「あぁ!先輩割り込まないで下さいよ!」

「弥生くんはさっきまでやっていたんだろ?なら順番的に私だろ?」

「それはおかしい」

「真澄は黙っていろ」

「あれ?俺に発言権無しなパターン?」

「結城殿諦めろ。この世は女尊男卑社会だ」

 マジかよ。男女平等社会何処に消えたし。

「有るわけなかろう。その証拠が今の柊殿だ」

「俺、悲しい……誰も構ってくれない………」

「憐れであろう?」

「………ノーコメントで」

 柊、俺が悪かったよ。今度飯奢ってやるから今日だけは見逃してくれ。俺だって崖っぷちなんだ。

「ほら、やるぞ」

 目の前で珍しくやる気満々な華京さんのせいでな。

「華京さん、本当にやるのか?」

「何だ?弥生くんには出来て私には出来ないと?」

「そういう訳じゃ…………あぁもう、分かったよ」

「よろしい」

 明日以降は二度と付き合ってやらんからな。何をされてもやらんからな。

「ほら、早く」

「うぅ……」

 そんなに近づいて来ないで下さいよ。ますます緊張しちゃうじゃないか。貴女達は不用意に男性に近づきすぎです。接近されるこっちの身にもなってよ。

「あ、あ、愛してるよ………」

「ほうほう。悪くない。だがまだ及第点には程遠い」

 何様だよ。あっ女王様でしたね。その相手を凍らせるような冷たく鋭い目からするに氷の女王かな?ってやかましいわ。

「あ、愛してるよ」

「もっと大きな声で」

「愛してる、よ!」

「もっと感情込めて」

「愛してるよ!」

「これから死に行く恋人への最後の告白のように」

 何だその注文は!

「華京さん!どんな事があっても君を愛してるよ!!」

「よし。式は何時にする?」

「またこの展開かよ!?もういいわ!!既にお腹一杯だわ!!」

「アッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!ハライテー!!」

「柊ぃ!!お前ちょっと表に出ろぉ!!」

 復活したかと思えば大爆笑しやがって。笑い事じゃないっての。まるで俺がマジで告白したみたいじゃん。

「結城殿、このゲームそもそも教室ですることじゃないぞ?」

「えっ、そうなの!?流行ってたんじゃないのかよ!!」

「流行っていたのはネット上かカップルの中だけでござる。一般ピーポーはこのゲーム自体あまり存じないし、存じていてもこんな人目のある教室じゃやらないでござるよ。常識的に考えて」

「………柊、瑞希さん?」

 俺は二人を睨む。二人は仲良くドアの前に移動したかと思えば、片手を上げて、

「「スピード◯ゴンはクールに去るぜ!」」

 と全力疾走で教室を出ていった。

「ごらぁぁ!!逃げんな阿呆共ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「さて、帰って早く式の日程を決めなくては」

「ちょっと!何勝手に話進めてるんですか!真澄くんは私と式を挙げるんですよ!」

「いいや私だ」

「私です!!」

「もう全員元の教室に帰れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「今日も世界は平和でござるなぁ」


 俺の雄叫びは二年フロアだけでなく一年と三年のフロアにも聞こえたらしく、全校の間で二年に恐ろしい雄叫びを上げる生徒がいるという噂がたった。

 また変な噂が流れてしまった………。

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