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可愛い後輩の隣人さん  作者: 堺川天馬
11/30

11話 助けて欲しかった

「……ん……くん…!」

 体が重い。てか動かない。俺、なんでこんな事になってるんだっけ…。そうだ。確か、ベッドに行く寸前に、倒れてしまったんだっけか。まずいな。こんなところ、天莉さんに見られでもしたらどんなに怒られることか。

「……みくん!…きて!」

 なんだか、さっきからやけに騒がしいな。一体誰が俺の体を揺らしながら叫んでるんだ?

「真澄くん!起きて!ねぇってば!!」

「……てん、り、さん……?」

 目を開けると、目の前一杯に天莉さんの顔があった。

 どうして彼女がここに?それに何故俺はベッドの上で横たわってるんだ?

 理由を問いかける前に、天莉さんが勢い良く抱き着いてきた。

 咄嗟の事で驚いてしまった俺は、すぐに引き剥がそうとするがガッチリとホールドされてしまっていた為、それは叶わなかった。

「良かった……ホントに良かった…!」

 俺を抱きしめながら天莉さんはそう言葉を溢す。

「あの、話が見えないんだけど」

「…学校が終わって、真澄くんの様子を見に部屋に入ったの。そしたら、真澄くんが倒れているのが見えて……」

 なるほど。どうやら俺は朝から夕方までフローリングの上で寝ていたらしい。通りで体が痛いわけだ。

 それで、様子を見に来た天莉さんにベッドの上にまで運ばれて今に至る訳か。

「ホントに、心配したんだよ…何かあったのかと思って……」

「申し訳ない。こんな事になるとは俺自身も思わなかったんだ」

 それはそうと、そろそろ離して欲しいんですけど。抱きしめられるのは悪くないんだけど、体調が悪いせいなのか、動悸が激しくて息が苦しい。

 その事を伝えると、天莉さんは物足りなそうな表情で離してくれた。

「ねぇ、真澄くん。何があったの?」

 いきなり核心をついてくる質問。

 俺はこうなっている理由を話しても良いものか凄く悩んだ。

 理由は中学時代のトラウマ。こんな事、彼女に話したところでメリットなんて一つもない。あるのはトラウマの再発と自身のイメージダウンのデメリットしかなかった。

 正直なところ話したくない。

「ん~風邪かな?最近布団を掛けずに寝てるからさ」

 至極普通にそう彼女に伝える。

「嘘」

 だが、すぐに見破られてしまった。

「真澄くん、今凄く辛そうな顔してる。朝の数倍も酷い顔だよ」

 どうして女の子というのはこういう時だけ無駄に鋭いんだ。天莉さんは特に鋭い気がする。普段なら気にもしなかった筈なのに、今はそれが凄く恨めしい。

「何があったのか教えて?何か困ってることがあるなら助けになりたいの」

 助けてくれる。そう優しい言葉を投げ掛けてくれる彼女を俺は拒んだ。

「何も無いさ。本当に。大丈夫だよ」

「ねぇ、何で隠すの?辛いなら、誰かに頼っても良いんだよ?」

 あぁ、止めてくれ。そんな優しい言葉を俺に向けないでくれ。心が、折れそうだ。今まで抑えていたものが破裂しそうだ。

「真澄くん。お願い。私を頼って。私は、貴方の助けになりたいの」

 助けて欲しい━━と言いそうになるのを必死に抑え込む。駄目だ。言うな。安易に人の言葉を信用するな。甘い言葉に惑わされるな。

 そう自分に言い聞かせる俺の手を天莉さんは、きゅっと両手で包み込んだ。

「真澄くん、怖がらなくて良いの」

 天莉さんが俺を真っ直ぐ見つめてそう言う。

「大丈夫だから。何が真澄くんを苦しめているのか教えてくれないかな?」

 この瞬間、心が完全に折れる音がした。

 そして俺は、少しずつ、夢の内容と中学時代に受けていたいじめについて彼女に打ち明けた。



 全てを打ち明け終わった後、数十秒の静寂が部屋を覆った。

「……ずっと、苦しんでいたの?」

 先に静寂を破ったのは天莉さんだった。問い掛けの声には少しばかりの怒りと悲しみが感じられた。

 苦しんでいた、か……。

 その言葉は当たらずと雖も遠からずと言った所だった。何故ならいじめには途中から慣れてしまっていたからだ。慣れてしまい、苦しいといった感情を抱くことが無くなっていたからだ。

「それも嘘だよね?」

 だが天莉さんはそれをきっぱりと否定した。

「それ、慣れたんじゃないよ。きっと、そうするしかなかったんだよ。それしか逃げる場所が無かった。だから慣れたと勘違いしたんだよ」

 彼女の言う通り。あれは『慣れ』ではなく『逃げ』だ。俺は、逃げるしかなかった。あのまま過ごしていれば俺はきっと壊れていた。だから俺は必死に逃げ場を探した。そして辿り着いたのが、開き直ることだった。結局俺は、アイツ等に何一つ勝てなかった。

 そこにはもう悔しいなどという感情は存在しない。あるのは、空しさ、それだけだった。

「助けてくれる人はいなかったの?」

「周りは全て敵だった……」

「親は?相談しなかったの?」

「……心配をかけたくなかった……」

「……本当は?」

 違うでしょ?━━とでも言いたげな問いかけ。彼女には嘘はもう通じないようだ。

「……信用、出来なかった……」

 親に相談したところで、もしかすると俺が悪いと言われるかもしれなかった。そんな事は可能性が低いと分かってても、そんな不安が拭いきれなかった。故に相談が出来なかったのだ。

 親すらも信用しなくなってくるともう救いようが無いな。

「……馬鹿だなぁ」

 あぁ。俺もそう思うよ。俺は大馬鹿者だ。

「それで、私も馬鹿…」

 ……天莉さんも?

「ねぇ真澄くん。真澄くんのご両親、きっと気づいてるよ」

「……気づいてる?」

「うん。真澄くんがいじめられていたのに気づいてたと思う」

 俺は驚愕する。

 まさか。そんな筈がない。俺は二人の前ではいつも笑顔でいた。苦しい表情なんて見せた覚えがない。

「真澄くんが気づいてないだけだよ」

「そ、そんなわけが……」

「見れば分かるよ…真澄くん、今朝すっごく辛そうな顔してた。それだけで何かあったんだなってわかった。家族じゃない私でも分かるんだよ?真澄くんのご両親が気づかないわけがないよ」

 ……だったら、何故助けてくれなかったんだ。わかっていたのなら助けてくれれば良かったじゃないか。

「聞けなかったんだろうね。聞いてしまえば余計に言い出し辛くなっちゃうから」

「そんなの、言い訳だ…!」

「じゃあさ、真澄くんは言ったの?今まで隠してきた貴方が、ご両親に問われて、全て話したと思う?」

「………」

 ……いや、恐らく俺は話さなかっただろう。そんな事が出来たのなら、とっくに話してこんな悩みなど持ってない。

「こういうのって、多分身内より他人の方が話しやすいと思うんだ。身内だと、どうしても気を遣っちゃうから」

 天莉さんがニコッと笑う。

 ズルいなぁ。そんな笑顔を向けられたら甘えたくなってしまう。ホントにズルい。

「ねぇ、苦しかった?」

 問い掛けに俺は首を横に振る。

「痛かった?」

 また否定する。

「寂しかった?」

 俺は否定をし続ける。埒が明かない。

 彼女の手を振り払い、帰ってくれと促そうとした時、急に天莉さんが立ち上がり、抱きしめられた。その拍子にバランスを崩してしまい、彼女に押し倒されるようにベッドに二人で寝転がった。

「……天莉、さん?」

「…ごめんね……」

「……なんで、君が謝るんだよ……」

「辛かったね…寂しかったよね……もう大丈夫、大丈夫だから。強がらないで…お願い……」

「強がって、ない…」

 視界がぼやけた。そして頬を熱い液体が伝った。

 これは、涙か……?何故、俺は、泣いている?

「真澄くん、今だけは強がっちゃ駄目。辛いなら泣いていいの。私は貴方を助けたいの。だから、私にだけでもいいから弱い貴方を見せて…?」

 更に涙が溢れてきた。次々と止まることなく流れ出した。

 彼女の抱擁が、言葉が、温もりが、何もかも優しくて、救われた気がした。

 あぁ、そうか。やっぱり俺は誰かに助けて欲しかったんだ。誰か頼れる人が欲しかったんだな。

 俺は泣きながら、彼女の背に腕を回して力一杯抱きしめ返した。

「辛かった…寂しかった、よ……」

「うん。わかってる」

「俺、何も分からなかった…何で俺が嫌われたのか……何もしてないのに…!」

「酷いよね。真澄くんはとっても良い人なのに。優しくて、格好良くて、誠実で、ちょっと女の子に弱くて、可愛くて……真澄くんを嫌うなんて、私も理解できないよ」

「ずっと、助けて、欲しかったんだ……でも、誰も…信じられなくて、怖くて……」

「わかってる。私が助けてあげる。頼れる人になってあげるから。だから、今だけは沢山泣いていいよ」

 そして俺は彼女の言葉に甘え、涙が出なくなるまで泣き続けた。

 天莉さんはそんな俺をただ黙って優しく撫でていてくれた。

 この時、不安や恐怖などは全て消え去り、別の感情が芽生え初めていた。だが、俺はそれに気づかず、無意識にその感情を心の奥底にある部屋に閉じ込めて鍵を閉め、その感情を無かった事にした。

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