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可愛い後輩の隣人さん  作者: 堺川天馬
10/30

10話 過去のトラウマ

今回は少しシリアスになっております。

 真っ暗な空間。その中に俺はいた。

 何も見えず、自分が何処にいるかも分からない。

 だが、そんな中、ある声が聞こえてきた。

『うわ、今日もアイツいるよ』

『ホントだ。来なくて良いのにな』

 この声には聞き覚えがあった。何処で聞いたっけ?そうだ。確か中学の頃のクラスメートの声だ。

『ねぇ聞いた?結城、リコに告ったらしいよ』

『うっそマジで?あんな奴に告られるなんてリコ可哀想~』

 よく言うよ。お前らが無理矢理告白させた癖に。確か相手は……。

 俺は思い出すのを止めた。思い出すと憎しみで自我を保てなくなりそうだったから。

『てかさ、アイツちょっとウザくね?』

『分かるわ。な~んか調子乗ってるよな』

 次は男達の声。

 どうしたものか。吐き気がしてきて堪らない。俺が何をしたと言うのだ。俺はお前達を怒らせるような事をした覚えなどない。それどころか録に関わったことがないだろう。なのに何故、そうまでして俺を嫌う。

『もう学校来なくて欲しくね?』

『アイツが視界に入るだけでもムカつく』

『だよね~。早く消えてくんないかな?』

 次々に降り注ぐ罵倒。聞く度に俺の精神は傷つけられていき、今ではもう倒れる寸前だった。

 俺はその場に踞り、耳を塞ぐ。何一つ耳に入れまいと必死に塞ぐ。

『なぁ、聞こえてんだろ。おい』

「……て」

『お前がいてもさ、不愉快なだけなんだわ』

「……めて」

『さっさと、消えろよ。ゴミ野郎』

「……うる、さい!やめろ!黙れぇ!!」

 そこで俺は目が覚めた。

 全身を嫌な汗で濡らし、息を切らしながら周囲を見渡す。

 そこは何の変鉄もない自分の部屋。

「……夢、か…」

 乾いた笑いを出して額の汗を拭う。

 また、あの夢か。高校に入ってからは見なくなっていたから油断していた。

 今日見た夢は俺の中学時代の記憶の一部。

 中学の頃、俺はいじめにあっていた。理由は不明。俺が何かをしたわけでもなく、気がつけば周りから一方的に嫌われていた。

 登校する度に自席に置いてある花瓶、机にはチョークで罵倒の落書き、私物の紛失などザラにあった。酷い時には自席が消えている時もあった。あれは中々心に効いた。

 けど、自殺を考えるほどのダメージでは無かった。当時の俺は「卒業すれば終わる」などと中々肝が座っている部分もあったからな。我ながら大した根性だと思う。

 結局、俺はそのまま卒業し、予想通り中学の奴等とは離れ離れになり、いじめは終わった。

 もう中学の奴等とは会っていない。当然だ。会わないようにする為に現在の高校に入学したのだからな。

「……けど、やっぱり忘れることは出来なかったか……」

 生徒との関わりは断ったものの、記憶を消す事は出来なかった。

「…チッ、あれさえ無ければ、もっと楽しい人生を歩めた筈なのに……」

 中学を卒業して以来、俺は周りはおろか、自分さえもまともに評価することが出来なくなってしまった。

 貶されても讃えられても嫌悪されても好意を持たれても、全てが偽物にしか思えなくなった。質の悪い人間不信者だよ、俺は。

 俺はため息をついて、天莉さんに「学校を休む」とメールを送る。

 こんな状態で学校に行っても周囲を不快にするだけだし、なによりも俺自身が疲れる。それに、天莉さんに今の俺を見られたくない。きっと今の俺は、酷く醜い顔をしていると思うから。

 メールを送ってから1分もしない内に返信が来た━━訳ではなく、部屋の扉が勢い良く開いて、どたばたと荒ただしく天莉さん本人がやって来た。

「真澄くん!」

 俺の名を呼ぶ彼女の顔には心配と不安の色で一杯だった。

 俺は即座に自分の顔を手で隠そうとしたが、それよりも一歩早く彼女の手が伸びてきて、俺の額に触れた。

「学校を休むって何!?風邪!?熱!?それに顔色も良くない!大丈夫なの!?」

 説明をする暇すらくれないマシンガントーク。彼女の豹変ぶりには流石の俺も少し引いた。

「落ち着け。ただ気分が良くないだけだよ」

「落ち着けないよ!」

「何言ってるの!?」と怒られた。今日も天莉さんは元気です、まる。

 俺はそっと彼女の手を退けて、頭を撫でる。

「本当に大丈夫だから。天莉さんは心配せずに学校に行っておいで」

「……ほんと?」

 瞳を潤ませて心配そうに問い返してくる。俺は出来るだけの笑顔を作って頷いた。

「……わかった。けど、本当に駄目そうならメールして。すぐに帰ってくるから」

「君は俺の保護者か」

「それほど真澄くんが心配なの!」

 両頬をひっぱられる。あの、これ結構痛いんで止めてください。某ゴム人間みたいに伸びたりしませんから。

「もう。……じゃっ、行ってくるね」

「あぁ。行ってらっしゃい」

「学校終わったらすぐに帰ってくるから、それまでゆっくり寝てるんだよ?」

「わかったわかった」

 どれだけ心配性なんだこの子は。でも、女の子に心配されるってのは、まぁ…悪くない、かな……。何言ってんだ俺は。


 天莉さんを見送ってから、俺は部屋に戻り、ベットに寝転ぼうとした。

 その時だった。

 視界がグニャリと大きく歪んで、体が床に吸い寄せられるように倒れた。顔に伝わる衝撃と痛みに意識が薄くなっていき、そのまま俺の意識は消えた。

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