10話 過去のトラウマ
今回は少しシリアスになっております。
真っ暗な空間。その中に俺はいた。
何も見えず、自分が何処にいるかも分からない。
だが、そんな中、ある声が聞こえてきた。
『うわ、今日もアイツいるよ』
『ホントだ。来なくて良いのにな』
この声には聞き覚えがあった。何処で聞いたっけ?そうだ。確か中学の頃のクラスメートの声だ。
『ねぇ聞いた?結城、リコに告ったらしいよ』
『うっそマジで?あんな奴に告られるなんてリコ可哀想~』
よく言うよ。お前らが無理矢理告白させた癖に。確か相手は……。
俺は思い出すのを止めた。思い出すと憎しみで自我を保てなくなりそうだったから。
『てかさ、アイツちょっとウザくね?』
『分かるわ。な~んか調子乗ってるよな』
次は男達の声。
どうしたものか。吐き気がしてきて堪らない。俺が何をしたと言うのだ。俺はお前達を怒らせるような事をした覚えなどない。それどころか録に関わったことがないだろう。なのに何故、そうまでして俺を嫌う。
『もう学校来なくて欲しくね?』
『アイツが視界に入るだけでもムカつく』
『だよね~。早く消えてくんないかな?』
次々に降り注ぐ罵倒。聞く度に俺の精神は傷つけられていき、今ではもう倒れる寸前だった。
俺はその場に踞り、耳を塞ぐ。何一つ耳に入れまいと必死に塞ぐ。
『なぁ、聞こえてんだろ。おい』
「……て」
『お前がいてもさ、不愉快なだけなんだわ』
「……めて」
『さっさと、消えろよ。ゴミ野郎』
「……うる、さい!やめろ!黙れぇ!!」
そこで俺は目が覚めた。
全身を嫌な汗で濡らし、息を切らしながら周囲を見渡す。
そこは何の変鉄もない自分の部屋。
「……夢、か…」
乾いた笑いを出して額の汗を拭う。
また、あの夢か。高校に入ってからは見なくなっていたから油断していた。
今日見た夢は俺の中学時代の記憶の一部。
中学の頃、俺はいじめにあっていた。理由は不明。俺が何かをしたわけでもなく、気がつけば周りから一方的に嫌われていた。
登校する度に自席に置いてある花瓶、机にはチョークで罵倒の落書き、私物の紛失などザラにあった。酷い時には自席が消えている時もあった。あれは中々心に効いた。
けど、自殺を考えるほどのダメージでは無かった。当時の俺は「卒業すれば終わる」などと中々肝が座っている部分もあったからな。我ながら大した根性だと思う。
結局、俺はそのまま卒業し、予想通り中学の奴等とは離れ離れになり、いじめは終わった。
もう中学の奴等とは会っていない。当然だ。会わないようにする為に現在の高校に入学したのだからな。
「……けど、やっぱり忘れることは出来なかったか……」
生徒との関わりは断ったものの、記憶を消す事は出来なかった。
「…チッ、あれさえ無ければ、もっと楽しい人生を歩めた筈なのに……」
中学を卒業して以来、俺は周りはおろか、自分さえもまともに評価することが出来なくなってしまった。
貶されても讃えられても嫌悪されても好意を持たれても、全てが偽物にしか思えなくなった。質の悪い人間不信者だよ、俺は。
俺はため息をついて、天莉さんに「学校を休む」とメールを送る。
こんな状態で学校に行っても周囲を不快にするだけだし、なによりも俺自身が疲れる。それに、天莉さんに今の俺を見られたくない。きっと今の俺は、酷く醜い顔をしていると思うから。
メールを送ってから1分もしない内に返信が来た━━訳ではなく、部屋の扉が勢い良く開いて、どたばたと荒ただしく天莉さん本人がやって来た。
「真澄くん!」
俺の名を呼ぶ彼女の顔には心配と不安の色で一杯だった。
俺は即座に自分の顔を手で隠そうとしたが、それよりも一歩早く彼女の手が伸びてきて、俺の額に触れた。
「学校を休むって何!?風邪!?熱!?それに顔色も良くない!大丈夫なの!?」
説明をする暇すらくれないマシンガントーク。彼女の豹変ぶりには流石の俺も少し引いた。
「落ち着け。ただ気分が良くないだけだよ」
「落ち着けないよ!」
「何言ってるの!?」と怒られた。今日も天莉さんは元気です、まる。
俺はそっと彼女の手を退けて、頭を撫でる。
「本当に大丈夫だから。天莉さんは心配せずに学校に行っておいで」
「……ほんと?」
瞳を潤ませて心配そうに問い返してくる。俺は出来るだけの笑顔を作って頷いた。
「……わかった。けど、本当に駄目そうならメールして。すぐに帰ってくるから」
「君は俺の保護者か」
「それほど真澄くんが心配なの!」
両頬をひっぱられる。あの、これ結構痛いんで止めてください。某ゴム人間みたいに伸びたりしませんから。
「もう。……じゃっ、行ってくるね」
「あぁ。行ってらっしゃい」
「学校終わったらすぐに帰ってくるから、それまでゆっくり寝てるんだよ?」
「わかったわかった」
どれだけ心配性なんだこの子は。でも、女の子に心配されるってのは、まぁ…悪くない、かな……。何言ってんだ俺は。
天莉さんを見送ってから、俺は部屋に戻り、ベットに寝転ぼうとした。
その時だった。
視界がグニャリと大きく歪んで、体が床に吸い寄せられるように倒れた。顔に伝わる衝撃と痛みに意識が薄くなっていき、そのまま俺の意識は消えた。




