詰め寄る盗賊達
冒険者ギルドを出たエルザ、アンソニー、ノアールの3人は輸送ルートを手分けして捜索していたのであるが、ノアールだけは別の場所を探していた。
「僕が盗賊だったらやっぱり…地下を使うかなぁ?」
ノアールは近くにあったマンホールから地下へと降りていき、鉄格子のある部屋まで辿り着くと鍵が何者かによって破壊されているのを発見したのであった。
「やっぱりねぇ…施錠してあるのを壊すなんて、本当にクソ野郎共だね」
笑顔でそんなことを言いながらノアールの顔は全く笑ってなく、深夜の散歩を楽しむかのように地下水路の奥の方へと消えていくのであった。
● ● ● ● ●
「ぐっ…動きがクソだわ…このハゲ野郎っ!」
ガランガランと藍刃丸が弧を描きながら宙を舞い地面へと転がる。
アストレアは細身の男の動きに着いていくことが出来ずに翻弄され続け、ついには柄の部分を狙われ藍刃丸を弾き飛ばされてしまうのであった。
丸腰になりながらも威圧するような目を細身の男に向け罵声を放つも、既に立っていることですら限界で体中には打撲痕や切り傷が目立っていた。
「ほぅ…まだ立っていられるか」
対して全身黒づくめの細身の男は無傷のままで呼吸の乱れも微塵も感じさせない程余裕ある表情をしていた。
タキルが居ればもう少し状況は違っていたと思ったが、翼を用いた立体機動の動きを以てしても細身の男の瞬間移動じみた加速には逃れきれない可能性も高かった。
しかしそのタキルは増援を呼ぶために今は離れていて、先ほど『常識を覚えろ! 敵味方の区別や状況を把握しろ!』と怒られたばかりだ。
それを思い出してか盗賊の襲撃にあっていた警備兵たちの状況をチラリと確認すると、10数メートル先で戦闘が繰り広げられていたが警備兵達が劣勢で捕まえていた盗賊達はすでに何処かへと姿を暗ませていた。
「っち、無慈悲な大洪水!」
「他人の心配をしている場合か?」
劣勢の警備兵達を援護するように盗賊達に向けて魔法を打つアストレアだったが、よそ見している間に細身の男に距離を詰められていて振り向いた時にはもう遅いと理解した。
「っ!?」
攻撃を受けてしまう! と身構えたアストレアであるがいつまで経っても攻撃を受けることは無く、目の前の細身の男がナイフを振り上げたまま硬直して動けないでいるのを確認した。
「くっ…なぜ動けぬっ!?」
「なぜ動けないかって? それはわたしが憑依しているからだよ!」
「ユウっ!?」
グレンに使役されたスピリットデーモンのユウが細身の男に憑依し動けないようにしていたのだ…ということはグレンも近くに居る事を意味していた。
「賊どもをひっ捕らえよーっ!!」
「「「「おおおぉぉぉっ!」」」」
援軍が駆け付けたのかとアストレアが振り向くと、黒剣の集いの男たちが劣勢だった警備兵たちを援護するように盗賊たちに迫っていっていた。
『おーいレア! 援軍呼んできたぞー!』
「タキル…遅い!」
『これでも早かった方だってーの!』
滑空してきたタキルがアストレアに近づいてきてそのまま背中に吸い込まれるように入っていくと、身体はボロボロだけど蒼い翼がバァサッと広がり落ちていた藍刃丸のところまで飛んでいく
「なんとか間に合ったか…ユウ、ナイスだ」
「それほどでも~」
ゆっくりと歩いて近づいてくるグレンは背中の大剣に手を持っていくと、一瞬で大剣を横に振ると細身の男の首筋辺りでぴたりと動きを止めたのであった。
「く、おのれ…っ!」
細身の男は必死に体を動かそうとするがユウが動きを止めているのでプルプルと体を震わせる事くらいしか出来ないのである。
グレンは細身の男の特徴を下から上まで観察し上着を剥ぐ。
「…入れ墨が無い、毒蠍の刃の雇われか? その割には装備が良いように見えるが」
「ふん…語る事は何もない」
「アストレア君大丈夫かい? これは酷い怪我だ…今治療するからね!」
「要らないわ! あっちの人たちを優先してあげて!」
黒剣の集いのクリスがアストレアの状態を見て治癒魔法を行使しようとしたのだが、ゆっくりと治療を受けている暇なんて無く適当に理由をつけて断ったのであった。
細身の男は黙ったままで何も答えようとはしない、しかしアストレアはどうやってでもこの男に聞かなければならないことがあり藍刃丸を男に突き付ける。
「リフをどこへ連れ去ったのか答えなさい!」
「っ!?」
「…ははは、答えるとでも思っているのか?」
「リフが連れ去られたのか!?」
「えぇ、こいつらに不意を打たれる形でリフが連れ去らわれたわ…殺されたくなければ正直に吐く事ね!」
しかし細身の男は黙秘したままで答えようとはしなかった。 グレン達と一緒に着いてきていたポコやディクトも、リフィンが連れ去らわれた事を知り憤慨しだす。
「…」
「聞き出そうとするだけ時間の無駄だな…リフがどっちに連れ去らわれたか覚えているか?」
「たしかあの建物の中よ!」
「ポコ! リフィンの匂いを追うことは可能か?」
「うぉん!」『まかせて!』
「よし…リフが心配だ! 行くぞ!」
細身の男の事は黒剣の集いに任せ、リフィンが連れ去らわれた建物に入るとただの民家のような間取りをしていて他に扉などは見つけることが出来なかった。
しかし匂いをある程度追えるポコにはなんの問題もなかった。
「うぉーん!」(この下だよ!)
「地下か!」
地下へとつながる通路を見つけたグレン達であったが、ここでディクトが断念する。
『ありゃぁ…僕は大きさ的に入れそうにないね』
床下から通る道なので体の大きいディクトは通れないからだ。
『ポコ、リフちゃんの事頼んだよ!』
『ラジャ!』
ポコを先頭にグレンとアストレアは地下通路を進んでいくと、少しずつ不快な臭いがしてくるのでその臭いに感づいたグレンはアストレアをここで引き返させるのであった。
「レア…お前はここで引き返せ」
「はぁ? 何言ってんのか理解出来ないんだけど」
「タキル、レアの為だ…病気にさせたくなければここで引き返せ、この先は地下水路だ」
「だから何だっていうのっ___ってちょっとタキル!?」
アストレアの意思とは関係なく、グレンの言葉を理解したタキルは翼を羽ばたかせて引き返そうとするが、素直に引き返す気なんてアストレアには無かったのであった。
『レア! その傷だらけの身体で地下水路なんて行ってみろ! 病気にかかるぞ!』
「リフに比べたら病気がなんだっていうのよ!」
『立ってるだけでもギリギリなのに強がんな! リフの為を思うなら素直に言うことを聞け!』
地下水路の中は汚いものでいっぱいだ。
ある程度は整備されているので問題ないが、露出度の高いレアの服装と傷の多さから変な病気に感染する確率が高く、入るのはやめておいた方が良いとグレンとタキルは理解したのだ。
「くっ………わかったわよ」
「その怪我で無理はするな…必ず俺がリフを連れ帰してくる!」
「ちっ…無事に連れ戻したとしても、恋仲なんて絶対認めないからねっ!」
「いい加減認めろ…さっき助けてやったのは、単にお前に死なれたらリフが悲しむだけだからな」
「んなっ!?」
アストレア自身も体の限界であることを理解していた。 いたるところにダメージが蓄積していて、もう少しグレン達の救援が遅れていたら最悪リフィンと同様に捕まっていたかもしれないと思うと幸運だったと痛感する。
「…頼んだわよ」
「あぁ」
アストレアはリフをグレンに託すと、ディクトと一緒に外に出て黒剣の集いのみんなの所まで向かうのであった。
● ● ● ● ●
「…」
目の前の盗賊達がぎゃーははは! と馬鹿笑いしている。
リフィンの穿いているパンツがクマさんパンツだとバラされてしまった。
盗賊に襲われるより、この噂が世に広がる事を恐れたリフィンは危惧した。
幸いなことに盗賊達は馬鹿笑いしていてリフィンは縮こまっている、あと少しで誰にも気づかれずにライが魔封じの首輪を溶かしてくれるだろう。
魔法が使えるようになれば容赦はしない。
リフィンは物理的に盗賊達の記憶を消すことも厭わない・・・が、そこは冷静に落ち着いて対処しよう、と考えを改める。
「ぎゃーははは! よーしそれじゃあ水の聖女様のおパンツ御開帳といこうじゃねーの!」
「ひひひっ、あの時の感触が忘れられねぇぜ!」
「おい見ろよ! 水の聖女様がショックでさっきから動いてねぇぞ!」
「まずはスカートを脱がしてだな!」
「馬鹿野郎! スカートは捲った方がそそるんだよ!」
「なんでもえぇ! 早くしろやぁ!」
盗賊の一人がリフィンのスカートに手を伸ばした時、ライが魔封じの首輪の一部を溶かし機能を停止させたのと同時に、リフィンはぴょんとうさぎ跳びをして盗賊から距離を取ると魔法を放った。
「氷の覆壁!」
ゴォオ! ゴォオ! ゴォオ! とリフィンを守るように分厚い氷が展開されていき、気付いた盗賊がリフィンを捕まえようと身を乗り出し突っ込んできたが腕だけが侵入してきたくらいで、胴体は阻害することに成功した。
「ぐぅあああっ!? 冷てぇっ!」
負けウサギやってて良かったぁあああっ!
氷の覆壁の中でリフィンを捕まえようと腕だけが暴れまわる。
しかしそれ以上の距離を離していたリフィンは捕まる事はなく、負けウサギで足を鍛えておいて良かったと安堵した。
「ちっ、どうやって拘束を解きやがった!?」
「腕を抜け! この氷を破壊しろ!」
「逃げ道なんてどこにもねぇんだ! 諦めて大人しく捕まれや!」
ガキィィィン! ガイィィィン!
盗賊が腕を引っこ抜くと、穴の開いた場所から氷の覆壁を破壊するように武器を使って氷を砕きだす。
「おらもう少しだ! もっと削れ!」
「氷の覆壁!」
「また氷の壁か…でもそれじゃあジリ貧だぜぇ!」
ライが手足を縛っていたロープの一部を溶かしてくれていたので少しずつ緩めていき拘束を解いていく、魔封じの首輪は施錠部分の所を溶かしてくれたのですぐに取り外す事が出来たのだが、リフィンの背後は壁なので新たに魔法を使っても下がれる面積は減っていく一方、このままだと盗賊達にまた捕まってしまうのは時間の問題だった。
「氷の覆壁!」
「おらぁ! とっとと諦めな!」
「ひひひ、もう少しだぜぇ!」
「この際なんでもえぇ! 捕まえたら速攻でブチ犯してやるよ!」
「ぎゃーははは!」
「くっ…」
もう…下がれるスペースがない、無慈悲な大洪水で無理やり押し流すしかないのかな…
一か八か、無慈悲な大洪水で盗賊達を押し流してまた距離を取るのも考えたが、障害物など壁か何かに捕まって押し流せなかった時が怖かった。
運良く通路側に逃げれたとしても足場が悪すぎるし出口が分からない、最悪盗賊達を殺すという手もあったがリフィンにそこまでの覚悟がなかった。
「へっへっへ、あと一息だ!」
「おらぁ!」
ばりぃぃぃいいいん!
「くっ、無慈悲な大___」
氷の覆壁が砕けリフィンと盗賊の間には空気だけ、リフィンは一か八かに賭け無慈悲な大洪水を放とうとしたその時だった。
「こんな所にいたのかぁ~…大きな音がするからなんだろうなって思ったけど予想が当たるなんてなぁ~っ!」
こんな薄汚い場所に似つかわしくないような奇麗な金髪の美青年が、楽しそうに声をあげてこちらに近づいてくるのだった。
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