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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
5章 願い歩む者たち
97/138

姉妹の危機

リフちゃんごめんなさい

(さい)

さい

(さい


はい!

サイドチェスト~っ!)

「嫌っ! それだけは! い、いっちゃ………いやぁぁぁあああ!」


 地下水路で盗賊達に囲まれたリフィンは顔を真っ赤にしながら悲鳴をあげた。




● ● ● ● ●




「ぐっ!」


 アストレアと対峙していた細身の男が反撃する。

 細身の男は棒立ちの状態からとんでもない速さでアストレアに接近しパンチを繰り出す、いわゆる腹パンであった。


「がふぁっ!?」


 細身の男の攻撃に反応出来なかったアストレアはそのまま腹パンをクリーンヒットさせられると、後ろへ数メートルほど吹き飛ばされた。 当然ぶつかった時の衝撃をすべてお腹で受けているので呼吸なんて出来る筈もなく、胃が潰れたんじゃないかと思うほど衝撃が酷かった。


「…ぉ…おごぉぉぉっ!?」


 強烈な一撃を叩き込まれて声にならない声を吐き出しながらでも、今の一撃で気を失わなかったのは褒めてやりたいと心の中で自分で称賛するアストレアだった。


「ほぅ…今の攻撃を耐えるか」

「おげぇぇ…うぐ、ふぅ-っ、ふぅーっ!」


 今の攻撃を食らってほとんど動けない状態なのに、耐えきったことに関心したのか盗賊が追撃してこないのは幸運だった。

 アストレアが反応出来なかったあの一瞬、静止状態を0としてあの男の最高速度が100だとすると、0から100に近い加速をして迫ってきた、とアストレアにはそう見えたのだがいくらなんでも人間が出来る動きではないと感じた。


「はー…、はー…、やってくれるじゃないの…子供産めなくなる…腹になるところだったわね…産む気なんてないけど…!」

「先ほども思ったが、見た目の割に口が悪いな…調教の必要がありそうだ」

「こっちは…おめぇに構ってる時間なんてねぇよハゲっ!」


 威勢よく見せようと罵声を浴びせながら藍刃丸を構えるアストレア、目の前の細身の男を倒さなければリフィンを追うことは不可能だと理解出来たが、どうやってこの男を突破すればいいのか方法が見つからないままだ。

 まだ腹部の痛みは引いておらず立ち上がっているだけでも精一杯でほとんど気力と根性で立っているに等しく、この後藍刃丸を思いっきり振る事すら怪しかった。


「これも仕事なのでな、まずはその減らず口が言えなくなるまで直させてやろう…心折れるまで」

「誰がおめぇなんかに___っ!?」


 また細身の男が凄い勢いで接近してくる、アストレアは反射的に藍刃丸を前にかざす事しか出来なかったが、それだけ出来れば十分である。 藍刃丸はただ切れ味が良いだけの代物ではないからだ。


「死ね!」

「!?」


 アストレアは藍刃丸に魔力を流すと魔力量に応じて藍刃丸は刀身が伸びたのである。 それも突っ込んでくる男に対して真っ直ぐに伸ばしたのだ。 


「ふむ、危ない…斬れるし伸びるのか…」


 細身の男は藍刃丸の刀身と直撃する寸前の所で軌道を変更し躱したのである、不意を突いた初見の技を見切られアストレアはまた戦慄する。


「ふん、この剣だけが脅威なのは私も理解したわ…腹立たしいけどね」

「ならまずはその剣を無力化してからだな…」

「出来ると良いわね…このハゲ野郎!」

「ハゲては居ないのだが…」


 この剣を手放したら終わりだとアストレアは本能的に理解する。

 お腹の痛みはまだ響くが少しずつ和らいできているのでどうにか反撃の一撃を相手に打ち込み、リフィンを追いかけなければならないと思うと一層気を引き締めるアストレアであった。




● ● ● ● ●




 冒険者ギルド アルモニカ支部

 宿屋<あけぼの亭>で発生した事件の詳細を魔導通話で確認を取っていたエルザが難しい顔をしてノアールとアンソニーの所へ帰ってきた。


「おまたせしたわぁ…」

「いや、全然待ってないよ…何かあったのかい?」


 ノアールがエルザの表情を見てどうしたのか聞く、その隣でもアンソニーがエルザの表情を見てどうしたのか気にしていたようだ。


「それがおかしいのよねぇ…盗賊達を捕まえたって話は届いてるそうなのだけど、まだリフちゃん達が刑務所に到着してないっていうのよ」

「事が収束してから少し時間が経ちますが、まだ刑務所に到着していないのはおかしいですね…」

「現場から刑務所まで距離は遠いのかい?」

「いいえ、そこまでは遠くないと思うわ…」

「ふむ…」


 ノアールはエルザが居ない間に今回の盗賊の事件をアンソニーに聞いていたのだが、一つ疑問に思っていたことを聞いてみた。


「アンソニーに聞くけど、盗賊は何人捕まえたんだい?」

「3人でございます」

「へぇ…北の城門では兵士たちが10名程負傷したって聞いたけど」

「たしかにそうだわ!」

「盗賊3人に対して10名負傷はあり得ない話でございますな…するともしや」

「おそらく、他の盗賊どもが輸送中の水の聖女たちを襲撃した…推測だけどね」

「いいえ、その可能性を捨てきれないなら助けに行くまでよ、アンソニーも来てくれるかしら?」

「了解致しました」

「言い出した僕も行くとしよう、街の見学も兼ねてね」


 ノアールはまだアルモニカの地理を把握していないのでエルザがノアールに地図を渡し、粗方リフィン達が通ったであろうルートを割り出してギルドから出発する3人であった。




● ● ● ● ●




 薄暗い地下水路の中で盗賊達に囲まれたリフィンは自分が水の聖女ではないことを盗賊達に告げた。


「あ、あの私、水の聖女じゃなくて…ただの(水)魔法使いなんですけど…」

「「「…は?」」」


 その場にいた盗賊達が一瞬にして凍り付いたが少しの間をおいて「ぷっ」と1人が噴出したのをきっかけにか、盗賊全員がお腹を抱えて大笑いしだすのであった。


「…」

「…」

「…ぷっ」

「「「ぶぁーっはははっはっはっはっはっは!!!!」」」

「っ!?」

「ぎゃーははは! 何を言い出すかと思えば人違いだってよぉ!」

「こいつぁーとんだ傑作だぜぇ!」

「俺らはあんたが水の聖女って呼ばれてんの見てんだよ! 嘘つくならもっとマシな嘘つくべきだったな!」


 リフィンは嘘を言った訳ではない。 自分から水の聖女と名乗った覚えはないからである。


「ほ、本当です! 私は___」

「知ってるぜぇ…自分で水の聖女と名乗った事はないんだろ? 誰が言い出したかは知らないが、水の聖女の名が広まって頑なに聖女じゃないと否定してるって情報くらいは入手してんだ。」


 と、奥から聞き覚えのある嫌に太い声と同時に大柄の男がこちらにやってくるのであった。

 リフィンはこの男の顔を見るのは初めてだったが、この男に誘拐されたのだと確信したがまともに見る事すら出来ないほど容姿が酷い有様の男だったのでびっくりする。

 その男の顔が言葉の意味通り、縦に割れていたからである。


「ひっ、ひ…人違いですーっ!」


 大柄の男のおぞましい顔を見たのと、まさかそんなことまで情報が回っていたなんて…と図星を食らったリフィンは体を丸めて縮こまる、こうなれば水の聖女は赤の他人だと信じて貰って見逃してくれることを期待するしかなかったのたが


「残念だがあんたの顔も割れてんだ、俺の顔も見た目のとおり割れてるけどな…まぁいい、人違いだったとしてもあんたを奴隷にして売る事は決定してんだから諦めてくれや」

「そんな…なんでこのような事をするのですかっ!?」

「そりゃ金のためさ! 水魔法使いは少なくなってきているから需要あんだよ、魔力量高い奴や氷出せる奴、あと若い女なら普通より高値で取引されてんだよ!」

「…普通よりって、あなたたちは今まで水魔法使い狩りをしていたのですか!?」

「まぁいろいろと悪事を働いているさ、前回はこの街で水魔法使いを売って大金を得た後しばらく周辺に滞在してたんだが、水の聖女なる人物が近くに現れれば狙うしかねぇだろ?」

「っ!?」


 最近、アルモニカで水魔法使いが売られたのは、虹百合のメンバーになったルコの事だと確信した。 こいつらのせいでルコさんが不幸な目に…と、思ったリフィンは怯えながらも目の前に立つ大柄の男に聞いてみることにした。


「る、ルコさんも…」

「あぁ?」

「ルコさんも…このようにして捕まえたのですか?」

「なんだ知り合いかよ…まぁあの時は金が無くてな、体には手を付けず奇麗なままで売り払っちまったからよ!」

「そ、そうでしたか…」

「が、あんたは傷物だったとしてもそれ以上の高値で出品できるだろうなぁ、アルモニカの水不足を救った水の聖女様よぉ!」

「…」


 リフィンはそれから黙り込んでしまった。 下手に刺激して襲われればたまったものじゃないと判断したからだ。

 それに手足を拘束され魔法も使えないという全く抵抗出来ない状態で、仮に手足を縛るロープが無かったとしても足場の悪い地下水路で出口がどこにあるのかもわからないとなるならば逃げきるのは不可能に近いだろう


 怖いよ…誰か助けて…っ!

 …うじゅるうじゅる

 ___っ!?


 リフィンは誰かが助けに来てくれるのを待つしかないと思って体を縮こますと、頭の上がうじゅるうじゅると何かが蠢くのを感じた。

 スライムのライだ、普段はリフィンの黒い帽子の中に隠れていて、あまり戦闘でも活躍しないため存在感が無かったライだが、今この時だけはリフィンの頼れる仲間として輝きを放っていた。


 ライはスライムの中でも珍しくキレイ好きで、リフィンの魔法で生成した水しか補給せず汚水やゴミなどは忌み嫌うという偏食家ではあるが、この時だけはリフィンの助けになろうとスライム特有の消化能力を使おうとしていたのだった。


『ライ、助けてくれる!?』

『うじゅるうじゅるどろねばぁ!』

『ありがと! まずは気付かれないように手足のロープを___』

「おーい、待たせたなぁ!」

「おう、おめぇらか」

「ぎゃーははは! 水の聖女様まじで捕まえたのかよ!」

「ひひひっ、そいつは大手柄だぁ!」

「あとは雇ったやつを待つだけだ、まぁ所定の時間までにこなければ置いていくがな」

「へっへ!」


 リフィンが少し安堵してライと念話していると別の盗賊達がこちらにいる盗賊達と合流した、よく見るとリフィン達が捕まえた3人の盗賊で、そのうちの一人がリフィンに近づいてくると


「ひひひっ、こいつが上から降ってきたときはマジで死ぬかと思ったぜ!」

「あ、あなたたちは…!?」

「そういやお前あの後気絶してたんだよな、良く死ななかったものだぜ!」

「いやそれがよぉ…悲鳴が聞こえてきたと思って上を見たらこの嬢ちゃんのお尻が降ってきたんだよ!」

「まじかよ!?」

「うける!」

「ひひひっ、それでよぉ…その時の衝撃はまじ凄まじかったんだけどさぁ…」

「お?」

「え…やめて! それ以上言わないでぇ!」


 リフィンが顔を真っ赤にしながら阻止しようとするが、リフィンの声よりも盗賊の男の声のほうが大きく、そして高らかに説明するのであった。


「へっへ! もったいぶってねぇで言えよ!」

「ひひひっ、ぶつかった時の…感触も凄まじかったんだぜぇぇぇえええ!」

「い、いやぁぁぁあああっ!」

「ぎゃーははは! おいそれまじかよ!? なにてめぇだけ良い事してんだよぼけぇ!」


 全ての盗賊が大笑いをして下品な目をリフィンに向ける。 あまりにも恥ずかしすぎて、もうリフィンは縮こまる事しか出来なく、さらに追い打ちをかけるように盗賊がこちらをニヤリと見て言葉を漏らした。


「ひひひっ…あ、そういえばその嬢ちゃんのパンツなんだけどよ!」

「嫌っ! それだけは! い、いっちゃ………」

「真っ白のクマさんパンツ穿いてたんだ! ラブリーブラッドベアの!」

「いやぁぁぁあああ!」


 盗賊たちがどわっとバカ騒ぎを始めた。

 顔を真っ赤にしてリフィンは悲鳴をあげたのだが、そのあとすぐにリフィンの表情が消え、目が開き曇ったのは誰も気づくことは無かった。

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