盗賊団の奇襲
ディープインパクト、安楽死する
ディクト「えっ!?」
ご冥福をお祈り致します
「では参りましょうか…進め!」
宿屋の家族やアンソニーと別れた後、警備兵アンガスが檻のついた馬車を進ませるよう命令を下す。 檻には3人の盗賊が拘束された状態で入れられており、意識はあるようだがまだぐったりとしていて今のところ暴れる心配はなさそうだった。
そんな盗賊たちを見て、馬車の後ろを歩くアンガスが口を開く。
「盗賊の割に大人しいですね、大抵は檻の中で暴れるか騒ぎ出すのですが…」
「ふーん、そういうもんなの?」
「彼らは最近エレヌア大陸で勢力を広げている事で有名な盗賊団のメンバーのようですね、3人の肩にサソリの入れ墨があるのを確認したので恐らく毒蠍の刃の者でしょう」
「へぇ…処刑するの?」
あまり世間や常識を知らないアストレアがどうでも良さそうに聞いた。 殺して当然なんじゃないの? と言わんばかりに軽蔑するような目を盗賊に向けていてリフィンはそんな姉を複雑そうに見つめる。
それとは別に毒蠍の刃という盗賊団の名は聞いたことがあった。 リフィンの母国ヌツロスムント王国でも最近になりその名を轟かせており、本拠地は別の大陸にあると言われていたのだが、ここ最近ヌツロスムント王国やモニカ共和国が存在するエレヌア大陸まで勢力を拡大しているという噂を聞いていたのだ。
「犯罪奴隷として炭鉱送りになります、まぁ手に負えないほど暴れたり騒いだりするようであれば然るべき手順を踏んだうえで見せしめ処刑となるわけですが、それを恐れて暴れずに犯罪奴隷として生きる覚悟を大人しく決めているのかもしれませんね」
「ふーん…まぁ悪い事してきたんだから当然でしょ」
「…」
アストレアとアンガスが会話をしている後方で、リフィンはアルモニカに来て初めて奴隷市場で犯罪奴隷が殺されたところを思い出す。
実際に殺される瞬間は嫌な気分になって背を向けていたのだが、多くの観客が後方で喚声を上げた時の複雑な気持ちは今でも忘れてはいなかった。
「リフ、どうかした?」
「ううん、何でもないよ」
犯罪を行った人間は捕まった後、罪状が酷ければ奴隷になる、それでも抵抗し暴れるなどして手に負えない場合は街の秩序の為に処刑される。
日ごろの鬱憤を晴らすためにわざわざ足を伸ばして人が処刑される現場を見に行く街の住民もいれば、それを見世物のように公開している社会や企業も国が公認または黙認している。
人間が作った社会のルールとはいえ同族殺しそのものに抵抗があるリフィンだが、そうしなければ自分が被害を受けるだけであり、自分の生活を守るために仕方のない事なのだということも理解している。
しかし、それでも多くの人々の前で晒し処刑を見世物にするという行為だけはリフィンには理解出来なかった。 別に盗賊を擁護するつもりは微塵もないが、人としての尊厳を否定するかのような行いは想像するだけで嫌な気分にさせるので、可能な限りリフィンは人が人によって殺されるところを見ないようにしていたのだ。
「リフ?」
「…む、少し体調が悪いのでしたら御者の者に言って馬車に乗って貰っても構いませんよ?」
「あ、いえ…大丈夫ですから気にしないでください」
「なにリフ、まさかお尻が痛むんじゃないでしょうね!?」
「ごめん、ちょっと考え事してただけ…」
考え事をしていたら歩く速度が落ちていたのか前を進む馬車やアストレアと少し距離が開いてしまっていた。 リフィンは遅れないように少し駆け寄ると何ともないということを示した。
しばらく歩いていると近道だからと人通りの少ない細い道を先導された。 曲がり角も無い道なので逸れることはないだろうとリフィンはまた考え事を始める。
リフィン達が捕まえた盗賊たちは恐らく拷問にかけられるだろう、他に城門を潜り抜けた盗賊の有無や、盗賊達のアジトの場所、闇商売に使われる裏ルートの事など…これらの情報を盗賊が素直に吐いてくれれば一網打尽に出来てアルモニカの人たちが安心出来る訳だが、果たして盗賊が素直に口を割るかどうかは想像したくはないが尋問官の腕次第だ。
そうやってまたしばらく歩きながら考え耽っているとリフィンを呼ぶ声が聞こえてきた。
「___ふ___リフ! 聞いているの!?」
「え…あぁ、ごめ___」
アストレアが10メートル程前でリフィンに声をかけていた。
少し声が荒げていてこちらに走ってきていたが、また遅れていたことに怒ったのかなと思って前に駆け寄ろうとした時だった。
「___っ!?」
いきなり首に激痛が走ったと思ったら全身が硬直して指一つ動かせず、体が全く動かないので前に倒れてしまうはずだったが何者かの腕によってリフィンの身体を支えられそのまま持ち抱えられる。
「もう遅ぇよ」
背後から嫌悪感を抱くような太い声が聞こえるとリフィンは全身が痺れているのか呼吸まで困難になっていて、そのまま意識と視界が真っ暗闇へとフェードアウトしていった。
● ● ● ● ●
人通りの少ない細い道を進んでからリフィンが遅れて歩いているのに気づき後ろを振り返ったアストレアは、リフィンの背後に忍び寄る全身入れ墨だらけの大柄の男が目に映りそれが危険なものだと警鐘を鳴らした時には既に遅かった。
「リフ後ろ! リフ! ちょっとリフ! 聞いているの!?」
走りながら声をかけるアストレアだがリフィンはとぼけているのか背後の存在に気付いていないのか、無防備な状態から背後に居る大柄の男に何やら針を首に刺されると、まるで人形になったかのように動かなくなり大柄の男に抱えられてしまった。
「雷帯びる羽根!!」
全く抵抗することなく意識を失ったリフィンに戦慄し、アストレアはタキルと友情の誓盟したままの状態だったので雷帯びる羽根を飛ばすのだが
「おっとあぶねぇ! その魔法は食らわねぇぜ!」
少し離れているとはいえ高速で飛んでいく雷帯びる羽根を、リフィンを担いだ大柄の男は危なげなく躱すと今度は別の黒づくめの細身の男がアストレアの前に立ちはだかった。
「あれはどうする?」
「好きにせぇ!」
『レア! さっきの魔法見破られてんぞ!』
「うっさいわね…リフを返せクソ野郎ども!」
アストレアは藍刃丸を出現させて構える、刀身に魔力を込め突っ込んでいくと細身の男も長剣を構えて突っ込んでくる。
「(獲った!)」
アストレアの藍刃丸は鋼鉄のように固いドラゴンの鱗も紙のように切り裂く攻撃力を持っている。 それにアストレアにとって盗賊は軽蔑するべき対象であり、リフィンに危害を加えるものは相手が人間であろうが容赦なくぶった斬るつもりだった。
「ぬっ!?」
アストレアの藍刃丸が細身の男の長剣に触れた瞬間、細身の男は身を捩りアストレアの攻撃を寸でのところで躱し距離を取るが、タキルはその逃げの一手を見逃さなかった。
「雷帯びる羽根!」
「それは好都合!」
バリリリリリィリィリィ!
『マジか…』
「…」
細身の男は雷帯びる羽根を躱す事無くその身に受けるが何故か細身の男は感電することはなく、ゆっくりと藍刃丸によって切断された長剣の切っ先を見つめると長剣を捨てて懐からナイフを取り出してきた。
「魔法が効かないなんて…その装備のおかげかしら?」
「ご名答、最近額のいい収入を得たので魔法を無力化する防具を得たのだよ翼の生えた野蛮人さん」
「はぁ? 私を野蛮人呼ばわりするなんてとんだ馬鹿ね…でも私の剣を受けなかった事については褒めてあげるわ」
「やたら殺意が向けられていたからなんとなく理解できた、君自体は怖くないし使う魔法も脅威では無さそうだ、あるとするならばその剣だけか…」
「何っ!」
アストレアは数週間前まではただの無力な人間であった、神域で神様たちに鍛えられていたのでそこそこ強くなっていると思い込んでいたのだが、アストレア自身や魔法が脅威と見なされず藍刃丸だけが脅威と見られるのは実力を否定されるようで許せなかった。
「じゃあここは頼んだぜぇ!」
「待て!」
「させん、俺が相手だ!」
リフィンを担いだ大柄の男が近くにある建物の中へと逃走していくのを追いかけようとしたが細身の男によって防がれる。
警備兵は一体何をしているんだとチラリと後ろを見るとワーワーと数人の盗賊が警備兵と交戦していて檻の中に居た盗賊たちは既に脱出している最中でこちらの応援に来られるような状態ではなかった。
「くそっ!」
「水の聖女を取り返したければ俺を排除して進むんだな…もう姿を暗ましていて見つけることは不可能に近いだろうがな」
「っ!?」
『おいマジやべぇってどうするよレア!?』
『とりあえずこいつは殺す』
『いやいや!殺したら___』
『大丈夫よ、情報を吐かせてから殺すわ』
『そういう意味で言ったんじゃねぇんだがなぁ…仕方ねぇ!』
アストレアの思考が恐ろしい事になっていると判断したタキルは友情の誓盟を解除した。 翼になっている状態では確認出来なかったが、案の定アストレアの目つきが完全に危険な目をしていて殺人なんて平気で起こせそうな表情をしていたのだ。
『オレは増援を呼ぶ、レアはその男を倒したら警備兵の援護に向かってやれ!』
『は? タキルのくせに生意気ね! 私たちがリフを追わなくてどうするのよ!』
『確かにリフは大事だ! だけど目の前の救える命を見捨てるような事はリフはしない筈だ!』
『はぁ? リフだって冒険者なんだから殺しだってするでしょうが!』
『リフの言葉を忘れたのか! 常識を覚えろ! 敵味方の区別や状況を把握しろ! 何もかも手遅れになる前にな!』
そういってタキルは上空へと飛び立って行った。 残されたアストレアはタキルの行動が理解できず怒りに身を震えさせると、怒りの矛先を細身の男へと向け突撃していった。
感想、評価お願いします。




