狙われるお尻
タキルの雷帯びる羽根で盗賊たちを瞬く間に気絶させ、盗賊を引きずってカレンとアンソニーの所へ合流するアストレアに、カレンはもう大丈夫なのだと歓喜し自然に笑顔になった。
「あ、アストレアお姉ちゃんだ!」
「こんにちはカレンちゃん、元気にしてた?」
アストレアはリフィンが退治した盗賊の隣までくると引きずってきた盗賊達を乱暴に地面に叩きつけ1か所にまとめておく。
そしてアンソニーと一緒に茶色い袋からカレンを取り出す作業を手伝い、袋から解放されたカレンの身体をチェックしていくと特に傷や痣などないことを確認する。
「特に怪我はしてないようね」
「はい! 身体はなんともないようなので大丈夫です、助けてくれてありがとうございました!」
カレンが深々とお辞儀をする、隣にいたアンソニーも無言のままアストレアに向かってお辞儀をした。
「そう! なら早くお父さんとお母さんのところに行って無事な姿を見せてあげないとね!」
「うん…そうだ! お父さんが私のせいで!」
「カレンちゃんのせいじゃないから気にしなくていいわ、お父さんは無事だから安心して」
「うぅ、良かったぁ」
「では、私めがカレン様をお連れいたしましょう」
「お願いするわ…えーっと、あなたはアンソニーさんだっけ? 彼は命に別状は無さそうだけど早めに治療してあげてくれると助かるわ、治療に関しては専門外だし」
「かしこまりました」
アンソニーと手を繋ぎカレンは急いで父親の所へと走り出した、まだ若干震えていたが彼女はもう大丈夫だろう。 走っていく二人を見て薄く笑みを浮かべていると、突如背後から弱々しくあるが刺すような悪寒を感じた。
「お、お姉ちゃ~ん…あっまだダメっぽい、お尻の鈍痛が…ふおおぉぉ」
絶対怒ってるやつだ! と感じると同時に後ろからリフィンの声がした。
いまだにお尻を押さえてもがき苦しみ、涙を流しながらアストレアを睨んでいて怒りを鎮めようにもアストレアはその術を知らず、タキルに聞いても『レア、お前が悪い』としか返答してくれなかった。
昨日に続き本日も怒らせてしまってリフィンが暴れだしたらどうしようと考える。
「あー…ごめんねリフ」
「お姉ちゃん少しは常識っていうものを覚えて! …知らなかったとしてもこの仕打ちだけは死ぬまでずっと恨むからねぇ!?」
「ごめんて…」
「飛べない人を上空から落とすって何!? 新手の死刑なの!? 私に何か恨みでもあるの!? 盗賊さんが命の恩人だよ!? 真下にこの盗賊さんが居なかったら私死んでたよ!? っていうかこの盗賊さんちゃんと息してるぅ!?」
「…」
何も反論出来ないアストレアである。
とりあえずリフィンとアストレアは仰向けになって大の字に倒れている盗賊の状態を確認する、口元に手を近づけたところ息は小さいがあるようなので死んではいないと安心する。
ついでに握ったままのナイフを没収しておくことも忘れない。
盗賊の顔が赤くなって鼻血を吹き出しているのは恐らくリフィンがお尻から落下した時、顔面で直撃を受けた為だと判断した。 直撃の瞬間に盗賊が上を向いていたような気がしたが、中身が見られていない事をひそかに願うリフィンだった。
「生きてる…良かった」
「…白目向いてるけど息はあるようね、っていうか無慈悲な大洪水じゃなくて、地面から水を吹き出すような魔法覚えてなかったっけ?」
「あー…湧き上がる水柱は落下しながらだと発生点の座標が狂っちゃうから無理なの、もう少し改良を施す必要があるかも…落下してるときそんな余裕なんてなかったっていうのも一つの原因だけどね!」
「それはもう反論しようがないわね…で、可愛いお尻を盗賊の顔面に食らわせてやったのはわざとなの?」
「誤解されるような言い方しないで!? お姉ちゃん絶対反省してないでしょ!? 空中じゃバランス取れないし頭から落ちてたと思うと本当にお尻からで良かったと思うよ! もう二度とこんなことはやめてよ死ぬかと思ったんだからっ!!」
「ごめんね♪」
両手を合わせウィンクしてくるアストレアにリフィンは、何かが弾けるように切れてしまったのだが
「ムガーっ! だからそれ絶対反省してないやつ___」
「お取込み中のところ失礼します!」
住民の避難を優先させていた鎧姿の警備兵らしき者がやってきた。 リフィンは人前というのもあり、怒りを抑えて姉を睨みつけながらもやってきた警備兵を迎えると、以前どこかでみたような見覚えのある真面目な感じの兵士だった。
「警備ご苦労さまです…あれ? えーっと…あなたは北口の門番をしていた…」
「お、覚えておいてくださいましたか…ゴホン、盗賊退治にご協力頂き感謝致します! 私はアルモニカ巡回警備兵のアンガスでございます。 貴女は水の聖女様とお見受けしますが、こちらの翼が生えた女性は…」
「いえ、別に水の聖女では…」
「私はリフの姉、アストレアよ!」
「なんと! そうでございましたか! 姉妹揃ってお美しい…おっと失礼しました、こちらの盗賊は我々の方で連行致しますが、是非あなた様方にも事情聴取も兼ねてご同行をお願いしたく存じます。」
そういえば初めてアルモニカに入るときフレンドリィな感じの門番と居た真面目な感じの門番が居たなぁとリフィンは思い出していた。 あのフレンドリィなおっちゃん門番が印象ありすぎて思い出すのに少しかかってしまった事は秘密だ。
「嫌よ面倒くさい」
盗賊を退治したという功績もあるので、任意同行に姉は食いつくかなぁと思っていたのだが予想が外れてしまった。
「強制ではないのですが、そこをなんとか…」
「えー…早く街を探索とかしてみたいのに」
「お姉ちゃん、こういうのは行かなきゃいけないものなの」
面倒臭そうにするアストレアだったがこれ以上リフィンを刺激しないようにしたほうが良いと判断したのか、すんなりと了承した。
「…仕方ないわね、報奨金とか出るんでしょ当然」
「はい! 具体的な金額については明言出来ませんが、そのようなシステムはございますのでご安心くださいませ!」
そうしてアンガスは他の鎧姿の警備兵たちと手分けをして伸びている盗賊たちをロープで縛り、首に特殊な首輪を装着させていった。
「ねぇリフ、あの首輪はなんなの?」
「そういえばお姉ちゃんはほとんど外に出たことなかったから知らないんだっけ…あれを装着した人はどんな魔法も繰り出すことが出来なくなる魔道具だよ、罪人等を拘束した時に魔法を使って暴れられないようにするための物なの」
「ふーん、世の中結構便利なのね…あれをリフに使ったら何でもイタズラし放題じゃない?」
「なんで私が悪いことして捕まった前提なの!?」
「遊びで使えたら良いわね、どこかで売ってるかしら?」
「そもそも非売品だし、遊びで使うようなものじゃないからね…悪いことにも使える代物なんだから」
「ふーん…」
アストレアが首輪の魔道具について一気に興味が失せた瞬間だった。
お姉ちゃんの常識の無さはどうにかして直さないとなぁ…
アンガスら警備兵が盗賊らを檻へと収容しているとき、リフィン達のもとに宿屋<あけぼの亭>のカイラとカレン、そしてもう動いても大丈夫なのか応急処置を施されたウォーレンがやってきた。
「リフィンさん、アストレアさん、この度は大事な娘を救っていただき本当にありがとうございます」
「カイラさん、言葉だけで良いですからあまり身体を動かさないでください!」
カイラが目に涙を浮かべながら深々とお辞儀してきた。 カイラは妊娠していて出産が近いためあまり無理をさせたくないので、リフィンが止めに入るとウォーレンがカイラを思ってか、代わりに再度お礼を述べてきたのだがリフィンが無理やり止める。
「ウォーレンさんもですよ! 怪我なさっているんですから無理せず回復に努めてください!」
「…いや、娘が恐怖したことに比べればこの程度の怪我など大したことはない、俺も心より感謝している」
リフィンの気持ちも伝わったのか、挨拶だけでお礼をしてもらった。 人に感謝されるというのは凄く嬉しい事であるし、照れくさい事でもある。 本当にこの人たちと出会えて良かったなぁとつくづく実感すると同時に守れて良かったなぁとも感じた。
「でも実際は私、お姉ちゃんに落とされただけですし…あんまり役には立てなかったというか」
「そんなことないよリフちゃん! リフちゃんのおかげで私が解放されて盗賊たちを仕留めれたんだし! あ、お尻を強打したようだからお礼に後で怪我してないか見てあげるからね!」
「お尻を!? い、良いから…お尻はもう大丈夫だからね?」
「むふふー♪ 遠慮しなくていいからさぁ~♪」
反射的にお尻を押さえるリフィン、ローブとスカートとパンツごしにお尻に異常がないか確認したが少し痛みが残ってるだけで特におかしなところはない筈だ…ない筈だ。
「アストレアお姉ちゃんもありがと! 宿を探すんだったら是非うちに泊まっていってよね!」
「どういたしまして、是非その宿をお借りしようかな…リフから少し話を聞いたんだけど、とってもカレンちゃんは商売上手なのね! 私も今確信したし、将来良い宿屋の女将さんになれるわ」
「うっ…そんなことはないですよ~」
「リフのお尻みるとき私も参加していいかな、ついでにマッサージしてあげたいのよね」
「えっ!?」
「えっ!?」
「リフって胸は控え目で胴も細いけどお尻の肉付きだけは良いのよね…プルンってしてるし」
「本当ですかっ!? それは揉みがいがありそうですね!」
「何勝手に決めてん…そう易々と揉ませませんよ! っていうか2人はいつの間に共謀出来るような程の間柄だったんですか!?」
いつの間にかリフィンのお尻を揉むとか揉ませないとかという話になり、周りには大勢人が居るというのに大声で口論しあうリフィン達。
1対2でリフィンが不利なのは確実で、このままでは2人にお尻を揉まれて最終的にはずっとマウント取られることになりそうだからリフィンも引くに引けない戦いになっていて、準備が終わったアンガス警備兵から声を掛けられるまで続いたのであった。




