カレンちゃん救出劇
主人公の扱いが酷い
モニカ共和国、城塞都市アルモニカの宿屋<あけぼの亭>の裏にある細い道端でアンソニーと盗賊たちが対峙していた。
動けないカレンを人質に取られており下手な行動は出来ないのでアンソニーは部下たちに盗賊たちの退路を断つ事を指示したものの、盗賊たちを抑え込む実力を彼らは持っていなかった。
格闘術を学んでいるアンソニーではあるが下手に攻撃してきた盗賊に反撃してしまえば人質の命が危なくなるのは目に見えていた。
「へっ、中々動けるジジイじゃねーか!」
「お褒めにいただき光栄でございます…が、そちらのお嬢様は返していただきますよ?」
「随分と余裕じゃねーか…おい! このジジイが少しでも俺に反撃したらそのガキの首を刎ねちまえよ!」
「ひひひっ、任せときなぁ!」
「へへっ、こいつら俺たちの退路塞いでいるつもりなのかよ、住民を集めているようだけどこいつらに何が出来るってんだよ!」
近くに大通りがあり何やら物々しい騒ぎが発生しているぞと、通りかかった住民がぞろぞろやってきていて盗賊たちの退路を塞いではいたものの、彼らは一般人で下手をすればそちらに被害が出てしまう。
とはいえその先頭にはアンソニーの部下たちが配置しているので変な動きはしないであろう…と思ったのだがカレンの親であるカイラとウォーレンが身を乗り出して前に進んできていた。
「カレン! カレーン!?」
「奥様! これ以上は危険です!ちょっと!?」
「離して! 私のカレンが! 私が助けるから退いて頂戴!」
アンソニーの部下が静止を呼びかけるも無視して進もうとしたので腕を掴んで無理やり引き留める。 しかしそれでも娘を救おうとカイラは諦めず腕を振り払おうと暴れだすが、カイラの肩にポンと優しく硬い手を乗せるウォーレンがいた。
「俺に任せろ…身重のお前を行かせるわけにはいかん」
「あなた…」
「し、しかし相手は城門を突破してきた盗賊ですよ!? 料理人のあなたが戦える筈が___」
「男には戦わなければならない時がある・・・家族が危機なら今はその時だ!」
口数の少ない寡黙な男が大声を放ち、アンソニーの部下を委縮させるとゆっくりと前へ歩き出しアンソニーとは対峙していない盗賊の方へと向かった。
「へへっ、俺とタイマンしようって訳? いいねぇ好きだよそういうの」
「娘は返してもらう」
「ふーん…おい! このおっさんが俺に攻撃しても人質には手を出さなくてもいいからな!」
「ひひひっ、了解だぜぇ」
アンソニーとは違いウォーレンは盗賊から舐められているようで、盗賊はウォーレンが危害を加えてもカレンには手を出さないようにカレンを担いでいる盗賊に言い放つと、「そのかわりに」と付け足して不気味に笑い出した。
「もう少ししたら意識が戻るだろうから頭の部分は袋から出しておけ! 目の前で親が殺されるのを見せつけてやろうじゃねーか! ぎゃーははははは!!」
「ひひひっ、相変わらず趣味悪いぜぇ」
「…」
アンソニーは思った…盗賊は3人、そのうち2人は自分とウォーレンで足止め、残りの一人は人質を抱えていてその首元にはナイフが突き立てられている。
プラムお嬢様は執事やメイド以外に私兵を持たれてはいないので、こちらに増援を向かわせているのはおそらく先ほど屋敷に来られていた水の聖女と呼ばれ始めているリフィン・グラシエル嬢だと予想した。
そのリフィン・グラシエルが冒険者とはいえどこまで戦力になるのかはわからないが、どうにかして人質を救出さえしてくれればあとは一気に押し込める筈だ。
しかし問題はウォーレン殿がどこまで粘ってくれるかであるが巡回の警備兵の到着を祈るしかないのか…と思っていると、対峙していた盗賊が襲ってくるのであった。
「ちぃ! 避けるのだけはうめぇなジジイ!」
「一瞬で片を付けます」
「はん! 俺に手を出したらどうなるのか忘れちまったのかあぁん?」
「ウォーレン殿! 焦りは禁物でございますよ?」
「あぁ…わかった」
相手がナイフを持って構えているのでウォーレンは静かに懐から調理用の包丁を取り出して構える。 さすがに武器を持った相手に丸腰で挑みはしないが戦闘においては素人同然で怒りと緊張からか額から玉のような汗が噴き出ていた。
「へへっ、この俺をどう調理してくれるのか楽しみだなぁ!」
「…何がお望みだ?」
「どうせ調理するのは俺側になるんだ、旨そうに捌いてやるから安心しな」
「ふむ、どうせ調理するのでしたら私は汚い盗賊が作るフルコース料理を味わってみたいものですな」
「てめぇの相手はこっちだクソジジイ! 俺の話聞けや! 認知症でついに耄碌したか!」
「…ばあさん、メシはまだかのぉ?」
「てめぇぶっ殺す!」
危険な行為ではあったが盗賊を挑発する事に成功した。 アンソニー自体が少しおちゃめな性格をしているが基本的に仕事人間なのでこれを知る人は少ないのである。
こうして増援がくるまでの間、アンソニーとウォーレンは盗賊達と対峙するのであった。
● ● ● ● ●
「ちょっとお姉ちゃん! 高い高い高いからぁぁぁあああ!!」
ガダイスキ邸の窓からリフィンを抱えて飛び出したアストレアはタキルと友情の誓盟をして宿屋<あけぼの亭>を目指して大空を翔けていた。
が、リフィンはアストレアに脇を抱えられている状態で足をバタバタとさせる。
「こらっ! 暴れたら落ちるでしょうが!」
「ローブが風でめくれて下からパンツ見えちゃうからぁぁぁあああ!」
「宿屋のカレンちゃんとパンツ見られるのどっちが大切なのよ!」
「どっちも大事だよぉぉぉおおお!」
「時間が無いからどっちか選べ!」
「カレンちゃんが大事だよぉぉぉおおお!」
「じゃあパンツは諦めて!」
「いやぁぁぁあああ!」
アルモニカ上空を猛スピードで飛んでいくリフィンとアストレアは宿屋<あけぼの亭>の近くにある時計塔を目印に進んでいく、まだアストレアはアルモニカの地理に詳しいわけではないが友情の誓盟しているタキルが地理に詳しく、勝手に誘導してくれているので問題はない。
そうして宿屋<あけぼの亭>の屋根にあるきれいな鶏の看板を見つけると少しだけ高度を落として状況を確認していく、すると3人の盗賊らしき男どもがナイフを持っているのが見えた。
「ふーん、住民が盗賊の退路を塞いでいるようだけど状況は良くなさそうね」
「アンソニーさんやウォーレンさんが応戦してるけど、怪我してる!」
「おそらくカレンちゃんが人質になってるから下手に動けないのね…」
執事のアンソニーは上空からでは怪我の有無は確認できなかったが、ウォーレンに至っては盗賊相手に手も足も出ないようで切り傷が目立ち血まみれで立っているのがやっとという状態だった。
「幸いなことにあの騒ぎでこちらには誰も気が付いていないようね、一気にいくわよ!」
「え? ちょっと作戦とかいろいろ___ってえぇぇぇえええ!?」
アストレアはカレンを拘束している盗賊の頭上めがけてリフィンを落下させた。 当然高い場所から落ちれば怪我どころではないのだが、リフィンくらいならそれでも対処できると思ってたのだが失敗だったとアストレアはちょっぴり反省した。
「あっ」
「うわあああぁぁぁ......!!! 無慈悲な大洪水ぉぉぉおおお!!!」
『おまっ、リフを殺す気かよ!?』
「あ…まぁいいか、水魔法である程度は衝撃が緩和されるでしょ」
『いや、あれをよく見ろよ』
「ん?」
「無慈悲な大洪水ぉ!無慈悲な大ガフガフガゴボボボッ!?」
リフィンは真下に向かって必死に水魔法を放ち衝撃を緩和させようとしたが、水よりリフィン自身の方が落下速度が速くて自分の放った水魔法が自分に襲い掛かってきていた。
「あー…まぁリフなら大丈夫でしょ、いつの間にかおしりの肉付きが私よりむっちりしてるし!」
『オレは妹にこんなことをするお前が理解出来ねぇよ…』
● ● ● ● ●
「へへっ、おいおい~大事な娘を取り戻すんじゃなかったのかぁ?」
「っく、調子に乗りやがって…」
「どうしたクソジジイ! 一瞬で片を付けるんじゃなかったのかあ“ぁ”?」
「…もうしばらくしたらそう差し上げて見せますよ?」
盗賊たちはまだまだ余裕があるようで住民たちに囲まれても逃げきる術を持っているのか全然動揺したような雰囲気はない、
アンソニーは肩で息をするほど疲労が溜まっているが目立つような傷はない、ウォーレンは急所こそ刺されていないが傷だらけで立っているのもやっとという感じだ。
「っく…愛する娘を取り戻すまでは倒れる訳にはいかん!」
「ウォーレン!」
「来るなっ!」
旦那のボロボロな姿を見てカイラが駆け寄っていく、しかしそれを背後で感じたウォーレンは下がるように叫ぶ。 ビクリとしてカイラはその場で立ち止まり心配そうにウォーレンの背中を見つめると、少しだけ見えた旦那の目は全然諦めていない目をしていて、盗賊の奥のほうにいる捕らわれた愛娘をじっと見つめていた。 カイラも釣られて娘カレンの方を見ると、カレンの目が少しづつ開かれるところを目撃するのであった。
「…うっ、あれ…お、お父さん!?」
「ひひひっ、とうとう起きちまったか…ちょっと黙っておいてもらうぜぇ?」
「お母さっん“ん”――っ!!?」
「カレン!」
「貴様ぁぁぁあああ! カレン! 今すぐ助けてやるからな!!」
必死にもがくカレンだったが盗賊がカレンの口を背後から手で塞ぎ、下手に暴れないようにもう片方の手でナイフをチラつかせると状況が把握出来たのか大人しくなってしまった。
「ひひひっ、もういいだろてめぇら! そろそろ片づけて撤収するぜぇ!」
カレンを拘束している盗賊が警戒するようにナイフを周りの住民たちに向けて脅させる。
「へへっ、娘も起きたことだし遊びはここまでだぜお父様よぉ?」
「ぎゃーははは! クソジジイもついでに始末しておいてやるよ!」
「(不味いですね…)」
アンソニーの足止めももはやこれまで、もたもたしていたら盗賊たちはさっさとカレンを誘拐してしまうだろう、ウォーレンの状態も非常に危なく彼が真っ先にやられてしまうであろうことは容易に想像出来た。
住民は集まってきているが肝心な戦力が集まらないのがアンソニーはもどかしかった。 巡回警備兵は到着していたが周りにいる住民の避難を優先していて役には立たない、お嬢様が増援に寄越したとされる水の聖女も屋敷から距離が離れているのでもうしばらくかかるであろう。
もし来たとしても人質がとられている以上、状況は変わらないままか、下手をすればもっと状況が悪くなりそうでこれより先を考えるのはやめておいたほうが良いと判断した。
「…一か八か、手を打ってみないことには状況は変わりませんか」
非常に危険な賭けであるがもう時間がない、アンソニーは己の身体を信じて対峙している盗賊に突撃しようとしたその瞬間、視界の上から巨大な水の塊がカレンを捕らえている盗賊めがけて落下しているのが目に映ったのであった。
「いやぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「へ?」
ドボシャァァァァアアアアアアアン!
突然上から水の塊が降ってきたので盗賊2人も含め多くの人たちが茫然としていたのだがアンソニーはこの時を見逃さず、先ほどまで対峙していた盗賊に一気に駆け寄り攻撃を放つ。
「かはぁっ!?」
勢いよくみぞおちを攻撃したが服の下に鎧を着ていたのか意識を刈り取るまではいかなかったが、しばらくは動けないと判断しすぐさま人質となっているカレンの元へと急行すると___
「あっ、いひっ…い、痛ったぁい…あぁっ! んひぃ!」
「…」
びしょ濡れになった水の聖女がお尻を抑えて地面をのたうち回っており、そのすぐ隣にはカレンを捕らえていた盗賊が白目向いて伸びていた。
幸いなことにびしょ濡れではあるがカレンは無事だったようで茶色い袋から抜け出そうともがいていたのを、アンソニーは袋に入ったままカレンを優しく抱き上げた。
「カレン様、このままですが失礼しますよ」
「え? あ、はい!」
人質は無事救出した。あとはウォーレンと対峙していた盗賊を対処しなければと後ろを振り向くと、そこにはすでに伸び切った盗賊2人をズルズルと引きずっている背中に青い翼を生やした女性がこちらに歩いてきていた。
「あ、アストレアお姉ちゃんだ!」
「こんにちはカレンちゃん、元気にしてた?」
目の前に青い翼を生やした女性がいる、先ほどリフィンと一緒に屋敷にやってきていた姉のアストレアが巷で噂になっている町に突如現れた青い翼を持った人間の正体は彼女だったのだと今ようやく理解したアンソニーであった。




