姉妹喧嘩
お待たせ致しました。
「昨日はめちゃ飲んだぜ! またたらふく飲めるような祝いが待ち遠しいったらありゃしねーぜ!」
「ロディには着いていけませんよ普通」
「俺、なんか筋肉痛なんすかね…身体がバキバキ鳴ってズキズキ痛むんすよね」
「…気のせいだ」
「ロルはまだ若いからのぉ、そのうち飲み慣れてきたらもっと飲めるようになるわい」
「いや、原因は別にあるかと…」
「っていうかさっきからあいつらが気になるんだが、昨日なんかあったか聞いたか?」
「「「「「「………」」」」」」
早朝、ジルット村を出発しアルモニカに向かっていた黒剣の集い達であったのだが、後方を進んでいるリフィンとアストレアそしてグレンの3人の様子が昨日に比べて明らかに違っていたのであった。
「ちょっとリフ! グレンにくっつき過ぎじゃない?」
「…ふんっ!」
「あ”っ!?」
「リフ、脇腹はくすぐったいから別の所にしてくれ」
「…ん」
リフィンがテイムしているケルピーのディクトにアストレアが騎乗していて、リフィンとグレンは一緒の馬に騎乗しておりリフィンがグレンの背中にくっついていた。
ジルット村からこのような感じで歩いてきているのだがリフィンがグレンにずっとべったりで、姉のアストレアにはそっぽを向いていた。
流石に昨晩の内に何かあったのだと誰から見ても分かるのだが、それを聞きに行こうとする野暮な黒剣の集いメンバーは居なかったのであった。
「あのお嬢ちゃん、昨日は姉ちゃんと仲良くしてたのに今日は喧嘩でもしたんじゃねーかってくらい不機嫌じゃのう」
「グレンにべったりな時点でデキたと思われるかと」
「…何がだ?」
「そりゃあアレっすよ…アレっす」
「まっ、俺は嬢ちゃんがそれでいいならそれでいいんだぜ! 邪魔しちゃ悪いだろうしな」
「青春ですねぇ」
「触らぬ聖女に祟り無し…放っておくのが一番かもな」
という感じで黒剣の集いは男女の仲を冷やかすような事や、何やら不貞腐れてるリフィンを刺激するような事はせずに無視しておくのが懸命だと判断したのであった。
『うわぁ、リフちゃん怒ってるねぇ…』
『怒ってるというか、不貞腐れてるような気がするけどね僕には』
『…お姉ちゃんが私をグレンから遠ざけようとしてたのは分かった、それに抵抗してるだけ』
『やっぱりリフちゃんグレンが好きだったんだもんね』
『ちっ!? 違うって訳ではないけどその…』
『僕としては主人が幸せならそれで良いかなぁ』
『…ありがと、ポコやディクトには先に言っておくべきだったかも、あの時は衝動に駆られたというか本音を口走ったというか…正直今もこの状況に結構混乱してるんだけど』
グレンの背中にピタリとくっつき姉がいる方向とは反対を向いてじっとしているリフィンは、グレンの体温を服ごしではあるが感じ、意外と大きな背中に耳を傾けていると微かに聞こえる鼓動がドクドクと鳴り響いていた。
グレンの背中おっきぃ、対面してる訳じゃないし…安心する。
『リフちゃんの幸せ思考回路が流れて来る』
『ポコ、邪魔しちゃ悪いよ』
『はーい』
グレンの背中といえばで思い出す。 グレンがいつも背に携えてる大剣は馬の側面に取り付けられていて、その反対側にはグレンの荷物などがつり下げられ重さが均等になるようバランスを取っているのだが、リフィンが足をブラ下げている所に大剣の刀身がちょくちょくぶつかっていたので下手すれば足が切れるのではないかとリフィンは大剣を見下ろしてみた。
「…」
「どうした?」
「…グレンの大剣に足が当たってて、切れるかと思ったけど大丈夫そうだった」
「あぁ、ちゃんと刃の部分は隠してあるから大丈夫だ…それより姉と喧嘩してるようだが良いのか?」
「…知らない」
今朝、自分の使命がどれほど大切なのかとか、貞操概念に対する意識の低さについて目を覚ますなりアストレアに説教された。 もちろん水の女神シズル様から与えられた使命の大切さは十二分に理解しているし、貞操についても生まれてから今までずっと大切にしてきている。
あの時は少し心が乱れていたというか高まっていたというか、黒き翼竜に殺されかけて生殖本能が少し目覚めたというか、グレンが好きという自分の気持ちに正直になって少し口走っただけでだけであるのだが執拗に説教してくる姉にリフィンは腹を立たせた。
そうしてリフィンは、「人の話を聞かないからスピリットデーモンが怒って自分に乗り移られたの」だとか、「人の恋愛にケチ付けるなんて酷い」などとアストレアに反論したのだったがそこから口論となってしまった。
その後アストレアはあからさまにリフィンをグレンから遠ざけようとしていたので、それに反発してグレンにひっついてそのままジルット村から出発したのであった。
「あとで仲直りしておけよ」
「…お姉ちゃんが謝ってきたら考える」
「…」
「ちょっとリフ! 私が悪いっていうの!?」
姉に聞こえるように言ったら速攻で釣れた。 リフィンもアストレアも姉妹で喧嘩するのは初めてであるが姉は妹の身のため、妹は初めて芽生えた感情のため、お互い譲れないモノがありまた口論を再開させるのであった。
昨日の夜にアストレアの本性を知ってしまっていたがここまでとは思っておらず、リフィンの知っている優しい姉はどこに行ってしまったのかと疑問に思うのであった。
「…それ以外あり得ない」
「はぁっ!? リフの為を想って言ってるのよっ!?」
「私を想ってるなら邪魔しないでよ!」
「だからリフが妊娠しないように見張っておく必要があんの!」
「だっ、誰もそんな事までするって言って無いじゃない!?」
「でもその男に迫られたら身体許しちゃうんでしょ?」
「なっ!? ほ、本番行為さえしなければセーフだよセーフ!」
「とんだビッチね! 実の妹がこんなんだとは思わなかったわ!」
「!? お姉ちゃんだってそんな性格だとは思わなかったよ!」
「どうせあっちにいる男達からもちやほやされたくて行動を共にしてるんでしょ?」
「ち、違うよ! 全然違うよ! なんでそんな酷い事言うの!?」
「あんたをそこの強姦男から守る為に決まってんでしょうが!!」
「………」
実の姉にビッチ呼ばわりされ、黒剣の集いの皆も虚仮にされ、好きな男を強姦呼ばわりされた。
強姦男というのはあながち間違いではないがグレンの熱い想いに絆されてしまったリフィンにとっては聞き捨てならない台詞だった。
「うるさいっ! お姉ちゃんなんか嫌い!」
「ちょっ!?」
『あっち行って!』
『う、うん』
今にも泣きそうなくらい顔を歪ませてリフィンはディクトに前方を示すと、リフィンの意図を汲んだディクトはアストレアを乗せたまま前の方に走っていくのであった。
タキルも今回はリフィンの味方をしてくれたのかアストレアと友情の誓盟はせず、ポコの背中に乗ったままディクト達と前を進むのであった。
「…リフ」
「…」
ミシッとグレンの背中に顔を埋め泣かないように必死に押さえるリフィンに、グレンは片腕を後ろに回してリフィンの背中をポンポンと擦る。 元の原因はグレンであるため彼に出来る事と言えばリフィンを落ち着かせる事しか無かったのだった。
「原因を作ったのは俺だ、責めるなら俺を責めろ」
「…いや」
「少し口が悪かったが、リフの姉は何も間違ってない」
「…知ってる」
「…」
アルモニカまで道のりは長い、時間はたっぷりとあるが次の休憩時間までには気持ちを整理させるべきだとリフィンは思うのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『さっきのは言い過ぎだぞ、妹に向かってビッチはないだろビッチは』
『そうね、言い過ぎてしまったわ…これは本当に嫌われたかもね』
『まぁリフだって分かってるだろ、見た目は子供に見えるがレアより大人な性格だ』
『そんなの私が一番知ってる…でもリフと喧嘩するなんて初めてだから、どうしたら良いのか分からないっていうのもあるわ』
『まずは言い分を聞く事から始めようや…リフの身が心配なのはオレも同じだし、グレンの野郎にリフが持って行かれるのはオレも何となく阻止してぇ』
『…』
『…でもそれ以上にだな、オレはオレを救ってくれた人が自分で見つけた幸せを掴んだのなら、それでも良いかなって思ってる自分が居るんだ』
『…』
その結論は卑怯だと思った。 アストレアだってリフィンが幸せならそれで良いと思えてしまうし、なによりリフィンが初めて好きになった男だ。
学生時代も卒業してからの1年間もずっと研究に熱心で、アストレアの部屋に遊びにきたリフィンから出る言葉は勉強だらけ、他にあるとすれば水魔法の研究の成果くらいで、男の影すらチラつかせなかったリフィンが初めて男を好きになり、気持ちに嘘がつけない程グレンの事が好きだと真っすぐ伝えてきたのだ。
それを正面から受け取らず、上からねじ伏せるような言葉でリフィンを口撃し傷つけてしまったとアストレアは少し反省した。
『それでも使命を果たすのが先よ』
『この世界がどれくらい広いかオレは知らんが、世界一周するだけで何年かかると思ってんだよ・・・仮に使命を果たして世界を救う事が出来たとしても婆さんになっちまったらリフが救われねぇだろ』
『それは極論よ!』
『…オレにはただリフが取られたくないだけってレアが言ってるように聞こえるんだが?』
『…ちっ』
アストレアには友達が居ない、ずっと屋敷で一人だったせいかアストレアの全てを補っているのがリフィンだったのだ。 そのリフィンが遠のいて行くのを恐れたのだろう、タキルが放った言葉は図星だった。
そんなリフィンとアストレアの様子を見ていた黒剣の集いのロディは、葛藤するアストレアに近づいて声をかけるのであった。
「なぁ姉ちゃんよ、さっきの口喧嘩を聞いてしまったんだがー…あれだ、なんで俺等とあの嬢ちゃんが一緒に冒険してるのか知ってるか?」
「…知らないわ、あんたは確かロディだっけ?」
「ガハハ! 名前覚えててくれてたのか! これは嬉しいじゃねーか!」
「…」
「おっとすまねぇ…本題に入るんだが俺達はB級冒険者の黒剣の集いって言うんだが、メンバーに水魔法使いが居ねぇんだがこれは俺達だけじゃねぇ、アルモニカの冒険者ギルドだけでも水魔法使いが存在するのは嬢ちゃん含めて2人だけだ、他の支部も水魔法使いなんてほとんど登録してないだろうさ」
「なるほど…遠征に出れば水が無いからリフを誘ったのね?」
「まぁな、でも嬢ちゃんにもメリットがあったんだぜ?」
「…さっきの村かしら?」
「なぁんだ分かってんじゃねーか! 嬢ちゃんはさっきのジルット村の人々や水魔法使い達に水を信仰するよう説法説いてたんだ、エルトト村の危機も救ってる、あんな優しい冒険者なんて居ねぇぜ?」
それくらい知っている、リフィンと私の使命なのだから当然の事だ。 何当たり前のような事をこのおっさんは___
「俺達からちやほやされたい訳じゃねぇ、嬢ちゃんは世界の為に身を削ってるって事を俺は姉ちゃんに知って欲しかったんだぜ!」
「っ!」
「どうせあっちにいる男達からもちやほやされたくて行動を共にしてるんでしょ?」
「ち、違うよ! 全然違うよ! なんでそんな酷い事言うの!?」
自分がバカだった。
知ったような口でリフィンを傷つけてしまった。 タキルからも言われた通り、リフィンが遠くへ行ってしまうのが怖かったのだ。
だからバカみたいに頭ごなしに否定し続けていたのだ。
「私ってバカね…ありがと! ヒゲもじゃ荒くれおじさん」
「はぁっ!? 今なんて!?」
アストレアはディクトから飛び降り、リフィンの所へ駆けた。 背中から黒剣の集い達の笑い声が聞こえるがそんなものは無視して、傷つけてしまったリフィンに謝りに行くのであった。
感想、評価お願いします。
期間が空いた理由ですが、物語の展開に悩んでいました。
詳細は活動報告にて記載しております。




