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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
5章 願い歩む者たち
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2人の間を阻む姉

5万PVありがとうございます!

「駄目よっ! なんでなの!? そんな男なんかになんでっ!?」

「…お、お姉ちゃん?」


 ガクッと膝を付き力が抜けてブラーンと両腕を垂らしたお姉ちゃんが涙を(にじ)ませながら(うつ)ろな表情で私を見ていた。


 グレンに言っておいて自分から人前でグレンにキスを迫った自分が恥ずかしいやばいどうしよう…普通にお姉ちゃんが見てる筈なのになんで気が付かなかったのどうしよう!?


「リフ(の貞操)を守る為にここまでやって来たの…あっさり目の前でやらかされてるなんて」

「…」

「うっ…まだ私達、そこまでの関係では」

「そのうちヤる予定なのね」

「ちょっ!?」


 何言ってるのお姉ちゃん!? ってツッコミたいリフィンであったがグレンが好きなのは本当だ。 そのうちそういう関係になるかもしれないという未来を想像し顔を真っ赤にするとグレンの後ろに隠れるのであった。


「ふふっ、安心して…今リフはその男に(たぶら)かされてるだけなの、今からお姉ちゃんがその男を排除してあげるから退いてなさい!」

「っ!?」


 アストレアの瞳孔が開かれユラユラと立ち上がる姿に戦慄したリフィンはギュっとグレンにしがみつくとグレンは何を思ったのか、アストレアに狙われているというのにその場で頭を下げ誠実に対応するのであった。


「俺はグレンというD級冒険者、リフ…リフィンの事が好きだ! 交際を認めて欲しい!」

「わ、私からもお願い! お姉ちゃん!」

「…」


 アストレアは思った、グレンという男だけならまだしもリフィンからも頭を下げられてしまっては出る幕が無いと感じたのだ。 可愛い妹の意見を尊重してあげるべきか否か迷う、しかしそう簡単にリフィンを渡す訳にもいかないのでアストレアは頭を下げるグレンに質問を出すのであった。


「グレンって言ったわね、私のリフと交際してナニするつもりなのかしら?」

「…リフは今、多くの水使いを救っている! そんなリフを俺が守る!」


 ここでイチャコラするとか愛しているからとか糞な返事してきたら即却下するところだったのだが、どうやらリフィンの事情を知っていた為かグレンは質問の答えを見事当てることに成功するのであった。


「…じゃあ、リフのどこが好きになった訳?」

「ちょっとお姉ちゃ___っ!?」

「自己犠牲してまでも他人を思いやる事が出来る優しさに惚れた!」

「ひゃぁぁあ!?」

「ふぅん、同じ魔法学校に居たって聞いたけど?」

「…リフは魔法学部で俺は実戦学部だった、学部が違うのであまり接点は無かったがとある事情によりお互い顔と名前は知っていた程度だ。」

「リフに聞くわ、そのとある事情って?」

「ぅ…ちょっと先生の怒りに触れて1年間校舎の清掃をしたりとか…だけど」

「その話はそのうち聞く事にするわ、それよりいつ好きになったのか教えてくれない?」

「…」

「…リフと最初の依頼をこなしている時に気になり始めた。」

「はぅっ!?」


 そ、その時からだなんて!? いや私もそれに近いけど! それよりさっきから堂々とはっきり言っちゃってくれてるけど恥ずかしくないの!? なんでお姉ちゃんそんな事聞いて来るの!?


 リフィンはチラりとグレンを覗くと彼も顔を少し赤くしていて恥ずかしそうにしていたが、グレンは本気で自分との交際を認めさせる為にアストレアに伝え示していたのだ。

 そんなグレンの姿にまた少し惚れつつも、リフィンは勇気を出してグレンを好きになった所を震えながら口に出すのであった。


「わ、私はグレンとエルトト村での依頼をこなしてる時に、気になったというか…その…」

「あぁもうなんかイライラするわね! で、キスは何回したのよ!? 今さっきのは1回とカウントね!」

「今のだけ! 今さっきので1回だけだからぁ!!」

「…」


 1回だけというのは勿論嘘だ、ここで数回やりましたとか言うのなんて恥ずかしいし、正直に言ったらアストレアが発狂するだけと判断したので咄嗟に1回だけと反論した。 アストレアは今までヌツロスムントに居たので何も知らない筈だとリフィンは確信していたのだが…


「…本当に1回?」

「うん!」

「…リフ、それは」

「今の1回だけだから!」

「…」


 本当の事を言った方が、と言いたそうな顔をしていたグレンであったが背後に居るリフィンに止められ身体を少し揺すられた。

 後はアストレアがそれを信じるだけであったのだがリフィンの嘘は既に見破られていたのであった。


「リフ、アルモニカの町で水を提供してたよね…」

「…」

「その時キスされたよね?」

「ぁ…」

「そして先日、アルモニカの冒険者ギルドでも…キスされたよね?」

「あ…ぁ…なんで…」


 これまで優しく向けて来る顔しか見れなかったアストレアの表情だったが、失望したような目でこちらを睨みつけて来られるのを初めて見るリフィンは恐怖と混乱を覚え、アストレアに嘘を言った事を後悔するのだった。


「神域で神様達に修行つけさせて貰ってたって事は言ったけど、そこでリフを見る事が出来る装置があってね、丁度キスされる現場を見てたのよね私達」

「…そんな」

「…それで私はリフの貞操を守る為に必死に修行して急いでこっちの世界に戻ってきたっていうのに、リフの方からキスしにいく所なんて見せられたら私はどうしたら良いのか教えてくれない?」


 お姉ちゃんの表情や聞いた事無いような低い声がやばい…絶対怒ってるやつだよこれ!? っていうかなんでそんなところを目撃されてるの!? どうしよう本当の回数言った方が良かったのかなこれ、でももう私17歳になって成人したし交際を認めて貰う以前にお姉ちゃんは私の保護者でもなんでも…っ!? これでいこう!


「お、お姉ちゃんは私の保護者じゃないし! 私だってこの間成人したからとやかく言われる筋合いなんてない! 好きな人と一緒に居たら駄目なの!?」

「…そう、そんなに彼の事が好きなのね」

「そ、そうなの!」

「…」


 アストレアはふぅっと一息入れるとリフィンの想いが伝わったのか、優しい目をしてこちらに近づいてきて祝福の言葉をかけるのであった。


「リフがこの男が好きなのは分かったわ、私はただの姉だしギャーギャー言うのも違うわね…」

「お姉ちゃん…」

「で、この男のどこが好きになったのか教えてくれないかしら?」

「そ、それはちょっと恥ずかしいけど…い、意外と優しいところとか」

「それはリフに向けただけの優しさなんじゃないの?」

「目つきが悪いけど、お金のない村とかでは依頼の報酬金を返してたりとかしてたんだよ!?」

「そう…リフはそういうところに惹かれた訳ね」


 待ってお姉ちゃんそんな事言われたら恥ずかしいよ! グレンに興味を持ってくれたのは嬉しいけどグイグイ来るなんてっ!?


 と顔を赤くし少し俯くリフィン、歩きながら近づいてくるアストレアにグレンは警戒していたのだが、リフィンはそんな事も知らずただ姉が受け入れてくれたのだと思ったのか顔を緩ませる。


「それで? いつエッチまで持って行くのかしら?」

「そそそそそんなっ!? お姉ちゃんに言わなきゃいけないのっ!?」

「ほれほれ〜っ、そこのグレン君も顔真っ赤にしてしてるわよ?」

「えぇっ!?」


 アストレアに言われてグレンの方を向いたリフィンだったが、グレンは少し頬を染めて恥ずかしそうにして視線を横にズラしていた。

 とリフィンには映ったのだが星明かりしかない深夜で辺りは真っ暗で、実際にはグレンはアストレアを見ていて彼女の態度の急変を怪しく思っていた。


「お、男の人と付き合った事なんてないし…よく分からないんだけど…」

「ふんふん」

「好きな人だったらその…し、してもいいかもって…思ってたり」

「んん〜? 何をかな〜っ?」

「キ、キスとか…え、えっちとか」

「…まだ分かってないようねっ!!」


 バチンッ!!


 アストレアの目つきが変わったのをグレンは目撃したが間に合わなかった。 いや、止める必要を感じないと判断した結果である。

 実の妹に本気の平手打ちをかましたアストレアは、なんで叩かれたのか分からなく呆然とするリフィンに怒鳴り声で叱るのであった。


「な、なんで…」

「言いたくなかったんだけど素直に言うから良く聞いておきなさい! 本当はあんたを(たぶら)かすそこの男を殺すつもりで居たのだけど彼…グレンはあんたを守ると言ったわ!」

「っ!?」

「彼に事情を少し話したのかもしれないけどね! どうやら全面的に協力してくれるようだし誠実そうに見えたから殺さない事にしたわ!」

「じゃ、じゃあ交際しても___」


 じゃあなんで叩いたのっ!? と思ったリフィンはそれでも何故叩かれたのかという理由が思い付かなかったのであるが、次のアストレアの一言で目を醒ますのであった。


「でもあんた自分の使命が何なのか忘れてないっ!?」

「っ!?」

「ミスティエルデの世界を救う使命を水の女神シズル様から頼まれているのに、男と交際して妊娠出産し育児までするようになれば世界を救うのが遅れる訳だけど分かってる?」

「ぅ…」

「…」

「…ごめん、なさい」


 アストレアに言われて思い出す。 確かに軽はずみな行為だったかも知れない、多くの水魔法使い達を救う為に頑張らなければいけないのにここでグレンと親しくなって子を授かるなんて事になれば活動どころでは無くなるかも知れないのだ。


 でもグレンの気持ちを受け止めそして好きになってしまった以上、リフィンはこのまま関係を終わらせたくないと関係を維持したかったのであった。


「私はリフの手助けをする為、そして貞操を守る為にここまでやって来たの…リフは水の女神シズル様にお願いされた事を自分の勝手な都合で投げ出すつもりなの!?」

「そんな事しない! い、今のはお姉ちゃんに誘導されただけで…っ!」

「じゃあそこのグレンと良い雰囲気になってベッドまで誘導されても断る事が出来るっていうのね?」

「それはっ!? それは…」


 はっきりと否定出来なかった。 唐突にキスされれば思考はふんわりと溶け出し、抵抗しようにも自分は非力過ぎてグレンから逃がれるなんて不可能に近く、そうなれば受け入れても良いかもと一瞬で想像出来、理解してしまったからだ。


「無理なようね、とりあえず何回キスしたのか正確な数字を教えてくれない?」

「…3回です」

「…?」

「あぁ、3回で合ってる…アルモニカで2回、今ので1回、計3回だ」

「そう、まぁ回数なんてどうでも良いんだけど…それよりリフがここまで淫らな思考してるとは思わなかったわ」

「…どうするつもりだ?」

「何もしないわ、ただ私はリフの貞操を守るだけ…あんたもリフを守るって言ったんだからリフが使命を果たすまで手を出すんじゃないわよ?」

「了承しかねる…とりあえずどこまでのスキンシップなら許してくれるのか教えてくれ」


 これはグレンにとっても死活問題であった。 いきなりリフィンの背負う使命を教えられとてつもない時間と労力を費やすであろう事は容易に想像出来、それまでずっとお預けを食らうのは耐えきれるものでは無いと想像出来たのでどこまでならセーフなのか直接聞くとアストレアはうーんと考えた。


「…あとでまた考えとくわ」




● ● ● ● ●




 その後、白目向いていたスピリットデーモンを捕まえグレンが使役したとリフィンが教えると、意識を取り戻したスピリットデーモンはグレンにベったりくっついて離れようとしなかったのであった。


「ねぇ、もう一度あの子に乗り移っても良い? そしてもう一度キスして感触を確かめさせてよ!」

「そうしてやりたいとこだが今は無理だ、殺されなかっただけでも感謝するんだな」

『リフちゃん、両想いになったのにちょっと可哀想だった』

『僕もそう思ったけど、使命は果たさないとね』

『それなんだよねー…ウチもそのときシズル様に会ってるから使命果たさなきゃいけないのは知ってるけど、まさかお姉ちゃんが恋の障害になるとは思わなかったよ』

『ひっそりリフちゃんの応援してあげないとね』

『だねー』


 ポコと一緒にケルピーの背に乗り手綱を引くグレンは辿ってきた道を走りジルット村に戻っていた。

 リフィンは低空飛行で飛ぶアストレアに抱かれてグレンとイチャイチャ出来ないように別れてグレンとは距離を離しジルット村まで先行していた。


「お姉ちゃん、地面に足が着きそうで怖いんだけど」

「そう? じゃあ少し上空で飛ぶわね」

「ぁああお姉ちゃん!? 落ちたら死にそうで怖いんだけど!?」

『レア、もっと上に飛んで綺麗な景色を見せてやろうぜ!』

『良いわねタキル、それ採用!』

『だろ?』

「じゃあもっと上空で飛ぶわね!」

「い、嫌ぁぁぁあああ!?」


 グレンより一足先にジルット村にたどり着くとまだ黒剣の集いは帰ってきておらずまだ酒場で飲んでいるようで、先に与えられた小さな部屋でリフィンは泣き寝入りするように不貞寝した。 アストレアも一緒に丸くなって寝てしまったリフィンの隣で睡眠を取る事にするのであった。




● ● ● ● ●




「こちらノアール、画像データ送信完了」

「こちらイノリ…闇の魔晶石を確保、これより帰投します」

『ご苦労だったねノアール、イノリ…すまないがそのままアルモニカに向かってくれないか、水の聖女が現れたんだそうだ…彼女に関する情報を軽く集めておいて後で私も向かう、合流するまで休暇とします』

「「了解しました。」」



 日が沈んで間もなくの頃、つい先程までリフィン達が激戦を繰り広げていた山頂に、1組の男女は通信機器を使い事務的な連絡をし終える。 


「流石は盟主様、凄い情報網をお持ちで」

「アルモニカに水の聖女がいるという情報はデータにありませんでした…が、ジルット村で水の聖女の噂は耳にしました」

「こっちもさ…本物なら水の魔晶石を、という訳か」

「残すは光と水だけですからね」

「突如現れし麗しの聖女、イノリの上位互換だと___あぎゃぁ!?」

「殴打しますよ?」

「してから言うなよ…とにかく情報収集ついでにジルット村に寄りますか」

「距離ありますから今からでも到着は明日の午後になりますね」


 次の標的は水の聖女、ノアールとイノリは情報を集めるべく移動を開始した。

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