話を聞かない2人
寝ていたリフィンにスピリットデーモンが憑依して襲ってきた。
しかしリフィンの身体を自由に動かせても華奢な体格ではアストレアやグレンに敵う筈もなく、あっという間にアストレアに捕まるのであった。
「「離せぇぇええ!」」
「ふふ、これはこれで幸せかも…」
リフィンの身体は背後からアストレアに抱っこされるように拘束されていてリフィンの腕を掴みギュっと密着し、足もタコのように絡ませて暴れても抜け出せないように固定していた。
「離して欲しければリフから出るんだな」
「「誰が出るもんですか! このままこの子の精神を蝕んで身体を支配する事だって多分出来るのよ!」」
「!?」
「「精神を壊したらこの子の人格は消え、わたしが永遠に乗っ取る事になっても後悔しない事ね!」」
「…」
リフィンの身体がスピリットデーモンに乗っ取られる。 なんて恐ろしい事をするのかと思ったアストレアとグレンは、リフィンに憑依している状態のスピリットデーモンに手を出す事が出来ないのだ。
スピリットデーモンを傷付けるということは即ちリフィンの身体を傷つけるという事に等しく、それを解決する術をアストレア達は持っておらずどうするべきか迷ったアストレアはグレンに聞いてみるのであった。
「何か解決法は無いの!?」
「…そういえば家から離れたら強制的に戻されるのだったな」
「それでいくわ! とりあえずロープ持ってきて縛るわよ!」
「あぁ」
グレンは荷物を置いている部屋へと戻ると、すぐロープを持ってきてリフィンの身体を厳重に縛った。
「「た、多分よ多分! 精神を蝕んだ事なんて一度もないのよぉ! この子の魔力量凄いからかなり遠くに離れても戻される事は無さそうだけど、とりあえず話を聞いてよぉお!」」
スピリットデーモンの言葉に苛立ちを感じながらもアストレアとグレンはリフィンを担いで外に出ると、ジェスチャーを交えながらコミュニケーションを取っていたタキルやポコ、ディクトがこちらに気が付き振り向いた。
『どうしたレア?』
「緊急事態よ、リフがスピリットデーモンに憑依されたの、この家から離れれば憑依は解ける筈だから背中に乗せて走って!」
『えっ?』
『なんかやばい感じかも?』
いまいち状況が読めないタキル達であったが、ロープでぐるぐる巻きにされているリフィンを見るからにただ事ではないと把握した。
グレンがディクトにリフィンを乗せるとグレンも背に跨がってきた。
「背中を借りるぞディクト、とにかく遠くまで走ってくれ!」
「ブルル!」『おっけー!』
「ポコは私が連れて行くわ」
「うぉーん!」『わーい抱っこ!』
リフィンとグレンを乗せたディクトはすぐに走っていくと、タキルと友情の誓盟をしたアストレアはポコを抱えてディクトを追うように上空を舞った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
朦朧とする意識の中、自分の身体が思うように動かせないと感じたリフィンは激しく揺られる振動によって意識を取り戻すのであった。
そして自分とは違う何者かが体内に宿っている感覚も無意識ながらに理解した。
『あれ…私何してたんだっけ? 確か酒場で皆と飲んでいた筈なんだけど…』
『あ、意識を取り戻したのね!』
『あなたは誰?』
『わたしはあなたに取り憑いてる幽霊なの! ちょっとあなたの身体を借りて身の安全を確保してるとこです!』
『…なんか身体の半分を占拠されてる感じがする、視界を見るからにディクトに乗せられているんだけどどういう状況なの?』
『お連れさん達がね、あなたの身体からわたしを追い出そうと頑張っているの、わたしがあなたの精神を蝕み身体を乗っ取るって本気で思ってるみたいで…そんなつもりは無いのに』
『…そうでしたか』
『とりあえずどうしてこうなってるのか説明からしておくけどいい?』
『うーん、全部は信用しないかもしれないけど分かりやすくお願いします』
ディクトの背に揺られながらスピリットデーモンはリフィンに説明した。 スピリットデーモンの言う事全てを信じるわけでは無かったが、丁寧に教えてくれるとなんとなくお姉ちゃん達に原因がありそうな気がしたリフィンだった。
『いきなり剣をこちらに向けてきたの! 本当に殺されるかと思って心臓バグバグしてたよ! 心臓ないけどねっ!』
『本当に聞く耳持たなかったんですか?』
『うん、どうやらこの人達にとってあなたが凄く大事なのは分かったんだけど、ちょっと異常すぎるんじゃないかってくらい目つきがヤバかったです!』
『うーん、あとで私からも聞いてみようかな』
『もしそれでも聞く耳持ってくれなかったらどうするのです?』
『わかんないけど、多分怒るかも…』
魔物とはいえ人の話を聞こうともしないとは流石に失礼すぎる、もし自分がそうされたのならば怒るかも知れないと思うのであった。
そして彼女と会話を続けて行くうちに話はどんどん流れて行ってお互いの事を知る為に色々と話し込んで行った。 リフィンに憑依したスピリットデーモンは憑依した人間の記憶が少しばかり読み取れるのかリフィン達が冒険者である事を知り質問を繰り出すのであった。
『ねぇねぇ、なんで冒険者なんてやってるの?』
『え? なんで冒険者してるのかですかって?』
『そうそう、何故かあなたの記憶が少し見えてね…冒険者だという事は分かったんだけど経緯とかしりたいし、この人達との関係とかも興味あったりする』
『…この人達は仲間です』
『そう? じゃあ翼生やして飛んでる人は?』
『あれは私のお姉ちゃん、私には優しいんだけど他の人にはキツく当たるみたいですね…その性格は最近知ったばかりだけど』
『じゃあこの赤髪の男は?』
『…グレンっていう冒険者』
『ふーん…あ、今この男との記憶見たけどそういう関係なの?』
『……』
『何よ照れちゃってー』
『違います、話は変わりますけどこのあとどうするつもりなんですか!?』
『そんな事言われても…あなたの魔力が多いせいでかなりの距離離れてもまだ体内に宿っているし、行く所まで行くんじゃないかな?』
『私から出て行けば解決しますよね?』
『憑依を解けば殺されてしまいます、今も刃物を握ってるグレンって男が睨み効かせてるのが怖いです』
『はぁ…』
自分の意思で身体は動かせれるようだが、ロープで縛られている状態のリフィンは何もする事が出来ずひたすらディクトの背の上でスピリットデーモンと会話しながら揺られ続けるのであった。
● ● ● ● ●
そして深夜になった。 藍色に輝く星空の下、夜の涼しさで身体が冷えてきた頃に広大な平原の真ん中で、グレン達はリフィンからスピリットデーモンが抜けているか確認する為一度降ろすのだった。。
寝たふりをしたリフィンを起こすためアストレアがペチペチと頬を叩く、リフィンがゆっくり目を開くと演技をかます。
「あれ…お姉ちゃん?」
「良かった!」
「っ!?」
未だロープでぐるぐる巻きにされたリフィンにアストレアが抱きついてきた。 どうやらスピリットデーモンが家から離れて強制的に戻ったのだと喜びに湧いたのであったが、実はスピリットデーモンはリフィンの中に宿っているままだ。
「…お姉ちゃんとりあえずこのロープ解いて?」
「解く解く! ちょっと待っててね!」
すぐにロープが解かれ自由の身になったリフィンはどういう経緯でこの状況になっているのか聞いたのであったが、ほとんどスピリットデーモンが言っていた事と同じだった、というより彼女の話を碌に聞かなかったようで少し苛立ちを感じたリフィンは、本当の事をアストレアやグレン達に伝えるのであった。
「…状況は大体分かったけど、彼女が私に聞かせてくれた事と同じようね」
「ん?」
「まさかっ!」
「まだ私の中にスピリットデーモン宿ってるよ、とりあえず彼女に謝る事からすれば良いと思う」
とリフィンは思った事を口にしたのだが、アストレア達には正気とは思えない言動だと思い込まれてしまい身構えられてしまった。
「まだ憑依が解けてなかったか…」
「早くリフから出て行きなさい!」
「グレン、お姉ちゃんもいい加減にして…私に憑いてる幽霊さんは取り憑く以外何もしてないし、そもそもお姉ちゃんが聞く耳持たなかったから怒って私に取り憑いたんじゃないの?」
「リフ! 早くスピリットデーモンを出さないと精神が蝕まれていくの!」
「蝕まれているどころか快適なんですけど…むしろ私がお姉ちゃんに怒ってるのに気が付かないの?」
「そいつは魔物だ、素直に俺達の言う事を聞け! リフ、お前は気を失ってる時に憑依されたんだから知らないだけだ!」
「幽霊さ…スピリットデーモンだっけ? 彼女とはもう会話してて事情は大体把握してる、まずは彼女と話を___」
「グレン、またリフを縛って遠くへ行くわよ!」
「あぁ!」
「…」
どんなに会話しても平行線のまま話をこちらの聞いてくれずついにはリフィンに剣を向ける始末、どちらが憑依されているのか分かったものではないがこうも話を聞いてくれないとなるとうんざりするリフィンである。
「大人しくしてろよ、また捕まえてやる」
「リフ、お姉ちゃんがすぐに助けてあげるから!」
「「…とりあえず本気で抵抗してみようか…うん、そうだね」」
『リフちゃんから出て行けー!』
『そうだそうだー!』
『ポコとディクトはどっちの味方なの?』
『えっ!? リフちゃんから念話きたけど…っ!?』
『どうなってるの!?』
『自信ないなら見学してていいよ』
『えっ、あ…うん』
『んん?』
ポコとディクトもリフィンの状態がよく分かっていなかったようで、グレン達に加勢されたら困るので大人しくしておくようにと念話で伝えるのであった。
「「人の話を聞かないグレンとお姉ちゃんには少し教育が必要ですね…」」
「何ほざいてるの? リフの声でリフを演じないでくれる?」
「リフ、今助けてやるからな」
こうして憑依されても意識があるリフィンと、リフィンを思い過ぎるが故にこちらの話を全く聞かないグレンとアストレア達がぶつかり合うのであった。
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