憑依
「でりゃ!」
「あぶな! 話をきい_」
「火の玉!」
「ちょっと待ってちょっと待って! ここ家の中! わたしの住処なぎゃぁぁああっ!?」
自らを座敷童と名乗ったスピリットデーモンにアストレアとグレンは攻撃を加えていく。
霊体に近い身体をしているので物理攻撃がほとんど効かず、魔法での攻撃が有効なのでグレンは火魔法で攻めるも場所が建物の中、黒剣の集いの荷物等も置かれているので飛び火でもしたら家事になること間違いないのであるが、グレンは何も考えずに魔法を撃っている訳ではなかった。
「ちっ!」
飛んで行った火の玉はアストレアを狙って放たれたものであったが藍刃丸による一振りでかき消された。
「あんた今私を狙ったでしょ」
「ふん、さっきのお返しだ」
「あっそ、とりあえずあんたを殺るのはそこの魔物を倒してからにするわ、物理が効かないから魔法を行使する事になるけど」
「やめてくださいよっ!?」
「剣に魔力を流して振るってのも効果的だ、霊体だから紙のようにすぐ斬れる」
「へぇ〜」
魔力を藍刃丸に流すと鋼鉄をも切断出来る鋭さになる。 もともと使い方を知っていたアストレアは藍刃丸に魔力を流すとスピリットデーモンに迫り斬撃を放ったがスピリットデーモンはぎりぎりのところでそれを躱す。
「あぶなぁっ!?」
「避けんじゃないわよ!」
「いや避けるよね普通!? やばっこっちも!?」
「死ね」
「待って待ってよ!? 話を聞いてよぉお!?」
スピリットデーモンの側面からアストレアとグレンが迫る。 もうおしまいだと死を覚悟し目を瞑り頭を抱え丸くなったスピリットデーモンだったが、彼女に攻撃が加わる事はなく寸前で剣を止めていたアストレアとグレンであった。
「ひぃぃぃいいい!?」
「お前、リフの姉とは思えない程の性格の悪さだな」
「それはお互い様じゃない、むしろあんたと同じなんて反吐が出るわ」
お互い武器はそのままにして、話が通じるスピリットデーモンに話しかけた。
「おいそこの魔物、なんでこの建物なんかに取り憑いていやがる?」
「ひぃぃいい…ま、まずはこの剣を降ろしてくださいませんでしょうか?」
「駄目だ」
「そこをなんとか!」
「だから駄目、あんたは魔物で本来であれば否応無しに討伐される立場なの、少し質問に答えてくれるだけでいいからさぁ…なんでここに居るのか説明してくれない?」
「そ、それはですねぇ…」
何故スピリットデーモンのような魔物が村の建物に取り憑いているのか知りたかったアストレア達であった。
幸いな事に人間を襲うような性格ではなく普通に会話が出来る個体だったのだが念には念をと、少し脅してから聞き出す方が効率的と考えたアストレアなのだがグレンも同じような事を考えていたようであった。
「わたしね、気が付いたらこの村にいたのよ」
「はぁ?」
「本当なの! 証拠は無いけど信じてよ!」
魔物の言う事を信じるか信じないかで言えば信じない方が良いのであるが、このスピリットデーモンはかなり必死になって説明しようとしていた。
グレンは相手の目を見て判断する傾向が多く嘘はついていない様に見えたが、言う事全てを鵜呑みにする訳にはいかないので聞き間違いや聞き漏らしが無いよう慎重に話を進めさせるのであった。
「…続けろ」
「うぅ、わたしがここに来たのは1年くらい前で当時はこのような姿をしてなくてね、人肌が恋しくて人間に向かって手を振ったりしたのだけど、人には見えないのかどんなに頑張って手を振っても気付かれる事が無かったの」
「…」
「…その時はこの家にも人が住んでいたんだけど、家の者はわたしの気配を薄々感じていてそれが不気味に思ったのか家を捨てて出て行っちゃったの、寂しいよね」
「その時点でもう悪さしてるじゃない」
「わ、わたしは何も悪さしてないからね!? いちいち脅さないでよ心臓に悪いから!」
藍刃丸の切っ先をスピリットデーモンに突きつけるアストレア、霊体なのに心臓があるとは思えないが…
「わたし1人で家から出ようにも不思議な力が邪魔してこの家から出られないようになってるの、でも人間に憑依したらある程度までは外に出られるようにはなったの…家から離れ過ぎると強制的に戻されるんだけどね」
「…村のおっさんがここに近づくと夢遊病になるとか言ってたのはお前の仕業か」
「うっ…多分そうだと思う、だって寂しかったんだもん」
「やっぱり始末しておきましょ」
「そうだな」
「なんでそうなるの!? わたし長生きしたいのにっ!」
「長生きしたいなら何故俺達の前に姿を現した、こっそりと隠れていれば見逃してあげたというものを」
「あなた達がこの部屋で暴れてたからでしょっ!?」
「つまり私達に憑依する為に出てきたって訳ね、やはり危険な魔物だわ」
「もう嫌だこの人達…話が通じない」
再度アストレアとグレンに剣を突きつけられ涙目になるスピリットデーモンの女性、いくら話をしようとしても常に敵として認識されているので彼女に差し出される救いの手はどこにも無かったが、身を守る手段は幾らかある。
スピリットデーモンの女性は少し深呼吸をしてアストレア達に警告を発するのであった。
「とりあえず剣を降ろして下さい…寂しがりやとはいえ次わたしに剣を向けたら本当に怒るよ! 次は絶対無いからね!」
「ふん、それは是非見てみたいものだが、気をつけるとしよう」
「襲ってきたらコレでぶった斬るだけよ」
ひとまず剣を降ろしてくれたのでスピリットデーモンはもう一度説明をしていった。
「最初から説明するわね…約1年前くらいにこの家で意識が覚醒したの、自分では何故かこの家から出られないの、でも人に憑依すると少しは外に出られるようになるの、家に人が来なくなっちゃったから家から出る手段が無いの、そこであなた達に協力してほしいの」
「…つまり俺達の誰かに憑依して家から出るのを手伝えって事か?」
「そうなの! 手伝ってくれる!?」
「…まぁ明日にはここを出るつもりだし、少し___」
「却下よ、私達に夢遊病患者になれって言っているのと同じだわ!」
両手を合わせて懇願するように低姿勢で拝んで来るスピリットデーモンに、グレンはようやく事情を把握したのだが、そんなの冗談じゃないと警告を無視してアストレアが藍刃丸の切っ先をスピリットデーモンに向けるのであった。
「待てっ!? 剣を降ろせ!」
「…」
「いいえ降ろさないわ、この家から出たいなら叶えてあげる…行き先はあの世だけどね!」
「剣を向けたね…じゃあ怒る」
「勝手に怒ってろ、でりゃ!」
ガキンッ!
真顔になり本気になったスピリットデーモンは壁の中へとスゥっと入り込んでいき、アストレアがスピリットデーモンに向けて放った刺突は壁に突き刺さった。
藍刃丸を壁から引き抜いて周囲を警戒するがすぐにスピリットデーモンからの反撃は来なかったのである。
「お前何怒らせてるんだよ…めんどくせぇ事してくれたな」
「どう見てもあれは人を惑わす敵よ、あんたこそ何で協力しようとしてたのよ!?」
「ここで敵対してみろ、隣の部屋にはリフが…しまった!?」
グレンは頭の血が引くのを感じた。 リフィンの状態を確認していないとはいえ帰ってきてから一言もリフィンの声が聞こえないという事は、寝ている可能性が高くスピリットデーモンに対処出来ないと判断したのだった。
アストレアもその事に気が付いたようで、慌てて隣の部屋へと飛び出してリフィンの安否を確認しに行ったのだが時既に遅かったのである。
「リフっ!?」
「リフ! 大丈夫か!?」
「…ちっ、私のリフに何してんのよ!?」
アストレアとグレンの目の前には妖艶な笑みで頬を引き攣らせほくそ笑み、フラフラと覚束ない足取りで立っているリフィンが据わった目でこちらを窺っていた。
普段のリフィンからは見られない表情からしてスピリットデーモンがリフィンに憑依していると思われたが案の定、リフィンの口からリフィンの声とスピリットデーモンの声が同時に響き渡るのであった。
「「ふふふ…この子中々可愛い体つきしてるのね」」
「リフがあれに憑依されてるな…」
「リフから憑依を解きなさい!」
「「嫌! これでわたしは寂しく感じないの、この子と一緒になって人肌の温もりを感じ、生きているって思うだけですっごく嬉しいのにこれを邪魔するような奴は絶対許さない!」」
そうしてリフィンを操ったスピリットデーモンがアストレア達に凄い勢いで襲いかかるのであった。
「「くらえーっ!」」
「…」
「「ん?」」
「…はぁ」
「「おりゃりゃりゃりゃ!!!」」
「…」
「「ぐぬぬ!」」
「…(かわいい)」
リフィンがグレン目掛けてパンチを放ったのだが、グレンはあっさりそれを片手で受け止めると深いため息を零す。 それもそのはず、リフィンのか弱いクソ雑魚パンチで何が倒せるとでも言うのか。
弱めな攻撃力に疑問を持ったスピリットデーモンはさらに蹴りやパンチを繰り出すも、全て軽くあしらわれてしまい相手が悪いと判断したのか今度はアストレアに標的を変えて攻撃を繰り出した。
「「でりゃー!」」
「余裕で受け止めるわ」
「「受け止めるな! クリティカルヒットさせるの!」」
「ほらここガラ空きよ?」
「「自ら弱点を曝け出すなんて愚の骨頂よ! とぉーりゃーっ!!」」
「はい捕まえたーっ!」
「「は、離せぇぇぇえええ!!?」」
「…(かわいい)」
アストレアにもリフィンのクソ雑魚パンチや、へなちょこキックは通用せずスピリットデーモンをほぼ捕獲する事に成功した。
そしてどうやってリフィンからスピリットデーモンを取り出すのか考えるグレン達であった。
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