リフィンを守りし蒼きツバサ
マモレナカッタ・・・
『「私のリフに手を出すなぁぁぁぁぁあああああっ!!!!!』」
聞き覚えのある声がどこからか聞こえるとリフィンの目の前にいた巨大な顎を広げた黒き翼竜が横に吹っ飛んでいった。
リフィンを掴んでいた腕はいつの間にか切断されており、切断された腕と一緒に地面に落ちて尻餅をつく。
そんなリフィンの見た光景は、リフィンが良く知る女性が黒き翼竜の方を見つめて青色の剣を構えていた。 そしてなにより目を惹くのは彼女の背中から生えた深い青色をした大きな翼で、本当に良く知る女性、姉であるアストレアと同一人物なのかすぐには理解出来なかった。
「お姉…ちゃん?」
「なによリフ、私の顔を忘れたとでも言うのかしら?」
どうして屋敷に閉じ込められてる筈のアストレアがここに居るのか分からなかったが、目の前に居るのは正真正銘実の姉であるアストレア本人なのであった。
「とりあえず間に合って良かったわ、そこのグレンって奴が時間稼いでくれなかったら間に合わなかったかも知れないし、今は感謝しておくわ」
「えっ…」
「…なぜ俺を?」
「本当はぶっ殺してやりたいところだけど、今は目の前にいるバケモノを消さないとね」
黒き翼竜はまだ死んだ訳ではない、リフィンが黒き翼竜の方に振り向くとゆっくりと立ち上がり体勢を整えたソレはアストレアを睨みつけているのであった。 外傷は片腕が切断されているくらいでまだほとんどピンピンしているようにも見える。
「オノレ…キサマハ、ナニモノダ!?」
「へぇ、トカゲも喋るのね…世界って知らない事で溢れてるわね」
「クッ…コロシテクレル!」
言葉を喋る生物はほぼ人間だけで占められているのであるがアストレアの常識が少しずれているだけである。
そして質問を返さなかったアストレアに激昂した黒き翼竜は翼をはためかせて突撃した。
「誰だか知らねぇが逃げろ嬢ちゃん! そいつは危険だ!」
「おっさん! こいつなんて言うの?」
「シネェ!」
『雷帯びる羽根』
黒剣の集いのロディがアストレアの身を案じて声をかけるが、アストレアはあろうことか悠長に黒き翼竜の名前を聞きだしてきた。
そして突進してきた黒き翼竜がアストレアの目の前に迫ったのだが、友情の誓盟している時に使用出来るタキルの風魔法が炸裂し、黒き翼竜の身体を感電状態にしたのであった。
おかげでアストレアに傷をつける事さえ出来ず、その場で滑り込む様に倒れ伏す黒き翼竜。
「ナ…ナゼッ!?」
倒れ伏してピクピクと動く黒き翼竜は必死に起き上がろうとするも、全身に力が入らず口から火炎ブレスを吐こうにも何故か体内の器官が機能しなかったのであった。
「せ、闇の神の祝福を受けしモノを1人で…」
「助かったのか…」
「気をつけろ! まだ生きているぞ!」
「誰だか知らねぇが命拾いしたぜ」
「リフ、立てるか?」
「…無理、今こっち見ないで」
『あっ、リフちゃん…』
『…』
黒剣の集いの数名が立ち上がり予想外の救援者に歓喜に湧き、グレンはリフィンを立ち上がらそうとしたのだがリフィンは何故かその場から立ちあがれず恥ずかしそうに顔を手で隠す。 ポコが何かを察したようであったが何も気が付かなかった事にした。
『ふーん、闇の神の祝福ねぇ…タキルはどう思う?』
『神様達の間で何か事件があったって線が濃厚だな…あの場に闇の神は居なかったし、その事を聞かれた時のヒカル達も明らかに挙動不審だったしな』
『そうね、とりあえず排除しておくわ』
『そうだな』
アストレアは右手に持つ藍刃丸に魔力を流し黒き翼竜の翼をスパっと切断した。
「グァアア!? オノレェッ!?」
「これで普通のトカゲになったわ、でもコレ食べられそうにはないわね…次はモモ肉から切り落としましょ」
「キサマァァァアアア!!!」
「そのあとは一気に肋骨かしら? でもあんた腐った肉の色してるからお腹下しそう気がするのよね」
「ワレヲ、グロウスルカァァァアアア!?」
アストレアはまるでステーキにナイフを通すかのように藍刃丸で黒き翼竜を捌いていく、飛び散る返り血にも気に留めずサクサクと斬り開いていった。
「…ガッ…ァ…コロ…ス!!」
「最後はお頭ね…私のリフに手を出した罰よ、死をもって償いなさい」
足や尻尾が切断され内蔵も剥き出しの状態、頭部以外は既に何の生物なのかも分からないくらいにまでカットされておりそれでも意識を保っている黒き翼竜であったが、もはや彼に抵抗する余力は残っていなかった。
「ニンゲン…ドコマデモ…キタナイ、モノダナ…」
「辞世の句はそれでいいのかしら? もう一言くらいなら聞いてあげるわ」
「…ワレモ…マタ、ドウルイ…カ…」
「…」
「…」
「あっそ」
ズシャリ___
振り下ろされた藍刃丸は特に何の抵抗も受ける事なく黒き翼竜の頭部を切断した。
彼の言葉に疑問を覚えつつも息の根を止めたアストレアは、周囲の光景を見てリフィン達がどれだけこの場所で戦闘を繰り広げていたのか確認すると友情の誓盟を解除した。
「「「「おぉぉぉぉおおおお!!!」」」」
「姉ちゃんすげえな!」
「なんだその剣の切れ味は!?」
「さっきの翼はなんじゃったんじゃ!?」
「すごかったっすよ!」
「…何者なのか教えてくれ」
「ふふーん! 私はリフィンを守りし蒼きツバサ! 実の姉よ!」
「「「「うぉぉぉぉおおおお!!!」」」」
『そこは青い翼って言ってくれよ、オレの旧名でもあるんだから!』
『ダサいから嫌よ、蒼きツバサの方が恰好良いに決まってるじゃない!』
『ひでぇ…まぁいいか』
歓喜に溢れた黒剣の集いの若い者達はアストレアの傍まで駆け寄って来るとアストレアの正体に驚き声をあげた。
しかし次のアストレアの一言で全員を凍り付かせる。
「私のリフに手を出した奴はぶっ殺してあげるから素直に白状しなさい!」
「「「「………」」」」
黒剣の集い達は一斉に黙り込むとリフィンの隣に居るグレンを指差し、冷ややかな目であいつだとアストレアに伝えるのであったが
「あいつは死刑確定よ、あんた達の中で手を出した奴は居ないでしょうね?」
ブンブンブンと首を横に振り冷や汗をかきながら否定する黒剣の集いの男達であった。
一方アストレアの背中から分離したタキルはリフィンのところまで飛んでいったのだが、タキルの念話はリフィン達には届かないのであった。
『なぁ! リフ聞こえてるか!?』
「タ、タキルよね…返事してよ」
『リフちゃん、タキルから念話が帰って来ないよ』
『この青い小鳥がタキル先輩なんだね?』
『そうなんだけど…返事が返ってこないの』
『マジか…どうなってるんだよ…』
ようやく再会出来たというのに、リフィンだけでなくポコとの念話も聞こえなくなっていたタキルはその場でピィと鳴いて落ち込むのであった。
● ● ● ● ●
それから崖下の木の枝に引っかかってたライを回収し、リフィンとポコの魔法で保護していた馬も無事だったようで、跨がりながら帰路につくリフィン達。
雄のタイラントワイバーンだった死骸はアストレアが息の根を止めてから一気に腐食していき、ほとんど骨だけになってしまっていて、下手に触るのも危ないと判断しそのまま燃やす事になった。
黒剣の集いのシックによると闇の神の負の力が寄代を失った事により肉体を蝕んでしまうらしく、昔相対した闇の神に祝福させしオーガと戦った時も同じような現象が起こったというのだった。
雌のタイラントワイバーンの死骸は残っていたので解体して青白い鱗や甲殻などを剥ぎ取った。
剥ぎ取る際に腹部を食い破られた所には体内にあった卵も壊されていてリフィンはあまりの残酷さに命の重みを再度思い知る事となった。
「…お姉ちゃんが助けてくれなかったらそのまま食べられてたと思う」
「あの時は本当にビックリしたのよ、今思うだけでもゾっとするわね」
ディクトに跨がるリフィンとアストレアは今までして来ていた事を互いに話していた。
「タキルと念話が出来なくなったのは私がタキルと友情の誓盟したからだと思う、それに関しては謝るわ…」
「ううんいいの、お姉ちゃんを介して言葉が聞けるならそれで充分…むしろその友情の誓盟について詳しく聞きたい」
「ん? いいわよ?」
お姉ちゃんとタキルが友情の誓盟をして青い翼が背中から生えるなんてと、元々研究するのが仕事だったリフィンは特に興味深くアストレアに質問を次々と繰り出す。
そんな光景を見ていた前を先導している黒剣の集いのメンバー達は色々と呟いていた。
「水の聖女と呼ばれるあのお嬢ちゃんも凄いが、姉のほうはバケモノじみた強さじゃったわい…」
「翼竜を生きたまま開きにしてたっすからね…」
「僕には翼が生えた天使に見えたよ…はは」
「ただ者ではない」
「軽々と硬い鱗や甲殻ごと斬ったあの武器も気になりますね」
「まぁおかげで俺達は助かったんだ、有り難く思ってメシでも奢ってやろうぜ!」
「ロディの言うとおりだな…一度ジルット村に寄って全員生還した事を酒場で祝おうじゃないか!」
「「「「「「おう!」」」」」」
流石はBランクパーティーなのだろうか、シックが率いるメンバー達の結束力は高く礼儀も常識もわきまえた者達が多いのでアルモニカ随一のパーティーと呼ばれる所以であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
姉妹揃ってディクトに乗り色々お話を楽しむリフィンとアストレア、闇の神の祝福を受けしモノとの戦闘で無事全員生還した事を誇りに想い歓喜する黒剣の集い達であったが、列の最後尾を馬に跨がってゆっくりと進んでいる暗い表情をした男がいた。
「……」
嫌だ、放して! 嫌だっ! 数刻前にグレンが見た光景だ。
片腕で軽々と持ち上げられ泣き喚くリフィンをグレンは何も出来ずただ見る事しか出来なかった。 結果として運良くリフィンの姉が現れてなんとか無傷で助かったものの、本来であれば自分がリフィンを守らなければならなかった場面であったのだ。
しかし現実は無情にもそう簡単と覆る訳では無くあの時もっと動けていればとか、いくら思い返しても過ぎ去った失敗や失態は補正してはくれないのだ。
リフを守れなかった、俺が弱いからだな…
自分はそこそこ強いと思っていた。 しかし自分ではそこそこ強いと思い違いをしていただけだったのだ。
得意な大剣が通用しないのであれば火魔法を使って対処してきた。 しかし今回の相手は非常に硬く火に耐性があることから大剣も火魔法も通用せず、皆が作ってくれた絶好のチャンスすら活かす事が出来ずに吹き飛ばされた。
そしてリフィンを想って最後の力を振り絞ったがあっけなく無力化され、リフィンの死が訪れるのをただ見るだけしか出来なかったのだった。
どんな顔してリフを見ればいいんだよ、無理だろ…
幸いな事に何故かリフィンの姉であるアストレアに敵視され、リフィンには近寄せられない様にしてくれているので助かっていた。
前を見れば少し前を進むアストレアの後ろ姿があった。 リフィンはその前に乗っているのでほとんど視認出来ないのである。
…あの姉、俺を死刑確定とか言ってたけど本当に殺されたりしないよな?
リフィンを守れなかったと1人落ち込むグレンであるが、アストレアが言い放った『死刑確定』とはなんだったのかと頭を悩ませ少し恐怖するグレンであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
黒剣の集い達が前で歓喜に湧いている。 お姉ちゃんは私の背中でディクトを操る手綱を操作していた。
…あれ、グレンは?
と思って後ろを振り向こうとしたらお姉ちゃんによって阻まれた。
「どうしたのリフ?」
「…グレンが気になったからちょっと」
「良いのよあんな奴放っておいて! 実力が足りなくて今ちょっと落ち込んでるようだし見てやるもんじゃないわ」
「…そう」
「まさかあんな奴の事好きなんじゃないでしょうね!?」
「…好きとかじゃ、ない」
好きかどうかは分からない、でも今は少しグレンの事が気になっていた。 あの時私を助けようとしていたのは分かっているんだけど、危険を冒して1人で迫るなんて普通では考えられない行為だ。
本当に大切だからこそあの場面でうご____
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
モニュッ!
「ひゃっ!?」
「あ、少し成長した? リフだーい好きだからいっぱいお触りしちゃうわね!」
モニュニュッ!
リフィンの背中にいるアストレアからして、隙だらけのリフィンの背中は絶好の獲物だったようで抱きついてから胸や二の腕、お尻等を撫で回してきた。
「やめっ、お姉ちゃ、そこはっ!」
「ほれほれー、ここがええんか? ここがええんやろ!?」
「ふーっ!? ふーっ!?」
前を進む黒剣の集いや後ろにいるグレン達に気付かれない様に声を殺して、アストレアがまさぐってくるのを必死に耐えるリフィン。
男性冒険者達には気付かれなかったようであったがタキルやポコ、ディクトには丸聞こえだったのであった。
『おいレア! なんて羨まけしからん事を!?』
『あとで感想を述べるからそれでどう?』
『是非よろしくお願いします! いいぞもっとやれ!』
『僕の背中で何してるんですかね…』
『ウチから見てもちょっとエロい』
『ふむ…エロいと言えばなんだけど、僕って実は合法的に2人の女の子を騎乗位の体勢させてるんだよね』
『…うーん、ディクトは馬だしこれはセーフ』
『お許しが出て何よりです、あと僕はケルピーだからね!?』
『似たようなものじゃん』
『あっはい』
その後リフィン達は黒剣の集いの先導のもと、ジルット村に立ち寄ったのであった。
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