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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
4章 蒼きツバサ
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追いかける姉

 アルモニカから西の方角へ馬で丸2日走った所にリフィンとグレン、そして黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)のメンバー達がいた。

 そこには辛うじて道と呼べる足場が不安定な砂利道で、標高1300メートル程の山の中腹辺りを歩いており馬を巧みに操り先行する黒剣の集いの後に続き、リフィンはディクトの背中に乗って揺られながら進んでいた。

 ふと横を見れば地平線まで続く広大な景色が目に映り、通って来た川沿いの道や木々が生い茂り一度迷い込めば出られなくなりそうな森、そして赤銅色に染まった岩場などが広がっていた。

 現在リフィン達が登っている岩場も赤銅色をしており、砂に含まれる金属が多く含まれる為か酸化して赤茶色にみえるのだ。

 ここよりもっと西に向かうと砂漠性の気候に属している他国の領土となるので、それ以上は通行証がないと不法入国となる。


「嬢ちゃん、ちゃんと付いてきてるか?」

「はい、なんとかですけど」


 目の前を進む黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)のロディが振り返ってリフィンの様子を確認してくれた。 リフィンの隣には馬に跨がって並行するグレンが居るのだが、それでも気を遣ってくれるロディにリフィンはひっそりと心の中で感謝するのであった。

 タイラントワイバーン討伐の依頼を受けた黒剣の集いは水を運べる量が限られていて、水が無くなった際の補給先が川や雨水など自然に発生したものを活用するしか無く、もっと遠い所へ向かうには水や食料専用の馬車を用意するのだという。


「水の聖女とも言われる嬢ちゃんが居りゃあ、重てぇ水を運ばなくて済むから助かるぜ!」

「私も色々な町や村を見て回りたいので実は助かってます」

「そう言われるとまた連れてきたくなっちまうな!」

「もう既に立ち寄ったジルット村の水魔法使いを救ってるっすからね…」

「あぁ、まさに水の聖女だったな」

「うぅ…聖女のつもりで水への信仰心を広めている訳では無いですけど」


 ここまで来る途中に立ち寄ったジルットという村で、水魔法使い達の疲れきった顔を見たリフィンは早速水への信仰心を村の水魔法使いの仕事を肩代わりしながら広めて回ったのであった。

 その結果としてリフィンの魔力量や技量に驚いたジルット村の水魔法使い達はリフィンがタイラントワイバーンを討伐しに来た冒険者だと知るとアルモニカを救った水の聖女というのも広まっており、顔色を変えて弟子入りを志願してくる者やリフィンにプロポーズしてくる者が出てくるという騒動が起きたがグレンや黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)によってこれを鎮圧、その後リフィンの説法により今では水への信仰に厚い信徒となってしまったのであった。


「しかし村から得た情報では、近頃クリムゾンエイプが頻繁に出没すると言っていましたが全く姿が見えませんね…リフィンさんも気をつけて周囲を警戒しておいて下さい」

「わかりました」


 黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)の中でも一番イケメンと言われるクリスが辺りを見回しながらリフィンに呟いた。

 光魔法を操る司祭のクリスは白を基調とした法衣を羽織っており、さらさらとしたブロンドの髪、綺麗に整った顔立ちをしていて、透き通った美声の持ち主は何かに驚くようにまじまじとリフィンの方を見つめるのであった。


「…えっと、どうかしましたか?」

「いや失礼…僕の顔を見ても何の反応もしなかったのでつい驚いてしまった訳です、申し訳ありません」

「…?」

「クリス先輩はイケメンっすから大抵の女性は先輩を見たらキャーキャー嬌声をあげるんすけど、リフちゃんは何の反応もなかったっすから先輩が驚いたんすね」

「そうだったんですか、ではキャーキャー言った方が良いですか?」

「そのままでいて下さい…五月蝿く纏わり付かれるのは苦手なのです」

「そうでしたか…では普通に接しますね」

「助かります」

「…」

「…グレン、変な顔してるけど」

「ふん、何の事か分からんな…おしゃべりしてたらタイラントワイバーンに食われるぞ?」

「…」


 ジルット村はタイラントワイバーンの討伐依頼を出した村でもあり、村の住民と家畜が襲われたらしくそれを見た住民が急いでアルモニカに急行し依頼を出しに行ったとの事だ。

 単体のタイラントワイバーンの危険度ランクはBとなっており、非常に凶暴な性格で飛行しながら地上の敵を屠り、そしてその巨体から繰り出される上からの強烈な一撃は地面を抉る程だという。


「おいお前ら、リフィンは水の聖女とはいえまだFランクなんだ、もしもの事があったら全員ここで死ぬと思え!」

「分かってるっすよ」

「おう! 俺がなんとしてでも守ってやるぜ!」

「負傷したら回復魔法をかけてあげますから安心して下さい」


 黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)のリーダーであるシックがFランクのリフィンを気遣って安心させるようメンバー達を指示してくれた。


「エドモンド、ジェームスにマシュー、特にお前達がリフィンを守ってやれよ?」

「…了解」

「こりゃあ参ったわい」

「はいよー」


 エドモンドが土魔法を使う寡黙な剣士で、大槌を担ぐジェームスが鍛冶師、マシューも火魔法を使う剣士だが今は年老いたジェームスの鍛冶を受け継ぐため弟子をやっているとの事だ。

 彼らとはアルモニカで自己紹介を済ませているが、最低限度の挨拶だけでまだあまり会話という会話をしていなかったのである。


「守る、安心しろ」

「ありがとうございます、エドモンドさんが危なかったら私もフォローしますね」

「任せた」

「お嬢ちゃん、水くれ水」

「あ、このコップにですか? 水生成(ウォーター)!」

「おおぅ助かるわい、いつも生温い水ばっかで嫌になっておったんじゃがお嬢ちゃんのキンキンに冷えた水ならばいくらでも飲めるわい!」

「あはは…飲み過ぎには注意ですよジェームスさん」

「タイラントワイバーンと戦う時は物影に隠れてろ、わざわざ足を引っ張るような真似だけはするなよ?」

「はい、わかりましたマシューさん」

「ガハハ! マシューは見知らぬ女に緊張すると(イキ)がるからな!」

「ちょっ、ロディてめぇ!?」


 普段から口数が少ないのかエドモンドとの会話は本当に事務的で、ジェームスは年老いているとはいえまだまだ元気な感じだった。 マシューに関しては何故か冷たい態度を取られたのだがロディがフォローを入れてくれた。


「…」


 そしてリフィンの隣には一番不機嫌なグレンがいるのであるが顔には出ておらず、黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)のメンバー達と仲良く話をしていたリフィンはそれに気付く事は無かったのであった。

 しばらく登り続けると陽が傾いてきたので、野営をするのに最適な場所を見つけるとすぐさまテントを張って食事の用意をするのであった。


「よーし、今日はここで野営をするぞ…ロルタプ、目的地への距離とタイラントワイバーンの様子を確認してきてくれないか?」

「了解っす、ご飯の支度は任せたっすよ!」

「では私が調理しても良いですか?」

「お、じゃあ任せた…グレンも調理担当な、その間に俺達はテントを作っておくとするか」


 リフィンはグレンと一緒に調理を任される事になった。 リフィンはグレンに襲われないか警戒しつつも魔法で生成した水で一緒に手を洗い調理に取りかかる事にした。


「何を作る予定だ?」

「…トマトとチーズの鍋、火が必要だから出して」

「山の上は冷えるから最適なチョイスだが…俺と会話する時だけ警戒するのは止めろ」

「…無理、いつ襲われるか分かったものじゃない」

「まだ根に持ってるのか…」

「…自業自得」


『リフちゃん冷たーい! そんなんじゃ嫌われるよ!?』

『だって隙あらば狙ってくるんだもん!? ジルット村でもっ…! いや、なんでもないです』

『ん? ん? ジルット村でも?』

『…なにもありませんでした、いいね?』

『あーこりゃキスされたんだわ』

『………だ、誰があんな奴なんかと!』

『リフちゃんが素直にならないから、グレンが可哀想に見えて来たかな…』

『だよねー! 嫌いなら嫌いって言えば良いのに』

『き、嫌いではないけど…そういうのじゃ無いから!』


 そして無言のまま調理を始めるリフィン達は、淡々と別れて作業をこなして行くだけなのであった。


「なぁロディ、あいつら本当に付き合ってんのか?」

「そのうちなると思うぜ…多分な」

「僕はちょっと彼女が気になりますね、ロルタプは人妻専門なので今は眼中に無いでしょうけど…」

「…」

「わしがもう20歳若かったらアタックしとる筈なんじゃが、歳には勝てぬわい」

「正直あいつには釣り合わないだろ…」


 ロルタプを抜いた黒剣(ブラック)の集い(・ギャザリング)達は別れて作業をするリフィンとグレンの様子を見て不安を覚えるのであった。




● ● ● ● ●




 冒険者ギルド、アルモニカ支部


「冒険者ギルドにようこそ…入店早々アタシの所にくるなんて中々見どころあるお嬢さんじゃない?」

「あんたがエルザね、1つ聞きたい事があるんだけど良いかしら?」

「なにかしら?」

「私の可愛いリフがタイラントワイバーン討伐の遠征に向かったって聞いたけど、どこに向かったのか教えてくれない?」

「…知っては居るけど、素性の知れない人に情報は与えてないのよ」

「じゃあ私も冒険者になるわ、そうしたら教えてくれるかしら? タキル!」

「ピョルルリ!」

「タキルじゃないのぉ!? なるほど、あなたがリフちゃんのお姉さんね」


 アストレアがエルザにタキルを見せるとエルザは彼女の正体が分かったのか素直に応じ、ギルドマスターのリョルルも運良くその場に居合わせていたので冒険者登録をする事になった。


「ここから西へ進んだ所よ、馬で丸2日かかる距離ね」

「いつ出発したの? 近くに立ち寄りそうな町や村は?」

「一昨日の昼頃よ、途中でジルット村に寄ると思うけど…みんな馬に乗って行ったから追っても追いつかないわよ?」

「それだけ聞けたら充分だわ…行くわよタキル!」

「ピョルルリ!」

「ちょっと待ちなさいっ!?」


 オカマの静止も聞かず、ギルドを走って出た青髪の女性はバサッと巨大な青い翼で飛翔し、そのまま西の方角へと飛び去って行く。


「青い…翼!?」

「なっなんだあれは!?」

「嘘だろっ!?」

「…ふふ、リフちゃんをお願いね」


 夕焼けで辺りがオレンジ色に染まっていたせいか、西の方角は眩しくて飛んで行った彼女の姿はすぐに見えなくなったのであった。

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