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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
4章 蒼きツバサ
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ミスティエルデに帰還

「でりゃぁぁぁあああっ!!!」

『いっけぇぇぇえええっ!!!』


 声を荒らげながらアストレアとタキルは上空から地面に向かって急降下すると同時に、構えた藍刃丸を素早く振り抜いてドラゴンゴーレムの首を一刀両断した。

 ドシーンと質量のある首がゆっくりと落ちて鳴り響きモクモクと砂煙が舞い上がった。 首を失った胴体の方はそのまま沈黙を続けていて、砂煙の中からタキルを肩に乗せたアストレアがスタスタと歩いて出てくる。


“見事…合格だ”

“デュフフ、最初の頃と比べると別人でござるな!”


 風の神ソヨグと土の神ユラグの試験を、アストレアとタキルは見事突破したのだった。

 リフィンを守れるよう強くなる為ソヨグとユラグの稽古をアストレア達は続けていたのだが、思ったよりも早く仕上がってしまった為稽古という名の試験をソヨグ達がぶつけたのであるが、それをあっさりと突破したアストレアとタキルであった。


「約束よ師匠、元の世界に戻してもらうわ」

“良いだろう…しかしもう少し待つがよい、向こうの世界はまだ昼、他の女神にも別れを言ってなかろう?”

「そうね、ヒカル様とシズル様には挨拶しておきたいわ」

“デュフフ、今からモエルも来ると言っているでござるよ!”

『そういえばしばらくモエル様の姿を見てないけど何してるんだろうな?』

“モエルにはミスティエルデの情勢を監視して貰っている、まぁおそらくリフちゃんねるばかり見て面白がっているだろうが…”

「…今リフが何してるか気になるわね、あのグレンって男とはどうなったのか知りたいし」


 最初にリフちゃんねるを見ていたとき、強引にリフィンの唇を奪ったグレンという男に殺意が湧いてしまい、うっかり映像を映すパネルを割ってしまってからリフィンの様子を確認していなかったので今どんな生活をしているのだろうと気になるアストレアであった。


“デュフフ、聞いた話によるとあれからあの男とは何も進展はなく、水不足を無事に乗り切ったそうでござるよ!”

「なら安心したわ…」


 どうやらリフィンの純潔はまだ守られているようであり、水不足も乗り切ったようでひとまず安心していると、「おーい!」の声と共に手を振って駆け寄ってくる火の女神モエルがやって来たのであった。

 モエルの熱は尋常ではなくつい身構えてしまうアストレアであるが、あらかじめソヨグが風の力でモエルの熱を遮断してくれていて熱を感じる事は無かったのであった。


「ありがと師匠」

“気にするな”

「ん? あっごめんまた忘れてたー!」


 癖なのか、忘れやすいのか、馬鹿なのかは分からないが火の女神モエルは両手を合わせてペコペコと頭を下げた。 神が人間に対して易々と頭を下げるのはどうなのかと考えてはいけない。


「ヒカルとシズルが部屋で料理作って待ってるよ!」

“わざわざ言いに来なくてもこれから向かう所だったのだがな”

「いいじゃないのよ、減るもんじゃあるまいし! それにあたしも姉の力を確かめたかったのもあるからね…火の竜精(サラマンドラゴ)!」


 モエルがいきなり火竜を呼び出した。 実体は無いのか質量は感じられないが灼熱と思わせる熱さがジリジリと肌に感じる。 そしてアストレアに向かってモエルは挑戦をふっかけたのであったが…


「この竜を倒したらあたしも認めてあげるわ! でも半端な水じゃどんなに頑張っても_」

無慈悲な大洪水(ルースレスフラッド)!」


 ドバァァァアアアっ!!!


「GYAOOOooo……」

「…え?」

「消したわ、これで良いのよね?」


 火の竜精(サラマンドラゴ)は現れたばかりだというのに無情にも大量の水を浴びせられてしまい抵抗虚しくそのまま消えてしまった。

 モエルが喋っている途中でいきなり魔法を行使する冷酷なアストレアであったが、出した眷属を一瞬で消されてしまったので何も言う事が出来ず認めるしかないモエルであった。




● ● ● ● ●




 その後、シズルの部屋に戻ってリフちゃんねるが映し出されているパネルを見ながら皆で食事を楽しんでいた。

 現在シズルの部屋には5柱の神達とタキルとアストレアがくつろいでいて、ゲートの閉鎖作業の事は他の眷属に任せているとの事だ。

 パネルの映像には、やはりと言うべきかリフィンの姿が映っていてアルモニカの冒険者ギルドでエルザと話をしているようであった。


“ほぅ、中々良い鍛え方をしているおと…女か? いや…男だな”

「な、なにこのオカマ…リフはそんなのと普通に話をしてるけど大丈夫なの!?」

“オウフ…これは生理的に受けつけないでござる”

「世の中には変な人間なんてわんさか居るからの…」

「…ムキムキ」

「あたしは何度かこれで見てるけど、結構良い受付なのよね!」

『こいつはエルザっていうんだ、確かに見た目はアレだがリフの事を裏で守ってくれてる良い奴なんだよ』


 パネルの映像にリフィンとエルザが会話をしているのだが元々音声は拾えないのか全くの無音であり、なんの話をしているのかすら分からないのであったが、入り口から他の冒険者の男達がやってきてまさかリフィンがその男達と仲良さそうに会話をしている所を目撃するのであった。


「ちょっと!? 見知らぬ男共に囲まれて何故か仲良さそうに会話してるのだけれど本当に大丈夫なんでしょうね!?」

『あーあいつらか、たしかB級冒険者パーティのブラックなんとかって奴等だ』

“今すぐ向こうに戻るか?”

「何も無ければ予定通り深夜に決行でいくわ!」

「…だと良いの」

“デュフフコポォ! 百合百合しい女の子がいっぱいやってきたでござるよ!”


 また入り口の方から別のパーティーが入って来たのか今度は女性だけの冒険者パーティーがやってきてリフィン達の会話に混ざって行くと、またまた入り口から赤髪の男がやって来た。


「あっ! シズル様こいつよこいつ! リフの唇奪った奴!!」


 アストレアが画面に映っているグレンを指差し水の女神シズルの方に振り向いて説明したのだが、



『「「「““あああぁぁぁぁぁぁっ!?』」」」””



 とタキルや他の神達が悲鳴をあげてきたのでアストレアは何があったのかと画面に視線を戻すと、そこにはいきなりグレンに唇を塞がれているリフィンの姿があったのだった。

 それを見たアストレアはまた思わずパネルを粉砕し半狂乱になる。


「うぎゃぁぁぁああああああっ!? あいつマジで絶対殺すっ!! 今すぐ戻るから師匠お願い!!」


 タキルを鷲掴みして藍刃丸を腰に提げたアストレアは即刻元の世界に戻ると言いだした。 気持ちは分からんでもないとソヨグは転移陣をアストレアの足元に浮かべるが、”別れの挨拶くらいはしていけ”と少しだけアストレアを冷静にさせた。


「私をここに匿ってくれてありがとうございました。 ソヨグ様とユラグ様には私がリフィンを守れるよう強くなるまで鍛えてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです…本当にありがとうございました。」

“デュフフ、しっかり守るのでござるよ!”

“これも我らが守護するミスティエルデの為だ、気にするな”


 姿が見えないソヨグとユラグであるが、手を前に差し出せば温かい風が握手をするように握ってくれて、地面に手を当てれば同じように温かさを感じた。


「モエル様も、いつもリフを見てくれていてありがとうございます。 最後の試験は己が自身に繋がりました。」

「おやすい御用よ!」


 モエルの手や体には触れられないので代わりにしっかりと目を見てアストレアの素直な気持ちを伝えた。


「そしてママ」

「誰がママなのじゃ!? おぬしのママになった覚えは無いのじゃー!!」

「…ヒカル様、私達の為に部屋を改造してトイレやお風呂、食事を提供してくれて本当に助かりました。」

「うむ! 帰ったらまずは着替えと身分証を持ってあの屋敷を脱出するのじゃぞ!」

「はい! 頑張って脱出してまたママの手料理を味わいたいです!」

「わざと言うでないのじゃー!!」


 ヒカルとは直接握手が出来た。 目がかなり眩しかったがやはり実体がある方が良いと感じたのであった。


「シズル様、私の中に眠る力を呼び覚ましてもらってありがとうございます。 この力で絶対リフィンを守りますから!」

「…応援してるの」


 シズルとも握手が出来た。 ひんやりとしていて気持ち良かったが必ずリフィンを守ってみせると念話でも伝えた。

 そうすると足元の光が強くなっていき、もうじき元の世界に戻れるという事なのだろうが、まだ挨拶をしていなかったタキルが一言転移直前に言ってくるのであった。


『オレからもありがとう! そしてこれからもどうかオレ達の事を見守っててくれ!』

“デュフフ、分かったでござるよ!”

“善処しよう”

「勿論よ!」

「必ず見ておくと約束するのじゃ!」

「…そのつもりなの」



 パァァァァァァアアアアアアッッッ!!!!



 と光が溢れ出しそのままアストレア達は光に包まれ元の世界に戻って行くのであった。



“行ったか…短い期間ではあったが中々楽しめたな”

“デュフフ、拙者も久しぶりに楽しかったでござるよ!”

「五月蝿いのが居なくなってちょっと寂しくなるわね」

「…モエルはいつも五月蝿いの」

「シズル〜っ!?」

「まぁソヨグとユラグの試験に合格したから心配は無用なのじゃが…やっぱりもう少し居て欲しかった自分が居るのじゃ」


 アストレアがミスティエルデの世界に戻り、残された5柱の神達は十数日という短い時間であるがアストレアと共に過ごしていつの間にか仲良くなっていた事に気付き、突然の別れに少し落胆してしまっていた。

 いつまでもこのままで居る訳にもいかず、各々するべき職務があるので解散しようとした神達であるが、ヒカルがあっと何かを思い出したかのように声を上げるのであった。


「そういやおぬしら、友情の誓盟(アミティエスウィア)でリフィンとやらの回線が切れた事を伝えたんじゃろうな?」


“ケンカや仲違いすると友情の誓盟(アミティエスウィア)が出来なくなる事は伝えたが…ユラグは教えたか?”

“オウフ、もしかして一度同調してしまうと他のテイムした人物との念話や意思疎通が出来なくなる件でござるな…そういえば教えてなかったでござる”

「そういえばそんな制約があったわね…使役魔法を司る神に言えばなんとかしてくれるだろうけど、あのジジイがどこに隠れたのか全く分かんないのよね!」


 このミスティエルデには十数の神が居たのだが、ある事をきっかけに闇の神が居なくなりそれが原因で神域を争う惨事が起きてしまったのだ。

 なんとか事を治める事に成功したものの、生き残った神は火、水、風、土、光の5大神と使役魔法を司る(ゆい)の神だけであり、結の神は身の安全の為にミスティエルデのどこかに隠れているのだった。

 隠れた結の神の居場所は神域の監視モニターにも映らないように結の神が設定してある為か、結の神が今どこで何をしているのか分からない状態でもあったのだ。


「…アストレア達の前では言わなかったけど、まだ疑問に思う事が1つあるの」

“なんだ?”

「…彼女達はリフィンから送られて来た変態賢者の本を使ってこちらの世界に来たようであるけど、一冊の本が2回も神域に転移させるほどの魔力を有しているのは少し不可解なの」

「そうじゃな、あの変態が死んでから数百年も経っておるし本に魔力を溜め込んでいても時間が経てば弱まっている筈なのじゃ…言われるまで気が付かんかったのじゃ」


 神域に転移する魔法は空間を操作出来る闇魔法でしか行えず、一度転移するだけでも莫大な魔力を必要とするので二度も転移させた大賢者ワキコキスキーの本はかなり異常とも言える。

 そして蓄積された魔力は下手をすれば暴発する可能性があり溜め込んだ魔力量によって被害が変わってくるが、そんな危険な物をリフィンはどこから入手したのかシズル達は確認を取るのであった。

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