タキルとアストレア
「でりゃぁぁああ!」
『どりゃぁぁああ!』
ガキンッ! チクッ!
「デュフフコポォ!」
「くっ、全然効いてないなんて!」
タキルとアストレアは神域でゴブリンゴーレムと戦っていた。
リフィンを守る為に強くなると決意して強くなれるように光の女神ヒカルにお願いしたら、「戦いはソヨグとユラグが専門なのじゃ!」と言って風の神ソヨグと土の神ユラグを呼び、タキルとアストレアに稽古をつけさせるのであった。
「デュフフ!」
「硬いから面倒な敵ね!」
『レアはマシな方だろ! オレのくちばし攻撃なんて全く効いてないんだぞ!?』
土の神ユラグが作ったゴブリンゴーレムは普通のゴブリンの体格をしているが非常に硬く、ヒカルから預かった深い青色の剣を振ってみても全く刃が通らないのである。
“戦いは素人とはいえ、ゴブリンゴーレムくらいなら倒せると思ったんだがな”
「剣の使い方がなってないのじゃー! 剣に魔力を流し込むのじゃー!」
“デュフフ…女の子が戦う姿って最高でござるな!”
ふと隣を見ればアストレア達を応援しているヒカルの姿が見えた、ソヨグとユラグはどこにいるのか分からないが声がヒカルの方からしたのであの辺にいるのであろう事は予想できた。
「剣に魔力を流し込むのね…ちょっと時間稼いでくれる?」
『よっしゃ! オレの出番だな!』
タキルはゴブリンゴーレムに向かって飛んで行き、グルグルとゴブリンゴーレムの視界を遮りながら丁度便意がやってきたのでそのままフンをゴブリンゴーレムの顔面にべちゃっと付着させる
「オウフ…」
『わりぃ、ついヤっちまったぜ』
汚い行為ではあるが実戦では汚いも糞も無く、勝たなければ死ぬのだ、使える手は何でも使ってやるとタキルは意気込んでいたのだが、相手は感情を知らないゴブリンゴーレムだということをタキルは忘れていた。
「コポォ!」
『ぐぁっ!?』
ゴブリンゴーレムが暴れだし硬い腕がタキルの体に直撃した。 軽い体重に小さい身体のタキルにとってはかなりの衝撃でそのまま体勢を取り戻す事が出来ずに地面に叩き付けられる、身体中に激痛が走ったのでその場から逃げ出す事が出来ずゴブリンゴーレムの追撃を待つのみだった。
「デュフフコポォ!」
『やばっ!?』
ゴブリンゴーレムの踏みつけ攻撃を躱せる余裕もなく思わず目を瞑ったタキルであったのだが、いつまで経っても踏みつけ攻撃はされず、代わりに何かを斬る音と何かがぶつかり合う鈍い音が鳴り響いた。
「あんな硬いゴブリンゴーレムの足をスパっと斬れるなんて恐ろしい武器ね…ありがとタキル、あとは私がトドメを刺すわ!」
どうやらタキルが踏まれる直前にアストレアがゴーレムの足を切断したのか近くに足の残骸が転がっていて、そのまま走ってきた勢いでゴーレムを蹴り飛ばしたのであろう2歩程離れたところにゴーレムが体勢を崩して横たわっていたのだった。
助かったぜ、と安堵しているとアストレアはそのまま青色の剣でゴブリンゴーレムをズタズタに切り裂く事に成功し、ゴブリンゴーレムは再起不能となった。
「流石ヒカリが作った武器なのじゃ! 硬い相手だろうがスパっとぶった斬る代物を作れるヒカリは天才なのじゃ!」
“ほう…水魔法使いの魔力を抽出して剣からごく僅かな水の刃が生成されているのか”
「やはりソヨグにはすぐにバレてしまうのじゃ…」
“我は戦いの神でもあるから当然だ、まぁアレを作れと言われたら無理だが”
“ヌポォ…結構やるでござるな、でも次はオークゴーレムでござるよ!”
土の神ユラグの力により、アストレア達の前にオークゴーレムが現れて襲ってきた。 体格はアストレアよりかなり大きく、先程のゴブリンゴーレムよりもかなり機動力がありそうな個体だった。
「オークだろうがドラゴンだろうが、この剣でぶった斬っていくだけよ!」
そうしてアストレアが魔力切れを起こすまで、何度も何度もユラグが召喚したゴーレム達をぶった斬っていくのであった。
● ● ● ● ●
「…やば、もう無理…魔力使い果たしたかも知れないわ」
『おつかれ』
「絶対明日筋肉痛ね…こんなになるまで動いた事…無いもの」
『オレは何も出来なかった…』
アストレアが青色の剣を使ってゴーレム達をバッサバッサと薙ぎ倒していたのだが倒す度に出てくる敵が強くなっていき、飛竜のゴーレムを倒した所でアストレアの魔力が力尽きたのであった。 いくらか攻撃を受けていて打撲痕や切り傷が数カ所アストレアに刻み込まれていた。
“よくやった方だと思う、がしかしその剣が無ければまだまだ弱いままだ”
「そうじゃ忘れておったのじゃ! その剣の名前は水晶刃なのじゃ!」
“デュフフ、アクアマリンなのに水晶とはこれいかに”
「じゃあなんと命名すればよかったんじゃ!?」
“藍刃丸…色々な意味でその方が良いでござるな! 色々な意味で”
「むぅ…よく分からんが藍刃丸で決まりじゃ!」
アストレアの持っている剣の名前は藍刃丸という名前になったらしく、地面に仰向けになっているアストレアはそのまま剣を持ち上げて藍刃丸を見つめた。 深い青色、藍色とも言われる綺麗な刀身に程よく装飾された黒い鍔と持った時に握りやすい持ち手、鞘はないようであるがそのまま刀身を握っても全く痛くなくアストレアの柔らかい手の皮膚ですら斬れないので裸の状態でも安全なのであった。
『お願いだ神様達、オレはどうやったら強くなれるのか教えてくれ!』
タキルが強くなりたいと声をあげたので上半身を起こしてみると、ヒカルの足元に伏せるタキルが見えた。
『オレはリフの為に手伝えるならなんでもするけど偵察くらいしか出来ねぇ! 魔法が使えるかと思って色々試してみたりはしてるんだが結果が出ない! リフを守るどころか守られてばっかりなオレはどうしたら良いのか教えてくれっ!』
小さな鳥では偵察くらいにしか役に立たず、魔法が使えないので戦闘では全くと言っていい程の戦力外と思ったタキルは、先程の戦闘でもアストレアが頑張っただけでタキルは何も役に立てなかった為かヒカル達に懇願したのであった。
「お主、自分がただの青い小鳥か何かと勘違いしておらんか?」
『どこからどう見ても青い小鳥ですが…』
“タキルと言ったな、お前はただの小鳥ではないのだが自分の種族を知らないのか?”
『ただのルリビタキじゃないでしょうかね…』
“デュフフ、違うでござるよ…実はかなり希少な鳥でござる!”
どこからどう見てもただの青い小鳥だとタキルは今まで思っていたようであったが実は少し違うようであり、光の女神ヒカルから衝撃の言葉を聞かされる。
「お主は幸運を運ぶと同時に栄光へと導くといわれるかなり珍しい鳥なのじゃ、深青翼鳥とも呼ばれ巨大な木の上に住むと言われておる」
『…はぇ? 青い鳥が幸運を呼ぶという迷信は知ってますが栄光とはそんな大げさな』
と言ってタキルはリフィンと出会った時の事を思い出すのであった。
ヌツロスムント王国とモニカ共和国の国境付近の山道にてタキルはリフィンに拾われたのであるが、タキルが鷹に襲われたのは巣立ちしてすぐの事で、リフィンは巨木の根っこに座って居たという事からあながち間違いではないのかもしれない。
“…信じられないという顔をしているな”
「そんなもんじゃろ…お主はそのままの状態では魔法は使えないが魔力量はかなり多い、もう1つの形態になれば魔法を使う事が出来るじゃろうな」
“デュフフ、第二形態でござるな!”
『是非教えて下さいっ!』
そのままの姿では魔法は使えないが、今の状態でも魔力量が高いらしく第二形態になれば魔法が使えるかも知れないというのだ。 そんな事を知ってしまえば早速試したくなるのであった。
「お主だけでは無理じゃ、これは使役魔法に関連してくるもので信頼関係が厚い主人が居てからこそ成し遂げられるのじゃ…アストレア、こちらに来て背中が出るように上着を脱ぐのじゃ」
「えっ!?」
「お主らは出会ってまだ間もないじゃろうが、リフィンを守るという共通の意志がありそこそこ信頼関係があるとヒカルは見ておる…お主らなら可能な筈じゃ!」
『レア…頼む!』
「い、良いけど…なんで背中を出さないといけない訳?」
アストレアの背中にはタキルをテイムした証となるテイムの印が浮かび上がっているので、恐らくそれだと思っていたらヒカルがアストレアに説明してくれて、タキルが思っていた事はどうやら正解のようであった。
「…そう、そんなところにテイムの印があるなんて知らなかったわ」
「見てはいないが多分リフにもあると思うぜ」
「ふーん」
「タキルよ、アストレアの背中にあるテイムの印に触れてみるといいのじゃ!」
「あぁ…いくぞレア!」
「良いわよ」
納得してくれたのか恥ずかしながらもアストレアは上着を脱いで背中を露出させると、タキルは背中にあるテイムの印にそっと触れた。
タキルはアストレアの背中に入り込むように落ちて行き、背中の中にタキルは消えていく。
瞬間、アストレアの肩甲骨辺りからブワッと巨大な青い翼が姿を現した。
キラキラと青い光がたくさん翼から溢れ出ていて、巨大な翼が羽ばたくと天使が地上に舞い降りたかのようにゆっくりと羽を閉じるのであった。
「え…うそ…」
『オレ、デカい翼になったのか!?』
「どうやら成功したようじゃな、これが使役魔法の神髄なのじゃ!」
アストレアの背中に青い翼が生え、自由に動かせるようで羽ばたいたら飛べそうな気がしてくる。
使役魔法本来の使い方を身を以て知ったタキル達であった。
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