モエルのお出迎え
黒い閃光に包まれ目を瞑ったタキルとアストレア、しばらくしてゆっくり目を開けると渦巻く藍色で覆われた不思議な空間の中に居た。 大賢者の本によって神域に転移する事に成功していたのである。
『…どうやら成功したみたいだな』
『そうみたいね、転移の瞬間に伯父の姿が見えたような気がしたのだけど大丈夫よね?』
『マジか、大丈夫なのかどうかは流石に分からん』
『とりあえず、ここで水の女神様に会えるって事なのね』
『あぁ』
転移する瞬間、シリウスが部屋にやってきて転移するところを見られた可能性があるが、そんな事はどうでも良いとタキル達は神域で水の女神シズルに会う為にどうやって進むべきか考えるのであった。
『ここに来れたのは良いが、実はどっちに向かえば良いのかよく知らないんだよな…』
『頼りないわね…タキルはここに来るの2度目なんでしょ?』
『前回は風の神がお出迎えしてくれてそのまま案内してくれたんだがなぁ』
「神域にいらっしゃーいっ! あんた達が来るのを待ってたのよ!」
いきなり活発そうな少女の声が聞こえてきてビクッと驚くタキル達、目の前から5歩程離れた場所に爆炎をあげながら赤白く燃え盛る少女が姿を現したのであるが…
「熱っ!? 水生成!水生成!水生成!水生成!水生成!」
『死ぬぅぅぅ!? なんだこの熱さは!? レア頑張ってもうちょっと多めに水出せ! 出した途端から蒸発していってるぞ!?』
「水生成!水生成!水生成!水生成!水生成!水生成!水生成!」
どうやら火の女神モエルが今回お出迎えしてくれたようであったが、全身が炎で覆われている彼女があまりにも熱過ぎて命の危険を感じる程であったのだ。 そんな様子を見て火の女神モエルは反省すると同時にタキル達から距離を開けるのであった。
「ごめーん! あたしの熱って超高温だから近寄られた人間は燃え尽きて死んじゃうの忘れてたよ!」
「ぜぇ…ぜぇ…死ぬかと思った…今でもかなり熱いけど」
『レアが水魔法で防がなかったらオレ達本当に死ぬところだったな…』
『で、あの人は?』
『あの方は火の女神様だな、確かモユル様だったか?』
『神と言ってもめんどくさそうなのが居るのね』
『ちょっ! 今の言葉モユル様に聞こえてるかもしれんぞ!?』
『はぁ!? そんな事先に言いなさいよ! モユル様に殺されちゃうじゃない!?』
「モエルよ! あたしの名前は火の女神モエル、別に殺したりはしないから安心していいけどあたし達みたいな神の前でこそこそと念話するのは失礼に値するわ…タキルは念話で許してあげるけど、口で喋れるお姉ちゃんの方は言葉で会話しなさいよね!」
『「はい』」
神様の前では念話が筒抜けだという事を思い出したタキルは念話でアストレアに謝りながらも、なぜ火の女神モエルが待っていたのか疑問に思ったのだったが、この思考をも読み取っていたのかモエルは言葉を発するのであった。
「実はこの世界からあんたたちが居る世界をずっと監視しているんだけど暇で暇でどうしようもなくてね、この前ここにやってきたリフちゃんを監視してたら大賢者の本とタキルを姉に送ってるじゃない? これはやってくるかなって思って監視しながらずっとスタンバイしてたって訳なのよ!」
10メートル程離れた所から大声で話しかけてくるくらいなら念話でいいのではと思ったタキル達だが、これだけ離れていてもまだ熱いのだからこのままでいいかと気にしない事にしたのであった。
“空間の揺らぎを感じたと思ったら、お前はリフィン・グラシエル…いや違うな、その血縁者か?”
「ソヨグ良い所に来たわね! あんたの力で私の熱を遮断してリフちゃんの姉に近寄らせてよ!」
“なるほど、了解した”
姿は見えないが低い男の声がどこからか聞こえてきて、モエルは自身の周囲の熱を風で遮断してくれと言うとソヨグと言われた男の声はそれに対応した。 目では何も見えないが全身に感じていた熱気が一気に消えてなくなり、モエルが歩いて近づいてきても熱気を感じなくなったのであった。
「初めまして、リフィンの姉のアストレア・グラシエルです」
『オレはタキル、お久しぶりです…リフィンの姉ちゃんも水魔法使いなんだ、シズル様に会わせてくれないでしょうか?』
“なるほど、水魔法使いの姉にもえぐちしずくの遺伝子が有効だと考えた訳か…”
「そういう事! まぁあたしは知ってたけどね!」
『なんか監視されてたらしい』
“ほぅ…我は風の神ソヨグ、とりあえずシズルの所まで案内するとして、モエルは後で事情聴取させてもらう”
「いくらでも吐いてやんよ! 監視モニター5個をリフちゃんねるに設定してる事も、そこの姉ちゃんが全裸で寝る事もなんでも知ってる事吐いてやっから!」
「えっ…」
『はっ!?』
“お前は監視モニターの設定がいじれない筈だ、まさかユラグを手懐けたとでもいうのか!?”
「あったりまえよ! ユラグに女の子を監視出来るようにお願いしたら“デュフフ、百合が見れるならお安い御用なんだなぁ”って言って協力してくれたわ!」
“オマエラだけは全く…”
呆れて物を言う事すら馬鹿馬鹿しいとため息をつくソヨグであったが、その姿や風はそれでも見えはしない。
そうしてタキルとアストレアは、水の女神シズルが居る部屋まで火の女神モエルと風の神ソヨグに案内されるのであった。
● ● ● ● ●
「…いらっしゃい」
ひらがなで[きゅーけーしつ]と書かれた扉を開くと、中には水の女神シズルが椅子に座っていてタキルとアストレアが視界に入った為か、いらっしゃいと声をかけてくれた。 タキル達はそのまま部屋の中に入って行きいつの間にかもう1つ椅子が用意されていて、それに座るよう促されるとアストレアはその椅子に座り、タキルはアストレアの肩に飛び乗った。
「きゃぁぁああ!! シズルちゃ〜うぐぅぇえっ!?」
“それ以上シズルに寄るな”
『「…』」
シズルを見たモエルが衝動の余りにシズルに飛びかかろうとしたが、ユラグがそれを阻止してモエルは動けなくなってしまった。
「放せぇ! シズルちゃん成分がやっと補給できると思ったのにぃ!!」
「…ありがとユラグ、モエルは反省して」
「のぉぉぉおおお!?」
“いつもの事だ、今からこいつとユラグを折檻してくる”
「…終わったらヒカルを呼んで来させて」
“了解した”
ギャーギャー喚きながらモエルの姿が遠くなって行き、姿が見えないソヨグに担がれるような恰好をしながら彼らは去って行くのであった。
「…タキルは久しぶり、君はリフィンのお姉さんね…私は水の女神シズル、ミスティエルデの生命の源である水を司る者」
こうして水の女神シズルと出会う事に成功するアストレア達であった。
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