グラシエル家の屋敷で
タキルがヌツロスムントに来てから1週間が過ぎ、空から観察を続ける事によってヌツロスムント王国の現状を大体ではあるが把握出来ていた。
雨が降り出すまで慢性的な水不足が続くようで、水魔法使いの奴隷や一般人が王国から脱出を試みては捕まってしまうという光景を頻繁に目撃した。 彼らには何の罪も無いが水魔法使いという貴重な人的資源を逃さない為に国が施しているのである。
『リフは本当に水魔法使いってバレなくて良かったと思うぜ…』
『そうね、そうでなければ水魔法の威力低下の原因も、それを改善する為の方法も発見出来なかったと思うし…今こうしてタキルとも話が出来なかったかも知れないわね』
『だな、もしそうだったらオレはいまごろ鷹のフンになってたかもしれないしな』
『私もリフと2人でここに閉じ込められていたかもしれないわ』
もしリフィンが水魔法使いだとバレていたらという例え話をしていると、だんだん救えない話になってくるのは明白であったのだが今はリフィンという1つの希望が存在しているのだ。
タキルとアストレアは彼女が贈ってくれたその細い糸道を渡ってリフィンに応えねばと、鳥籠の中にある大賢者の本を見つめるのであった。
『恐らくオレの事はもう使用人に怪しまれていないしな、今夜辺り試してみるか』
『そう簡単に神様が居る世界に転移出来るって思ってないけど、リフが私に贈ってきたものだもの…私は妹を信じるわ』
『いい姉ちゃんじゃねーか』
『ふん、当然よ』
大賢者の本を読むのは今夜、辺りが寝静まった時に決行する事にしたのであった。
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ヌツロスムント城、謁見の間
ヌツロスムント国王が鎮座する広大な空間で1人の男は怒りを必死に殺しながら王に向かって言葉を発していた。
「陛下! 直ちに奴等を鎮圧するべきだと進言致します! このままでは我らの民が、国が脅かされる事になりましょうぞ!」
国王に進言したその男は50代くらいの羽振りの良さそうな恰好をしており、王と呼ばれた男はまだ若く20代くらいの茶髪の青年であった。
「シリウス…気持ちは分からんでもないが彼らは現在ヌツロスムントの国民なのだ、元エルス公国の国民ではあるがそれを滅ぼしたのは他でもない我々ヌツロスムントなのは貴方が一番ご存知の筈」
「…しかし奴等の暴動は王国民の平和を脅かす恐れがあるのですぞ!」
「エルスの民を脅かしたのは我が国だ…敬愛する王族を見せしめ処刑、国を滅ぼされ、抵抗も虚しく我が国に吸収された者達の怒りを買っている事は知っているつもりだ。 先代がした事とはいえ余が憎まれているのは先日見てきたのだからな。」
「なっ…陛下は国王になられてからまだ日が浅く各地方を見ておきたいのだと存じますが、儂が元エルス公国領だけは危険だから近寄ってはならないと進言したのを無視なされたのですか!?」
「すまんなシリウス…どうしても見ておきたかったのだ。 父が何をしたのかこの目で確かめたくなってな」
「…左様でございましたか」
先代の国王が急死したのは半年前の事で、その息子である現ヌツロスムント国王が即位してまだ日は浅い、しかし彼は近年稀にみる天才王子として幼少期から頭角を現しており国王になってもその才覚は発揮され続けている。
グラシエル家の現当主であるシリウス侯爵は、先代とは違って思うように誘導出来ない現国王に対して苛立ちを感じながらも、今日のところは一旦下がる事にしたのであった。
「あまり出過ぎた真似をして取り返しがつかなくなる前に御身を___」
「それは脅迫かい?」
「………いえ、忠告です」
「シリウス、もう1つ」
「…何かご用件で?」
「…行方不明になった姪の事で気を病むでないぞ」
「はい、陛下のお心遣いに感謝致します」
「余も彼女の事は気に入っていたからな…」
「でしたら無事発見次第陛下の御前まで連れてまいりましょう」
行方不明の姪とはリフィンの事だが、同じヌツロス魔法学校出身なので国王も知っていたのだ。 その後シリウスは立ち去り国王が執務室にて気だるそうに頬杖をつく。
「…不当な侵略に詰めの甘い戦後処理、諸外国から殺到する非難の嵐に先代の不審な急死、おまけに天才研究員の失踪…イェールズ大陸もキナ臭くなってきて困ったものだね」
ヌツロスムントの若き国王は、これから起きる波乱とどう接するべきか考え込むのであった。
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「勘の良い若造め、せめてもう少し若ければ操れていたというのに…糞がぁ!」
「ぐぅっ!?」
「とっとと寄越せ!」
長い仕事を終え、辺りはすっかり暗くなっており漸く自分の屋敷に帰宅したシリウスは、執務室で待機していた男を殴り飛ばして男が持っていた報告書を奪い取るように手に取った。
報告書の内容にはアルモニカ陥没計画を阻止した冒険者の名前が載っており、そこに行方不明の姪の名前が記されていたのであった。 アルモニカで魔物使いとして冒険者をやっている事も記載されており、鳥とタヌキをテイムしている事や、宿泊している宿屋の名前までもが細かく記されているのであった。
「ふはははは! どこへ失踪してたかと思えばアルモニカに行って冒険者なんてやっているとはな、それが儂の計画を潰すなんて事をしてくれるとは…おのれぇっ! やはりさっさと婚約させて縛りつかせるべきであったのだ! 姪とはいえ、あのような博識な女はつくづく好きになれん…しかしアレは姉より利用価値がある、使いを出して連れ戻したら儂が直々に教育をせねばなるまいな、ふはは…ふははははははは!!」
床を這いずる男を下がらせて、怒りと興奮を覚えながらシリウスは1つ疑問に思うのであった。
「アルモニカ…なぜアルモニカなのだ? そういえば先日アレに届いた鳥もアルモニカからだったような…はっ!? あの青い小鳥は殺しておくべきだな…そうしよう、どこで殺すか…アレの目の前で殺せば良い表情が見れそうだ…ふははははははははは!!!」
屋敷に住んでいる者は大体寝静まっている頃だろう、シリウスはアストレアの部屋に向かって行くのであった。
「あの青い小鳥がリフィンの使役している鳥ならば、何か細工しているに違いない…小賢しい真似をしおってからに!」
リフィンが行方不明になってアストレアの日課である身体作りが急に過酷になったと報告を受けている、今思えばリフィンの行き先が分かっていたからなのではと予想出来た。 隣国のモニカ共和国では奴隷であろうが水魔法使いであろうが一度冒険者になってしまうと身分が保証される為、姉のアストレアが屋敷から脱出しその時の為に身体を鍛えているとなると辻褄が合うのだ。 先日贈られてきた青い鳥はリフィンからアストレアに対して贈ったメッセージなのだとすると非常に腹立たしい事この上ないシリウスであった。
「レア! その鳥を儂に寄越せ!」
そしてアストレアの部屋の前に到着して乱暴に扉を開けると、黒い閃光がアストレアと青い鳥を荒々しく纏っており、それに驚いたシリウスはその場で立ち尽くす事しか出来なかったのである。
「なっ…なんだこれは!? ぐぅおぉっ!?」
一瞬、目映い黒い光が強く輝きシリウスは思わず目を閉じてしまうと、もうそこには既にアストレアと青い鳥は居なかったのであった。
「…な、なんだと!?」
一足遅かったかと、シリウスは憤慨しながら部屋の中に入っていき、床に落ちていた見知らぬ文字で書かれている本を手に取った。
「これは…っ!?」
謎の本には1枚の紙切れが挟まれてあり、取り出すと本の文字は読めないが紙切れの文字は読めるのであった。 それはリフィンがアストレアに宛てて書いたもので、内容はわからないがアストレアと青い鳥が何かをしていたという証拠である。
「おのれぇぇぇ!!!」
シリウスはしてやられたと、本を床に投げつけるのであった。
次は久しぶりの神様が登場です。
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