外堀を埋められる
もう冒険者引退しろ(涙目)
実はこの世界にはダムや上水道がありません
下水道は大賢者が作ったけど・・・
「お、おう…もう大丈夫なのか?」
「…うん」
ディクトとグレンの方に歩いていくとグレンに身体の調子を聞かれたリフィンは短く頷くと、ディクトの方に向かい念話ではなく口を使って感謝と謝罪を告げる。
「ありがとうディクト、頑張って皆に水を出し続けてくれたんだね…途中で倒れちゃってごめん」
『僕は大丈夫だよ! リフちゃんは1人で背負わなくて良いんだからね!』
「ディクトが居なかったら苦情殺到する所だったかも知れないし、本当に感謝してる」
『どういたしまして! でも明日は無理しちゃ駄目、約束してくれるなら許してあげる!』
「うん、約束する」
ディクトに許しを貰えたリフィンはディクトの顔を優しく撫でていくと、グレンに背を向けたまま少し顔を下に向けてグレンにもお礼を言うのであった。
「…グレンもありがとう、私を気遣ってくれて嬉しかった」
「な…なんでもねぇよ、俺がしたかっただけだ」
「…そ、それって?」
赤面しながら唇に手を当てて後ろを向くと、それにびっくりしたグレンがくるりと背中を向けてしまった。 どうやら彼も恥ずかったらしい
「いきなりキスして悪かったな…」
「…」
『え? 今なんて…』
『やっぱりぃぃいい!?』
『うわああああああああああああああああっ!!』
『え? リフちゃんキスされたの?』
『ウチは今はっきり聞いたよ! 本当なのリフちゃん!?』
『今の聞かなかった事にしてぇぇええ!!』
人の言葉を理解するも喋れないのであるが、ポコ達とは念話で会話が出来るのである。
今後こういう事が無いようにリフィンはグレンには説明しておくべきだと判断した。
「グレンにだけ教えておくけど、この子達…人の会話を理解出来るの」
「お、おう…そうなのか、だからなんか悶えるようにポコがコロコロ転がっているのな」
「でね…ポコ達は言葉を喋れないけど、念話で会話が出来てるのよね」
「…マジか」
「今かなり念話でポコ達に問い詰められてるから、今後注意してくれると助かる」
「そうか、今後もあるのか…嫌われたりしてなくて、良かった」
「っ!?」
グレンの事は嫌いではない、好きかと問われればまだちょっとよく分からない、最近自分を手伝ってくれるグレンに興味を持ち始めたのは嘘ではない、今後もあるかと言われれば恐らくあるだろうし、嫌っていたら今こうして傍に居る事すらしてないだろう。
「あえて言うが、俺はお前の事が好きだ」
「…」
『キャーーーっ!!』
『ふぁああああああああ!?』
『…僕もこんな青春したかったな』
「リフ、お前の気持ちは俺には分からんが、その事だけ知っておいてくれ…お前の意志を俺は尊重するし、別に今すぐに返事を言う必要もないが、いつの日か返事をくれると俺も助かる」
「…うん」
『乙女ゲーかよぉぉ!!』
『僕もこれには興奮しますねぇ…フラグ立ってますよ奥さん?』
『独身のまま死んだウチにはリフちゃんが羨まし過ぎる!』
『あっ、これは失礼…』
「栄養剤だ、コレ飲んで真っすぐ帰れ…明日も頑張れよ、じゃあな」
グレンは鞄からビンを取り出してリフィンに渡すと、そそくさと蔵を出て行った。
ビンを見つめてリフィンはグレンの事を思い返す。 学生時代に初めて会った事や最近知り得た事、好きだと言われた時の事も全部思い返すのであったが、念話としてポコ達に漏れないように1人で居る時だけそうしようと思ったのであった。
『リフちゃんそれ絶対飲んじゃ駄目な奴だよ!』
『え? 栄養剤でしょ…魔石に負担は無い筈だけど』
『媚薬の可能性があるかもしれないんだから!』
『いやいやそんな…事は…』
『リフちゃん、多分ポコの勘違いだと思うから大丈夫だと思う』
『失礼な! ウチの心が穢れているとでもいうのかぁ!?』
『そこまで僕言ってないよ!?』
『…』
飲むか飲まないか迷ったが、リフィンは全部飲んでポコ達と一緒に宿屋<あけぼの亭>に帰るのであった。
● ● ● ● ●
翌朝、出発する際にカレンちゃんに見送って貰い、またお弁当を持ってきてくれると言ってくれた。 リフィンは女将カイラと主人のウォーレンさんにお礼を伝えておいてと伝えると、今日も水の提供が行われるガダイスキ邸に向かった。
ガダイスキ邸に到着すると、プラムが凄い勢いで走ってきてウチのスライムが凄いのよ! と豪語してきた。 それ私のなんですけど…
「え? ライが水魔法を使えるって?」
「そうなのよ! あの子頂戴! 分裂させて一家に一匹あれば愛玩用にも困らないし、水不足なんてイチコロよ!」
お嬢様口調どこへ行った、と思ったがライが水魔法を使えるなんて初めて知ったので、とりあえずリフィンはライの様子を見に行くのであった。
部屋のドアを開けてライを探すと、リフィンの目の前には自分と同じ恰好をしたスライムがシモンやルコと遊んでいた。
幸いな事に全裸状態のリフィンではなく、いつもの冒険者として活動している服装を模した姿をとっていた。 色は薄い水色のまま透けて見えていて、顔の部分の表情は流石にそっくりとは言い難いが、シルエットだけみればリフィンそのものだった。
「え…ライなの?」
「うじゅるうじゅる!」
走れはしないが、ゆっくりとライがリフィンに寄ってくると元の姿であるサッカーボール大の大きさに戻った。
そんなライを手で持って帽子を被せると帽子の奥のほうに登って行く。
「やっぱりライだ…」
「リフさん、おはようございます!」
「おはようルコさん!」
「ちょっとリフィン、私達がライと遊んでたんだけど!」
「えぇ…」
「まぁいいけど…で、調子はどうなのよ?」
「魔力の方は問題ないかと」
「そう…彼氏さんなら外でシックさん達の手伝いをしているわ」
「んなっ! 違いますからね!?」
「リフさんが羨ましいです…」
「プラム様なんて事を…っ!」
プラムがやっぱりバラしたのであろうか、シモンはこちらを見てクスクスと笑っていて、ルコは羨望の眼差しで両手を組みながら見つめてくる。 プラムを問いただそうと振り返ってみると、いつの間にかプラムは居なくなっていて代わりに虹百合の他のメンバーがやってきたのであった。
「おはよう彼女、よく寝れたか?」
「…リア充乙」
「ふふ、ゆうべはおたのしみでしたわね」
「引退はまだかしら…あ冗談だからね?」
「私はテイムの才能も劣れば、恋愛でも年下に抜かれていくのね…」
「だから違うんですってばーっ!」
やはりプラムが確信犯だなと思ったリフィンは、黒剣の集いの皆にも同じ事を言われるのだろうかと思うと恥ずかしいを通り越して怒りが涌いてくるのであった。
それはさておき、スライムのライがなぜリフィンを模した人型になれたのかという理由をメリコムに聞いてみたのだが、メリコム達も確信的な理由が分からずじまいであった。
議論していたところ、いきなり変身してコップに水を入れてくれたのだというのだ。
リフィンが考えた結果、ライが食べる食事はリフィンが出す水魔法で出した水だけで、いつの間にかリフィンの魔力に近い存在になったという説と、
アルモニカの人達の水魔法に対する考え方が少し変わったため、水が信仰されて水の精であるスライムのライが力を発揮してリフィンの姿を模したのである、という説を導きだしたのである。
どちらにせよ水魔法が使えるライの存在は干ばつの影響下では頼もしい存在であるため、ライにも水を出して手伝って貰うようにお願いすると、賛成してくれたのかプニョプニョと震えてくれた。
● ● ● ● ●
今日も既に水を求めてやってきた人達が長い列を作っていた。
昨日と違うのは頼もしい仲間達が増えて、普通のタルより大きなタルが10個も均等な感覚で庭に設置されていた。 メリコム達に言われるまま全部のタルに水を入れると会場には水を求めにやって来た人達が押し寄せてきてマナーよく水を汲んでいた。
ちなみに昨日使用した普通のタルは水を入れて栓をした後冒険者によって各地へ配達されていった。
今日は2日目でライとルコが水を出してくれるとの事で余裕が出来たので、タルはディクト、ライ、ルコに任せてリフィンはこのあと各地の干上がった田畑に水を撒いていく予定だ。
昨日の来場者数も伝えられていたのかリフィンに説明してくれて、5万人を超えそうなくらいやってきたというのだ。 提供してるのは飲料水のみとはいえ、アルモニカの人口の10分の1がはるばる来てくれたのだ。 その人たちが10人分に分けると水魔法使い達約5000人分の水を出した計算になりなんとか賄えた事になるのだ。
この屋敷の主であるマルメロ大法官もやってきてリフィンにお礼の言葉を告げると、政務の方も忙しいのか疲れた顔をして屋敷の中に入っていった。
早速タルの水が少なくなったと報告があった為、水を補給しに移動していると水を求めにやって来た人達に次々とお礼を言われ、昨日倒れてしまったリフィンの体調も気にしていたらしく心配されたが、むしろ今の方が応援されて元気いっぱいだとリフィンは伝えていくと水タルを監視しているロディが居た。
「あ、ロディさん」
「おう嬢ちゃん、このタルに水を入れてくれ」
「はい!」
リフィンは小さいのでタルに梯子をかけて登り、そこから水魔法を使って水を補給していく。 そして疑問に思っていた”一夜にしてどこから水タルを集めたのか”が気になったのでロディに聞いてみた。
「でけぇ水タルのうち6個は宿屋などで使う奴なんだが中身が空だったようでな、ちょっくら借りてきただけよ! んでもって即席で同サイズの水タルを4つ作ってやったぜ! これを各所に置いて水を勝手に汲んでくれりゃあ行列なんざすぐに解消されるってもんよ!」
「すごいですね…これは助かります」
昨日はそれぞれ違うタルに水を入れていたので魔力制御に負担をかけてしまったが、今回はその必要がなく巨大な水タルに水を放出するだけなので、前回の様に頭を悩ませる事は無いだろうと確信したリフィンである。
「そして即席バージョンの水タルはノズルを8カ所付けてんだ! これは俺の考案だぜ? すぐに水がなくなっちまうからこのタイプの奴はこまめに見ておく必要があるから俺が見てんだぜ!」
「本当に助かります、ロディさんにはいつも感謝です」
「ガハハハハ! まぁ4つのうち3つは俺等が作ったんだが、そのうち1つはグレンが作ってんだ。 生意気な事に腕は器用なんだよなアイツ、向こうの即席タイプのタルを見てる筈だから行ってみると良い!」
「は、はい!」
ロディに言われてグレンがいる所に向かうことにしたリフィン。 正直まだ面と向かって話せるような自身はないが、即席タイプの水タルなので水が不足してくる頃だろうと思って歩いていくと、次々にリフィンに感謝の声をかけてくる人達にまた阻まれたのだが、その中には今朝会ったばかりの少女がやってきていたのだ。
「やっほー! リフちゃん頑張ってる!?」
「カレンちゃんいらっしゃい、今日は皆のおかげでかなり助かってるから昨日の様に倒れる事はありませんよ」
「それならよかった、ちょっと早いけど…はいこれお弁当!」
「ありがとうございます! 皆には助けてもらってばかりで…重っ!?」
カレンから渡されたお弁当なのだが、昨日見たものより大きくてずっしりとしていたのでビックリしたリフィンはこんなに食べきれないと言ったのだが、カレンから衝撃の言葉を聞くのであった。
「是非彼氏さんと一緒に食べて下さい! では私はこれにて!」
「…え!?」
なぜカレンがこの事を知っているのか、それより大勢の人に囲まれているのでほどんどの人に聞かれたであろう事は間違いなかった。
「あ、俺達お邪魔ですね」
「水頂いて帰りまーす」
「彼氏居たのかよ、フリーならアタックしようと思ってたのに」
「キャーー!! 水の聖女様のお通りよぉぉ!!」
「ごちそうさまです、ごちそうさまです」
「オラァ! おめぇら道を開けろぉ!」
やはり聞かれていた、そして何故か気を遣わされている、いつの間にそんな大層な名前が付いたなどと恥ずかしくなって赤面していると、グレンがいる方まで続く道が開かれるのであった。
恥ずかしいけどもいつまでもそこに立ち止まっている訳にはいかないので、歩き出してグレンが見張っている水タルの方に向かうと、ジロジロとニヤニヤと大勢の人に見られながらついにグレンが居る所まで到着してしまった。
「…み、水はどう?」
「あぁ、少なくなってきたから頼む…この人で出来た道はなんだ?」
「…皆グレンの事を、か、彼氏って言ってる」
「俺は彼氏でお前は彼女なのか、それは嬉しい限りだな」
「…まだ違う」
「まだ、という事はそのうちって事だがいいのか?」
「…こういう話をされても、グレンのその澄ました感じの態度に腹が立つ」
「そうか」
リフィンが顔を真っ赤にしているのにグレンはこういう人前では顔を赤くせずにしているのが無性に腹が立つリフィンであるが、先程ロディが言っていたグレンが作った水タルの事が気になって聞いてみた。
「…タルを作ったって聞いたけど」
「あぁ、この水タルだ…徹夜して作った。」
「…あの後に?」
「そうだ、作り方を教えて貰ったからまた作れるといえば作れるが、徹夜したせいか今は少し眠い」
「…グレンのその優しくて頑張ってくれるところは、ちょっとだけ好き」
「お前の為だ、そうじゃなければこんな事しねぇよ」
「…その優しさがアルモニカの人達に向けられたら、いいかなって願ってる」
「難しいが、善処する…その包みはなんだ?」
「宿屋の子に貰ったお弁当、いっ…一緒に食べてって言ってた」
「おう、わかった」
「でも、私これから各地の田畑に水を撒いてくる予定があって…」
「俺も行くに決まってるだろ?」
「う、うん…」
カレンに言われた通りなんとかグレンと一緒に昼食を取る予定を入れたリフィンであったが、大勢の人達に見られている事を忘れていたようで背後から熱狂した人達が歓声に沸いたのを聞いて、恥ずかしくて堪らなくなったリフィンはどこかに隠れたい気持ちでいっぱいになってしまったのであった。
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