元気を貰うリフィン
冒険なんてどころじゃない!
おい、冒険しろよ
誰だよリフちゃんに毒牙にかけた奴!
「ん…」
「目が覚めたようね」
リフィンはガダイスキ邸の客間のソファーの上で目を覚ました。 魔力が枯渇しているせいか、または長い事寝すぎていた為か、頭がぼんやりとしていて身体を動かそうにも力が入らなかった。
視線だけ窓に向けると空は既に藍色に輝いていた。
「気分はどう? あなた魔力の使い過ぎで倒れた___」
「しまった! もう日没!」
日没になれば水を求める人達の列を制限する筈だと焦ったリフィンは、ガバッとソファーから起き上がり外に出ようと走り出した。
自分が倒れてからディクトが水を出し続けていたとなると皆に申し訳ない気持ちでいっぱいで、今すぐにでも水を出さなければと向かったのだが…
「縛風の拘留所!」
「んぁっ!?」
プラムの放った風魔法でリフィンが拘束される。
薄い緑色の風がリフィンの周りを包み込み、両手両足にも小さな風がまとわりついて思うように身体が動かせない。 まさか自分が術式を編み出した魔法で拘束されるとは思いもしなかったのであった。
「行かせませんわよ? あなたまた倒れるつもりなのかしら?」
「…」
プラムに言われなくても分かっている、今のリフィンの魔力は少し回復して2割程度しか存在していないが、ここまでくれば何回か魔法を行使しても大丈夫だとはっきり分かる。
少しだけ辛抱すれば乗り切れる筈だとプラムに言おうとしたのだが、身体の方は正直だったようで空腹を訴える音がぐうと鳴り思わず赤面した。
「身体の方は正直者みたいね…もう夕飯時だし魔力回復に努めては?」
「…ぐうの音も出ないです」
「ふふ、今お腹が鳴ったじゃない…そこに座って、差し入れが届いてるから」
そういってプラムは拘束魔法を解き、リフィンにソファーに座るように指示してテーブルの上にある包みを開いていった。 そこにはお弁当箱と思える物が包まれており、フォークとスプーンも備え付けられていた。
「あなたが水を出してるって噂を聞いたのか可愛い女の子が届けてくれたわ…しっかり味わって食べる事ね」
「っ!?」
恐る恐る箱を開いていき中身を見るとどれも見覚えのあるものばかりで、よくリフィンが口にする好物ばかりだった。
1つフォークで刺して口に運ぶと、やっぱり食べ慣れてしまった味にリフィンは瞳に涙を浮かべた。
宿屋<あけぼの亭>の主人、ウォーレンさんの作ったもので間違いないと確信したリフィンはゆっくりと食事を進めていく、彼らの優しさが身に染みる味でつくづく心の中で感謝の気持ちを込めるリフィンであった。
その場で夕飯を終えた頃にはだいぶ暗くなってきていて、少し落ち着いたリフィンはプラムに現状はどうなっているのかと聞くと、予定を少し早めて日没前に行列を止め、リフィンが目を覚ます少し前くらいに水の提供が終了したと教えてくれた。どうやらディクトの水魔法がかなり保ってくれたようで今は明日の為に食事に向かわせている最中なのだとか。
『リフちゃーん!』
客間の扉が開いてポコがリフィンの方に駆け寄ってきた。
『もう大丈夫なの!?』
『うん、心配させてごめんねポコ』
『もうびっくりしたんだからね! もう限界まで頑張っちゃ駄目だよ!』
『はい…ディクトの方はどうなの?』
『干からびて死んじゃったら魚肉より馬肉扱いにしてくれとか言ってたけど、魔力2割程残して水の提供が無事に終わって、今はグレンに連れられてモリモリ草食べてるとこだよ』
『………』
グレンの名前を聞いて少し驚いたリフィンは、彼を思い出さないようにしていたのだがあの時された行為がフラッシュバックしてしまったのかその場で固まってしまった。
『リフちゃん?』
『………』
「彼から話を聞いたけど、あなたポーションを……あら?」
「………」
「…あらあら?」
固まってしまったリフィンが気になり彼女達はリフィンの顔をじっと見つめると、そこには目の焦点が合っておらずピクピクと口を震わせながら赤面しているリフィンがいた。
「えーっと、ポコって言ったかしら…悪いけどグレンを呼んできて貰える?」
「っ!?」
「うぉん!」
プラムはポコにグレンを呼んで来させるように向かわせると、「グレン」という言葉にびくっと反応したリフィンを見て、これは何かあったわねと面白いオモチャを見つけたような子供の様にニヤニヤとした顔をするのであったが、このままグレンと会えば何かが危険だと判断したリフィンが出口に向かって逃走しだした。
「縛風の拘留所!」
「嫌ぁぁああ!? 放してぇぇええ!!」
「何も逃げる事無いじゃない、彼と何があったのか全部話して貰うわよ?」
「やだ…なっ、何も無かったから…何も無かったの!」
まさか2度もこの魔法を編み出した者をこの魔法で捕まえて、さらにこれから尋問するとは思ってもいなかったプラムであったが、面白そうなのでリフィンが真実をゲロってしまうまで尋問を開始するのであった。
「自分で編み出した魔法には対処出来るのではなくて?」
「無理なのぉぉ!! 抜け穴なんて無かったのぉぉ許してぇぇぇ!!」
「それは良い事を聞いたわ…これからたっぷりと吐いて貰うからね」
「いやぁぁああ!!」
● ● ● ● ●
「ふんふん、そこでキスされて腰が抜けたところを抱っこされて気を失ったのね!」
「…もう全部話したから解放してよぉ」
「まだあなたの気持ちを教えて貰っていないわ、彼の事どう思ってるの?」
「勘弁してぇ…」
拘束魔法をかけられてから10分程経ち、ついにグレンにキスされた事を吐いてしまった。 プラムの尋問はまだ終わる事は無かった。
「あなた冒険者のくせに恋愛の事に関してはウブなのね…冒険者という職業柄、そういう事は生存本能的にもっとアバウトな感じだと思ってたのだけど」
「…それは凄まじい偏見では」
「そうかしら? そういえばあなたも貴族だし、冒険者になった理由も水魔法使い達を救う事だったわね…」
「そうです、ですから早く解放してください」
「あなた何様のつもり? 彼への気持ちをまだ聞いていないのだけど?」
「ぅ…」
「彼はあなたのどこが気に入ったのかしらねぇ? 顔? それとも…(モニュッ)控えめな胸と背丈…お尻の方は…(モギュッ)良い肉付きね、なんていやらしい身体をしているのかしら」
「ひぃっ!?」
「まぁ性格も当てはまるでしょうね…あなたみたいな他人に尽くそうとする冒険者なんてそう居ないもの、男が寄ってくるのは必然かもね…(モニュッ)」
「いやぁぁ…もう許してくださいぃ」
「感度良いわね…同性だけどその表情やマゾ気質なのもそそるわ、彼があなたに手を出すのも納得出来た気がする……そういえば帰ってくるのが遅いわね」
リフィンが動けない事を良い事にプラムはその身体を触っていく。 年下の女の子に主導権を完全に握られたリフィンはそれになんとか耐え続ける。 そういえばポコがグレンを呼んでくるのが遅いなと思った時、扉の方がガチャと開いてポコが飛び出してきたのであった。 プラムもポコが見えたのと同時に拘束魔法を解いた。
『ただいまリフちゃん』
『今ちょっと見られたら嫌すぎるんだけどぉ!?』
『あぁ、グレンはもう帰って居なかったから大丈夫だけど…別の人達が来たよ』
『えぇ!?』
そして扉からゾロゾロと足音が聞こえてきて、最初に入室したピンク色のショートヘアの女性が見えてリフィンは驚いた。 しかし彼女のメンバー以外にも他にゾロゾロと入室してくる
「シモン…え、虹百合!? 黒剣の集いの皆さんも!?」
「あ、そんな所にいたんだ…聞いたわよリフィン、あんた水魔法使いだったなんてね!」
「よう嬢ちゃん、魔力の使い過ぎで倒れたって聞いてな、俺達も手伝う事にしたぜ!」
遠征から帰ってきていたのか虹百合のメンバー全員と、干ばつで遠征に行けない黒剣の集いのシック、ロディ、ロルタプがリフィン達の前に現れたのであった。
「皆さんどうして…」
「グレンから聞いたぞ…何1人でアルモニカ救おうと背負ってるんだよ、俺達も使え!」
「リフさん、明日から私も水を出して手伝います!」
「俺等は水が出せねぇが、でけぇ水タルを用意して運びゃあ効率も上がるってもんだろ?」
「街中の人達があなたに感謝してるわよ、早く元気になってってお見舞いの品が山のように置かれているわ」
「…遠征から帰る途中、エルトト村の水不足を解消したとも聞いた」
「リフちゃんは向こうで水の聖女って呼ばれているっすからね」
「ふふ、あなたはどこにいても人気者ね…だからいじめ甲斐があるのだと思うわ」
「私としては、どうやってケルピーをテイムするのか教えて欲しいのだけど?」
「問題児グレンが頭下げて私達をここに呼んだのよねぇ…良いもの見させて貰ったわ」
「リフィン、ルコに水魔法の事でお世話になったって聞いた…ありがとうな」
どうやらポコがグレンを発見出来なかったのはこういう事らしく、頭を下げてまでリフィンを応援してやってくれと伝えていたのであった。
アルモニカで知名度が高いパーティー達が手伝ってくれるというのだ、そんな彼ら彼女らに応援されればリフィンは明日はもっと頑張ろうと元気づけられてしまったのである。
「皆さん、ありがとうございます! 明日からアルモニカの人達を救う為に協力をお願い致します!」
「おうよ! まず嬢ちゃんは明日の為に身体を休ませておけ! あとの準備はこちらでやっておくからよ!」
「助かります」
「あなた…結構人望あるのね」
「それは分かりませんけど…」
「あなたが帰った後、皆にバラしておくわ」
「それだけはやめてくれませんか!?」
こうしてこの客間にて明日の為にどう動きを改善するのか、黒剣の集いのリーダーであるシックが先頭に立って議論を始めると、リフィンが被っている帽子の中に居たスライムのライがのそのそと出てきた。
「ライ、どうしたの?」
「うじゅじゅじゅ!」
「…?」
ライは議論を進めるシックの前にあるテーブルの上へと移動した。 リフィンはライが議論を聞きたいのかなと予想し、ライに念話を送ってみると肯定の返事のようなものが返ってきたので彼らにライをお願いするのであった。
「お? 嬢ちゃんのスライムじゃねーか…」
「シックさん、どうやらライも参加したいと言っているので少しの間お願い出来ませんか?」
「え、そうなん? …まぁ分かった、ゆっくり休めよ」
リフィンは宿屋<あけぼの亭>に帰ってしっかり休もうとお辞儀をしてから部屋を出て、廊下を渡りディクトがいる所へとポコに案内されてそこに向かう。
外に出てディクトが居る蔵に案内されて中を覗くと、グレンがディクトの世話を見ていてくれていた。
ブラシでディクトの身体を綺麗にしていてディクトもご機嫌のようで大人しくお世話されていた。
『ディクト、今日は頑張ってくれてありがとう』
『あっ、リフちゃん!』
「…」
入り口から念話でディクトにお礼を言うと、ディクトの反応に気が付いたグレンがすぐにこちらに気付いた。
何故か少しだけ申し訳無さそうな顔をして佇んでいるグレンに向かって、皆から元気を貰ったリフィンは緊張しつつも恐れる事無く足を前に進めるのであった。
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もうちょっとで3章終わります




