水を求めて並ぶ人達
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『ディクト、まだいける?』
『うん、この調子なら全然いけるけど…お昼休憩欲しいかな』
『大丈夫、それはちゃんとプラン立ててるからその時はしっかり休んで』
『はーい…水生成!』
翌朝、リフィン達はガダイスキ邸の大きな広場を回って居た。
昨日の夜から冒険者が宣伝していたおかげもあり、朝来た時には水を求める一般市民が既に長蛇の列を作っていたのである。 やってきた住民達は水タルを台車に乗せてきてたり、やかんや調理用鍋のような物などを各々持ってきていた。
ちなみに昨夜から冒険者を使って水の配達をお願いしていたのだが、冒険者ギルドも総力を挙げて協力してくれたのか配達員はかなりの人数に増えており片っ端からタルと荷車を集めていた。
リフィン達は使用人達に案内され裏口から会場に到着するとこの敷地の主であるマルメロ・ガダイスキが自ら開会式を宣言したのと同時に、ディクトが先行して早速住民達に水の提供を行ったのである。
多めにタルを用意して貰っていたが、次から次へとカラになっていく樽の水、タル付近にはガダイスキ家の使用人達が付いており溢さないよう住民たちに水を分け与えてくれていた。 これが8つもあるのだからリフィン達も使用人達も大変だ。
「水は順調に出せてるようだけど、この行列が無くなるとは到底思えないわね」
「ですね…少し早いですがディクトの反対側で私も水を出していきます。」
「了解よ、日没まで続くかしら?」
「…やってみないと分かりませんが、今日も日差しが強いですし住民たちを待たせるわけにはいきません」
「日没前になったら渋滞の最後尾を止めるから安心して…いくらか混乱が生じると思うけど気にせず水を出し続けて頂戴」
「はい、その対処についてはお任せします」
「もちろんよ」
アルモニカには約50万人が暮らしている。 その全てでは無いが大勢の住民がここに集まると予想すれば何らかのトラブルが発生する可能性もあるが、起きたら起きたで屋敷の使用人達を派遣して事を終息させて貰う手筈だ。 全てに対処可能とは思えないが、水を出す仕事がメインのリフィンはそこに関してはプラムやマルメロ大法官に任せるのであった。
「グレン、ディクトを任せて良い?」
「あぁ」
「ディクトがグレンに首を横に振ったら休憩とポーションをお願い、同じタイミングで私にもポーション持ってきてくれると助かる、これディクト用のポーションね」
『というわけでディクト、疲れたらグレンに首を横に振って…少しずつ休憩を挟まないと倒れちゃうから』
『了解!』
『私も反対側から水を出していくから、一緒に頑張ろ』
『うん!』
『頑張れ2人とも~!』
『うじゅるる!』
ポコ達からも応援を貰いリフィンはディクトの反対側に着くと、先ほど水を入れたはずの樽のほとんどがカラになっている状態であった。 使用人達の回転効率が良いのかハイペースで捌いていて感謝の言葉も出ない程にリフィンは嬉しく思う。
「もうタルが尽きそうだぞ…」
「水を出したケルピーはさっき通ったばかりよ?」
「これでは行列を捌き切れないな」
「あとどれくらい待てば良いんだ?」
使用人や住民達から不安げな声がしたが、それを払拭するようリフィンは高らかに宣言した。
「水の女神シズル様、我らに救いの水をお恵み下さい…水生成!」
ドボドボドボッと一回の魔法でカラの樽を一気に満たす。 一滴もこぼす事無く無造作に置かれていた複数の樽全てに水を供給したのだ。 やれば出来るものだとリフィンは満足げに微笑した。
「ケルピーをテイムした者です、私も水魔法が使えるのでご安心ください。 皆様は水を大切に取り扱って節水して頂くようご協力お願いします。」
「まじかよ!? ありがとな嬢ちゃん!」
「助かったぜ!」
「水は丁重に扱わせて貰うよ!」
「あんな冒険者居たっけか?」
「最近この街に来たって噂は聞いたけどまさか水魔法使いとはな…」
「あ、銭湯でタヌキ連れてたお姉ちゃんだ!」
「おれも街でみたことある!」
「どおりでプラム様がここまでされる訳だ…やるぞお前たち!」
「ありがとう!」
住民達や使用人達から声援を送られる、リフィンは一礼すると次の給配地点に向かうのだった。
● ● ● ● ●
リフィン達が水を提供し始めてから数時間経ち、お昼前になった。 それまでにディクトの合図が2回あり小休止と魔力回復の為にポーションを2瓶ずつリフィンとディクトは摂取していた。
「…ふぅ、これで4本目」
思ったよりも消耗が激しくトイレに行く振り等してリフィンはグレンが用意したのとは別のポーションをこっそり消費していた。
この後は昼食を摂り少し長めの休憩時間だ。 それまでに全回復してくれれば午後も乗り切れる。 予め昼食を摂る時間を住民達に告知している為行列も少し減っていくだろう。
リフィンはカラになった瓶をポーチに仕舞い皆と食事に向かった。
● ● ● ● ●
日が傾き、空はオレンジ色に染まりだし住民の行列も落ち着いてきた頃
『ディクト、魔力は大丈夫?』
『うん、5割あるよ』
『結構保ってるわね…このまま日没までいけそうだけど、無理せず最後の補給しようか』
『ありがとう、リフちゃんの方はどうなの?』
『こっちもまだ全然大丈夫』
屋敷の反対側とはいえ、念話が繋がる距離らしくコンタクトを取り合っていたリフィン達、日没まで近いが最後の休憩を入れる事にしてグレンからの補給を待つ。
「水生成! 水生成!」
「ありがとよ嬢ちゃん! そんなに魔法を長時間使って身体は大丈夫なのか?」
「お気遣いありがとうございます、私は大丈夫ですから…水は大切に使って下さいね!」
「おう…あんたすげぇよ、これからも頑張れよ!」
「はい!」
大丈夫と口では言っているが、朝からぶっ続けでもう既に川が出来そうなくらいまで水を排出してきているのだ。 1万の樽に水を入れだしてからは数をカウントするのを止めており、ポーションは既にグレンが持ってきたものを含めて9本も消費、そして残りの魔力もほんのわずかだった。
『リフちゃん、グレンがそっち行ったよー』
『ありがとー』
グレンがきたら最後のポーションを貰って休憩しよう、それまでにリフィンは出来るだけ早めに次の地点に移動し魔法を行使する。
「水生成! 水生成!」
「ありがとお姉ちゃん!」
「あんた…険しい顔してるけど大丈夫かい?」
「はい、まだちょっと暑いだけですので大丈夫ですよ!」
燦々と照りつける日差しの中でずっと続けてきたのだ。 並んで待たされている住民達も暑かったに違いないだろう。
「リフ、最後のポーションだ…屋敷の中はさっきあいつが空調管理し始めたから涼しい、そこで休憩すると良い」
「うん、グレンも休憩してる?」
「俺は特に何もしていないからな、問題ない」
「じゃあグレンも一緒に休憩しよ」
リフィンはそう言ってグレンと一緒に休憩に向かった。
ガダイスキ邸の中に入って客間へと目指す。 使用人達は現在外へ駆り出されている為か通路はリフィンとグレン以外は不在で、物音1つすらしないのである。
正直倒れそうなくらいまで魔力を使ったので休憩だけでは気休め程度にしかならないが、最後のポーションを使えば今日1日を乗り切れるのだ。 このまま日没まで保つ事が出来ればまた明日も頑張れる筈だ。
「グレン、最後のポーション頂戴」
「…正直に言え、今日だけで何本飲んだ?」
「…なんの話? って、ちょっ!?」
やはり顔に出ていたのであろうか、それとも直感で察していたのかグレンはリフィンの魔力量の事に気が付いていたのである。
シラを切ろうとしたリフィンに、グレンはリフィンのポーチに手をかけ開いた。
「…5本、ということは既に9本飲んでいるのか、お前は馬鹿か? 常人なら倒れるレベルだぞ!」
「私は何ともない! ポーション出して!」
「9本飲んでおいて大丈夫な訳があるか! 駄目だ…今は自然回復に努めろ」
「それじゃ皆に水を提供出来ない! 水を求めて暑さに耐えながらずっと並んでる人達だって居るの!」
「だから駄目だ! あとはディクトに任せておけ、お前が倒れたら元も子もないぞ!」
一日のポーション摂取は5本までというのは一般認識だ。それ以上は魔石に負担がかかり危険だとリフィンも知っている、しかしそれでも水を求める人達に尽くさなければ彼らはどうやって水を得るのだとグレンに訴えかけようとしたのだが…
「私が皆を助けないといけないから! 私1人の事より大勢の人が助かるなら私はそっちを選ぶ!!」
「何度も言うが駄目だ! 俺の言う事が聞けないならここでお前を拘束監禁するまでだ」
ドンッと、グレンに手首を掴まれて壁に押し当てられる。 グレンの言った監禁という言葉に実際に屋敷に幽閉されている実姉のことを思い浮かべる。 ふざけるな、とリフィンはその場で身をよじって抗うが、グレンの力が強く拘束を解かれる事は無かった。
「くっ…放して! 私が水を出さないと街の人達は救わぁ___んっ!?」
暴れるリフィンを大人しくさせるようにグレンの唇によってリフィンの口は塞がれるのであった。
「~~~っ!?」
突然の事で息が出来ないリフィンは、今自分が置かれている状況を整理することも出来ずにいた。 抵抗しようにも魔力は切れかかっており、体格や力量でもグレンには劣っていて身体を動かそうとするも壁に寄りかかられており腕や足に塞がれているのである。 リフィンはそのままの状態を受け入れるしかなかったのであった。
「ぇ………ぁ………」
しばらくして唇を解放されると混乱してしまっていたリフィンはその場で何も出来ずに居た。 グレンの予想外の行動に言葉を失ったのだ。
「お前は魔法が使えないとこうして容易く男に襲われる…よく理解しておけ」
現在進行形で男に襲われているのだけどそれは…と心の中でツッコミも入れる事も出来ないリフィンは、グレンの顔から視線をそらす事が出来ずに固まったままで言葉を紡ぐだけでも精一杯であった。
そんなリフィンにトドメの一撃をグレンは繰り出した。
「俺は何より…リフ、お前の事が大切だ」
「っ!?」
生まれてから一度もそんな甘い言葉をかけられた事の無いリフィンには耐性が無かったのか、足腰の力が抜けてヘタリと座り込むように姿勢を低くしたのだがグレンがそれを許さなかった。
すかさずリフィンの身体を腕で支え抱き上げたのだ。 それはいわゆるお姫様だっこというやつで抱き上げられて顔がグレンに近づき、リフィンの心臓がバクバクと激しく鼓動し息をするのも困難となった為か、リフィンはその場で気を失ってしまうのであった。
感想、評価おねがいします
ヤっちまったなぁ~♪
なぁ~にぃ~?




