ガダイスキ家の執事
みじけ
朝、早速リフィンが行動を開始した。
ディクトを連れて宿屋<あけぼの亭>に戻り、女将カイラに話をつけて宿屋の隣にある小さな空きスペースになら馬小屋を作っても良いという許しを貰い、今しがた雑貨屋で必要な物を買い終えたところだった。
「ま、まいどありー」
「ありがとうございましたー!」
雑貨屋で馬具を購入し早速ディクトに装着、ディクトに簡単に乗れるようになり乗った時の安定性も増した…筈だ。 もちろん荷物なども乗せれるように必要な物は買い揃えてある。
『どうディクト? 私が乗っても大丈夫そう?』
『このくらいなら全然平気だよ…それよりこの状況の方が僕にとってキツいかも』
『あ、あはは…』
『みーんなウチらに注目してるもんね…質問ばっかだし』
『『『はぁ…』』』
リフィン達の周りにはアルモニカの住民達がやってきており、彼らは昨日の夕方から流れている「幻獣ケルピーが冒険者にテイムされた」という噂を聞きつけやって来た人達なのだ。 1人やってきて質問を聞かれ、また1人やってきては同じ様な質問を何度も繰り返してくるのだ。
そんな彼らにリフィン達は朝から殺到する住民達の質問攻めに深いため息を零す。
昨日書かされた誓約書の中に”安全性が確認され許可を得るまで街の中ではケルピーに乗ってはならない”という項目があったため、ディクトに付けた手綱を引いて道をあけてもらいながら宿屋に帰還すると、グレンが宿屋の入り口で待っていた。
「あれ、グレンがなんで?」
「ほら…馬小屋作るんだろ? 手伝ってやるよ」
「…あ、ありがと」
リフィン達を心配して様子を見にきてくれたのか、まさか馬小屋の制作を手伝ってくれるとは思わなかったのである。
設計案としてはいつでも糞が掃除出来るようにトイレの設置やベッド兼食料の草藁の配置、購入してきた木材で骨組みを組み、雨風が凌げるようにポコの魔法で石と土を混ぜて壁と屋根を作り、入り口だけは木材のみで組み立てるというものだ。
実際に作業に移ってみるとリフィンの力だけでは骨組みを組むところから苦戦したのだが、思ったよりグレンの手際が良くてリフィンがグレンのサポートに回った程だ。
おかげさまで昼前にはディクト専用の馬小屋が完成し、リフィンは感謝のお礼として宿屋<あけぼの亭>の食堂にてグレンに昼食を奢ったのであった。
『…こんなにグレンがテキパキとしてくれるなんて』
『凄かったね、実はこういうの得意だったりとか?』
『僕もそう思った!』
『うじゅるじゅる…』
昼食を終え、ディクトに馬小屋に入ってもらい感想を聞いてみると、慣れるまで時間がかかりそうだけど特に問題は無いという事なので安心した。 ありそうな問題といえばセキュリティの問題であるが、ディクトに何かあった時はリフィンに念話で伝えると言う事で落ち着いた。
「リフ、今日はもうギルドには行かないのか?」
「とりあえずはエルザさんにエルトト村の報告かな? 実はまだ済ませて無かったのよね」
「そうか…なら一緒に行こう」
「うん…ねぇグレン」
「なんだ?」
「…手伝ってくれて、ぁ…ありがと」
「…あぁ」
いつもグレンに手伝ってくれているばかりだと思うリフィンは、少し恥ずかしさを感じつつもグレンに感謝を告げた。 対してグレンは何もなかったかのように全然動じないままリフィンの少し先を歩いて冒険者ギルドへと歩を進ませたのだった。
『あっ…リフちゃん顔が赤いよ?』
『いやいやいや、そんな事ないって!?』
『うーん、ポコが言うとおりこれはアレですねぇ』
『でしょ?』
『アレって何よ…』
『僕もあの頃に戻りたいなぁ〜』
『そういう話に無縁だったウチにとっては、すっごい羨ましい…』
『だからグレンとはそういうのじゃ無いって! あんなひねくれているような奴に私が…』
『私が…なに?』
『…なんでもないから! さっさとギルドに行くよ!』
『『はーい』』
そんな訳がないとリフィンは頭をふるふると振り、ディクトの手綱を引っ張ってグレンの後を追うのであった。
● ● ● ● ●
冒険者ギルドアルモニカ支部
ギルドの入り口から既に他の冒険者達で埋め尽くされており、何事ですかと聞いたらやっぱりケルピーのディクトを一目見ようと待ちわびていたのであった。 ギルド内部にはディクトを入れる事が出来ないので入り口でポコと一緒に待ってもらい、リフィンとグレンはいつもどおり人口密度の薄い受付のエルザのところへ向かった。
普段は筋肉ムッキムキなエルザがマッチョなポーズでお出迎えしてくれるのだが、いつもと違うのはエルザのカウンターの隣に燕尾服姿の初老の男性がこちらを見て佇んでいた。
「おかえりリフちゃん、聞いたわ! ケルピーをテイムしたらしいんですって? 今はもうアルモニカ全体がその噂で持ち切りよぉ!」
「そのようですね…こんなに騒がれるとは思いもしなかったですから」
「国のお偉いさんがあなたに会わせろって言ってきて本当困りものだわ…干ばつで大変な時期だから水魔法が使える幻獣がよっぽど魅力的なのでしょうけど、全部断っておいたわ!」
「大変ご迷惑をおかけします…えっと、こちらの方は?」
「おっとそうだったわ…このイケメンダンディなおじさまは、とある貴族に仕えている執事様よ…アンソニーっていったかしら? 3日くらい前から顔を出して居るわ」
「はい、このたびは突然の訪問申し訳ありません…私はガダイスキ家に仕える執事アンソニー・バッチャンと申します、どうかお見知りおきを」
「あ…はい、リフィン・グラシエルです」
なぜこのタイミングでアルモニカのお偉いさんのところの執事がリフィンの元にやってきたのか疑問であったが、先程のエルザとの会話からディクトの件でやってきたのではないらしく、どうやら別件で会いに来たらしかった。
「いえ、今回のケルピーのテイムとは別でして…実はガダイスキ家のお嬢様が、あなた様とお会いしたいと少し前から話しておりまして…今回はあなた様方をお迎えする役として私めが遣わされたのです。」
リフィン達を待つ為、3日前からギルドに顔を出していたというのだ。 当然リフィンはこの国のお嬢様とやらに面識は無く、なぜ呼ばれているのかも分からなかったが、グレンがどの案件で呼ばれているのかキッパリと当ててみせるのであった。
「どうせバニーマンの毛皮の件だろ? 金にならねぇ案件だったら俺は行かねぇぞ…」
「バニーマンって…えっ、まさかあの依頼主って!?」
以前リフィン達が受けたバニーマンの毛皮の納品の依頼、まさかこちらの方のお嬢様が出した依頼だったと理解したリフィンは、驚きを隠せないでいたのであった。
「ええぇぇ〜っ!? 毛皮に何か不備がありましたか!?」
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