エルトト村から帰還
タキルとリフィンの姉の話は4章からになります、もう少しお待ち下さいませ
翌朝、リフィン達はアルモニカへ帰る為エルトト村を発った。 村を出る際に村人達に見送られ、村の子供達はリフィンと別れるのが嫌だったようでかなり泣き喚いていた。
「お姉ちゃん行っちゃやだー!」
「もっと遊んでよぉー!」
「み”ん”な”ぁ”! ま”だ来る”がら”ね”ぇ”〜!!」
リフィンも嵐の様な子供達に嫌々接していたにも関わらず、いざ別れの時が来ると、もうどちらが子供なのか分からないくらいに号泣していてグレンに引きずられながら村の子供達と別れの挨拶を交わしていた。
「お前は子供か…」
「うぇぇぇ…み”ん”な”ぁ”〜!」
「姉ちゃ〜ん、次来た時はまたカンチョーしてやるからなー!」
「…あいつか、次来た時は必ずやり返す!」
リフィンにカンチョーしてきた犯人が分かった為、リフィンは泣き顔から途端に真顔になり、次来た時に復讐を果たすと心に決めた。
アルモニカまでは半日かかる為しばらく来た道を歩いていたのだが、アルモニカに帰還する前にロディとロルタプに水魔法の事を内緒にして欲しいと伝えるリフィンにロディとロルタプは二つ返事で了承してくれた。
「いいぜ? それが命令ってんならそれに従うまでだ、手も出せねぇしな」
「それに言いふらしたら恨まれてケルピーに呪いをかけられるかも知れないっすから」
「あ…そういえばグレンが言ってた事、まだ有効なんでしたね」
エルトト村に行く前、ロディ達が同行する条件としてリフィンの指示通りに従うという約束があったのだが、彼らはちゃんと覚えていたようだ。 ディクトに攻撃する際もリフィンの言葉にきちんと従って止まってくれていたのもリフィンは思い出す。
「まぁな、俺達はそういうのに慣れてるからな…うちんとこのリーダーのおかげでよ」
「そ、そうですか」
「そういえばリフちゃん、村で水魔法使い3人分の魔法を使ったのに何とも無いんすか? 毎日広大な畑に水やりとかしてたっすけど…」
「水を出す程度でしたら全然大丈夫ですよ? 攻撃用に魔法を組む時はかなり魔力を消費しますけどね」
「ガハハハ! そいつはすげぇ、流石水の聖女様だぜ!」
「えっ!? ただの水魔法使いなんですけど…」
「聞いてないっすか? 村の人達が結構言ってたっすよ?」
「し、知らなかったです…そんな大層な名前付けられても困ります」
『ウチらは知ってたけどねー』
『ですねー』
『教えてよそう言う事は…』
リフィンの魔力量が上がって来ているせいか、自分では普通の事をしたつもりが他人から見れば偉業を成し遂げたような成果を発揮していたのである。 魔力量が上がってきている事は自覚しているが、今のリフィンの魔力量と水の女神シズルと出逢う前の頃のリフィンの魔力量はケタが違い過ぎていてはっきりと認識出来ないでいたのだ。
「…次はアルモニカの干ばつをどうにかしないとですね」
「おっ、嬢ちゃんなら出来るんじゃねーか?」
「でもさっきの村とは規模が違うっすよ?」
「そうなんですよね…」
アルモニカの人口は約50万人、そのうち水魔法使いは約5千人程度で、1人の水魔法使いが約100人分の水を賄っている計算である。 とてもじゃないがリフィン1人でどうにかなるレベルをゆうに超えているのだ。
「ま、そこはゆっくり考えていこうぜ!」
「干ばつで水魔法使い達が倒れていってるっすから、悠長にはしてられないっすよ?」
「…グレン、何か良い案とか無い?」
「…」
先程まで全然リフィン達の会話に参加せず、つまらなそうに会話を聞き流して黙々と前方を歩いていたグレンに聞いてみると、グレンは首を横に向けディクトをチラリと見る、すると前を向き空を見つめながら言葉を放った。
「お前とそこのケルピーをフル活用して干ばつを乗り切るか、天候を操作して雨を降らせるか…」
「…うん、天候を操るなんて無理」
「数百年前に存在したという天候を操る魔法使いの話は知ってるだろ?」
「モグロ草の名前をつけた人よね…でもその人の名前が載ってる文献は少ないし、そもそも架空の人物だと噂されてるくらい、現実的に考えて地道に水魔法で水を出すしか…」
かなり古い文献にごく僅かだけその名を記す天候を操る偉大な魔法使い、彼の活躍はおとぎ話のような絶大な魔法を繰り出す事で有名で、彼が怒れば嵐が襲来し、竜巻や暴風が魔物の軍勢をズタズタに引き裂いたなどという伝説があるのだ。 しかし近年になって彼の魔法は人間が身に宿す魔石では規格外、または術式が組めないという事で架空の人物だとほとんど決めつけられているようなものなのだ。
「…その文献なんだ___」
「ガハハハ! とりあえずこのケルピー、えぇっとディクトだったか? そいつをどうやってアルモニカに入れるか考えねぇとな!」
「そうそれっすよ! 魔物とはいえケルピーは幻獣、国のお偉いさんが出しゃばってくること間違いないっすよ!」
「ディクト、誰にも渡したりはしませんから安心してくださいね」
「ブルルルル!」『うん、わかった』
「……」
まだ会話の途中だったというのにロディに話の内容を反らされ、少し憤りを覚えるグレン。
言おうとした重要な事が言えてない為か、それともリフィンとの会話の邪魔をされた為かは、彼にもまだわからないのであった。
● ● ● ● ●
冒険者ギルドアルモニカ支部
徒歩半日の道のりを歩いてアルモニカに帰ってきたリフィン達は、案の定門番に止められた。 原因はもちろんケルピーのディクトである。
ディクトを見た門番は役所とギルドに報告しに行き、役員やギルドマスターに数時間の説明や誓約書を要求されたのち、ケルピーを本当に従えているのかというテストまで行われて、やっと申請が通った頃には既に陽が暮れていたのである。
『長かった…』
『おつかれー』
『僕って結構すごい生き物だったんだね…』
宿屋<あけぼの亭>の中にはケルピーが入る事が出来ないので、アルモニカが管理する城門の近くにある馬小屋の一角を借りて今日はそこでディクトと一緒に寝る事にした。 馬特有の臭いが少し鼻につくが、貸してもらっている立場故に文句は言えなかった。
『明日はまず女将さんと相談してディクトの家をどうにかしないとね…』
『ウチの魔法でディクトの家を作ってあげるよ!』
『そこまでしてくれるなんて…本”当”に”あ”り”がどぉ”ぉ”!!』
ひとまずディクトが今後もアルモニカに出入りが出来るようになって嬉しく感じたリフィンは、ポコやライ、ディクト達と身体を寄せ合って仄かに香ばしい草藁の上で眠りにつくのであった。
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