姉への贈り物
駄目だ・・・しんみりするのは書けぬ
己のレベルの低さに絶望
「ずびっ…お願いじまず、宿から追い出ざないで下ざい」
「ごめんなさいリフィンさん、そこまで問い詰めるつもりは___」
「うわぁぁぁぁぁん、どうかそれだけわぁぁぁぁん!」
「…」
「…」
また泣き出すリフィン、人の話を最後まで聞き取れていない。
カイラがやりすぎたと思って謝罪の言葉から始めようとしたのだが、それが拒否の意味としてリフィンは聞こえたのであろう、少しは泣き止んだかと思えばまた泣きじゃくるのであった。
『駄目だこりゃ、オレ達の念話もシャットアウトしてらぁ』
『温泉行った議員にこんなのいたよね』
『やめとけそれ以上は…』
一度ネガティブな思考になると抜け出せないタイプなのか、リフィンの謝罪の言葉が念話としても流れてくるばかりでタキル達が発する念話は届いておらず、ペットとはいえ見るに耐えない飼い主の醜態に呆れていた。
タキル達と同じく居たたまれないのか、カイラはリフィンに書き置きを残してカレンを連れて部屋を去っていき、リフィンが泣き止むまでタキルは空まで散歩に、ポコはカイラ達と共に部屋を後にするのであった。
しばらくして泣き止み、少し冷静になったリフィンは書き置きがある事に気付き、カイラの居るカウンターに行くとなんとか許しを貰えたリフィンは、水魔法の事を秘密にしておいて欲しい事を伝えるのであった。
「カイラさん、お願いがあるのですが…まだ魔法の事は内密にして頂けると嬉しいのです」
「それに関しては大丈夫です、お客様の個人情報を勝手に流すとそれこそ信用問題ですからね…信用を失った宿は潰れてしまいます、娘や旦那にも口外しないように言い含めておりますのでご安心ください」
「それはよかったです…」
「あと、少し問いつめる様な事をしてしまい本当に申し訳ありませんでした。 娘の教育には厳しくしているもので嘘や人様を騙したり陥れる様な事には敏感でつい…どうか謝罪を受け入れて下さい」
カイラがリフィンに向かって頭を下げた。 それにびっくりしたリフィンは「自分も悪かったのです」と言って頭をあげてもらった。
確かにリフィンが善かれと思ってした行為ではあるが、水魔法使いである事がバレたく無かったために嘘をつくのは良くない事だったと反省する、そもそもバレたくないのであれば最初から水魔法を使わなければ良かっただけの話であるし、水を零したカレンちゃんの事は見捨てておけばよかっただけの事だ。
しかしリフィンの性格からして「自分に出来る事なら助けてあげたい」という気持ちの方が強かったので無理な話ではあるが…
「ではもし、水が不足するような事がありましたらいつでも言って来てください、安くしておきますよ?」
リフィンは今回の事で宿屋の人達とギクシャクするのは嫌なので、今後とも付き合っていけるようにカイラにそう告げると、カイラは少し驚いたような顔をしたが次第にいつものリフィンと2人の時に接する様な笑顔になった。
「じゃあ困ったときはリフちゃんにお願いしちゃおうかしら!」
淡々とした丁寧な口調と気軽に接してくれる明るい口調を使い分けるカイラに、流石女将とリフィンは感じた。
今後も宿の人達と仲良くやっていけそうな、むしろ前よりも仲良くなれたと思ったのはリフィンだけではない、女将カイラもまたリフィンとならこれからもおつきあいしたい大事なお客様だと感じたのであった。
● ● ● ● ●
女将カイラと話し合いを済ませ、まだ昼前であるが依頼を終えて帰って来たばかりなので、これからどうするのかとポコに聞かれたリフィンであるが、実はやるべきことがあったのだ。
『ルコさんを見て確信したんだけど、やっぱり水を信仰すると水が美味しくなるのが分かったからね、多分同じように水魔法も少しずつ上達すると思うの。』
『あー分かる、ウチも土魔法に感謝してると前より強くなってる気がするし』
『くっ、オレにはまだ分からねぇからどうとも言えん…』
『タキルはしょうがないよ、魔法を使えない人の方が多いんだし』
『すまん、俺の事は気にするな、話の腰を折って悪かった』
『それでなんだけど、お姉ちゃんに手紙を送ろうと思うの、水や女神様を信仰すれば少しは改善されるって事をね』
『そういえばそうだな、姉さんや他の水魔法使いを助ける為に冒険者になったわけだし…とりあえず有効そうな改善方法が見つかった訳だから早速手紙を送るべきだとオレは思う』
『ウチもそう思う!』
『でも実はすこし問題があってね…』
リフィンが直接、姉に手紙を送れば良いのであるがリフィンは親にも言わずに家出した身である。 偽名で姉に手紙を送っても姉以外の人に読まれればリフィンだと分かってしまうし、送って来た場所がアルモニカだと明記されるので居場所まで知られてしまう事になるのだ。
『かなり難しいな…』
『リフちゃんのお姉ちゃんって、国に軟禁されてるんでしょ? 外の国に知り合いが居ない人に、外部からきた郵便物って怪しまれて流石に検査されるんじゃない?』
『実はそうなのよね…私が直接姉に会えれば良いのだけど、歩けば片道で6日かかるし、私の顔も結構世間に知られているから見つかったら騒ぎになる可能性も、前の職場でも辞職願出して失踪してるから余計…』
『世間さまに顔を知られているなんてすげぇなおい』
『少し色々と頑張りすぎたせいだけどね…』
『具体的に何したのか気になる!』
『ぅ…魔法は使えないけど、強力な魔法の術式を生み出したりとか、魔法を使った魔道具の開発とかに尽力してたとか…色々とね』
『流石にそこまでやってるとは思わなかったよリフちゃん…』
『昔の頑張りが障害になるとは私も思わなかったよ…』
このままでは姉に手紙を送ることが出来ないのでどうするべきかと考えるリフィン達であったが、タキルが1つの抜け道を思い付くのであった。 しかしそれは危険であり上手くいく可能性が低い方法であったが、迷わずにリフィンに告げた。
『リフ、方法なら1つあるんだけど…それを試すかどうかの判断はリフに任せる。』
『…分かった、教えて』
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午後、<あけぼの亭>の食堂で昼食を済ませた後、リフィンとタキルはアルモニカにある雑貨屋に来ていた。
流石に店内までは動物が入れないので、ポコは宿屋の自室でライとお留守番だ。
タキルには店の屋根の上に待機してもらい、念話は辛うじて繋がるので連絡をとりながら商品の詳細をタキルに伝えていた。
『何種類かあるけど、どんな鳥籠が良い?』
『なるべく大きいのが良いな、長旅になるんだし大量の食料が置けるスペースと、便所があれば尚良い』
『そうね…そこは別の物を買って工夫するしか無さそうだけど、なんとかなりそうね』
『…すまねぇな』
『お礼を言うのは私の方、とりあえずお姉ちゃんが心配だったから付いててくれるだけでも安心出来る。』
『…冒険者稼業を手伝えなくなるのはオレとしては不安で仕方が無い』
『タキルの見回りや偵察にはいつも助かってたからね…無理しないように頑張るよ』
『…そうしてくれ、ポコにも後で言い聞かせておけよ』
『うん…ありがとタキル、お姉ちゃんを頼むね』
『あぁ…』
鳥籠を買って店を出たあと、リフィンは鳥籠に入ったタキルを、郵便屋に持って行って姉宛に贈ったのであった。
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