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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
2章 進化する水魔法
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Fランクに無事昇格、そして

 リフィン達の目の前に2匹のオークが姿を現した。 何故かオーク達は腰蓑(こしみの)をつけておらず、いわゆる全裸の状態で草むらから出て来たのだ。 武器も何も持っておらず、まさに生まれたままの状態であった。


「ひぃ!?」


 ナニを見たというのか、リフィンの顔が強張り腰が抜けたのかヘタっとお尻から地面についてしまうが、少しでも逃げようと身をよじって後ずさる。


『おいまじかよオレよりでっけぇなアレ!』

『いやいやそんな事言ってる場合じゃないでしょ! 撤退かブッ潰すか、どっちにするリフちゃん!?』

『あ…あわわわわわ』


 タキルが自身とナニかを比べ、ポコは比較的冷静にリフィンにどう行動するか判断を煽るが、既に混乱していたリフィンはまともに指揮出来る状態ではなかった。

 幸い、オーク達も何故かびっくりしているようですぐに襲ってくる様子はなく、その場だけでも凌ごうとポコはタキルに呼びかけて、一緒に威嚇行動を取る事にした。


「うぉぉぉぉぉおおおん!!」

「ピョルリリリリ!!」

「ブフォ!?」

「ブフォフォ!?」


 オーク達は自身よりも身体の小さいタキルとポコの威嚇に何故か少し反応してビビっているようにも見えた。


『あれ、こうも簡単にビビるもんなの?』

『このあいだ遭遇したオークとは全然違うな…』


 オーク達は威嚇され続ける中、視線をあちらこちらへと見回していると怖がっている少女に目が行った後、首を下にしてモノを見る…


「ブフォ!?」


 流石にモロ出しなのが気が付いたのか、手で隠しながら縮こまるオーク達。

 普通のオークならば腰蓑を装着していたりとか、人間を目撃したら襲ってくるのがセオリーなのだが、このオーク達は少し行動が人間染みていた。


「(やばいやばいよ!! た…たた助けを呼ばないと!)」


 気が動転しており、変な行動を取るオークなんて全く頭の片隅にもないリフィンは、震える手で腰のポーチに手を伸ばして発煙筒を取り出すと空に向かって発射した。


ポスッ! ・・・ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥパァン!


 まるで打ち上げ花火のように赤い光が青い空の下で迸る。 これは待機していたアンマリード試験官に救援要請を伝える為の合図である。 流石にすぐに到着してくれるわけではないが、リフィンはとりあえず身の安全を確保しようと魔力を練る。


『タキル、ポコ! こっちに来て!』

『おう!』

『りょーかい!』


 念話でタキル達を呼び、あとはオークでも壊せない様な氷の盾を展開してひたすら時間を稼ぐだけだとリフィンは頭の中をフル回転させて即興で氷の防壁の魔法を構築する。

 一方オーク達は、一体何が起きているんだ!? と言いたそうな表情をしてリフィン達を見ていると、リフィンが魔法の構築を完成させた。


「…出来た! 氷の覆壁!(アモンジト・ヘイス)


 魔法を唱えたリフィンの周辺からゴォオゴォオゴォオと、ぶ厚い氷の板が次々と展開されていき、かまくらのようなドーム状のバリアが完成した。 だがしかしリフィン達は氷の中に居るため中では自由に動けるが、攻撃する事は愚か、逃げる事も出来ないのだ。

 これでは氷の防壁が壊されたらもう逃げる手段はどこにもないのであった。


『リフちゃん、これじゃ逃げれないよ!?』

『腰が抜けちゃって…ごめん、これしか思い付かなかったよ』

『それは仕方無いな、それよりこの中少し寒くね?』


 それはそうとオークである。

 彼らは遭遇した時からであったが、酷く動揺していて訳の分からない行動をしていたのだが、ここにきてやっとお互いに相談し合う様な事を始める。


「ブフォ!」

「ブフォフォ!?」

「ブフォーっ!!」

「ブフォ?」


 オーク達はお互いに会話のようなものを交わしていた。 しかし身振り手振りで必死に言葉を交わそうとしているが、どうにも会話が成立していないようにも見て取れた。 結果、オーク達はその場から逃げるように立ち去って行き、それを見て確認したリフィン達はふぅとため息をついて肩の緊張を解くのであった。


『よくわからんオーク達で命拾いしたな…』

『生きた心地しなかった…前もそうだったけど、見ただけで恐怖した』

『ウチも恐怖したけど、今は土魔法あるから戦ってみたい気もする』

『まぁリフに関して言えばゴブリン並の戦闘力しか持って無いからな』

『失礼な! 魔法使えばリフちゃんの圧勝だと思うけどね!』

『うん、私が弱い事は改めて分かったし、今はそれでいいよ』




● ● ● ● ●




 その後、アンマリード試験官に救助されたリフィン達はアルモニカに帰還した。

仕留めたゴブリンとコボルトはそのまま討伐した証として納品され、少しのお金に変換された。

救助の際に氷の防壁がそのままあった状態でアンマリード試験官に発見された為、リフィンが水魔法使いとバレてしまったが、「秘密の多い女はモテるんだぞ!」と一応内緒にしてくれるようなのでひとまずは安心だ。

 オークに関してはアンマリード試験官も驚いていた。 エルルの森ではオークの発見報告はもっと奥の方に行かないと出ないという事と、なぜリフィンを前にして撤退したのかも不明なままだった。


 一応試験は合格ということで、冒険者ギルドに戻るとエルザとアンマリードからFランクのバッヂを貰った。


「はぁいリフちゃん、これがFランクのバッヂよ!昇格おめでとう!」

「ありがとうございますエルザさん!」

「1人での戦闘能力は少し問題有りだが、上手く動物達と連携を取れているから魔物使いとしては上出来だ…昇格おめでとう!」

「アンマリードさんもありがとうございます、えっと…私が戦うところを見ていたのですか?」

「いいや? わたしは何も見てはいないが、それを知る術を持っているからな…ゴブリン相手に苦戦していた事も知っているとも」

「うっ、今それをここで言わなくてもいいじゃないですか…」

「そうなのリフちゃん!? でも無事で良かったわぁん」


 2人から昇格を祝福してもらい嬉しがるリフィンだが、エルザはもっと気を引き締めるようにと、少し声色を変えてリフィンにアドバイスを告げる。


「ねぇリフちゃん、嬉しい時に浮かれるのは良いんだけど本当の冒険はここからよ? 今までのはほんの序の口、これからは危険なお仕事や依頼が飛び交ってきて下手すれば死んじゃうかもしれないんだから気をつけるのよ?」

「はい、気をつけます」

「まぁ使役している動物は他の魔物使いと比べたらかなり息が合っているような気もするし、どこかのパーティに加入するとかしたらもっと役に立てそうなポジションに付けそうだな…特にその鳥」

「はい、タキルは斥候としてかなり優秀ですね、今日も上空から地形や魔物の位置等の情報をくれましたし、日常でも重宝してます」

「ピョルリ!」『まぁな!』

「タヌキに関してはアレだな、護衛みたいな感じだったな」

「ポコは私の騎士ですね、いつも私を守ってくれてます」

「うぉん!」『いやぁ照れますねぇ』

「うふふ、リフちゃんには素敵な仲間がいるのね…アタシも冒険者だった時を思い出すわぁん」

「そういえばエルザさんは元冒険者でしたよね、その時のお話を聞かせて頂いてもいいですか?」

「いいわよ? 全部は語れないけどねぇん!」

「わたしは何度も聞いたからこれで退散するとしよう…」

「連れないわねぇん…」


 その後1時間程エルザが冒険者だった頃の話を聞いてしまうリフィン達であった。

 要約するとどんなに強くなっても一瞬の油断からまねく敗北には抗えないという事であった。 当時冒険者として有名であった1人の武闘家は、本気になればドラゴンにも引けを取らない程の戦闘力を有していたにもかかわらず、ドラゴン以外のモンスターを弱いと決めつけてナメてかかって行ったら酷く痛い目を見たという事だ。 

 エルザは自分の教訓を旨にリフィンに良く言い聞かせるように指導してくれた。

 実はリフィンも先程のゴブリンとの戦闘で相手を弱いと決めつけていたら危ない目にあったとエルザに告げると、それを忘れないようにと心配そうな顔をされて言ってくれたのであった。


「ではエルザさん、また明日もよろしくお願いしますね」

「はーいリフちゃん、お疲れ様」


 冒険者ギルドを出ると太陽がもうすぐ沈みそうな位置にきており夕日でオレンジ色に染まっていた。

 暗くなる前にリフィンはギルドの隣にある薬屋に向かってみる、実はゴブリンに攻撃された腕の傷や痣が少し痛むので塗り薬を少し買って行こうと薬屋の扉を開くと、見覚えのある後ろ姿の人が目に入ってきたのだ。


「いらっしゃい」

「…リフか」

「あ、こんにちわ」


 お店の中には薬屋の店主であろうおじさんと、なにやら会計をしている最中の大きなバッグを担いだグレンがレジ前に立っていた。


「店主、すまねぇがちょっとコイツに用があるんでな…こいつも追加しといてくれ」

「あいよ」


 グレンはそう言って会計を済ませるとリフィンの方に近づいて行き


「すまん、話があるからこっちきてくれ」

「ちょ、えっ?」


 リフィンの腕を掴んで店の外に連れ出して行き、通りを少し外れて人気の無いところまでくると手を離してくれた。


「痛っ…ちょっと、なんなの?」

「水魔法の事でお前に聞きたい事がある、ここでなら大丈夫だろうと思ってな」


 確かに往来の場所で水魔法の事を聞かれたらマズいので人気の無い所に連れてくるのはいいのだが、少しやり方が強引すぎる気がしたリフィンは内心苛立ちを感じジト目になる。


「…で?」

「水魔法の出力の低下の事で聞きたい…前に水の女神の弱体化と信仰の低下で水魔法の力が弱まっていると言ったな?」

「うん、そうだけど」

「そこで確認しておきたかったんだが、水への信仰を一般の水魔法使い達が深めると水魔法の出力は今より多くなるのか?」

「確証はないけど多分少しは出力が大きくなると思うよ、別に水魔法使いの人以外でも水を信仰することでも可能だと思うけど」

「そうか…氷も作れるようになるのか?」

「ごめん、そこまでは分からない…私はずるして力を得ているから流石に」

「水の女神に会う事が出来たら力をくれるのか?」


 水の女神に会う、この質問だけは流石にどう答えていいのか分からなくなるリフィン。

リフィンは転移者である先祖の血の力を少し呼び覚ましてくれているから水魔法が強化されているだけであって、一般の水魔法使い達が仮に女神と出逢っても強化されるとは思いもしないし、そんな事をしたら来客ばかりで水の女神様に負担ばかりをかけてしまう事は容易に想像できてしまう。


「………まず会う事が難しいと思う」

「…そうか」


 流石にこちらの事情を察してくれたのかグレンはこれ以上聞いては来なかったが、違う質問をまたリフィンに問う。


「…お前は以前、他の水魔法使い達を助けたいって言っていたよな?」

「…うん、まだ私が弱いままだけどね」

「それはいい、一度に強くなれたら誰も苦労はしないさ…そこでなんだがお前、この街の水魔法使い達と接触したことあるか?」

「うっ…………無い」

「…まぁいい、接点がなければ関わる事もないだろうし、お前も冒険者だから忙しいのも分かる。 この街で水魔法使いの知り合いは居ないのか?」

「恥ずかしいけど、全然いない」

「なら丁度良い、この前水魔法使いの奴隷が落札されただろ、アレと接触して少しでも水魔法への信仰を広めろ」

「…虹百合ね」


 つい先日、奴隷市場で水魔法使いの綺麗な女性を虹百合のリーダーであるメリコムが落札した現場をリフィンは見ていた。 どうやら彼女はその水魔法使いを冒険者として育てているという噂を少し耳にした程度ではあるが聞いていた。

 しかし虹百合は学生時代にリフィンを虐めていた人が2人も居る事からリフィンは心無しか距離をあけて遠ざけていたのであったが、彼女らのメンバーの中に珍しい水使いの冒険者が居るのであっては接触せざるを得ないであろう。


「新人同士仲良くできるだろ、同じ女だしな」

「…悪くない提案かもね、でもどうしてそれを私に?」

「知り合いの水魔法使い達が気になってな、あと俺は少しこの街を離れる予定だ…お前の面倒は少しの間だけではあるが見てやれん」

「…別に見てくれなくても」

「オカマ野郎がうるせぇんだよ、察しろ」

「あっはい」


 エルザさん、何でグレンに私の面倒役押し付けてるんですか!

 と心の中で叫んだが、知らない冒険者よりもグレンの方がマシかなと思ったリフィンでもあった。

 もうほとんど質問は終えたのか、グレンは大きなバッグを担いで一度リフィンを見ると腕を押さえていたのが分かったのか、ポケットから先程購入されたと思われる傷薬を取り出してリフィンに手渡した。


「これをやる、腕を怪我してるだろ?」

「…え?」

「水魔法に関する情報料だ、素直に受け取れ…じゃあな」


 そういうとグレンはスタスタと歩いて消えて行った。 何を急いでいるのかは分からないが、事情を聞くのは少し野暮かなとも思った。


『薬代浮いたね…』

『あいつムカつくくらいに格好良いな』

『…』

『んじゃあ帰ってご飯にしよ! ウチお腹すいたぁ』

『オレもだ…』

『うん、帰ろうか』


 リフィン達は宿屋に帰って明日の為にまた英気を養うのであった。

宿屋にて


「痛ったぁ〜い…」

『すぐ治るから我慢だな』

『治癒魔法があれば少しは違うんだろうけどね…』

『光魔法使いなんて滅多にいないからポーションとか塗り薬で代用するしか…あ痛っ!』




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