暗躍する者達
リフちゃんは出てきません
久しぶりに真面目に書いた気がする・・・
アルモニカにある、とある貴族の住まう巨大な豪邸の一室で1人の少女とそれに付き従う1人の老いた男が向かい合っていた。
執務に使われるであろう立派な木製のテーブルにもたれかけ、数十日前に冒険者ギルドに出した依頼がやっと受注され、尚かつ完遂されたという報告書を片手に少女は薄い笑みを浮かべる。
長くて艶のあるブロンドの長髪、全てを見通すかの様な大きな瞳、少し幼く見えるが相応の体躯を持つ容姿端麗な少女は、自らが出した無茶振りな依頼を完遂したという冒険者に興味を持ったのか、傍に居る年老いた男に言葉を投げかける。
「1つもピンク色に染まってないバニーマンの毛皮を見て来た感想を述べなさい、アンソニー」
「見事な代物でした、依頼を出したのは10枚ですが、1枚余分に毛皮も取って来たようですな…その11枚全て白銀に輝くまっさらな毛皮で毛の痛みなども無く非常に良い状態でした。 これまでにないお召し物が仕立てられる事になるでしょうな」
アンソニーと呼ばれた年老いた男は、なめし工程の段階ではあるがバニーマンの毛皮の状態を確認した者であった。
黒髪と白髪が入り交じっており、整えられた髭がよく似合う健老な彼は目の前に居る少女に仕える執事である。
「ふーん、今は毛皮の事なんてどうでもいいわ…こんな無茶振りな依頼を受ける冒険者に今は興味があるわ、剣で斬ったら血が飛び散って毛の色が染まるわよね、まさか素手で倒したのかしら?」
「毛の痛みがほとんど見当たらなかったのでそれは無いかと…何かしらの方法で状態を保ちながら倒したとしか思えませんな」
「…仮に窒息させたとしても、血抜きの段階で血が付着するわよね?」
「はい、私も気になってなめし職人の者に話を聞いてみたのですが、どうやら職人にも分からないようでしたね…それを出来る冒険者に興味を持たれるお嬢様は流石でございますな」
「だって気になるじゃない? 何度か同じ依頼を出してきたけどずっと誰も受けないまま期限が切れてばっかりいた依頼が完遂されたのよ? かなり腕の立つ冒険者だと感じたわ、服を仕立てるよりも先にその冒険者の事を知っておきたいわね…」
素材さえ確保出来れば服はいつでも仕立てれる、しかしバニーマンの毛皮を完璧な状態で持って来た冒険者が現れたのだ。 相当な腕の持ち主である事は確かであろう、今後またバニーマンの毛皮の納品を頼むかもしれないのでその冒険者とつながりを持っておけば、今回の様なかなりの報酬額を用意せずとも手に入るかもしれないのだ。
「アンソニー、この依頼を受けた冒険者を調べなさい、出来れば直接お会いして話したいわ」
「畏まりましたお嬢様」
「ふふっ、早く会ってみたいわね…一体どんな冒険者なのかしらね?」
● ● ● ● ●
「おう、帰ったぜー」
「…」
「…誰それ?」
「は?」
「まさか…」
アルモニカの居住区、少し周りより大きめの民家にて水使いの女奴隷を連れたメリコムは玄関を跨いでリビングに向かうと、虹百合のメンバー達は見知らぬ小汚い女奴隷を見て嫌な予感がした。
「水使いの奴隷買って来た、面倒は基本的にあたしが見るからまぁ仲良くしてやってくれ、ほら、自己紹介しな」
「ルコといいます、これからよろしくお願いします」
「…奴隷市場で買って来たの?」
「はい、買われました」
「…い、一体いくらで」
「400万モニーだ、一括で払ってきたぜ」
「はぁぁあ!?」
アルモニカ支部所属、<虹百合>の冒険者パーティーは女性だけで構成されたグループで、パーティーランクはC
アルモニカでも有名な実力派集団でかなりの報酬と名声を得ていて人気も高く、特に女性の依頼人から良く護衛等の依頼が指名される程だ。
1人1人の実力が高く、火、土、風、光、闇属性の5人の魔法使いと、使役魔法を扱う1人のテイマーで構成されていたが、水使いを欲しがったメリコムは奴隷市場で水使いのルコを購入してきたのであった。
「いくらリーダーだからって相談も無しにひ弱な水使いを加えるのは納得いかないんだけど!?」
「しかも奴隷でしょその子?」
「まずどこから400万出したのか気になる…」
「ふふ、いじめ甲斐がありそうね」
「グルルルルル!!」
「ウォル、食べちゃ駄目、新しい仲間」
水使いのルコは新しく仲間となる彼女達と仲良くなれるのかは不安であったが、リーダーのメリコムが安心しろと背中を押してくれたので勇気を持ってもう一度挨拶から始める事にした。
「水使いのルコです、まだあまりお役に立てないと思いますが精一杯頑張って皆さんのお役に立てるよう頑張ります!」
「ルコね、私は火槍使いのシモン、1年前に虹百合に入ったの」
「近づいたら殺すから…冗談だからね? アンリよ、よろしく」
「ウィズっていう、土魔法で罠を仕掛けるのが得意」
「ユリネよ、風魔法を使うわ」
「私は魔物使いのカンナ、この子はシルバーウルフのウォル、仲良くしてね」
「で、あたしはメリコムだ、リーダーって呼んでくれても、メルって呼んでくれてもいいぜ」
奴隷に落ちたばかりのルコは優しそうな彼女達がいて心が救われたのを感じた。
最初メリコムに買われてどうなるのかと不安でいっぱいだったが、今は少しまぎれたので安心したのだ。
しかし彼女らは冒険者、水使いを欲していたというが、どのように扱われるのかまだ分からないでいた。
「そういえば噂の新人冒険者と会って来たぜ、名前聞くの忘れちまったけどタヌキ持ってたからすぐ分かったぜ」
メリコムが話を変えて噂の新人冒険者の話を切り出す、何が噂なのか知らないルコは内容を聞いて行く事にした。
「…小っさくて青髪のリフィンっていう冒険者よね、私とシモンが知ってる人物の可能性があるのよね」
「強いの?」
「凄く弱い、逃げ回るのは少し得意だけど非力で魔法が使えない…盗賊や人攫いに遭遇したら終わりなんじゃない?」
「そのリフィンに負けた事がある者が言う台詞かしら?」
「1回だけだから! そのあとは全部私が勝ったから!」
「タヌキを使役してテイマーになったのかな?」
「聞く所によればトリックラクーンじゃなくてただの食用タヌキでしょ? なんでエリートコース辞めて冒険者になったのか聞いてみないとね」
「そうね、私も聞いておきたいわね」
「ユリネとシモンが言うその子に会ってみたい気もある」
「またそのうち会えるだろ、んじゃあ今からルコの歓迎会するぞぉ! 今夜のメニューは高級食材を使ったディナーだぁ!!」
「「「「「やったぁあああ!」」」」」
「明日から節約して雑草スープになるけどな…」
「えぇぇぇええ!?」
「やっぱり貯金全額…」
「武器買えなくなる…」
「死ねよ光るゴリラ! …冗談よその拳降ろして!」
「…ウォル、明日から食用メインの狩りをお願い」
「ウォゥフ…」
ルコもそのリフィンという新人冒険者に興味を抱いたが、今は新しい仲間と仲良くやっていく為に今を楽しむ事にした。
● ● ● ● ●
薄暗い殺伐とした不気味な部屋に1人の男は怒りを隠せないでいた。
窓というものは無く木製のドアも1つだけ、レンガ作りの部屋を照らしている唯一の光源は蝋燭の小さな炎のみだ。
報告にやってきた男を蹴飛ばして高価そうなテーブルと椅子に跨がり頭を掻きむしる。
「数年前から進めていたアルモニカ陥没計画が頓挫しただとぉ!? 計画を進ませる為にいくらつぎ込んだと思っているのだゴミ共めっ!!」
「も、申し訳ございませぬ…まさか業者が冒険者に依頼を出すとは思いもよらず、地盤が薄くなっているのを偶然発見されたと報告がありました」
「なぜその事を予期しなかった!? 念入りに管理、調整しておけと言わなかったか! あ”ぁ”?」
「…返す言葉もございません、今は補強作業を進めているとかで我々が介入しようにも上手くいかずでして」
「巫山戯るな! モニカ共和国を落とすには堅牢なアルモニカの要塞都市を潰さねばならんのだぞ! それが出来ないという事はどうなるか分かって言っておるのか!?」
「…エレヌア大陸全土を支配する事は難しくなるかと」
「子供でも分かるわボンクラがぁ! 我々が騎士団を牛耳るのは容易いが、冒険者は権力に縛られない自由な活動をしている不確定要素が多いゴロツキ共だから嫌いなんだ! あぁクソイライラが収まらんわぁ!!」
偉そうな男はストレスが溜まりきって溢ているのか報告に来た男を殴り、蹴り飛ばす。 当たりどころが悪ければ死んでしまうかのような威力や角度で容赦なく攻撃を繰り返す。
「ぐぅ、お、おやめください!」
「おらぁ!」
「ふぐぅっ!?」
「…ふん、貴様の様な無能は今すぐにでも殺してやりたいところだが、1つチャンスをやろう」
「ぅ…はぃ…」
「アルモニカの地下を調査したという冒険者を探し出せ、儂が直々に痛めつけてやる」
「仰せの、ままに!」
殴られてボロボロになった男はその場から逃げるように駆け出して行く、偉そうな男は楽しみが1つ増えたと薄い笑みを浮かべてクスクスと笑う。
「フハハハハハハ、計画が頓挫したのは仕方がない…次の手を打たねばな、モニカ共和国を潰して大成を為すまでは死んでも死にきれぬからな…」
偉そうな男は唯一の明かりであるロウソクを消すと、壁に向かい手を翳した。
するとレンガ造りの部屋の壁が複雑に稼働し真っ暗な通路が現れ、薄い笑みを浮かべながら男は進んでいった。
●ユリネ
虹百合の風魔法使い
リフィンの先輩、緑髪サイドテール
●シモン
虹百合の火魔法使い
リフィンの同級生、ピンク髪ショート
●ウィズ
虹百合の土魔法使い
大人しめの少女、罠師、茶髪ポニテ
●アンリ
虹百合の闇魔法使い
メリコムに冗談言っては殴られる、黒髪ベリーショート
●カンナ
虹百合の魔獣使い
すぐ卑屈になりがち、銀髪ロング
●ウォル
シルバーウルフ
実はこの子も…
●ルコ
虹百合に加入した水魔法使い
綺麗な顔立ちに佇まい、青みがかった黒髪ストレート
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