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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
6章 メモリーズ
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吐いて面倒な事になる

「…」



 んぎゅっ!



「わぁ凄い! 小指握った!」

「可愛い…弟可愛い…」


 宿屋<あけぼの亭>の女将カイラが男の子を出産しライレンと名付けられた。 産まれて数週間経った頃、ようやくカイラさんに許可を得たリフィンはベッドに寝転ぶライレン君の手に小指を近づけたら、可愛く握り返してくれた。


「おふっ…これは可愛くて堪りませんねぇ」

「リフちゃん私も! 私も!」


 お姉ちゃんになったカレンちゃんも産まれたばかりの可愛い弟に心酔しているようで小指をライレン君の手の平に持っていく。


「ふへへへ! ライレン、お姉ちゃんですよー!」

「…あぇ」

「ふひっ! 伝わっています! 伝わっていますよこれ!」

「…違うぞカレン、これはパパの顔を見たから反応しているのだ」

「絶対お父さんじゃないですから! お姉ちゃんである私に反応したんです!」


 産まれたばかりの子供は可愛いものである。 父親であるウォーレンさんも可愛らしい息子に興奮を隠しきれないのか娘カレンとお互い主張を繰り広げていた。

 宿屋<あけぼの亭>はしばらく一部休業するようで、宿屋としての機能は継続したまま食堂を一旦閉店ということになったらしい。 それと同時にリフィンが受けていた宿屋の依頼も完了していた。

 宿屋の跡継ぎ息子が産まれたので数日は静かにお祭り状態で、近所の人達からお祝いの品などが寄せ集められていた。

 すると後ろからアストレアが顔を覗き込んできた。


「リフが赤ちゃんだった頃を思い出すわね」

「えぇ!? どんな感じでしたか!?」

「そりゃあもう可愛かったわよ! バブバブ言って暴れまわるやんちゃなところも可愛かったけど、青色の目がクリッとまんまるで笑顔を見せた時なんかまるで天使のようだったわ」

「見てみたかったですー!」

「…なんでそんな昔の事覚えているのですか」

「今じゃこんなジト目になっちゃって、姉を虐めるような生意気になってしまったけどそれでも妹や弟っていうのは可愛いものよね」

「ライレンは大人になっても可愛いということですか!」

「そういう事!」

「…俺の娘や息子が可愛いのは当然だ、なんたって俺の娘や息子なのだからな!」

「私、お母さん似でよかったなぁ」


 娘の言葉に痛烈なショックを受けたのかウォーレンさんはいじけてしまい、トボトボと背を向けて壁に額を当てブツブツと呟き始めてしまった。

 そんな時、宿屋の入り口から誰かが入って来るような物音が聞こえてくるのであった。


「ん、お客様かしら? ちょっとカレン見て来て貰える? 食堂はしばらくお休みしますって張り紙していた筈だけど」

「うん」

「私も行きます」


 いつもなら丁度ランチが始まる時刻前、宿屋<あけぼの亭>の食堂はいつも常連などで賑わっている人気店でお客様が習慣的に足を運んでしまったのか、それとも宿泊でやってきたのか…いずれにせよ食堂の利用なら丁重にお断りしなければならない為リフィンも同行する事にした。


 グレンかな? でもグレンは今日用事があるとか言ってたような…


「すみませーん、リフさん居ますかー?」

「あっはいー! ってあれ?」


 名前を呼ばれたので条件反射で返事をしたリフィンが玄関に向かうと、そこには艶のある綺麗な長い黒髪をした清潔感のある女性と、それとれは正反対に短い茶髪で枝毛が目立ち日焼けした筋肉質の野性味溢れる大柄の女性が居たのであった。


「リフさん!」

「ようリフィン」

「ルコさん! メリコムさんも!?」


 アルモニカでも有名な女性だけの冒険者パーティ、虹百合のリーダーのメリコムと冒険者になって間もない水魔法使いのルコがやってきた。

 リフィンは彼女らの後方を見て他のメンバーが居ない事に気づいた。 普段は7人全員で一緒に行動していることが多い筈なので気になった。


「ご無沙汰しております、今日はお二人ですか?」

「あぁ、ちょっとリフィンに頼みがあってな」

「頼み事ですか…」

「わ、私の師匠になってください!」

「「…え?」」


 ルコから発せられた予想外の言葉にカレンちゃんとハモってしまった。


「つ、ついに戦力外通告されたのですかルコさんっ!?」

「違いますよっ! でもはっきり否定出来ないのは悔しいです!」


 なんだ違うのか…魔法使いの中で最弱と謳われる水魔法使いでも野営をする時とか水は重宝されるだろうし、メリコムさんもそれを踏まえてルコさんを大金叩いて購入した訳で…


「リフィン、ルコに氷魔法が使えるようにしてやってくれないか?」

「お願いします!」

「…」


 ルコが深々と頭を下げリフィンは少し悩んだ。

 アルモニカでは水への信仰心が高まりつつあり水魔法使いの魔力量や質が日に日に増しては来ているが、未だ氷を出せた水魔法使いはリフィンを除いて居ないのが現状だった。

 最近では「水の聖女のように氷魔法が使えるように成りたい!」 という向上心ある者や「氷魔法を使えるようになって有名になるんだ!」 といった野心を持った水魔法使いも多く、何度かリフィンに教えを乞いに来た者も居た。

 もちろんリフィン的にも氷魔法も出せる水魔法使いが増えてくれれば嬉しい限りなのだが、問題はリフィン自身にも何故氷が出せるようになったのか不明なままだったからだ。

 教えてくれと頼まれても教え方が分からないのであれば引き受けられない為、稀に氷が出せるという王族や貴族お抱えの水魔法使いはそういった理由で教えることが出来ないのだと何となくだがリフィンは理解してしまった。


「あー、虹百合だっけ? その人たちは」

「お姉ちゃん」


 後ろからアストレアが何事だと姿を現しリフィンの隣に立った。


「どうしても! どう頑張っても氷が作れないのです! 私も水魔法使いであり冒険者…強くなるためには何だってします!」

「氷ね…私も何故か出せないのよ、リフと同じくシズル様に力貰ったんだけどんぐぐぐっ!?」

「わーっ! わーっ! 何でもないです!」

「「「………」」」


 いきなりアストレアの口を手で塞ぐリフィンに隣に居たカレンやルコ達は何か隠していると察した。

 リフィンとしてもシズル様に先祖の力を目覚めさせて貰った事に関してはあまり公にしたく無かったのだが


「シズル様って、水の女神シズルの事か?」

「っ!」

「リフちゃん何か隠していますね…怪しいです!」

「何でもないですから!」

「ふ~ん、他の水使いに力を伝授しない水の聖女ですかぁ~…」

「うっ、その言い方は卑怯です…ひぃっ!?」


 3人に凄まれ縮こまるリフィン、こういう状況には弱いのかどうしたら良いのか分からずその場で固まっていると、いつの間にか口を塞いでいたアストレアに背後から拘束されトドメの一撃を加えられた。


「リフはシズル様に会って力を得たから氷が出せるのよね!」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃんそれは内緒だって言って___」

「うそ、何それ凄い!」

「だからあれ程までの戦闘力を…納得だな」

「ずるいです! 私もシズル様に会わせてください!!」

「ふえぇ…」


 リフィンに逃げ場は無かった。




● ● ● ● ●




「なる程…教えたくても教えられないし保証も出来ないとなれば下手に教えますって確かに言えないな」

「そうなんです…」

「シズル様に会おうにも手段が無く、会えたとしてもシズル様は弱体化しているから力を授かることは不可能…中々難しい話ですね」

「そうなんです…」

「その上、ニホンジンっていう先祖が居なければ駄目だなんて…あ、お母さんに報告してこよっと!」

「そうなん…いやちょっと待って下さいカレンちゃん!?」


 逃げ場の無かったリフィンはついにゲロってしまった。 大賢者の本はアストレアから返してもらった後全く機能しなくなったので神域に行くことも出来なくなっていたのである。

 アストレアに関しては面倒な話をするのは嫌だったのか身体を休めているカイラの所に戻ってライレンを愛でていた。


「そういう事でしたのね、しかし聞いてしまったものは仕方ありませんわ!」

「っ!?」


 不意に何処かから聞き覚えのある声が聞こえた。 リフィンにとって聞かれては不味い人物の声色だったので少し顔を青ざめると、案の定その人物が玄関の扉をバンっと開いて姿を現した。


「プ、プラム様!?」


 そこにはブロンドの長髪を靡かせ片手を前に突き出し仁王立ちで勝ち誇ったような笑顔をした美しい少女が居た。 彼女の名はプラム、アルモニカを統治するガダイスキ家の令嬢でリフィンを裏から水の聖女として担ぎ上げている人物である。


「お嬢様、もう少し御淑やかになされては?」

「良いのよアンソニー、これくらい登場が派手じゃないと聖女にマウントが取れないわ」

「そこまでお考えとは…流石で御座います」


 初老の執事まで連れていて、その他にもメイドたちが後方に並んでいた。 これはここに居る全員に話を聞かれた可能性が高いとリフィンは危惧していると、プラムはそんなリフィンに指を差して声高らかに告げた。


「水の聖女リフィン、アルモニカの水魔法使い達が氷を出せるように指導して頂戴!」

「え…えぇぇぇえええっ!?」


 何をどう教えて良いのかも分からないのに、難題を吹っ掛けられたリフィンは悲鳴を上げるしかなかった。

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読んでくれてる読者さん的には面白いのかな?

客観的には分からないのがなぁ・・・

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