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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
6章 メモリーズ
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幼き日の記憶

6章の始まりです。


8万PVありがとうございます!

 自然豊かな広大な土地に恵まれ、気候も整った平和そのものと言える国があった。

 地平線まで見える山吹色の平野にはたまに魔物が現れたりするが、国の冒険者や兵士が討伐に向かったりするので力を持たない国民に危険なんてものはほとんどなく、平野の近くに存在する地下へ繋がるダンジョンも一攫千金を夢見る冒険者達が我先にと出入りを繰り返していた。

 そんな平和とも言える国の王城の庭もやはり平和で、今日も青空が広がり燦々と照り付ける温かい太陽の光や優しく撫でるような風が、芝生の上で寝転がっている赤毛の少年にとっては何よりも至福の時だった。


「兄さまー!」

「ん、どうした?」

「皇太子さまと剣の稽古で一本取ったんだよ!」


 呼ばれた少年と同じような真っ赤な髪色をした5歳くらいの少年が、剣を模した木の棒を両腕に挙げてやってきた。 皇太子相手に一本取れたのがよっぽど嬉しかったのか上機嫌な顔をしていて、それを見た少年の兄は優しく頭を撫でていく。


「そうか! よく頑張ったなヒエン! でも怪我させてないよな?」

「安心せい! 峰打ちじゃ!」


 刃の無い木の棒なので大丈夫だろうが、皇太子を怪我させたとなると大問題だ。 しかし良く皇太子と遊んでいる仲であるし、この国を守る騎士としては将来有望株だろう。


「…ならよし! 将来は皇太子様を守る騎士として立派に働くんだぞ?」

「うん、兄さまと一緒にね! それでね! 王女さまにいっぱい褒めて貰ったんだー!」

「くははっ! あー、それだと皇太子様が可哀そうだなぁ」

「凄く悔しがってた! でもまた僕が勝つ為に稽古してよ兄さま!」

「良いだろう!」


 弟であるヒエンと剣の稽古をする。 それはこの国を守り仕える一族の使命としてとても意味のある事だった。

 この少年らはこの国が建国して以来長く仕えてきた由緒ある家系の子供で、国や国民の為武器を持ち強くなることは将来を約束された誇りある名家の方針であり、義務でもあり、そして国是でもあった。


「痛ったーい! 大きな武器担ぐなんてずるいよ兄さま!」

「それはリーチが長いからそう言ってるのか?」

「僕のと交換して!」

「扱いが難しいぞ? …ほらよ」


 赤毛の少年が持っているのは大剣といわれる叩き切る為の武器を模した木の棒だった。

 そして得物を交換して再度稽古を行う、しかしそれでも小さい方の少年が劣勢なのは変わらなかった。


「うぅ…重くて狙った所に振れないんだけど!」

「くははっ! ヒエンには無理だその武器は、上兄様達でも扱いにくいと評判の武器だからな」

「上兄さま達でも扱いにくい物を扱ってる兄さまは変態だね!」

「おいおいっ!?」


 既に成人して国の為に尽くしている上兄様達とは少し歳が離れている為、赤毛の少年は歳の近い弟ヒエンの面倒を見ていた。 丁度歳の近いこの国の皇太子も居たので一緒に世話する事が多く、今日も王城の庭に来ていたのだ。


「兄さまも王女さまと歳が近いんだしさぁ…そろそろ挨拶くらいしたら?」

「…そのうちな」


 赤毛の少年にとって女性というのは苦手だった。

 姉や妹が居るのだがマナーに五月蠅いし気に入らない事が少しでもあれば文句ばかり、上機嫌だったとしても発する言葉が全て嫌味に聞こえてくる事から、少年にとってはキィーキィー垂れ流してくる猿のように見えていたと言っても過言ではなく、弟ヒエンの言う少し年上の王女さまとやらもそうに違いないと決めつけ会うことを拒絶していたのであった。


「王女さま兄さまに会いたがっていたよ?」

「口だけだろ…そもそもほとんど面識無いから俺の顔見ても誰なのか分からないと思うが?」

「うわっ、ひっどーい! 王女さまに言ってやるー!」

「ふん、好きにしろ」

「どうしてこんなにもひねくれたかなぁ…」


 そうしている内に日が傾き、オレンジ色の夕日が沈みかかっていて今日も平和な一日の終わりを告げていた。


「またなー皇太子!」

「うるせぇヒエン! 次は絶対ボコボコにしてやるー!」

「無理無理ぃ! 今夜も兄さまと剣の稽古するもんね!」

「チクショー羨ましいぜ! オレだって負けねぇからなぁ!」

「返り討ちにしてやるぜ!」

「へへっ、またなー!」

「おう!」


 時間なので暗くなる前に弟ヒエンと帰宅する、皇太子の傍には王女と思わしき女性が立っていて、赤毛の少年はそれを見ないように背を向けて弟ヒエンを連れて帰っていく。


「返り討ちにしたら駄目だろ…皇太子様をお守りするのが俺達の使命なのだからな」

「兄さまは駄目だなぁ…児戯であるぞ?」

「どこからそんな言葉覚えた…」

「王女さまに教えて貰ったー!」

「…そうか」


 そしてそれが、その国の最後の日である事も知らずに…




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「…」


 モニカ共和国、城塞都市アルモニカにある小さなアパートメントの一角にある部屋で、赤毛の青年がベッドの上で目を覚ましたのであった。


「おはようございます! 体調は如何ですか?」


 最近になってようやく聞きなれた女性の声が赤毛の青年の耳に響いた。

 声の主は半透明の霊体である魔物、スピリットデーモンのユウだった。

 部屋の中は少しばかり生活感溢れている感じではあるが、いつ来客が来ても大丈夫なように小綺麗にはしてあるような部屋だった。 来客なんて滅多にないが


「…そうか、あの時の夜だったな」

「ん?」

「何でもないユウ…体調に問題は無い」

「それは良かったです! 本日のご予定は?」

「…決まっている」

「ですよねー! もう本当にリフちゃんが好きなんですからグレン様は!」


 腕を交差させクネクネと身悶えしているユウを無視し、赤毛の青年グレンは洗面所に顔を洗いに行った。


「ライレン君への贈り物のついでにリフちゃんへの愛の贈り物とかどうですかね?」

「逆だ、本命はリフの方だ」

「それは失礼しました! 当然ですよね!」


 リフィンの父、ウォルターがアルモニカを去って既に数日が経過しており、ついにリフィンの住んでいる宿屋<あけぼの亭>の女将カイラが男の子を無事出産したのであった。

 リフィンが「お祝いをしよう!」と皆で贈り物をすることに決めたのだったが、グレンはリフィンに贈り物をしていない事に気が付き、そういえば告白もなんだかんだでうやむやになってしまったままになっていたので、今日はリフィンに告白と同時に贈り物を何にするか早起きしてじっくりと考える予定なのだった。


 しかし…また古い記憶を見たものだな…


 まだグレンが幼き日の頃の記憶

 あの日の夜、エルス公国が滅んだ事を境にグレンの人生は一変してしまい、何度も個人の力の弱さを嘆く日々が始まったのであった。


「どんな夢だったんですか?」

「人の思考を勝手に読むな、趣味が悪いぞ」

「いやだって勝手に流れてきたものはしょうがなくないですか!?」

「そうか…念話というのも結構面倒なのだな」


 少しでも頭の中で考え事すると他の者に念話として流れるのは困り事かもしれないとグレンは思った。  逆に何度かユウが妄想の世界に入っているが全くこちらには流れてこないのだ、どういう理屈かは分からないが気を付けなければならないだろう。

 そしてユウはリフィン達が飼っている動物や魔物と違い、言葉を話す事が出来るので下手をすれば情報が流出するという危険性もあった。


「ユウ、今から俺が名前を言う奴以外には、絶対に姿を見られるんじゃねぇからな」

「か、かしこまりました!」


 一応ではあるがグレンが使役した魔物であるのだ。 幸いなことに命令は良く聞くようなので大丈夫であるとユウを信じる事にした。


「覚えたな?」

「完璧です!」

「じゃあ現地に着いたらプレゼントはどんなのが良いのかアドバイスをくれ」

「了解しました!」


 今日は依頼を受けに行く日ではないので、少しラフめな普段着で部屋を出た。

 愛用の大剣は留守番だが、何かあった時の為に小型のナイフを見えないように身に着けておく事も忘れない。 これも冒険者の心得であるが、本当はリフィンに格好良く見せつけたいだけであり、これは誰にも内緒である。

 今のグレンには過ぎた去った辛い過去よりも、未来を明るいものにしようとしているリフィンという一人の少女に思いを馳せるのであった。

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