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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
5章 願い歩む者たち
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グレンとウォルター

5章ラストです

長かった・・・

 これからも冒険者として活動して良いと父ウォルターから許可を得たリフィン達は、宿屋<あけぼの亭>の食堂にてお手伝いをしていた。

 丁度ディナータイムで常連客がたくさんやってくるのであるが、最近は水の聖女が接客してくれるとのことで既にお客さんで満席だった。


「えぇっ!? あの土魔法は法具の力を借りて発動してたって…どんな法具ですか!?」

「はっはっは! それは軍の機密だから言えないなぁ」

「…土魔法を使った罠作成についてアドバイスがほしい」

「明日にはヌツロスに帰ってしまうからな…よし、食事の後で罠作成するところを見せてもらおうかな!」

「私はシルバーウルフを使役しているんだけど、名前がウォルなのよー!」

「ほぉ、私と似た名前じゃないか! 後で紹介してもらおうかな!」

「ウォルターさんはどうしてリフさんと決闘する事になったのですか?」

「なぁに、娘の実力を知りたかっただけさ…親というのは子を心配するものでね」


 テーブル席の一角には、テーブル席を2つ連結させた虹百合メンバーとウォルターを合わせた合計8人が一緒に食事しながら談笑していた。

 リフィンの父というのもあるが、彼女たちの前で壮絶な戦闘を繰り広げ勝利した実力者だ。 当然ウォルターに興味を持った虹百合メンバー達は怒涛の質問を繰り返す。

知らぬ人から見れば髭の生えたおじさんがハーレムを形成しているようにも見えるが、リフィンとアストレアにはそれを眺めていられるほど暇ではなかった。


「リフ! これを6番テーブル、こっちは2番座席だ」

「は、はい! 只今!」

「レア! 盛り付けはまだか? 次の注文を待たせているぞ!」

「分かってるからもうちょっと待ちなさいってば!」

「彼氏君! 9番席の片づけお願いね!」

「了解した」


 宿屋の看板娘であるカレンちゃんが少し熱を出しているので、今はこの宿屋に住まわしてもらっているリフィンとアストレアが仕事を肩代わりしているのだ。

 既にカレンちゃんの風邪はほとんど治りかけているのだが、まだ無理はさせられないので休んで貰っていて、女将のカイラさんは身重なので会計を、いつの間にか手伝うことになっていたグレンは洗い場とテーブルセッティングを任されていた。


「水の聖女様~! 水のおかわり下さい!」

「俺もだ!」

「氷もセットでー!」

「しょ、少々お待ちくださいませ! 水の女神シズル様、我らに命の源をお恵みください…水生成(ウォーター)!」

「「「うぉぉぉおおおっ!!!」」」


 水の聖女らしく、水の女神に祈りを捧げてキンキンに冷えた水を注ぎなおす。

今までは水を手の平から放出していたのだが、精密な魔力操作に慣れてきたリフィンは水の発生座標をグラスの中で固定し、そして複数同時にグラスの中に水を発生させた。 もちろん氷の粒を入れておくことも忘れない。


「飲みすぎには注意してくださいね?」

「おうよ! ありがとな!」

「うひょ~っ! 聖女の水がタダで飲めるなんて!」

「聖女様ありがとう! チョリソー2つ追加だ!」


 今のリフィンは宿屋<あけぼの亭>の看板として働いているので、それだけでも多くの集客を呼び込むことに成功していた。 リフィン達にとっては嬉しい悲鳴である。

 そんな風に慌ただしく仕事に従事するリフィンを見て、ウォルターはふと笑みを溢す。


「…あいつ、接客業でもやっていけるのではないか?」

「ふふ、そうねぇ…とてもじゃないけど私に接客なんて出来ないわ」

「あたしにも無理だな、皿割りそうだし図体でかくて客が引いちまう」

「まぁゴリラには無理でしょ…待って冗談よ! その拳を仕舞って頂だ___」



 ドンガラガッシャーン!



「ピョルリ!?」

「くぉん!?」

「ヒヒンッ!?」

「じゅる!」

「っ!」


 宿屋<あけぼの亭>の食堂の方から大きな物音が聞こえてきた。 外に待機していたタキル、ポコ、ディクト、ライ、そしてカンナにテイムされているシルバーウルフのウォルは一斉に反応した。


『はぁ~っ、こういう時人間って良いなぁって思うようになってくるんだよね…』

『ポコは良いじゃないか、僕なんて身体の大きさからして参加するのは絶望的なんだから』

『じゅるり…』

「ぴょるるり!」

「「「………?」」」


 スライムのライは相変わらずだが、やはりポコ達はタキルと念話が出来なくなっていて会話が出来なかった。 しかし動物とは言えど元は日本人、日本語という文字を用いタキルは小さな足で器用に地面を削り始め「タキルだ、よろしく」と書いていく。


『なるほど! ポコ、僕はディクトって書いてもらえるかな!』

『らじゃ!』


 地面が砂場なのでポコが爪を使ってサラサラと日本語を書き出す。 ディクト自身は蹄が大きくて書きづらいのでポコに書いて貰うのであった。


『僕はディクトよろしく…もしや日本人?』


[日本人ですか?]

[YES]


『わい…いー…あ、YESか、そこは日本語で答えろよ紛らわしいな!』


 そうやって地面に文字を書きながらチャットしていくタキル達に、ウォフ! と尻尾をぶんぶんと振りながらシルバーウルフのウォルが声をかけるのであった。 そしてその前足の先には…


[おまいら日本人なのか! ワイもや!]


 と書かれており、ポコは[友よ!]と書いて見せ、思わぬ仲間の登場に動物たちは一斉に抱き合った。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「良い夜空だ、やはりこの景色は落ち着くな…疲れも吹っ飛んでいく気がする」

「うん…落ち着きはするけど、流石に疲労は取れないでしょ」

「くははっ! 確かにそうだ…お前と一緒に居ると、って意味だ」

「っ!?」


 煌々と星空が輝く藍色の夜空を、お互いに恥ずかしくなったのか一緒に見上げた。 そのまま無言を貫くのは気まずかったので、店の手伝いをしてくれたことに対してお礼の言葉を述べた。


「ありがとうグレン、手伝ってくれて」

「気にするな、俺がしたいからやっただけだ」


 閉店時間が過ぎ片付けも佳境に入った頃、ずっと手伝ってくれていたグレンが帰るということなので、玄関を出たところまでリフィンはグレンを見送ることにした。

 父ウォルターはしばらく前に虹百合のウィズに土魔法のコーチをするということで、虹百合メンバーと出て行ったきりでまだ帰って来ていなかった。


「グレンには色々と手伝って貰っているばかりだから、申し訳なくて」

「だから気にするな、お前の傍に居たかった俺の我が儘だ」

「っ! …そういう風に言うの禁止」

「どうしてだ?」

「…嬉しく、なるから」

「なら問題ないな…リフ、こっちを向いてくれないか?」

「む、無理!」


 リフィンにとっては大問題だった。 好きになってしまった男と並んで立っている事だけでも緊張し過ぎて恥ずかしいのに、そんな男に顔まで凝視されたら心臓が壊れてしまう予感が脳裏に浮かぶ。


 あわわわ…今私どんな顔してる!? 見られたら死ぬ! 今見られたら死んじゃう! 今見られたら…ふへへへ! っていやいやいや、どうしよう無理ぃ!?


 緊張してガチガチになりながらもリフィンはグレンに背を向けた。 しかし顔を真っ赤にしてニヤけているリフィンの思考はこんな感じで既にトロけてしまい混乱状態に陥っていた。


「…」

「…」


 既にグレンとは何度かキスしているのにも関わらず性格的なものか又はまだ耐性が付いていないのか、恥ずかしい気持ちが上回り背を向けて黙り込んでしまったリフィンに、グレンはそっとその肩を掴んでクルリとリフィンを回転させた。


「ひゃあ!?」

「…」


 強引に回れ右されたリフィンの両肩にガシッとグレンの手が置かれる。

 そして鋭くかつ優しく刺すような瞳で見つめながらゆっくりと近づいてくるグレンに、リフィンは言葉をまともに発する事は出来なかった。


「ま、待っ……っ~~~!?」


 射貫くようなグレンの視線から目が離せない、羞恥心により身体は固まり思考回路はショート寸前だが、強引に迫られるのをリフィンは内心期待していたのか恥ずかしさを紛らわす為ゆっくりと瞳を閉じ、少し上を向いて口を(すぼ)めた。


「…」

「…」


 あぁ恥ずかしいから顔見ないで早く! 顔隠れた方が安心するの! お姉ちゃんに駄目って言われたばかりだけど…キスしたい衝動あぁぁぁあああ!!


「ふぅん…ねぇあんた達、暗いとはいえ公共の場でなに仕出かそうとしてる訳?」

「「っ!?」」


 いつの間に忍び寄って来ていたのか、リフィンとグレンの間にアストレアが割り込みキスを阻止するべく現れ、いきなり現れた姉にリフィンは驚きグレンは場都(ばつ)が悪そうにしていた。


「お、お姉ちゃ…まだしてない! まだしてないからぁっ!?」

「…」

「でもヤろうとしてたんでしょうがぁっ! おいテメェ…先日言ってたリフとどこまでスキンシップして良いのかだけどよぉ? 手ェ繋ぐまでのスキンシップは許すがそれ以上は許さねぇからなぁ!?」

「それは横暴だな…」

「未遂だったから許してお姉ちゃん!」

「何が未遂よ! 重罪よ重罪!」

「そんなぁ!?」


 とっとと野郎は帰れと言わんばかりにアストレアはグレンを足蹴(あしげ)にすると、リフィンの首根っこ掴んで引きずるように宿屋に連れ戻していく


「待ってお姉ちゃん! 横暴だよぉおお!?」

「リフの言う通り、私は常識を勉強するわ! そしてリフは健全な男女のお付き合いの作法から勉強しなきゃね!」

「お姉ちゃんの思ってるソレは子供のおままごとーっ! グレンごめんね! おやすみな___」


 バダンっ!!


 宿屋のドアが乱暴に閉められ最後までリフィンの言葉を聞くことは出来なかったが、おやすみなさいと言ってくれたのはとても嬉しく感じたグレンだった。

 今回は姉が近くに居たから仕方ないか、とグレンは踵を返して歩き出す。


『グレン様、リフちゃんと結ばれるには悪鬼のような姉をどうにかしないといけませんね…』

『お前がアレに憑依して動きを拘束してくれれば良いんじゃないか?』

『ぶった斬られそうなので嫌です、そもそもわたしはリフちゃんに憑依して一緒に…っ///』

『プライバシー駄々洩れかよ…使役(テイム)した時に言ったが、俺がトイレや風呂の時は遠く離れてろよ?』

『それはもう承知してます! しかし普段はともかく、リフちゃんとするときは当然憑依するに決まっているじゃないですか!』

『それはリフに許可を得ろ』

『無理ですよ! だって恥ずかしいじゃないですかぁ!』


 もうどうにでもなれ…


 ジルット村付近で使役したユウとの念話に苦笑しながら、グレンはなんだか分からないが晴れやかな気持ちで、アルモニカで活動している自分の拠点へと帰っていくのであった。







































◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 とある路地裏にて


「…遅かったな」

「仕事が予想以上に長引いてな」

「そうか、明日の朝にはここを発つ…娘達を頼むぞ」

「片方は貰う、もう片方は知らんが利用させて頂く、義父様?」

「殺されたいのかクソガキ」

「愛娘が悲しむぞおっさん」

「まぁいい、いや良くねぇが…話を変える、エレヌア大陸に轟いた最強の傭兵ガブリエルを見たがあれは何かの策か?」

「それは言えん、機密事項だ」

「エルスの王女もアルモニカに居たとはな…」

「さぁて何の事やら…もう俺にとってエルスよりリフの方が大事だがな」

「エルスを諦めるのか? お前が?」

「あぁ、俺よりデカい目標もった奴が現れたんだ…俺は復讐を果たすよりそっちの方が見てみたい」

「…そういう事か」

「ただあれは戦場に立つべき存在ではない、そうさせない為にも根回ししておく必要がある」

「それには同意見だ、取る手段は多い方が良い」

「が、あれの下した決定には出来る限り従うつもりだ」

「全く、変な虫がついてしまったものだな」

「ふん、どうとでも言え」

「…引き抜きについて何か分かったか?」

「確定ではない…しかしある程度精査した結果、怪しいと目を光らせている場所なら特定した」

「どこだ?」

「…エレヌア大陸より北西に位置するイェールズ大陸だ」

「他国か…どこが怪しいと睨んでいる?」

「本来ならこの情報は高いのだが愛娘を譲ってくれるそうなので、無料でくれてやる」

「殺すぞ?」

「娘が泣くぞ? …怪しいと睨んでいるのは神聖国家セームベルだ、国土は狭いが周辺の列強国を束にしても勝てないという噂を耳にした」

「ほう…だが理由にしては薄いな」

「決め手となった理由は言えん…が、あんたは命の恩人…そうだな、魔石狩りとでも言えば納得か?」

「…大体理解した心当たりがある、ならお返しに私からも一つ忠告しておこう」

「…聞こう」

「プディンの商人には気を付けろ、かなり厄介な力を持っているという噂だ」

「…商人?」

「商人って言っても小規模な行商人でな、数日前ヌツロスムント全土を混乱させた人身売買している奴隷商の事だ」

「ただの奴隷商人が軍事大国を揺るがすだと?」

「奴隷商の事は公にされてないが、そいつのせいで今ヌツロスは政治的に非常に不安定な状態にある…ちなみにその奴隷商は姿を忽然と消している」

「了解した、政治的に不安定なのは俺が仕出かした事も含まれているだろうからな、しかし良いのか? 反乱の燃料を与えるような真似をして」

「ヌツロス側から見ればお前は敵国の人間、とはいえ落ち度はヌツロス側にある」

「良いのかそれで? 仮にも隊長だろ?」

「肩書より愛娘が優先だ、そう思えば致し方あるまい…決闘は速攻で終わらせるつもりだったのだがな、つい熱くなってしまった」

「俺にはかなり本気でかかっていたようにも見えたのだが? 事前に耕していたようだしな」

「念には念を入れてだ…しかしあそこまでやるとは思わんかった」

「不正してなければ負けていたかもな…」

「戦場では何が起きるかわからない、生き残るために尽くせる手段は多く取るべきだ…と伝えたかったのだが」

「それは素直に教えてあげろよ…絶対伝わってないだろ」

「今回は私のプライドがそれを許さんかったのだ! 仕方なかろう」

「親というのは難しいものなのだな…」

「貴様が親を語るなど10年早いわ!」

「もう1~2年経ったらなるつもりさ」

「私は認めないからな!」

「本当に、そういうところはあの常識の無い長女とそっくりだな」

「我が娘を愚弄するか!」

「褒めてんだよ、さて…明日も早そうだから帰って寝るとする」

「そうか、またなクソガキ」

「ふん、次会う時は新郎かもしれないぞ?」

「恩人の娘を掻っ攫っていくとは罰当たりな奴め!」

「感謝しろよ、孫の顔見させてやるんだからな!」

「…やれやれ、減らず口が絶えんガキだ」


 暗闇の中で密談していた男たちはこうして別れて行った。 ある者は娘達の為、ある者は一人の少女の為、彼らの行動は今後エレヌア大陸の安寧を決める極めて意味のある行動に繋がっていくのである。

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