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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
5章 願い歩む者たち
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アストレアの薬草採取

「リフちゃんごめんなさい…けほっ、私が風邪なんて引くから」

「大丈夫だよカレンちゃん、しばらく私がお手伝い頑張るから…今は身体を休めないとね!」


 宿屋<あけぼの亭>まで帰ってきたリフィンはウォーレンさんに依頼を受けたことを話すと、早速仕事の内容を言い渡された。

 洗濯物を干す作業から始まったのだが、風邪を引いて動くのも辛い筈のカレンが作業しようとしていたのでリフィンは慌ててカレンを寝室まで連れていった。


「けほっ、駄目ですリフちゃんはお客様ですので…お手を煩わせる訳には」

「今は宿屋の従業員ですから気にしなくてもいいですよ、口頭で良いのでお仕事の内容を教えてくれたら嬉しいです先輩!」

「そ、そうでしたか…助かります」


 カレンの服がピッタリで落胆したのは内緒だが、リフィンは宿屋<あけぼの亭>の給仕服を着用しておりその姿を見たカレンはリフィンが代わりに仕事をするように依頼を引き受けたのだと悟ると、リフィンに仕事内容を教えていくのであった。




● ● ● ● ●




「ふぇぇ…こんなに宿屋のお仕事が大変だなんてっ…重~っ!」


 カレンから内容の細かいところを聞き仕事を始めたリフィンであったが、予想以上の重労働ぶりに悲鳴をあげる。

 掃除や洗濯、食材の買い出しでも宿屋<あけぼの亭>の部屋の数だけあるのでこなすだけでも大変なのであった。

 シーツの洗濯でびしょ濡れになり、手の届かないところを掃除しようとして椅子から転落し、食材の買い出しに出かけたがその重量により腕と腰が砕けてしまった。


「買い出し…してきましたぁっ!!」

「おかえりなさいリフさん、大変だったでしょう?」

「い、いえ…私は全然平気ですのでカイラさんはゆっくりしていて下さいね!」

「おう、帰ってきたばかりで済まないが、シーツを取り込んでベッドメイキングを頼む」

「は、はい~っ!」

「本来ならカレンに調理の下ごしらえも頼むところだが___」

「こらっ! 慣れない仕事をしてもらっているのだから無茶言わないの!」

「お…おう、確かにそうだな」

「いいえ私なら大丈夫です! ベッドメイキングしてきたら下ごしらえのお手伝いしますからっ!」


 休む暇すらも惜しんで慣れない仕事に勤しむ事を自ら選んだ、そうしなければ年下のカレンちゃんに負けた気がしてならなかった為だ。

 買い出しの際、ディクトを荷物持ちとして使えば移動も簡単だったであろうが、食材を運ぶ為衛生的な問題が発生するリスクを避けるためにリフィンはカレンちゃんがいつも使っている荷車を選択したのであった。


『リフちゃん頑張ってるねぇ~』

『うん、僕たちに手伝えることがあると良いんだけど無さそうだね』

『流石に動物の身体ではねぇ…』

「うじゅるうじゅる」




● ● ● ● ●




「ちっ、草むしりなんて生まれて初めてしたけど…なんか屈辱だわ、というかこれどう見ても草じゃないでしょ!?」

「ただの草むしりかもしれんがこれも立派な仕事の1つだ、依頼を受けたのであれば文句を言うべきではない」

「分かってるわよ! あぁもう虫が鬱陶しい!」


 アストレアとグレンはギルドで依頼を受けエルルの森でモグロ草を採取しているところだった。 黙々と薬草を採取していくグレンとは対称的に、ギャーギャー騒ぎながらブチブチと薬草をちぎっていくアストレアはまるで発狂したように駄々をこねる子供の様であった。


「もう少し丁寧に薬草を摘め、じゃないと___」

「こんなもの適当に摘んで量満たせばいいのよ!」

「…」

『待てレア、ここはグレンの言うとおりに___』

『うっさいわね! 早く仕事をこなせば良いだけの話でしょ!?』

『…』


 アストレアが急いでいるのは早く仕事をこなして生活費を稼がないといけない為だ。 妹であるリフィンに自分で稼いでと言われ足を引っ張らないように焦っているのもあるが、ずっと屋敷で生活していたアストレアにとって草むしりなんて仕事は使用人達の仕事であった為抵抗感があるのと、昆虫や土汚れにも慣れていなかった為早めに終わらせたいという気持ちが強かったからであった。


「うわ…あれ放っておいていいの?」

「気にするな、後で全部理解するだろう…顔はリフとそっくりだが性格は全く別だなあれは」

「リフちゃんの方が大人だよね…」

「全くだな…」


 ユウとこそこそ会話する、グレンはアストレアを無視して自分の依頼の分だけの薬草を丁寧に採取していく、時折霊体であるユウが手伝えないことを嘆いていたがグレンを応援していくと共に薬草に興味を持ち出して質問を繰り返していた。

 その少し隣でタキルが心配そうにアストレアを見る。


『なぁレア、違う草なんかも入ってないか? というか仕事雑過ぎるだろ…』

『だから汚れるから嫌なのよ面倒くさいし、虫も飛んできたりして気持ち悪いし早く済ませたいに決まってるでしょ!』

『あー…うん、そーだなー』


 人の話を聞かないご主人に呆れたタキルは乱暴に草をちぎっていくアストレアと丁寧に薬草を摘んでいくグレンの籠の中身を見比べてみると、グレンの方のモグロ草は原型のまま丁寧に採取しているのがはっきりと理解出来るが、アストレアの方はモグロ草の原型がほとんど崩れ去っており赤い飛沫が集まり血液が溜まっているような状態だった。


『(そういやリフは丁寧に摘んでいたよな…とても姉妹とは思えねぇわ)』


 タキルはグレンの近くにある籠の上まで飛び立ち着地した、遠目でアストレアを見守る事にするとそれに気づいたグレンが声をかけてきた。


「あぁ、タキルか…お前も大変だな」

「ピィ…」


 グレンとタキルは言葉までは通じないものの、なんとなく考えていることは同じだと共感しお互いを労いあった。

 リフィンに人の話を聞かないと云うことで怒られたばかりなのだが、本人に反省の色が無いようなのでグレンとタキルは無視する方向にシフトする。

 タキルとグレンは後で後悔する羽目になるのはアストレア自身だという事は既に予測済みだ。

 すると採取を終えたのかアストレアがやってきた。


「なにあんた!? まだ籠半分しか採取してないじゃない! それでもDランク冒険者だっていうの!?」

「…そうだが?」

「はっ! あり得ないわーこんなのが私のリフに釣り合う訳がないじゃない!」

「…」

「反論も出来ないわけ? 冒険者なり立ての私に遅れをとるなんて向いてないんじゃないの、とっとと引退してリフから手を引けやぁ!」

「…」

「さっきからどこ向いてんのよ!?」

「…」


 挑発してくるアストレアにグレンは反論出来ずにいた訳ではなかった。

 近くで聞こえた何者かの足音を漏らさずキャッチしていた為であり、エルルの森の中でギャーギャーと喚くアストレアの声で魔物が近寄ってくるのは当然のことであった。


「ゴブリンが3匹ほど居るな…」

「話聞けよこのっ…まぁいいわ、ゴブリンごとき私の敵じゃないし倒して持ち帰ればギルドが換金してくれるのよね?」

「あぁ、状態によるがな」

「ついでに私の剣技も披露するわ! 背骨を縦に真っ二つにしてあげるからせいぜい漏らさない事ね!」

「そのやり方はおすすめしないな」

「自分が出来ないから私にさせないようにするつもり? その手には乗らないわ! アンタのプライドをズタズタに引き裂くのも楽しそうじゃない?」


 アストレアはグレンの忠告を無視し、藍刃丸を握ると現れた3匹のゴブリンめがけて突撃していくのであった。




● ● ● ● ●




「なんで依頼達成じゃないのよぉぉぉおおお!?」

「そう言われてもねぇん…」


 宣言通りゴブリン達を縦に真っ二つにしたアストレアはグレンと共にアルモニカの冒険者ギルドに戻ったのたが、薬草を納品しようとしても受付のエルザに突っぱねられてしまった。


「レアちゃんが採取したモグロ草なのだけど、もう(しな)びれちゃって使い物にならないんだもの…」

「でもこれがモグロ草でしょ!? ちゃんと採取してきたじゃないのよ!?」

「これは薬剤師ギルドに納品するものだけど品質の悪いものは流石に駄目ね、こちらも信用第一で経営しているから申し訳ないけど受け取れないわ」

「な…」

「ク、くははっ!」


 アストレアの採取したモグロ草は雑に刈り取られていて、中身がほとんど赤い液体であるモグロ草はいつの間にか(しぼ)んでいた。 それを見てついに吹き出してしまったグレンに頭にきてグレンの籠の中身を見てみると、自生していたそのままの形を維持しているモグロ草が目に入り自分が採取したモグロ草と全然違うという現実を知る。


「な、なんでこんなに違うのよ!?」

「グレンったらちゃんと教えなかったの?」

「いいや、ちゃんと丁寧に採取しろと言ったが聞く耳持たなかったのはこいつだ、適当に摘んで量満たせばいいなんてほざいていたし放っておいたまでだ」

「た、確かにそうだけど…そうだ! ゴブリンを狩ってきた分は問題ないでしょ!?」

「レアちゃんには悪いけど、あれも売り物にならないわ」

「なんでよぉ!?」

「グレン、教えなかったの?」

「おすすめはしないと言っただけだ、新米冒険者なら理由くらい聞きにくるだろうがこいつは理由を聞くどころか俺を貶そうとしてやったまでのこと」

「っていうかなんで換金出来ないのよぉ!?」

「それはだな…」


 アストレアが縦真っ二つにしたゴブリン達の死骸であるが、切り口については奇麗なのだが、切ったモノが悪かったのだった。

 縦に真っ二つにしたことによって膀胱や腸などという内臓まで切断しており、老廃物…いわゆるおしっこやうんちなどが飛び散り肉などに付着してしまっていたのだった。

 それは洗えばなんとかなるようなものでもなく、菌が付着して感染している恐れがあり時間が経てば経つほど肉全体に菌が繁殖していくのでそうなったモノはもう食用には向かないどころか飼料としても活用できないのである。

 魔物や動物を解体するときはそこに注意して作業しなければならないため、冒険者や解体業者では常識中の常識であったが一般常識すら欠如しているアストレアにとっては無理難題な話であったのだ。

 そうグレンに教えられたアストレアは藍刃丸を手にしグレンに襲い掛かった。


「もっと最初から教えろやぁぁぁあああ!!!」

「ふん、聞く耳持たなかった奴が言う言葉ではないな」

「レアちゃん私闘は駄目よ!?」

「死ねぇぇぇげふぅ!?」

「…その剣はたしかに脅威だが、振らせなければ良いだけの話」


 グレンは一瞬にして襲い掛かるアストレアに接近し腹パンを決めた後、痛みで手元が緩んだところに不意を突いて藍刃丸を没収した。


「今のは大目に見てくれよ?」

「まぁ、仕方ないわねぇ…」


 ギルド内での私闘や冒険者同士の争いは禁止されているが、暴れるものを諫める為の武力は認められる為エルザはグレンに強く言えることは出来なかった。

 むしろ原因は新人冒険者であるアストレアの逆恨みなので咎められるのは当然グレンではなく


「ぐっ…なんなのよなんなのよもぉぉぉおおお!! もう一回行ってくれば良いんでしょおんどりゃああ!!」

「レアちゃん駄目よ、今日はもう採取しちゃ駄目な決まりなの…モグロ草の再生にも限界があるからね」

「じゃあどうしろっていうのよ!?」

「今日はもう諦めろ…日も沈みかけているしな、また明日頑張ればいいだけの話だ」

「ピィ…」『そうだぞレア、人の話を聞かなかったのを反省して次に活かせ』

「ぐぬぬ…タキルまで」


 もうじきすると日も沈むので今から別の依頼を受けるのは危険だ、夜にしか受けれない依頼もあるが特に新人冒険者なのでエルザが許可しないだろう…と、それすらも理解出来ないアストレアはグレンに気絶させられるまで暴れまわるのであった。


 アストレアの最初の依頼は失敗に終わり1モニーも稼ぐことが出来なかったのである。

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