ギルドの応接室にて
ついに100話ですか・・・
アルモニカに侵入した盗賊団、毒蠍の刃の団員を20人程捕らえてから1日が経った。
あの時グレンがリフィン達のところへ駆けつけたのはタキルが増援を呼んだからである。
というのもあるがグレンや黒剣の集いがアルモニカ周辺で不審な動きをする盗賊たちと遭遇していたそうで、捕まえて命と引き換えに情報を吐かせたら盗賊の狙いが水の聖女だというので、急いで駆けつけていたら慌ただしく飛ぶタキルがやってきて道案内をしてくれたそうだった。
「すまねぇな…一瞬の隙を突かれて黒づくめの男に逃げられちまった」
「終わった事は仕方ないわ、あの盗賊団を潰していけば遭遇するだろうしリベンジしてぶっ殺すだけよ」
「恐らくだがあいつは毒蠍の刃の雇われだ、必ず会えるとは思えんがな…」
「そう…でもまずは自分を鍛えなおすところから始めないと駄目って事は理解したわ、魔法は無力化されるし私の攻撃が全然当たらなかったもの」
リフィン達は黒剣の集いのメンバーたちと一緒に冒険者ギルドの応接室に顔を出しており、タイラントワイバーンとの戦いで闇の神の祝福を受けしモノと対峙した事と、昨日の毒蠍の刃の件についてギルドマスターのリョルルさんに報告しにきたのだった。
特にタイラントワイバーンの件についてはあまり大っぴらに出来る内容ではないらしいので特別に応接室が用意されていた。
「ふむ、盗賊の件はこれで終わりだ…でこちらが本題だが、闇の神の祝福を受けしモノについて詳しく聞かせてほしい」
毒蠍の刃の盗賊たちはまだほんの一部だそうで捕まえたのは全体の1割にもいかないという。
逃げた1人は現在捜索中、捕まえた盗賊はこれから尋問を行って情報を得るらしい、これに関してはアルモニカ自治体が行っているのでギルドの出る幕ではないが、謝礼としてわずかながら報奨金が出るらしい、ディクトの食費が凄いのでありがたい話である。
とリョルルさんから説明を受けた後、闇の神の祝福を受けしモノの件について話し合いを始めた。
「聞けばタイラントワイバーンを討伐した後に、黒い煙を放ち腕が生えたとか」
「あぁ…翼をグレンが切断したんだが悪魔みたいな黒い翼も生えてきたな、わずかながら運動能力が上昇していて、片言だが言葉も喋っていたから知能も上がっていた可能性もあるな」
「前回のオーガと同様か、良く全員無事で生還出来たものじゃな…」
「本当に奇跡的だと思うぜ、彼女の助太刀がなければ全滅していただろうな」
黒剣の集いのリーダーであるシックさんがお姉ちゃんを見ながら言った。 今回お姉ちゃんはタイラントワイバーンの依頼を正式に受けてはいないが闇の神の祝福を受けしモノを倒した功績者であるのでシックさんが予め参加するように言ってきたのだった。
「君はアストレア君だったね…冒険者登録してすぐ飛び去ってしまったから良く覚えているよ」
「つい先日の話でしょ…まぁアレが倒せたのはこの剣のおかげで、これが無ければ私でもきつかったかも知れないわね」
そう言ってお姉ちゃんは光の女神ヒカル様から頂いたという青い刀身をした片刃の剣、藍刃丸を取り出してテーブルの上に置いた。
もともとは私の為にヒカル様が作ってくれたらしいのだけど、剣を振った事ない私がそんな危険なモノを持ったら危険が危ないのでデンジャラスだ。
「少し拝見してもいいかね?」
「良いわ、今の状態なら持っても怪我しないから大丈夫よ」
お姉ちゃんが言った事に疑問を持ったリョルルさんは藍刃丸の刃の部分にいくら触れても傷一つすらつくことは無かった。
驚く一同にお姉ちゃんが笑いながら解説した。 出処は明かさなかったが水魔法使いが魔力を込めると、鋭い水の刃が形成されて鋼鉄をも容易に引き裂くことを説明すると実践してみせた。
「見てなさい…でりゃ!」
「「「「おいっ!?」」」」
「勘弁してよお姉ちゃん…」
木製の高そうなテーブルが音もなく真っ二つになり藍刃丸の鋭さは証明されたが、ディクトの食費に使われる報奨金は消えてなくなってしまった。
「ま、まぁ…黒剣の集いの連中は分かっていると思うがそこの3人に言っておく、今回の闇の神の祝福を受けしモノの件については他言無用でお願いする…変な噂を不用意に流して住民や他の冒険者を不安にさせたくないからの」
「…分かりました」
「あぁ」
「ふーん、まぁ分かったけど前回はいつ闇の神の祝福を受けしモノが出現した訳?」
「…あれは2年前だな、話は聞いていると思うが前回は強力な闇魔法を使うオーガであれが最初で最後だと思っていたわけなんだが、ついに2体目が現れてしまったか…」
話の内容を聞く限り、最初に闇の神の祝福を受けしモノを確認したのは2年前で、オーガ討伐時に黒い煙が発生し強い個体となって現れたらしく当時の黒剣の集いのメンバーが3人やられてしまったそうだ。
ギルドマスターのリョルルさんも応戦してなんとか討伐した後、あの黒き翼竜と同じように死体は一瞬で腐敗して骨だけになったらしく、その件に関しては突然変異種や異常個体種だという説も考えられたのだが、詳しい事は分からずじまいで今日まで“無かった事”にされていたそうだ。
「今のところなぜそうなったのか原因が掴めん訳じゃが、2体目が出てしまった以上こちらで検討しなければならん…くれぐれも他言無用で頼むのじゃ」
結局、闇の神の祝福を受けしモノに関しては口止めされた。 ギルドの方でいろいろ調べるらしいが期待はしないでくれとも言われた。
討伐したら一気に腐敗してしまうので原因究明が難しいのだがら仕方のないことだった。
とりあえず2件の詳細は報告し終えたのでやっと解放されると思ったリフィン達だが…
「これにて解散じゃが、リフィン君、アストレア君、君たちは残ってくれたまえ…別件があるのじゃ」
「はい、わかりました」
ギルドマスターのリョルルさんに名指しで呼び止められてしまった、テーブル弁償の話かなぁ
「えーまだあるの?」
「お姉ちゃん…テーブル弁償の話でしょ絶対」
「ギルマス、俺も残ってていいか?」
「まぁ…良いじゃろう」
「んじゃ俺たちは先にあがらせて貰うぜ!」
「じゃーなおめぇら!」
「次はなんの依頼受けるっす?」
「休養期間が欲しいよ僕は」
「ガハハ! まずは身体を休めなくちゃな!」
「武器の手入れもせねばならんわ!」
ギャーギャーと賑やかに解散していった黒剣の集いが少しだけ羨ましく感じたリフィン、テーブルを壊した件で長くなってしまったと思ったのだがどうやらそれだけではなかったようだった。
「テーブルもそうなんじゃが、お前たちに4件ほど指名依頼や来客がある…控室に待機して貰っておるから少し待っておれ」
「えっ…4件もですか!?」
リョルルさんは来客を呼びに行くついでに受付のエルザさんにテーブルの話をすると予備のテーブルをすぐに持ってきてくれた。
「あら~っ、これはまた派手にやったわね♪」
「「「………」」」
何故か慣れた感じでテーブルの残骸を回収し、ちょっと安そうな予備のテーブルが設置されるとそそくさと退出したエルザさん、すると来客がもう来たのかリョルルさんがやってきた。
「どうぞこちらでございます」
「わざわざ済まないね…」
来客が応接室に入ってきた時、リフィンは一瞬にして席を立つとグレンもそれに気が付いたのかゆっくりと席を立った。
「ほら! お姉ちゃんも立って!」
「え? なんで?」
「いいからっ! グレンも立ってるでしょ!?」
「だからなんでよ!?」
リョルルさんが連れて来た人は40代くらいの面識のない男性だった。
落ち着いた貴族衣装で清潔感もあり茶髪に若干白髪が混じった感じのひかえめそうな人というのが第一印象だった。
リフィンは慌てて席を立ち、挨拶を交わしてからその男性が椅子に座るまで席に着くのを待つつもりだったのだが…
「あぁ気にしないでくれ、私は堅苦しいのは好きじゃないんだ…こちらに気を遣わせてしまって申し訳ないね」
気を遣おうとした相手に逆に気を遣わせてしまった。
お姉ちゃんに関しては常識が欠如しているので仕方ないのかもしれないが、今回は優しそうな人で安心するリフィンだった。
「それじゃあ自己紹介といこうかね…私はモニカ共和国の首都ハーモニカを治めるアレシ・デカシターだ…リフィン・グラシエル君、君の事を聞いてやってきたのだよ」
「リフィン・グラシエルです…よ、よろしくお願いします!」
握手を交わすとアレシさんが席に座ったのでそれに続いて席に座ると、グレンもそのまま座り込んだ。
まさかこの国で一番上のお偉いさんがわざわざ来てくれるとは思いもよらず、緊張の為か冷や汗を感じた。 40代くらいだからその辺の辺境貴族なのかなと思っていたが大物過ぎて顔が強張るリフィンだった。
「ははは、そんなに緊張せず楽にしてくれて構わないよ…冒険者とはいえ礼も尽くしてくれるし常識もあるようだ、流石水の聖女と呼ばれるだけはあるな」
「ありがとうございます…」
「君も…水の聖女のおかげで少しは成長したか?」
「…嫌味か?」
「そんなつもりはないがね…少し丸くなったようでほっこりしたよ」
アレシさんとグレンは面識があったのか以前グレンがなにか事件を起こしたんじゃないかと尋ねてみると「私の娘が一刀両断された時ちょっと揉めたくらいさ」と笑顔で答えられて、ギョッとグレンを睨みつける。
「…」
「いや、殺してないからな?」
「貫いたわけね…リフ、こんな男はやめなさい!」
「そういう意味でもないからな!?」
「はっはっは! 誤解するような言い方をして済まないねぇ…私の娘がこの男のどこに惚れたのか、告白したら振られてしまったという話だよ」
「そ、そうでしたか…」
「エルザも言っていただろう…言い寄る女性を蹴散らしてきたってな」
「…むー」
そういえばそんな事言っていたような…
リフィンはてっきりグレンが人殺しをしたのかと誤解し否定されるも、アストレアの言葉で強姦したのかとまた誤解してしまった。
すぐにアレシさんが弁護してくれたがグレンってそんなにモテるのだろうかと首をかしげてグレンを見ると、今からでも襲ってやろうかとでも言いたそうな鋭い眼光にリフィンは赤面し目を逸らした。
話が脱線していたことに気付き、リフィンはすぐにアレシさんが何の件で訪問されたのかを質問した。
「え…っとすみません、今回は何用で来られたのですか?」
「おぉ、話を逸らして済まなかったね…実は君がここアルモニカでやっている説法を首都ハーモニカでも説いてもらいたいのだよ。 水魔法使いが減り水資源の供給が回らなくなっているこの時代、君みたいな人材はとても貴重なのでね是非お願いしたく訪問した訳だよ」
「要するに便利な力をそっちでも振るえって事でしょ?」
「お姉ちゃんそんな言い方しなくても…すみません」
「いやぁ痛いところ突かれたね…気にすることはない、まさにその通りだよ」
アレシさんは物腰が良いのか、お姉ちゃんの挑発的な言葉も軽く受け流してくれた。 いくら自分達が貴族一家の出身とはいえ、常識の無さに関しては後でお姉ちゃんにはキツく教えてあげないといけないなと考えるリフィンだった。
「それは今すぐじゃないといけないのか?」
「いや、特に時期は決めてないんだ…早めに来てくれるとこちらとしては嬉しい限りなのだが…実はお忍びでアルモニカに来ている関係上正式な頼みではないのだよ」
「なるほど…」
「それに君たちには様々な依頼が殺到していると聞いている、時間が空き次第で構わないが追って正式な依頼を出すと思うのでどうか考えていてほしい」
「まぁ決めるのはリフだ、俺はついていくだけだしな」
「そうね、リフの好きなように動いて貰う方が良いかもね」
グレン、アストレアが今回の事はリフィンに好きなようにしろと言っているようなものだった。 特に危険そうな依頼でもないので断る理由は見つからないのであったが
「アレシさんすみません…他にも依頼があるようなので今すぐ返答は出来ないですが、正式に依頼を下さいましたら優先度高めに検討いたしますのでそれまで待って頂けると幸いです」
「ありがとう、ハーモニカに帰ったらすぐに依頼をかけよう…その時はよろしく頼むよリフィン・グラシエル君」
「はい!」
再度握手をしてから、首都ハーモニカから来たアレシさんは機嫌よく応接室から退出していった。 今はアルモニカだけで精一杯だけど少しずつ改善されていっているのでそのうち行ける機会があるだろう。
「中々な大物が来たものだな」
「本当だよ…貴族衣装の割にラフな格好してたからどこかの辺境貴族かなって思ってたけど、この国の一番偉い人でビックリしたよ」
「ふーん」
「お姉ちゃんは後でマナーについて教えるからね!」
「何も恐れる事ないじゃない、私らだって貴族なんだし」
「今はただの冒険者でっ___!?」
「賑やかにしているところ悪いが、次のお客様だ…どうぞこちらでございます」
そうしているとギルドマスターのリョルルさんがやってきて次の人を連れて来たわけだが、まさかこんな所に居るとは思いもしないリフィンとアストレアが良く知る人物がゆっくりとリフィン達の目の前に姿を現したのであった。
「…久しぶりだなレア、リフ」
「…っ!」
「お…お父様!?」
リフィン達の実の父親、ヌツロスムント王国第2魔導隊隊長、ウォルター・グラシエルがアルモニカにやってきていたのであった。
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