5月20日:ダイチ・アカツキ
さて、僕がすべき作業は順調に進んでいる。だから僕はこのまま、真っ直ぐ突き進んでいけばいい。
で、まあ、順調なんだけど、一応、試算が出た。
このラクリマの放射能汚染を中和しきるまでに必要な時間は、全オートマティック化してから、約300年。
そして、この地下都市で人類が生き延びられるのは、長く見てあと30年が限度だろう。つまり、人間が最低限生きていくために必要な資源がそこで0になる計算だ。
地上の資源が利用可能になるのには間に合わない。
だから、この地下都市は滅ぶ。ラクリマに人類は居なくなる。このままいけばね。
でも、1人だけ残すなら、可能だ。
つまり、セーラだけを残して、地上の回復を待って、それからセーラが地上の資源を使って、人類を復活させる。
そのために、セーラが300年後まで活動できるだけの資源を残しておけばいい。そうすると他の人達の滅びはちょっとだけ早くなってしまうけれどね。
……多分、これが最適解だと思うんだよ。
誰かを残して、その人にラクリマの再生を任せるとなったら、一番適しているのはセーラだ。
セーラだけ、300年先まで残すだけなら、資源もそこまで多くはかからない。他の人だとそうもいかないからね。資源量を考えても、可能性を考えても、セーラを残すのが一番いい。
セーラを休眠状態にしておけば、装置のメンテナンス、動力の確保、その他諸々に掛かる資源は、大体、地下都市の人類が10年生きる分だけで済む。
10年。たった10年、みんなの寿命が短くなるだけだ。300年先の未来のために、今の10年を捧げるだけだ。
……でも、まあ、当然だけれど、β以外の人達には知らせられない。
僕らはαやγの人達から、セーラと、セーラのための資源を隠し続けて、あと90年ぐらい、生きていかなきゃいけない。
人間の心は複雑だからね。誰しもが人類の為に動ける訳じゃないし、動きたいと思っている訳でもない。いわば、この計画はβの僕らのエゴイズムでもある。
でも、僕らはラクリマをこんなところで終わらせたくないんだよ。ラクリマにやってきた僕らの祖先がしたことが無駄だったなんて、誰にも思われたくない。
僕だって思いたくない。僕らはいつだって、未来を見ていたい。終わるために頑張るなんて、僕は御免だ。
例えこれがエゴイズムだったとしてもね。
一昨日から2日かけて、諸々の詳細を決める会議をずっとやってたよ。
セーラの学習プログラムは……シバタさんの分が終わったら、リュンヌさんとパイソンさんが学習に付き合って、そこまでで打ち切りだ。
そこで、セーラを休眠状態に移行して、あとは、僕達が死ぬまでに、セーラの休眠を維持する装置を作って、保存するための装置も作っておく。
……多分、6月の終わりか、7月の頭ぐらいになるだろうね。そこで、僕らはセーラとお別れすることになる。セーラが目覚めるのは300年後。地下都市の人類が全員死んだあとだ。
やりきれないけれど、割り切るしかないね。……割り切れないから、日記に書いてるんだけどね。




