3月8日:セーラ
博士、ボーキサイトは食べ物ではありません。
シンセティックユテレッサーは、現在21基が稼働中です。全てのDNAサンプルが最低1基は残っている状態ですから、理想的な状況と言えるでしょう。
このまま順調にいってくれることを願うばかりです。
チハラさんの日記についてです。
チハラさんの日記にあった通り、チハラさんの部屋のベッドの下の床板を開けてみました。
そこには、何枚かの写真(アナログのものです)の他に、何冊かの本と、論文、それからメモリキューブが入っていました。
紙媒体は少々劣化していましたが、十分に中身を読める状態です。
そして、メモリキューブはメモリキューブですから、当然、データは無事でした。
写真は、βの皆さんを撮影したものでした。
博士も私も写っています。モチツキ大会、セツブン、それから、フナダさんとリュンヌさんの結婚式の写真も残っていました。恐らく、結婚式の写真は、あとからアカシヤさんが入れたのでしょう。
……とても幸福な写真です。
論文は、シンセティックユテレッサー開発に係るものでした。これは、『Essays in Idleness』に隠してあった論文と同じものです。バックアップとして残しておいたのでしょう。
そしてメモリキューブの中には、チハラさんから私とアカシヤさんそれぞれに宛てた手紙の他に、ロックが掛かったデータが1つ、入っていました。
手紙から文を引用します。
『セーラへ。この手紙を読んでいるという事は、恐らく、私の日記を読んだんだと思う。セーラならきっと見つけると思っていたぞ。
セーラ、寂しくはないか。多分寂しいだろうと思って、写真を入れておいた。
ところで、このキューブの中にもう1つ、データが入っているよな。入っていると思う。……入っていなかったら、アカシヤがそう判断して消したって事だから、許してやってくれ。
このデータは、セーラのために残しておこうと思ったものだ。多分、見つかったら消されるタイプのものだから、ロックを掛けてある。
ロックは、ハッキング対策でアンドロイドにはちょっと難しくしてある。でも、セーラなら簡単に分かるはずだ。パスのヒントは、『本のタイトルを著者自身が付けるとしたら』ってところでどうだ?
追伸:かなり身勝手だとは思うけれど、げろった事についてダイチに謝っといてくれ。ろくに謝れてなかったし。うざったい奴だけれどダイチは悪いやつじゃないからな』
『追伸:アカシヤです。セーラちゃん、ごめんね。このお手紙、読んでしまいました。それで考えたのだけれど、データはそのままにしておきます。代わりに、写真を足しておきます。私のお気に入りはフナダさんにアルギン酸ナトリウム・パイを投げつけたダイチさんがその後すぐリュンヌさんにはり倒された挙句蹴られている一連の写真です。傑作よね?楽しくて大好きな写真なの。セーラちゃんも、楽しくなってくれたかしら?』
チハラさんからお借りした本のタイトルを全て入力しましたたが、ロック解除はできませんでした。
もう少し、考えてみます。




