11月20日:ダイチ・アカツキ
少しずつ、βの中の雰囲気が戻ってきている。
チハラが居なくなった衝撃は大きいし、きっといつまでたっても、完全に元に戻ることは無いのだろうけれどね。
それでも僕らは研究を続けるべきだし、続けなくちゃいけない。
『チハラのためにも』なんて言う気にはなれないけれどね。でも、実際そうだと思う僕も居るんだ。
勿論、チハラだけのために、というよりは、人類全体のために、というニュアンスだよ。ただ、その中の1人……未来のための道の一部分が、チハラである、という実感がある事も確かなんだ。
チハラは未来のための一部になった。チハラだけじゃなくて、僕ら全員、そうなる。
それは覚悟の上だし、そもそもそれを嫌だと思った事なんて一度も無いよ。
僕らはそのためにここに居るんだからね。
さて、研究の方だけれど、明日からしばらく遠出してこようと思う。
1月ぐらいかな。その間に、そうだな、できれば、1ブロックまるごと作業を終わらせてしまいたいけれどね。
それができれば万々歳、っていうところかな。
勿論、勝算はあるよ。作業用ロボットを新しく作り直したからね。これで作業効率は上がるだろうし、設備の自動化も進められるだろうし。
やっぱり、時間がかかる物は自動化できるようにしておいて、あとはほっとく、っていうのが一番だよね。
万一、僕が居なくなったとしても、動くようにしておきたいよな、って思うんだ。
……勿論、そんな予定は無いけれどね。そんなことがあったとしても相当先のことだろうし、その頃には作業効率もバッチリ上がって、全部のブロックでの作業が終わっているだろうし!
……うーん、でも、万一の事は考えておいた方が良いのかなあ。
セーラに全部、学習しておいてもらった方がいいかもね。
セーラは僕よりも更に長生きするんだから。
そうそう、セーラといえば、フナダからセーラについて、提案があったよ。
今日、フナダと話していて、セーラの話になったんだよ。
学習プログラムはこのぐらい進んでいる、とか、こんなことができるようになった、とか。こういう話をしたらこういう反応が返ってきた、とか。
何といっても、この地下都市において常に明るい話題だからね、セーラについての話題は!
……そうしたらね、フナダが、「ところで、セーラは『セーラ・アカツキ』にしないの?」って、半分冗談で言ってきたんだ。
うん、でも、僕はとても嬉しかったね。
セーラは僕の娘みたいなものだ。それを認められたみたいで嬉しかった。
それに、セーラに『アカツキ』を名乗らせることを許されたみたいで嬉しかったんだろうな。
……もし、セーラに苗字っぽいものをつけるとしたら、『アカツキ』よりは『ディルクルム』とかの方がいいだろうね。或いは、僕らに全然関係無いもの。
セーラは僕らの中で誰よりも長生きしていくんだ。
変な偏見がついたら可哀相だからね。




