11月1日:セーラ
実験は順調です。
シンセティックユテレッサーも稼働開始し、現在安定している状態です。
これからはシンセティックユテレッサー内部の様子を観察しながら待つだけとなるでしょう。
現在、シンセティックユテレッサーの稼働開始から72時間が経過していますが、全ての型のシンセティックユテレッサーにおいて、経過は順調です。
30日経過程度までは特に問題なく進行するとは思うのですが。
本当なら次の作業を並行して進めた方がよいのでしょうが、今日は休日ということにしました。
なので、今、チハラさんからお借りした本を読んでいます。
『銀河鉄道の夜』。ケンジ・ミヤザワの作です。
チハラさんは何故、私にこの本を貸して下さったのでしょうか。
文学の1つとして貸して下さっただけなのか、それとも、何か意図があったのか。私には分かりません。
この作品が執筆された当時、人類はまだ涙星を発見してすらいませんでしたから、『宇宙』の意味付けや価値観は、現在のものから大きく離れているのでしょう。
この作品における『宇宙』は、夢の世界、或いは死者の世界、つまり別世界の位置づけです。手の届かない位置にあります。
しかし、私達は宇宙に手が届く。当時から考えれば、『宇宙に居る』とすら言えるでしょう。
まさしくその通りです。私達は、宇宙へ手が届くまでの技術と知識を手に入れました。
私はそれを誇らしく思っています。
博士は、『銀河鉄道の夜』をお読みになった事はあるのでしょうか。
もし無いようなら、読んで頂きたいです。
そしてその後、考察を一緒に行っては頂けませんか。
博士のご意見をお伺いしてみたいと思います。
私は、カムパネルラが作中後半において『一緒に行こう』というような事を言っていたことについて、そこに『救い』があるように考察します。
私の、或いは、βの皆さんの『救い』です。
博士も同じように考察なさるのでしょうか。
それとも、私には考えつかないような考察をして下さるのでしょうか。
楽しみにしています。
チハラさんの本は、もうしばらく、お借りしておこうと思います。




