9月11日:セーラ
「今は感情的になるべきではない、私達は合理的であるべきだ。ただし、私達が完全に人間の心を忘れてしまったならば、目的に意味がなくなるだろう。私達は感情を持ちながら、感情的になるべきではない。とても困難かつ、痛みを伴う道程だが、未来の礎となるため、共に励んでいこう。私達の後ろにあるのは絶望であるかもしれないが、私達の前にあるのは絶望ではなく、希望であるはずだ。この痛みは無価値ではない」。
過去のβ新聞からの引用です。
確か、地下都市への移住が行われて初めての年末にブラン氏が仰った言葉でしたね。
今なら意味が分かります。
「私達は感情を持ちながら、感情的になるべきではない」。
そして、「私達の後ろにあるのは絶望であるかもしれないが、私達の前にあるのは絶望ではなく、希望であるはずだ」。
だからこそ、私は私の研究を続けています。只管に前進しているつもりです。
後ろには絶望がありますが、前には希望があるのですから。
きっと博士も、そのように前進していらっしゃるのでしょう?
ウォーマナイザーの調製がひとまず完了しました。
稼働させてみて、まだ内部温度が安定しないようなら、その時また考え直しましょう。
シンセティックユテレッサーの外殻ボーンも焼成中です。
外殻も、明後日には完成するでしょう。
次はN.B.Lの調製ですね。水製造機の出番です。
念のため、水製造機で水を作っています。水製造機内に何らかの金属イオンが残留していた場合、N.B.Lの調製中に何らかの塩を発生する恐れがあるので。
また念のため、水は一度ハイプレッシャーレンジに掛けることにしましょう。ここからの作業はより慎重に行わなければいけませんから。
『僕の前に道は無い、僕の後ろに道はできる』。コータロウ・タカムラの詩の一節です。博士はご存知ないかもしれませんね。
……『道』の正体は、恐らく、『心』なのではないでしょうか。
博士ですら、『後ろに道はできる』ような有様です。しかしこれは、感情があるからこそなのですよね?
私達はできた道とは反対方向へ向かわなければなりません。
しかし、私達を『気魄』で満たしてくれるものはいくらでもあります。
γの子供達も、αの協力者達も、βの皆さんも、研究への意欲を駆り立ててくれる存在となるでしょう。
私にとっては、この交換日記もその1つです。
どうか博士、今しばらく交換日記を続けさせてください。『この遠い道程のため』。




