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かんせーのほーそく  作者: ガガガブックン
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デブの法則その二

第三話「デブの法則その二」

「ねぇ、山崎さん。最近太ってきてない?」

 塾の冬期講習会に来ている玲奈と湯海は、同じコースの学校でのクラスメイトに話しかけられた。湯海はそんなに友達はいないが、玲奈は誰とでも親しく話すので友達が多い。

「そんな太ってないけどー。どうしたのっ?」

「私と一緒にジムに通わない?」

「ジム?」

 彼女はジムに誘った理由を話した。正月で食べすぎてちょっとお腹がでてきたので、ジムに通いたいという。ジムは三人で申し込むとグループ会員となり、お得だという。一月は正月キャンペーンというのがやっていて、入会金がタダで沢山の人が入ってきてるという。

 その話を聞いた湯海と玲奈は……。

「どうするの?」

「行くに決まってるでしょ」

「どうして? 太ってないのに」

「おそらく、ジムには正月太りしてしまったデブが沢山来てるはず……。これは新たなるデブの法則を見つけるチャンスねっ……」

 玲奈がはりきっているのには訳があった。この間みつけたデブの法則その一を青野先生に報告したときの彼の言葉だった。

「前より良い法則をみつけたね。今先進国では肥満が医療費増大という社会問題になっているからね。この調子でデブの法則をみつけていって、痩せられる方法が分かったらノーベル賞ものだね」

 ノーベル賞とまではいかないまでも、新たなダイエットを開発して有名人になりたい、という願望を持つ玲奈は数か月、デブの法則を見つけられなくて躍起になっていて、今回の話に釣竿の餌に飛びつく魚のようになった。

「秀美も一緒に入るわよ」

「なんで私まで!?」

「だってグループ会員になるには三人必要でしょ」

「はぁ……参ったなぁ」

 こうして二人はジムに通うことになった。

 一月はじめ。ジムに行くと筋トレマシーンやランニングマシーン、エアロバイク。プール、ストレッチルームなど様々なトレーニング器具があった。二人はその中のダンススタジオで踊ることにした。

 入場まで残り十分。列に並んでいると、玲奈はデブの女に話しかけられた。

「あら、お若いわね、何歳?」

「十三歳です」

「若いわね、今日は一緒に痩せられるように激しくダンスしましょ」

「はい!」

 玲奈と湯海の二人はダンススタジオで激しく体を動かした。ジムのインストラクターが元気にカウントをして盛り上げていた。その後、軽くランニングマシーンで運動して、ジムにある女風呂に入った。

 入浴中彼女らは明るい話をした。玲奈が先にしゃべる。

「けっこうがんばってる人たくさんいたねー」

「これじゃあデブの法則は見つからないかもね」

「でもこれだけ痩せようとする人がいたら、この国の未来もまだ捨てたもんじゃないねー」

「私たちもキレイな体を目指してがんばりましょ」

「うんっ!」

 だがその後驚くべきことがおこった。ジムからどんどんデブが消えていったのだ。端的にいえばやめたのである。玲奈に話しかけてきたデブの人もいなくなった。

 戸惑う二人。ダンススタジオで並んでいるとき、デブの女の人に話しかけてみる。

「あなたはやめませんよね?」

「やめないよお。インストラクターの人かっこいいし、やせられるからね!」

 やる気満々に話したこの人も三日後に姿を消した。

 不思議になった二人はジムのインストラクターや休んでいる普通の人にどうしてデブがやめていくのか聞いてみたが、皆頭を傾げ答えられない。そんな二月のはじめ、日曜の昼にランニングマシーンに並んでいるときのことだった。

「なんだ、このおっちゃん!」

 ランニングマシーンのカウンターを見ると、総走行距離三〇キロメートルを記録していた。普通の人が走る速さは大体時速八~十キロメートルぐらい。だから三時間以上走っていたことになる。二人はそんなおっさんに呆れるとともに、どうしてこの人はそんなに走れるのか、ジムを続けられるのか、聞いてみることにした。そしたらこのような答えがかえってきた。

「僕は地道に続けてきたからね」

「地道?」

 彼はなぜデブがやめるのか、力説する。ジムは正月太りのデブを呼び込むために、お年玉割引などと称して彼らを呼び込む。正月太りからぬけだそうとするデブ達はやる気満々で激しい運動をするが、つらくなってすぐやめる。それに比べてこの三〇キロおじさんは最初はウォーキング二〇分など軽めの運動からはじめて、ゆっくり徐々に運動量を増やしていって何年もかけてやっと何十キロも走れるようになったのである。デブも本当に痩せたかったら、少しずつ地道に運動をするしかないということだ。

 今回の出来事で湯海と玲奈はそれぞれ総括する。

「将棋の歩は一歩一歩地道に努力してやっと金になれる。凡人は地味な頑張りが必要ってことね」

「でも歩って持ち駒で相手の陣地の近くに打ったら一歩だけで金になれんじゃーん。努力なんて無駄。私は一発逆転を狙うっ!」

「そういうことは言うな!」

 どちらの考えがあってるかはともかく、二人はジムにデブが入ってこのようにやめていくことを、デブの法則その二と名付けることにしたのだった。

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