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ONE WEEK  作者: K
10/31

金曜日 1

そして、金曜日の朝、成哉はやっぱり寝ていた。

熟睡している成哉には、全く警戒心というものがない。

美織を、完全に信頼しきっているようだ。

私も、前はそうだったな。

と、美織は、小さな溜息をつく。


大学を卒業してから、美織の就職は順調にいった。

比較的大手の会社の事務として、数名の新入社員と一緒に希望を胸に入社した。

最初の3、4年は絶頂期だった。

まわりからは、チヤホヤされ、可愛がられ、仕事上の葛藤もあったものの、おおむね順調で、つつがなく、楽しい時代だった。

勤続して、1、2年で、職場で相手を見つけて結婚していく同僚たちを、美織は不思議な気持ちでみていたが、それが正しい選択であったことを、5年経った頃に、気が付いた。


セクハラやパワハラなどに厳しい処分のおりるこの会社では、あからさまに、怒鳴りつけたり、さげすんだりする上司はいないものの、勤続5年もすると、会社側の人間と、そうでない人間との間に明らかな差が生まれてきていた。

会社側の人間とは、会社に愛された、昇進も、いいポジションも約束されたような人間だ。

彼等は、特定の上司と懇意になり、いずれは、会社を背負う人材として、前途が約束されている。

そうでない人間とは、会社が今後どのように発展しようとも、そのレールには、おそらく乗ることのない人間だ。

会社から、特に必要とはされず、機械の一部のように、いくらでも替えはきくと考えられる歯車のような人間だ。

どんなに正直に、どんなに頑張っても、一定以上の評価はされない。

けれども、それは、実力に伴う評価ではない。

上の人間が、欲しいと思うか思わないかというのが、大前提なのだ。

勿論、実力も必要だが、人格者ばかりが上司になれるわけでは決してない。

声の大きな人間や、ツテを上手く使う人間や、策略が得意な人間や、得てして、そんな人間が上にたってしまうこともある。


美織は、決して、無能な人材ではなかった。

自分のことばかりではなく、流れの中で、関わる人のミスまで気づくような、気配りのできる視点を持つ、そこそこ優秀な社員であったと思う。

クビになるほどではないが、いつまでもいて欲しい人材ではなかったのだ。

少なくとも、その上司のもとでは。


新しい上司がやってきたとき、美織は、反発する空気に気が付いた。

美織が、ミスを指摘するだけで、その上司は、嫌な顔をする。

今までは、気が付いてくれてありがとうと感謝されていたのに、その上司は、露骨にそれを嫌がった。

自分より真面目で、自分より優秀で、自分より仕事ができる人間を、その上司は好まなかったのだ。

居心地は、最低だった。

彼が、可愛がる人材は、ミスばかりして、反省もせず、明るく謝っている、20代前半の新入社員ばかりだったのだ。

疎んじられている空気を感じていた。


そして、あの時は、ちょっと、社内の空気も異常だった。

例年入ってくる新入社員の中で、特別に可愛い女子社員、田代亜沙美が入ってきたからだ。

今まで、女に興味ないのかと思われていたような男性社員までが、浮足立つほどの可愛さで、営業からの合コンの誘いなども、異常なほど多かった。

勤続5年で、顔馴染みになっている美織を通じて、誘われることも多かった。

大手の企業の営業職は、若くてもそれなりの給料をもらっているので、亜沙美の効果にあやかって、しょっちゅう合コンに誘われていた同僚の女子社員たちも、浮足立っていた。

一番人気の亜沙美には、営業のエースクラスの自信家達が、積極的にアプローチするため、手が出せないと諦めて、目当てを他の女子に替えてくる男性も多かったからだ。

けれども、さすがに、27歳になる美織に、猛烈にアタックする男性社員は少なかった。

電話番号やアドレスを聞く男性社員がいないことはなかったが、美織が、一度断ると、二度と美織に注目することはなかった。

20代の前半ならば、断っても、断っても、何度も聞いてきたのに。


そんな中で、30代の男性社員、営業の佐々木宗太だけは、毎回、美織の隣に座ってきた。

合コンだけでなく、会社のイベントでも、必ず、宗太は、美織のそばにやってきた。

その年は、亜沙美効果のおかげで、合コンの頻度が異常に高かった為、宗太と美織の間も、急速に縮まった。

「乙羽さんて、脚がとても綺麗なんだね。」

宗太は、20代前半のがっつき男とは違うと、美織は思っていた。

脚は、学生時代から褒められていた。

きれいで、まっすぐで形がいい。

ミニスカートが映える、美織自慢の脚だった。

今でも、男性社員の視線を感じることがあるが、宗太が言うと、厭らしさを感じなかった。

彼は、スマートで、センスも良く、会話もうまかったが、すぐにホテルに誘うような軽いノリの男でもなかった。

大人のつきあいだと美織は思っていた。

静かに、二人の仲に生まれてくるものを、育んでいけばいい。

少なくとも、美織はそう思っていた。


けれども、ある日、後輩女子社員が、話をしているのを、美織は聞いてしまう。

「佐々木さんって、亜沙美とつきあってるみたいよ。」

え?

「えー?佐々木さん、乙羽さんとつきあってるんじゃないの?」

「二股?」

「うーん、どうだろ?」

「どういうことよ?」

「亜沙美の熱狂的なファンって、多いじゃない?」

「うん。」

「あの子って、八方美人だから、合コンには、とりあえず参加するけど、二次会とかは、ほとんど断るのよね。」

「まあ、そのせいで、身持ちが固いって、また人気が出てるんだよね。」

「違うのよ。」

「何?」

「亜沙美が、タクシーで帰る時、あとをつけた馬鹿がいてね、佐々木さんと会うのを見ちゃったんだって。」

「えー??」

「合コンでは、二人、ほとんどしゃべらないわよね。」

「うん、佐々木さんて、若い子、苦手なのかと思ってた。亜沙美と話してるとこなんて、見たことないよ。」

口々に騒いでいる後輩たち。

一人が、おもむろに口を開いた。

「多分、佐々木さんの本命は、亜沙美よ。」

「どうして?」

「あそこまで、無視し合ってる方が不自然だわ。」

「そういえば、そうよね。」

「二人共、フレンドリーな性格なのに、目もあわさないって、これは、絶対演技よ。」

「そうか。」

「え?だったら、乙羽さんは?」

「当て馬よ。」

「当て馬?」

「亜沙美は、とにかく、会社一の人気者なんだから、つきあってるっていうだけで、プレッシャーもかかるんじゃない?だから、バレないように、気を付けて、付き合ってるんだと思うわよ。」

「乙羽さんの方は、佐々木さんのこと、いつも見てるもん、絶対好きだって。」

「乙羽さん、可哀想!!」

可哀想といいながら、その女子社員たちの声は、はしゃいでいた。



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