月曜日 1
今日は、本当に、嫌な日だった。
こんな日が、人生の中では、たまにある。
ああ、吐き気がする。
早く、家に帰って、シャワーを浴びたい。
そう、思っていると、小雨まで降ってきた。
寒い。
傘はない。
歩いていたら、びしょ濡れになるほどではないが、立ち止まると、水は、しっとりと、服に染み込み、なけなしの体温を奪ってしまう。
早く、家に帰りたい。
時計を見ると、もう10時を過ぎている。
明日も会社だ。
美織は、大きくため息をついた。
薄暗い街灯が、ぼんやりと、足元を照らしている。
古いタイプの街灯らしく、光が黄土色ににうつる道路に、小さな染みが転々とついている。
道が小汚く見えるのは、照明だけのせいではないかもしれない。
「?」
ぼんやりした照明の向こうで、何かがうずくまっていた。
美織は、恐る恐る近寄ってみる。
男だ。
少し長めの髪に、白いTシャツ、黒のGパン、紺のパーカー。
パーカーは、冬ものだが、インナーのTシャツは薄手で、やけに寒々しい。
やや、赤みの強いその髪には、何かがべっとりついている。
ただでさえ、暗い道端で、パッと見ではわからない、それは、血?
その時、男がピクリと動いた。
「あ…。」
生きてる。
そっと、近づいてみると、その気配を感じたのか、男はゆっくり顔をあげた。
「?」
男の目の焦点があっていない。
美織は、あたりを見渡してみた。
こんな時間に、こんな場所だ。
誰も、通りかかる者などいない。
このままにしてたら、どうなるだろうか?
ぼんやりと美織を見つめる男は、20代の前半くらい?
薄暗い照明でも、肌の滑らかさがわかる。
プンと、男からは、酒のにおいもした。
その時、ガラガラと建て付けの悪い扉の音がした。
美織は、びくっと振り向く。
音のした背後を見れば、酔っ払いらしき中年の男が、こっちを胡散臭げにみている。
こっちから見ると、十分、その酔っ払いの方が胡散臭いが、すわった目で、その酔っ払いは、くだをまいた。
「お前等、こんなところで逢引きか?」
どこから湧いてでてきたのかと、辺りを見ると、視界に赤い提灯が見えた。
居酒屋?
そこから出てきたのかと、美織は理解する。
ここらへんは、治安の悪いことで、有名なのだ。
「誰?」
男は、ため息を吐くような声で、美織に尋ねる。
「あなたは?」
美織が聞き返すと、男は
「俺?」
と言ったまま、黙り込む。
そして、しばらくして、ひどく困惑した顔で行ったのだ。
「駄目だ。思い出せない。」