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幕間:私を謀るとはいい度胸だ

 いい匂いもしたし、ぽかぽかと暖かかったし、すごくいい夢を見た気がするのに、起きたら最悪だった。


 翌朝、窓から差し込む光に目を覚まし、ううんと伸びをして周りを見ると、エルヴィラは覚えのない部屋にいた。

 いったいここはどこなのか。目を擦りながら身体を起こし、朝の鐘はまだだろうかと考えて……そこでようやく昨日のことを思い出したのだ。


 ベッドの上にはもちろん、毛布に包まったままの自分だけ。

 そのベッドの横にあるのは、自分の荷物だけ。


「え、あっ、ま、まさか……」


 ぱくぱくと喘ぐように口を開け閉めして、それからどうにか現状を把握して、あいつ、また逃げやがった、ということにようやく思い至った。

 やっとここで捕まえたと思ったのに、逃げやがったのだ。

 しかも自分を油断させて眠らせて。


 ギリギリとシーツを握り締める。

 身体がわなわなと震え出す。

 腹の底から笑いがこみ上げる。


 このエルヴィラ・カーリスを(たばか)るとは、クソ詩人め、いい度胸をしている。


「くっ……くくっ……ふ、は、ははは!」


 哄笑するエルヴィラの頭からは、既にあれほどだらだら泣きまくった事実など消え去っていた。迫られてキスされて胸を触られて、あれほど狼狽えて泣いてたこともすべて忘却の彼方だ。

 “はじめて”がどうこうだの“責任”がどうこうだのいうことも、この際関係ない。今は放っておく。


「ふふ……クソ詩人め……。

 あくまでも逃げるというならば、追い詰めてみせようではないか」


 肩を震わせて、なおも笑いながらエルヴィラは呟いた。


 このエルヴィラ・カーリスを舐めてかかるなどとは笑止千万。あの下郎には生きてることを後悔させてすらやろうじゃないか。

 細かいことなど後で考えればいい。今は湧き上がるこの怒りに身を任せ、奴を追い詰めるのだ。

 そうだ、父も母も勝ち取れと言ったではないか。自分だってカーリスの娘。あの猛将と謳われた祖父ブライアンの孫なのだ。見事勝ち取ってやるぞ。

 いったい何を勝ち取ればいいのかはよくわからないが、とにかく、吟遊詩人ミーケルをこのままにしては、自分の名折れであろう。

 とにかく、あのクソ詩人を捕まえるのだ。


 エルヴィラは拳を握り締め、昇る朝日と戦いと勝利の神の猛き御名に誓う。


「吟遊詩人ミーケル。私をこうもコケにした報い、その身に存分に味わわせてやろうではないか。このエルヴィラ・カーリスから逃げ切れると思うなよ。貴様など、貴様など……とにかく、首を洗って待つがいい!」




 さっそく門番に聞き回ったが、あの派手な男が町を出た痕跡は見つからなかった。ならばこそこそと姿を変えるか抜け出したかだろう。

 いずれにしろ、奴はそれほどまでに自分を恐れているのかと考えて、エルヴィラはくくくと笑う。

 町の出入りをするものたちにもところ構わず聞きまくり、どうにかあの詩人と思しき者を南への街道で見かけたことを突き止めた。

 さすが戦神のお導きだ。幸先がいい。

 エルヴィラはにんまりと笑うと、猛然と追い始めたのだった。




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