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女騎士にうっかり手を出したら、責任取れと追いかけてきた  作者: 銀月
“一攫千金の町”

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捕まえた

 “一攫千金の町”は、相変わらず多くの冒険者で賑わっていた。


 ただ“荒れ地”と呼ばれるこの地域には、“大災害(ディザスター)”で潰れた町が多く埋もれている。

 地割れに飲み込まれたり、嵐に吹き倒されたり、天から振ってきた大岩に押しつぶされたり……かの“大災害”では、ありとあらゆる災いが起こったのだけど、“嵐の国”に近いこの地域は特に酷かったらしい。

 そして、そうやって埋もれたままの町や城の跡には、未だ見つかってない宝がたくさん眠っているのだ。


 その地域に一攫千金を夢見る冒険者が集まるのも、“一攫千金の町”がこの名前になったのも、当然のことだろう。

 僕も、実家を出てから少しの間、ここで冒険者として過ごしたことがあった。

 もっとも、自分が冒険者に向いてるとはあまり思えなかったので、それほど長い期間ではなかったけれど。


「もう少しかな」


 約束の時間を知らせる鐘が鳴ってから四半刻(三十分)も経っていない。まだ、あいさつを終えて探索の話を始めたくらいだろう。

 もう少し時間を置いて、話が佳境を越えてから顔を出したほうがいい。


 アールたちに持ちかけたのは、つい先日、ここの前の町で足留めを食う原因になった“魔法嵐”で明らかになった遺跡の探索だ。

 その“魔法嵐”では地面が大きく揺れたせいで、近隣のあちこちで地滑りやら地割れやらが起こったという。そのおかげで、これまで埋もれたままだった遺跡が明らかになったのだ。

 それも、埋もれた町ではなく、どうやら大規模な建造物のようでもある、とも。

 おまけに、既に見つかっているどの遺跡とも繋がっていないらしい、と。


 地滑りの跡、口を開けていた洞窟の奥に入り口がある、好奇心旺盛な者がいなければ、今も誰にも知られなかったかもしれない遺跡だ。

 アールたちのような冒険者が、飛びつかないわけがない。




「皇竜神の神殿跡かもしれないと考えている。僕の願望が多分に入ってるけどね」

「皇竜神の神殿跡? 皇竜神の神殿なんて、あるんですか?」


 妖精族の魔術師コリーンが、眉を寄せる。当然だろう。皇竜神は、竜や竜人たちが信仰する神で、竜も竜人たちも基本的に神殿を作らない。

 訝しむコリーンに、僕は肩を竦めてみせる。


「かなり昔に聞いたんだ。この地域に、ひとつだけ皇竜神の神殿があったって。ただ、千年も前にはすでに廃墟になっていたから、残っているかは微妙なんだけれど……僕としては、その神殿跡だったらいいなと思ってね」

「つまり、ミーケルは、その神殿跡の場所が見つかった遺跡の辺りなんじゃないかと考えてるんだね」


 僕の話は、アールたちの好奇心をおおいに刺激したらしい。

 アールはもうすっかり行く気になったという顔で、確認をしてくる。


「確証はないよ。聞いた話じゃ、“大災害”前、“嵐の国”から“地母神の町”へ通じる街道から、南へ数刻程度の場所で、“荒れ地”の真ん中にあったっていうんだ。

 ちょうど、その遺跡のあたりの地域じゃないかと考えてるだけだしね」

「なるほど……確かに、位置的には合致するな」

「もし違ったとしても、興味深いことには変わりないよ。俺は行ってみたい」

「そうですね、私もこの目で確認したいです」

「これも神のお導きかもしれないよ。“旅の神”が行くべしと示しているのかもね」


 ナイエの言葉に、コリーンも頷く。

 森小人の司祭レフが、それを受けて大仰に述べた。


「じゃあ、決まりと思っていいかな?」

「あとは、町に着いたら“黒鎧の戦士ヴィン”か……たしかに、腕の立つ戦士なら、未知の探索に欲しい人材だね。私は問題ないと考えるけど、皆はどう?」

「構わないよ。俺が聞いた限りじゃ、そいつの評判は悪くないみたいだし」

「私も、構いません」


 話はまとまった。

 あとは、町に着いたら準備をして分配方法を決めるだけだ。



 * * *



「――そろそろかな」


 鐘から半刻(一時間)ほどすぎたところで、僕は腰を上げた。

 あらかじめ取っておいた部屋から出ると、アールたちが打ち合わせをしている部屋の扉を叩く。

 程なくして扉が開き、レフが「やあ」と手を上げた。

 すぐ奥から「待ってたよ」とアールの声もする。


「うん、待たせたね」


 卓上に広げたこの辺りの大きな地図の一点を示しながら顔を上げたアールに、僕は片手を上げて応じつつ、ぐるりと視線を巡らせる。

 黒い全身甲冑を身につけて頭からすっぽりとマントを被ったままの小柄な人影が、「え?」と小さく声を漏らす。


「やあ、戦士ヴィン。ひさしぶり。ここにいるのに連絡をくれないなんて、つれないことをするね」


 にっこりと笑いかけながら、僕はエルヴィラにゆっくりと近づいた。アールが「ヴィンとは知り合いなのかい?」と目を丸くする。


「そう、知り合いなんだ」


 上機嫌に頷くと、アールは詮索なんてやめておこうと考えたのだろう。「そうだったんだ」と引き攣ったように笑って、僕も座るようにと促した。


 すぐに打ち合わせは再開した。

 その間、エルヴィラはひと言も発さず、身じろぎひとつもせずに、ひたすら前の地図に目を落としたままだった。それでも、隙間も空けずにぴったり横に座った僕を、これ以上ないくらいに意識していることは窺える。

 きっと、筋肉しか詰まってない頭で、この場をどう逃れようか必死に考えているのだ。早々逃げられるなどとは思わないでほしいけれど。


「――ええと、じゃあ、出発は明後日の朝の鐘に合わせて。準備は各自でそれまでに済ませておいて」


 アールがそう締めたところで、エルヴィラはガタッと音を立てて立ち上がった。

 焦ったように扉を振り向いたところで、僕はその肩をガッチリと掴む。


「ヴィン」


 そう呼ばれて、掴んだ肩がびくりと揺れる。

 おそるおそる、ゆっくりと振り向くエルヴィラに、僕はにっこりと極上の笑みを浮かべて「ひさしぶりだね」と首を傾げ、フードの中を覗き込んだ。


「せっかくだし、少し話でもどうかな?」

「え、あ、う……」


 フードの中はフルフェイスの兜を被ったままで、表情は伺えない。けれど、目を白黒させながら魚のように口をぱくぱくしているんだろう。

 やりとりを呆気に取られて見ていた皆を振り返ると、僕はエルヴィラをしっかりと捕まえたまま、「また後でね」と手を振った。




 部屋を出たとたん、フードの中に隠れていたらしいアライトが飛び出して、「俺もあとでな!」と逃げてしまった。

 エルヴィラは「そんな」と小さく呟いて、僕とアライトの逃げ去った方向を交互に見て、「あの、ミケ……」と小さく僕を伺う。


「ゆっくり話ができるように部屋を取ってあるんだ。行こうか」

「えっ、でも」

「でもじゃないよ。それとも、こんなところで騒ぎたい?」

「う……」


 万が一にも振り解かれないよう、僕はエルヴィラの腕を掴み直して歩き出す。


「なんで……」

「なんでって?」

「な、名前も、変えてた、のに、なんで……」


 じっと伺うエルヴィラに、僕は軽く眉を上げる。

 まさか、アレで隠れていたつもりだったのか。

 まさか、名前だけ変えればごまかせると思っていたのか。

 あまりにも楽観的過ぎて、思わず溜息が口をついた。


「あのね」


 僕はエルヴィラの肩を押しやった。

 ひ、と小さく声を漏らすエルヴィラを逃さないよう、腕でしっかり囲ってそのまま壁に押し付ける。


「僕は詩人だよ。詩人の情報収集能力を見縊らないで欲しいな」

「う……」

「だいたい君、全然隠してなかったじゃないか。アレで隠れてるつもりとか、やっぱりその頭の中に詰まってるのは筋肉かいいとこ小石だよね」

「そ、そんな……」


 フードの奥を覗き、面甲の隙間から垣間見えるエルヴィラの表情に、自然と僕の口角が上がる。


「こんな邪魔な兜までしっかり被っちゃって。何を怖がってるのさ」


 面甲を持ち上げると、エルヴィラはいっぱいに目を見開いていた。

 以前のような夏空の青ではなく、血のように紅くなってしまった目を、これ以上ないくらいに見開いて僕を凝視している。

 そのエルヴィラの鼻を摘んで、僕は囁く。


「目立たないようにって、君が精いっぱい考えた結果がこれ?

 悪目立ちし過ぎだったんだよ。特徴がひとり歩きしててわかりやす過ぎだったね。それも、君以外の何者でもないと確信するくらいにだ」

「でっ、でも」

「こんなところで立ち話を続けたいの? 部屋を用意してあるって言っただろ。ほら、おいで」


 言い訳しようと口を開くエルヴィラを制止して、僕はまたエルヴィラの腕を引いて、部屋へと連れ込んだ。




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