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女騎士にうっかり手を出したら、責任取れと追いかけてきた  作者: 銀月
“一攫千金の町”

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今度は追いかけろ

 竜の背で飛べばほんの数日の距離でも、徒歩なら何日かかるのか。


 “太陽の国”をなるべく身を隠しながら進み、ようやく国境の町を出たころにはひと月が過ぎていた。

 エルヴィラの居場所はだいたいわかっているといっても、ここからが長い。


 幸い、僕のはったりが効いたのか、太陽神教会も王太子も、本気で追っ手を差し向けることはしていないようだ。

 ここから“荒れ地”の入り口となる“歌竜の町”まで、整備が行き届いているとは言えない街道を十日、さらにそこから荒れ地を迂回するように延びた街道をひと月半といったところだろうか。


「まったく、手間がかかるな……」


 ぽつりと零して、同行することになった隊商と歩き出す。

 旅慣れた僕であっても、この荒れ地の街道をひとりで歩こうとは思わない。乾燥して水場は少なく、もちろん治安も悪く――魔物や盗賊には事欠かない地域だからだ。この隊商だって、危険を避けるために、北方地域を目指す商人達が寄り集まって結成したものなのだ。

 僕は今回、水を作る魔法が使えるからと売り込んで雇われた側だ。




 立ち寄る町で、同行するメンバーを入れ替えながら街道を進む。

 護衛が足りないからと雇われているのは、自分同様、これから“一攫千金の町”へ向かうという冒険者たちだった。

 腕もまあまあで、性格も悪くない……というより、リーダーの戦士は人間だし、下級貴族か騎士爵家の次男とか三男とかいう立場ではないだろうか。所作も言動も育ちの良さを伺わせる。彼の仲間は、猫人の斥候と森小人の旅の神の司祭、それに妖精の魔術師と変わった構成だ。


「ミーケル、先日の魔法嵐で少し先が崩れたそうで、数日ここで足止めだ」


 その戦士、アールの伝言を聞いて、僕は溜息を吐く。順調ならあと二日もかからず“一攫千金の町”に着くのに、と。

 それに、せっかく良さそうな話を聞いたところだったのに。


「さすがに主要街道が不通じゃ町も困るって、今、急ぎの突貫で工事してるから、三日もあればなんとかなるだろうって話だけど」

「そうか……」


 もう一度僕は溜息を吐く。

 ここまで来たら、焦ってもしかたない。


「ところでアール、ひとつ、提案があるんだけど」

「ん? どんな提案かな?」

「実は、その魔法嵐で地面が揺れただろう? 新しい遺跡が見つかったらしいよ」

「――本当に?」

「ああ。しかもそこが遺跡の入り口だと気付いているのは、まだ極々少数なんだ」


 アールは瞠目し、ゴクリと喉を鳴らす。

 未踏の遺跡が見つかるなんて、冒険者にとったら一生に一度あるかないかの僥倖なのだ。当然だろう。


「その情報の見返りは?」

「僕も共に行くこと。それから、あともうひとり、戦士を入れること」

「戦士を?」

「黒鎧のヴィンと名乗っている戦士だ。聞いたことはあるかな? 腕は良いよ」

「うーん、ナイエならわかるかな? 私は正直そこまで噂には詳しくないんだ」


 アールは困ったように笑って肩を竦める。


「ただ、“吟遊詩人ミーケル”の情報だ。これに乗らないようじゃ冒険者の名が廃ると、私は思うよ。戦士ヴィンも、君がそう言うなら本当に腕の立つ戦士なんだろう? 未踏の遺跡探索に役者不足ってことはないはずだ」

「そこまで信用してもらえてうれしいね」

「噂に疎い私にも、“吟遊詩人ミーケル”の噂は届いてるってことだよ」


 アールは快活に笑って、「でも念のため、ナイエにウラは取ってもらうから」と言い残すと、さっそく仲間たちのところへと向かった。




「ねえねえミーケル。戦士ヴィンと知り合いなの!?」


 夜、急にやってきたナイエ……アールの仲間の猫人の斥候は、開口一番質問を投げ付けてきた。


「いや、戦士ヴィンとは(・・・・・・・)初めて会うよ」


 にっこり笑って返す僕に、ナイエはそっかあと残念そうだ。


「剣と太陽の紋章を刻んだ真っ黒い鎧に真っ黒い剣で、“猛き戦神と輝ける太陽神の名において――”とか騎士みたいな名乗りをあげる、変わった独り者の戦士だってね。どこかの騎士崩れじゃないかって聞いてるんだよ」

「へえ?」


 ナイエの話に、少し吹き出しそうになってしまった。エルヴィラは隠す気があるのだろうか……いや、たぶん何も考えてないだけだろう。


「俺たちが“一攫千金の町”を出た少し後に噂を聞いたんだよね。腕が立つっていうならどこかのグループに入りそうなんだけどひとりのままで、評判も悪くない。

 鎧の紋章から考えて、戦神か太陽神の信者だろうし、それなら実際に悪いやつじゃないんだろうなって」


 曖昧に笑って頷く僕に、ナイエもにやりと笑い返す。


「で、ミーケルはそいつと訳有りってことでいいのかな? 俺たち巻き込んで場を用意して、何かやろうとしてる?

 アールはアレだし、コリーンもレフもどっちかってとお人好しだしさ……何か悪いことじゃないんなら、ちゃんと説明してよ」


 僕は小さく吐息を漏らして、降参だとばかりに両手を上げた。

 たしかにアールは育ちのいいお人好しな戦士だ。けれど、それでも“なかなかの腕の冒険者”と言われるくらいには、この業界をうまく渡っている。

 つまり、彼自身はお人好しでも、仲間に目端の利く者――例えばナイエがきちんとサポート役をこなしているという証明だろう。


「僕もアールはともかく、君あたりが何か言ってくるだろうとは思っていたよ。

 たしかに、僕の提案は訳ありだ。だけど、君たちを騙すなんてつもりはないし、遺跡の話も本当のことだ。単に、“戦士ヴィン”を確実に押さえたいと思っただけなんだよ」

「確実に押さえたい?」


 ナイエが不機嫌な猫のように目を細める。

 いったいどういう意味なのかと問いかけるように。


「“戦士ヴィン”は義理堅いからね。僕じゃない誰かに依頼という話を持ちかけられて受けてしまえば、絶対に逃げ出さないだろうと考えたんだ。

 つまり、保険ってことだよ」

「ミーケル、そいつと初対面とか言ったけど……つまり、名前変えてから会ってないってことかな。金でも貸してるの?」

「――言うなれば、そんなところかな」

「金貸から逃げ出す“義理堅い戦士”ってなあ……」

「だから、訳ありってこと」


 片目を瞑る僕に顰め面を返して、ナイエはじっと考え込む。

 僕の情報と抱えている事情と……他にも諸々を天秤にかけているのだろう。


「その訳ありの訳って、ヤバいやつじゃないんだよな?」

「僕の名とリュートに誓って、ヤバいものじゃないことを誓おうか?」

「――遺跡の話は本物なんだろ?」


 ナイエの伺うような視線に、僕は笑って頷いた。この件に関して、彼らを騙そうとは考えていない。


「もちろん。僕が以前調べたことと今回の話を突き合わせると、そこが未踏の遺跡なのはほぼ確実と言っていい」

「ならいいよ。今回はミーケルの話に乗ってやる。で、戦士ヴィンにミーケルのことは内緒ってことでいいんだよな?」

「そうしてもらえると助かる」

「わかった。これ、アールには伝えておくから」


 ガタンと立ち上がったナイエは、尻尾を揺らめかせながらパタパタ走り去った。その背に手を振って、僕はナイエから聞いた“戦士ヴィン”の噂を反芻する。


 逃げておいてその振る舞いはなんなんだ。本気で逃げる気があったのか? それとも、僕がこうして追いかけることは想定済みだったとでも言うのだろうか。


「――おもしろくないぞ」


 戦うことしか能がないはずの脳筋(エルヴィラ)に転がされているようで、おもしろくない。

 たしかに、アライトが送ってくれる伝言のおかげであまり迷うことなく後を追っているけれど……


「立場が逆じゃないか」


 は、と短く溜息を吐く。

 エルヴィラのことだ、どうせいつもなら考えないような、余分なことを考えたに決まっている。たとえば評判とか、身体が変わってしまったこととか……変わったのは外見だけだと言って聞かせたのに、僕の言葉だけでは足りなかったとでも言うのか。

 僕の言葉が信用できなくて逃げ出したとか言うなら……


「どうしてくれようか」


 エルヴィラを捕まえたら、いったいどうやって落とし前をつけてくれようか。

 僕はそんなことを考えた。


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