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幕間:騎士魂?

「そういえば君さ、なんで自分が決闘やるなんて言い出したんだよ」


 水路の町を出て海沿いの街道を歩きながら、ミーケルはふと思い出したというていで尋ねる。答えなんてわかり切ってるが、それでも聞いてみたかったのだ。


「そんなの、私が騎士だからに決まってるぞ。決闘は騎士の仕事なんだ。それに、ミケを守るのは私の役目だしな!」


 エルヴィラは得意そうに胸を反らして断言した。

 しかし、その決闘とは、ミーケルがアライトから持ちかけられたエルヴィラを賭けた決闘ではなかったか。


「あれは僕が申し込まれたんだと思ったけど?」

「ミケは吟遊詩人のくせに知らないのか。戦士でも騎士でもないやつが決闘するときは代理を立てるものなんだぞ。

 だいたい、私に関わる決闘だったんだ。私自身が戦うのがスジじゃないか」


 エルヴィラはますます得意そうにふふんと鼻を鳴らす。


「自分を賭けた男同士の決闘に出張ってくる当事者の娘が、どこの世界にいるのやら。少なくとも、僕の知る物語には皆無なんだけどね」

「ここにいるじゃないか。ミケは吟遊詩人のくせに、想像力が足りないんだな」


 何しろ自分は世界(アーレス)で一番かっこいい騎士になるんだからと、エルヴィラは笑う。


「――そうだ!」

「ん?」

「この私の勇姿は歌にして構わないからな! しかも竜との一騎打ちだ。兄上にも自慢できる!」


 エルヴィラは拳を振り上げて雄叫びを上げかねない勢いだ。竜との一騎打ちが、よほど楽しかったのか。

 ミーケルは大きな溜息を吐こうとして、「ま、いいか」と呟いた。

 “水路の町”で吹聴したのは、決闘で見せたあの竜の情けない顛末のことばかりだ。ほとんど嫌がらせ目的に作った歌で、エルヴィラの戦い振りにはあまり言及していない。

 “竜と女騎士の一騎打ち”なんて聴衆の好む題材だ。

 この際、エルヴィラのいろいろと残念なところは抜きにして歌にまとめるのはいいかもしれない。


「そうだね……君の勇姿がどうとかはともかく、歌の題材としてはおもしろいかもね」

「そうだろう!」

「だから、君、声でかすぎだって」

「声がでかいのはいいことなんだ!」


 エルヴィラは我が意を得たりとばかりに声を張り上げる。

 すぐ側を歩いてるのに、なんでいちいち叫ぶのか。


「耳がバカになるから普通に話せっていつも言ってるだろう? ほんとうに、君って剣を振る以外が残念で仕方ないよね」

「なんだと!」


 いつものようにぎゃんぎゃん言い返そうとして……しかし、エルヴィラはにやりと笑った。


「まあいい。歌にするということは、ミケにもようやく私の強さを実感できたということだからな。

 かわいくてかっこいい女騎士のエルヴィラ様を讃える歌か……楽しみだな!」


 くっくっくと笑って頷くエルヴィラの姿に、ミーケルは、心の内からみるみる意欲が消えていくのを感じる。


「――どうしようかな」

「何がどうしようなんだ」

「なんか、やる気がなくなった」


 エルヴィラが、むうっと顔を顰め、いったい何のやる気がなくなったんだ、と首を傾げる。


「ミケ、お腹が空いたのか」

「なんでだよ」

「お前がやる気が出ないという時は、だいたい食べ物が気に入らない時か腹が減ってる時だからな」

「ひとのことだと思って適当言うなよ」

「そんなことはない。いつもだぞ。それで何かおいしいものを食べれば、すぐ機嫌が直るんだ。さすがにここは街道の真ん中過ぎて何もないから、夕食まではがまんするんだぞ。夕方には次の町に着くんだろう?」


 はあっとこれ見よがしな大きな溜息を吐いて、ミーケルはエルヴィラの顔をじっとりと見返す。

 それから、別にお腹が空いたわけじゃない、と言い返そうとして……竜との戦いを反芻しながら好き勝手に自分を讃え始めるエルヴィラに、何か言い返したところで面倒なだけだなと考える。


「ミケ、聞いてるのか!」

「はいはい、聞いてるよ」

「本当か!」


 自分を歌にするなら、ぜひこういうのを入れてくれ……みたいなことをあれこれ言っていた気がするけど、もちろん聞いていなかった。

 エルヴィラが実際に格好良いかどうかは置いておいて、どうせ、歌にうまくまとまる目処が立つまではいつものように放っておくつもりだったのだし。


 それに、今すぐ歌にする必要もない。旅はまだ続くのだから。


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