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女騎士にうっかり手を出したら、責任取れと追いかけてきた  作者: 銀月
“古城の町”

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25/49

幕間:姫詩人

 ミーケルの熱が下がったのは、ハーピィ騒ぎがあった日からさらに三日後だった。


 ようやく怠さも寒さも熱さもなくなり身体がすっきりとしたが、体力は落ちたまま戻っていない。全部で六日間、ほぼ寝たまま過ごしていたのだから当然だ。

 それでも、これでようやく念願の“岩小人の町”に向かえるとあってか、ミーケルはすこぶる上機嫌だ。




「あ!」

「あ、姫詩人の兄ちゃんだ! 元気になってよかったな!」

「……誰が、なんで姫なんだよ」


 宿から外に出たとたん、ふたり連れの子供が走り寄る。

 あのハーピィから助けたバートンと、連れのアリスだ。


「だって、姉ちゃんに姫抱っこされて戻ってきたし、姉ちゃんかっこよかったし」


 戦いの直後、熱がぶり返してひっくり返ってしまったミーケルを、エルヴィラが横抱きにかかえて町まで運んだから“姫”なのだと言う。

 ミーケルの頬がぴくりと引き攣った。

 いつもなら荷物のように肩に担ぐくせに、どうしてその時に限って横抱きなのか。やはりエルヴィラは何も考えていないと、ミーケルは苛立たしい。


「姉ちゃん、お姫さまを抱っこしてる王子さまみたいだったんだぜ!」

「しかも抱っこしたまま、すげえ勢いで走って山下りるし、さすがだよな!」

「なー!」

「なー!」


 顔を合わせて楽しそうに笑いあう子供の言葉に、ミーケルの眉が寄る。

 姫とかなんとかやめてほしい。そういうのは求めてない。

 眉間に皺を寄せたまま、引き攣った微笑みを浮かべたミーケルは、ふたりにぐいと顔を寄せた。


「そういうのは今すぐ忘れるんだ、いいね?」

「ええ?」

「なんでー?」

「兄ちゃん、顔だけ見たらお姫さまみたいにきれいなんだし、いいじゃんか」

「そうだよ。兄ちゃん美人だしさあ」

「うん、だから忘れようね?」


 たちまち不満げに口を尖らせるふたりに、ことさらににっこりと笑う……が、そのミーケルの頭を、いつの間にか出て来たエルヴィラがぽこんと叩いた。


「何するんだよ。君の馬鹿力で叩かれて、頭の骨が歪んだらどうするんだ」

「お前の頭の骨なんかどうでもいいが、子供をいじめるのはやめろ」


 ぶつくさと文句を溢し続けるミーケルに、アリスとバートンがくすくす笑う。やっぱ騎士の姉ちゃんはかっこいいなと言って。

 ちぇ、とミーケルは舌打ちをする。ぷいと顔を背けると、不機嫌そうに、「もういいよ、行くよ」と歩き出した。


「じゃあな、ふたりとも。いいか、もう無茶な肝試しはするなよ」

「わかってるよ姉ちゃん。姉ちゃんも、姫詩人の兄ちゃんと仲良くな!」

「任せろ!」


 エルヴィラはふたりに手を振ると、よいしょと荷物を担ぎ直して急いでミーケルの後を追った。



 * * *



「ミケ、ミケ、なんでそんなに不機嫌なんだ」


 すたすた早足気味に先を歩くミーケルに、追いついたエルヴィラが不思議そうに首を傾げた。ぴたりとミーケルの足が止まり、眉間に思い切り皺を寄せたままぐるりと振り返る。目を眇め、まるで「おもしろくない」と書いてあるかのような不機嫌な表情だ。


「君のせいで僕に変な呼び名が付いた」

「いいじゃないか。姫なんだぞ」

「どこがいいんだよ」

「アリスの言うとおり、姫だと思えばお前の勝手な言動にも腹が立たないんだ。すごく不思議だな!」

「――だいたい、なんで横抱きなんだよ。自分よりでかい男を横抱きにして山を走り下りる女なんて、聞いたことないね」

「だって仕方ないだろう。奴の爪のせいで、鎖帷子(チェインメイル)の背中に大穴が空いてたんだぞ。肩に担いだら、お前をほつれた針金に引っ掛けてしまうじゃないか」

「はあ?」

「さすがでかいだけあって、あの爪は馬鹿にできない鋭さだった。まあ、私の敵ではなかったけどな!」


 ミーケルの表情がたちまち呆れたものに変わる。


「君、それ、鎧だけで……」

「それにお前はヒョロいから、軽いもんだったぞ! さすが姫だな!」


 鎧だけで済んだのか、と確認しようとした言葉を遮って、エルヴィラは、ふはははとあの城で聞いたような高笑いを上げた。バシバシとミーケルの背を叩きながらひとしきり笑って、機嫌よくミーケルの肩をがしりと引き寄せる。


「ミケは女みたいに軽かったから、“姫詩人”というのも納得だ。アリスたちはなかなかうまいことを言うと思わないか」

「――ああ、そう」


 やっぱり助けになんか行くんじゃなかった。

 あのまま放っておけばよかった。


 ミーケルの眉間の皺の数が三本に増える。

 肩にがっちり掛けられたエルヴィラの腕を乱暴に振りほどくと、ミーケルはくるりと踵を返してまた早足に街道を歩きだした。


「おい、ミケ、少し速すぎるぞ!」

「君がどんくさいんだよ」

「何! なら勝負するか!」

「君みたいな体力馬鹿とする勝負なんかないよ」

「なんだと!」


 ぎゃんぎゃん騒ぐエルヴィラを無視して、ミーケルは“岩小人の町”めざし、ひたすら歩き通した。


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