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女騎士にうっかり手を出したら、責任取れと追いかけてきた  作者: 銀月
“地母神の町”

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幕間:いいぞ、護衛してやろう

「その、言葉遣い」

「うっ」

「何度言えばわかるんだよ」


 朝、また白ソーセージを食べながら、ミーケルがじろりとエルヴィラを睨んだ。

 しょぼしょぼと眉尻を下げながら、それでも、エルヴィラも白ソーセージをしっかりと頬張った。


「それにさ」

「な、なんだ」

「“なんですか”だよ。それはともかく、君はそんなに口いっぱいに頬張って、みっともないとか思わないのか」

「だ、だって、おいしいんだから、しかたない」

「しかたなくなんかない。本来、淑女を目指すというなら、上品に小鳥が啄むように食べるのが本当だ。君の場合、犬か猫が皿から掻っ込むみたいにばくばく勢いよく食べてるじゃないか」

「きっ、騎士はお腹が空くんだぞ! だから、ちゃんと食べられるときに食べないといけないんだ! そんな食べ方じゃしっかり食べられないんだ!」


 むうっと眉を寄せて、それでも食べるのを止めないエルヴィラに、ミーケルは大きく溜息を吐いた。こいつ、本気で淑女のマナーを身につける気があるのだろうか。


「君がちゃんと夫とやらを捕まえてくれなきゃ、僕が困るんだよ。いつまでもいつまでも付いてこられたら鬱陶しいの、わかるよね?」

「なんだと! 私が鬱陶しい奴だと言う気か!」

「鬱陶しい以外のなんだって言うのさ」


 注文した服が出来上がるまで、あと10日ほどだろうか。

 ここまで約半月の間、あれこれと特訓を重ねてきたが、意外にも身体を動かすことならどうにかなった。ダンスの飲み込みもいいし、多少複雑な程度のステップなら身体で覚えられた。


 だが、これだ。頭を使うことになるといきなりこれだ。


 淑女の話術やら口調やらは早々に諦めた。どう教えても覚えられず、とんちんかんなことまで口走り始めて、収拾がつかなくなってしまうから。

 だから、せめて丁寧に喋らせようとしても、いっこうに身につかない。

 覚える気、あるのか? と疑うくらいに覚えない。

 やっぱり脳味噌まで筋肉が詰まってて、筋肉でものを考えるタイプの人間には無理なのだ。マナーだなんだというものを身につけるのなんて、高望みすぎるのだ。

 これで、本人が言うような“素晴らしい男”なんか、捕まるわけないだろう。


 ミーケルはもういちど、盛大な溜息を吐く。


 そもそも、これでよく侯爵家なんかに出仕できてたな……と考えて、そういえば、あの屋敷でエルヴィラが喋ったところを見たことがなかったのを思い出した。


「……君さ、そういえば、侯爵家ではどうしてたの。言葉」

「ん? ええと、姫様に、お前はあんまり喋らなくていいって言われたから、ずっと黙ってたぞ」


 ミーケルは呆れた顔でエルヴィラを見つめた。


「な、なんだ。だって、姫様が言うんだから、しかたないだろ」

「あの姫にも呆れたけど、君にも呆れた。なんだってあんな姫の護衛騎士なんかになったのさ。他にもっとマシなところあっただろうに」

「む。侯爵閣下から依頼されたんだ。もういっこある護衛騎士家の女騎士が他のとこに出仕することになったから、うちに頼みたいって」

「ああ、なるほどね」


 そういや、カーリスと並ぶ名家の女騎士が、どこぞの教会の高神官付になったという話は耳にしていた。侯爵家はそっちを狙ってたのに先を越されたから、しかたなくこっちにしたというわけか。

 せっかくの騎士の名家から迎えておいてあんな姫に仕えさせるとは、なんてもったいないことをするのかと思っていたが、そういうことかとミーケルはやっぱり呆れた。


「で、“十大貴族(メイヤー)”直々の依頼で断れずってことか。どうりで、向いてなさそうなのに、あんな姫に仕えてたはずだ」

「なんだと! 私はしっかり姫様を護ってたぞ!」

「はいはい。君の場合、侯爵家は見事な宝の持ち腐れになってたけどね」

「私の持ち物は何も腐ってないぞ!」

「そんなこと言ってないよ」


 唸りながら、エルヴィラは卓上の籠に手を伸ばし、パンをひとつ取った。


「ま、君はあそこの護衛騎士なんて辞めて正解だったと思うよ」

「なんだと! 私の腕が悪いっていうのか!」


 むむむ、とエルヴィラがパンを齧りながら眉を寄せる。

 だから、パンは齧らずちぎって食べろと言っているのに、どうしてできないんだとミーケルも眉を寄せる。


「そんなこと言ってないだろ。これでも、僕は、君の騎士としての立ち居振る舞いはなかなかだと評価してるんだ。身体を使うことは得意みたいだし、ああもきれいに鳩尾に拳入れられたこともなかったからね」

「なに? ほんとうか? お前もやっと私が素晴らしくてかわいいかっこいい最強の女騎士だと認める気になったのか?」

「……素晴らしいとかはともかく、少なくとも、君が付いてくるつもりで騎士だと言うなら、僕の護衛役くらいはやってもらわないと困るんだよ。お荷物連れて歩くのなんかごめんだからね」


 はたして、ミーケルの言ってることをどれだけ聞いているのか。

 エルヴィラはふふんと笑ってまたパンを齧った。


「仕方ない。お前はヒョロくて弱いし、護衛くらいやってやろう。このエルヴィラ・カーリスがきっちり護ってやる。安心して旅をしろ」


 その自信はどこから出てくるのか。どう考えてもいちばん危険なのはエルヴィラ自身のような気がして、ミーケルは、もしやこれは前途多難というものなのじゃないかと、また大きく溜息を吐いた。





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