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Another Dimension Story  作者: Taro
第一章
8/32

過去

――― …どれ程の記憶を、オレは無くしているのだろう… ―――


 アドルフ率いる大魔導師討伐隊をエカチェリーナが殲滅した後、オレたちはログハウスの中に戻り、テーブルを挟んで座っていた。


「あの~… 、これからどうするつもりなんですか… ? みなさん… 」

 不安そうにリサがオレたちに尋ねた。確かに… 。この世界の三大勢力であるルーシアン帝国、その実質トップを倒してしまったのだ。もう後には退けないだろう… 。


「実はね~、ミウもこれからどうするか考えてないだよねっ! 

 なんとかなるでしょ! 

 というよりも、ミウたちにはこの世界でも指折りの天才軍師がいるから大丈夫なのだ! 」

 ミウは自信有り気に言った。そういえば、宣戦布告の時、ミウには眷属がいるような事を言ってたような気がする。


「あ、そうなんだ。良かったぁ~ 」

 ミウの言葉にリサは少し安心したようだ。


「ということで! 『知を司る女神』リサっち! あとの事はよろしくっ! 」

 世界を相手に宣戦布告した張本人であるミウは屈託のない笑顔でリサにそう告げた… 。しかも他力本願だったのかよ… 。


「えーーーーーーー!! 私ですかぁーーーー!! 」

 まぁ… 、リサとしては当然のリアクションだよな… お疲れさん… 。


「ミウ、あなた… そんな後先考えずに勢いだけで突っ走るなんて… 。若い頃の私にそっくりね。」

 エカチェリーナはミウの頭を撫でながら穏やかに言う。諌めるどころか褒めるのかよっ! やはりこの親子は何かが違うとオレは思った… 。


 しかし、ミウが言うことにも一理はある。オレたちが力技で世界を相手にしても、埓が明かないのは確かだろう。今後オレたちはどうしていくか? それはリサに任せることにした。


 しばらく時間が経つと、リサは戦略を練るための資料が欲しい、という事でミウに連れられて地下にある図書室に行ってしまった。地下にはいくつかの部屋があるようだったが、まさか図書室まであるとは思わなかった。地下から戻ってきたミウは、破壊されたゴーレムの修復をすると言って、外へ出て行ってしまった。そんな状況の中、オレは何をしたら良いのかわからず椅子に座ったままだ。どこか落ち着かないオレの様子を見たエカチェリーナはオレに声をかけてきた。


「フーガ様、今日はゆっくりとお休みになられて下さい。

 地下に寝室がございますので、ご案内致します。」

 そう言うと、エカチェリーナはオレを地下の一室に案内してくれた。扉を開けると奥にはベッドがあり、豪華なソファや高そうな調度品がとても綺麗に整理されていた。窓こそ無いが、高級ホテルの一室を思わせる部屋にオレは驚いた。


「私も少しばかり、やらないといけない事がございますので、これで失礼致します。

 ごゆっくり、おやすみなさいませ。」

 そう言って、エカチェリーナは深々と一礼をして部屋から出て行った。


(なぁ、ゼロ。なんかオレだけ何もしなくて本当にいいのかなぁ??

 なんかできる事ないかなぁ? )


「マスターはマスターの思うように行動すればいいと思いますよ。

 無理に何かをする必要はないと思います。」

 

(なんか答えになっているような、なっていないような微妙な感じだな… 。

 そうだ! ゼロ! 

 オレの過去の事ってわかるのか? 教えて欲しいんだけど! )


「もちろん、マスターの過去の事はわかりますけど… 」


(けど?? 「けど」何かあるのか?? )


「マスターの過去を教えることはできないんです、ごめんなさい… 」


(え? なんで??? )


「……… 」


(ゼロがオレの質問に答えてくれないなんて… 、よっぽどの事情があるのか? )


「マスターに過去の事を教えてはいけないというのが、ゼータからの指示なんです。

 教えることが可能な過去もありますけど、基本的には教えることができません。

 僕たちに与えられた役目は、今のマスターがやりたい事をサポートしながらお守りすることなんです。」


(ふ~ん… 、じゃあ… 、ゼータって何者なんだ?? )


「ごめんなさい。それも言えません… 」


(そっか… )


 これ以上ゼロに質問攻めをしても、なんか可哀想に思えてきたオレは、とりあえず寝ることにした。自分の事も含めて、この世界の事での疑問が多すぎる。それが気になっていた為か、オレの眠りは浅かったようだ。しばらくすると何か気配を感じたので目を開いた。


「ちょっ!! エ! エカチェリーナさん! 何してんですかっ!!! 」

 

 オレはかなり驚いた。というのも、目の前にはエカチェリーナの顔があり、全裸でオレに添寝をしていたからである。こんな最高な出来事はない! 素晴らしいことだ! そのままいっちゃえ! と、一瞬オレの本能は思ったが、理性は簡単には許してくれなかった。余りにも予想外の出来事に思わず驚きの声を上げると、エカチェリーナは両手でオレの左右の頬を軽く抓り外側に引っ張った。


「『さん』だなんて他人みたいで酷いですわ… 。

 私はあなたの妻なんですよ。

 それに… 

 前みたいに全然私に甘えてくれないし、寂しいですわ… 」

 

 ほっぺたを軽く膨らまし、ちょっとスネた感じでエカチェリーナは言った。普段の振る舞いからは想像できない甘えた感じ… 、これこそギャップ萌え。


「えっと… 、その事なんだけど… 」

 エカチェリーナがオレの妻であったことは状況からわかってはいるのだが、オレには彼女と過ごした記憶がない。罪悪感に駆られたオレは正直に話そうと思った。


「実はね… 、エカチェリーナさん… 

 オレ、記憶喪失らしくて本当は何も覚えてないんです… 、ごめんなさい… 。

 さっきのアドルフとの戦いでミウが貶されていた時も、何の事だかわからなかったし… 。

 腹こそ立ったけどオレは何もできなかった… 。

 娘の事を何も知らないし、守ってやれないオレは父親としても失格だと思います… 」

 最悪、殺されるかもしれないと思いながらもオレは正直に言ってしまった。


 エカチェリーナはオレの頬に添えていた手を離し、上体を起こした。

「そうですね… ではまず… 

 ミウの過去の事についてお話させて頂きますね。

 少し長くなるかもしれませんが、よろしいですか? 」


「もちろんです。今のオレは知らない事が多すぎるのでお願いします。」

 オレは素直にそう思った。

 

「あの子は、私のワガママを聞いてくれたあなた様が授けてくれた、私の大事な宝物なんです。

 ミウが生まれた時には、あなた様はもうこの世界にはいませんでしたから… 。」

 …

「あの子が生まれてから、身を守る術として魔法も教えながら十年程ここで私が育てました。

 魔物に襲われては大変ですからね… 。 

 あなた様と私の血を引いているだけあって、十歳になる頃には第三階位魔法をすでに使えるようになっていました。

 生まれつき備わっている魔力は相当なものだと今でも思います。

 ただ… 、

 当時は私が少し厳しく子育てをしていたこともあって、未だに私の事を怖がっている様な素振りを見せる時があるのが悲しいのですけれどね… 。」

 … 

「その頃になると、この世界をミウに知ってもらう為に、ミウを人間の村の学校へ通わせました。

 今まで私たちだけであの子を育ててきた事もあって、ミウにとっては新鮮だったのでしょう。

 元々、人懐っこい性格もあり、毎日学校に行く事をとても楽しんでいました。

 そんな日々が一年ほど続いたと思います。」

 …

「ある日、ミウは泣きながら帰ってきて私にこう言ったのです。

『ミウがみんな殺しちゃったぁああ! 

 仲が良かった友達も! 

 いつもパンやお菓子をくれる大好きだったおじちゃんやおばちゃんも!

 みんなミウが殺しちゃったぁああ!! 』と。 」

 …

「その時の事は今でもはっきりと覚えています。

 いつもニコニコしていて人懐っこい私の大好きなミウが、

 大粒の涙を流して、顔もクシャクシャになっていたのですから… 。

 私はそんなミウの姿を見ていられませんでした。」

 …

「事の原因は、どうやら父親の事をからかわれた事のようです。

 腹が立ってしまったミウは思わず魔法を使ってしまって、その子を殺してしまいました。

 普段からずっと『あなたのお父様はとても素晴らしくて偉大な人間ですよ』と私が教えてきたこともあったからだと思います。

 ミウ自身も相手を殺すつもりはなかったようなのですが、マギアウラを制御できなかったのでしょう… 。」

 …

「そうなると、魔女が本性を現し子供を殺したという事で、村は大騒ぎになりミウは大勢の村人から襲われました。

 するとミウは、今度は恐怖の余り第三階位魔法を発動させてしまったのです。」

 …

「私はミウから事の経緯を聞いた後、村の様子を見に行きましたが、村は壊滅していて何も残っていませんでした。」

 …

「それ以来、ミウは魔法を使うことをやめ、人間に会おうともしなくなってしまいました。

 そこで私は、ミウを人間としてではなく、今度は魔族として生きさせようと思いました。

 魔族なら魔法を使っても大した問題にはならないと思ったからです。

 良かれと思って、私はミウを魔族の通う学校へ通わせたのですが、どうも馴染めなかったようです。

 今度は私の部下を常にミウに同行させていたのですが、話を聞く所によると、魔族たちの中に居てもミウは魔法を使うことは全く無く、そのことで色々とからかわれ、いつも独り寂しく学校生活を送っていたそうです。

 部下からの進言もあり、私はミウを魔族の学校に通わせることを辞めさせました。」

 …

「魔族の学校を辞めて以来、何があったのかはわからないのですが、ミウは地下の図書室に籠るようになり、何かに取り憑かれたかのように魔法の勉強を始めだしました。

 村を壊滅させてしまって以来、魔法を使う事をあれほど拒んでいたのに… 。

 そして、ミウはこの地に人間や魔物を寄せ付けないための結界を作ったのです。」

 …

「ミウが結界を張って数年ほど経ったある日、森に迷い込んだ幼い人間の双子がいました。

 彼女たちが魔物に襲われているところに、たまたまミウが出くわしたそうで助けたらしいのです。

 ミウはおそらく、また『魔女が現れた』と人間に恐れられるのだろうと思っていたようなのですが、双子の姉妹はミウを怖がることなく、ずっと感謝しお礼をしていたそうです。

 ただ、せっかくミウに命を助けてもらったものの、その双子には帰る場所がありませんでした。

 ミウはそんな双子を不憫に思い、私たちと一緒に暮らす事にしました。」

 …

「それから更に数年が経つと、幼かった双子は成長し、見た目はミウと同じ歳頃になりました。

 ミウはあなた様と私の血を引いている影響のためか十歳頃から肉体はほとんど成長していませんし、今でも精神的に幼いままです。

 もちろん人間とは寿命も違います。

 ただ、精神的には幼いミウですが、知識は生きてきた分だけ持っていました。

 そう、ミウは人間である双子が歳を重ねていき、百年もしないうちにミウよりも先にこの世からいなくなるのを恐れたのです。

 そこでミウは双子の姉妹と契約を交わし眷属にしたのです。

 わかりやすく言えば魔族にしたということです。」

 …

「数十年、ミウは双子とともにこの地で平穏に過ごしていたのですが、ミウが百歳位になった時、突然、旅に出ると言い出しました。

 今まで閉じこもっていたので世界を見て回りたいと。

 その時にミウは私に尋ねました。

 『お母さんが一番望むことは何? 』と。

 私は、ミウが楽しく幸せに生きてくれればそれで良いと答えましたが、どうも納得してくれなかったようなので正直にこう答えました。

 『もし叶うのであれば、今でもずっと愛しているあなたのお父様に会いたい』と。」

 …

「そしてミウは双子の姉妹と一緒に三百年程、この世界を旅してきました。

 もちろん心配だったので、護衛・報告役として私の部下を同行させました。

 ただ、ミウが旅立ってから私の心には、何かぽっかりと心に穴が開いたような感じになってしまったので、しばらく眠ることにしました。

 たまに部下からの報告で、ミウたちが無事である事と、楽しく旅をして過ごしているという報告を楽しみにしながら。

 そして、ミウたちが帰ってきたのは本当につい最近のことです。

 私はすぐに眠りから目覚めてミウたちに会いたいと思ったのですが、部下が言うには、ミウには何か考えがあるらしく、ミウの為にもしばらく寝たふりをしていてほしいと言われたので、棺桶の中で眠ったふりをしていました。」

 …

「そしてミウに呼ばれて目覚めると目の前にはあなた様がいました。

 あとはご存知の通りです。」


 エカチェリーナはミウの事について話をしてくれたが、オレはなんて言葉をかければ良いかわからなかった。そして、まだ一つ解決できていない疑問がオレにはあった。なぜエカチェリーナはオレを本物のフーガであると認識したのかということだ。


「なんでオレが本物のフーガだと思ったんですか? 

 ひょっとしたら人違いかもしれませんし… 」


「見た目はフーガ様そのもの。

 ですが、いろいろと化けることができる種族もいますし、私自身、まさか本物のフーガ様が現れるなんて思ってもいませんでしたので、少し試させて頂きました。

 あの時は本当に申し訳ございませんでした… 、反省しています… 」

 そう言うとエカチェリーナは、オレを疑った事を思い出したのか反省モードに入りだした。


「いやいや… 、本当にもう良いですから、ね、ね! 」

 オレはなんとかエカチェリーナをなだめて、話の続きを聞かせてくれるようお願いした。


「すみません… 、えっと… 、

 あなた様が本物のフーガ様であるとなぜ私がわかったかという理由でしたね。

 まず最初に、普通の人間に私を吹き飛ばすことなんてできません。

 そして、あなた様は「リヒト」を使いました。

 これは「ゼロ」を宿しているあなた様にしか使えないものです。

 それに、まだ名乗ってもいない私の名前を知っていただけではなく、愛してると言ってくれました。

 更に言えば、ミウがあなた様のことを『伝説の魔神』であると言っていましたからね。」 


「ゼロの事を知っているんですか?! 」

オレは驚いた。ゼロはオレにしか聞こえない声の主であり、その事はミウとリサにしか伝えていなかったからだ。


「もちろんです、私はあなたの妻ですよ。」

エカチェリーナは笑顔でそう答えてくれた。


「本当にごめんなさい!

 実は『愛してる』と言ったのは、オレの記憶が残っていたのではなくて、エカチェリーナさんが自分の嫁さんであるということが信じられなかったオレに対して、ゼロが『愛してる』と言ってみたらわかる、という事で言ってしまったんです… 。

 名前もゼロに教えてもらっただけで… 。

 本当にごめんなさい… 」


 オレがそう言うとエカチェリーナはオレの頭を撫でて聞いてきた。


「今のあなた様から見て、私は一人の女性としてどのように映っていますか? 」


「それは…  え~っと… 

 すごく魅力的で、色っぽいなお姉さんみたいな感じがしてて… 

 本当にオレの好みの女性です… 」


 オレがそう答えると、エカチェリーナは顔を赤くし、ベッドから離れて、照れていることをオレに隠すように無言で服に着替えだした。しばらくの沈黙が続いた後、彼女はこう言った。


「… 

 今のあなた様からその言葉を聞けただけで十分過ぎる程私は幸せです… 

 だって、あなた様が私の事を覚えていないのは当然と言えば当然なのですから… 」


「あの… 、エカチェリーナさん、当然とはどういう事なんですか? 

 何の事かさっぱりわからないんですけど… 」


「あなた様が記憶を無くされているのは、実は、あなた様の意思で望まれたことなんですよ… 」


 どういう事? オレが自分で望んだ事? さっぱりわからん! 頭混乱してきたわー! と思っていたオレの頬にエカチェリーナは軽くキスをしてきた。


「それはそうと… 

 今度、私の事を『さん』づけで呼んだら本当に拗ねますからね。」

 … 

「みんなが上で待っています。

 フーガ様、朝食にしましょう。」

 そう言ったエカチェリーナはとても嬉しそうだった。


とりあえず、オレは自分が一体何者なのか? ますます不安になってきた。

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