覚醒
――― …どの位の過去をオレは知っているのだろう… ―――
「ねぇねぇ! 風牙く~ん! ミウのさっきの宣戦布告どうだった!? 上手に言えてた?」
人生終了のフラグが立ち、机にうなだれているオレに、ミウは無邪気な笑顔で聞いてきた。「うん、上手に言えていたよ」って言えばいいのか!? どこの世界に宣戦布告の出来を褒めるやつがいるんだよ! てか… リサと一緒に此処に戻ってきてから、ミウの喋り方とかキャラ変わってね?? まぁ、そんな些細な事よりも、今は大変な事態になっているんだ。軽く流そう… うん! そうしよう!
「うん! 上手に言えてたね! 」
内心は呆れながらもオレは満面の笑みで答えた。そして一つわかった事がある。この世界には宣戦布告の出来を褒めるやつがいた… それがオレだ。オレの言葉にミウは大喜びだ。その横でリサは平然としている。というよりも、むしろミウの喜んでいる姿を見ながら軽く微笑んでいる… こんな異常事態なのに二人とも頭おかしいんじゃないのか? ま、オレもか… 。ミウのテンションがある程度落ち着く頃合を見て、いろいろと聞いてみることにした。質問したい事が山盛りだ。
………
……
…
いろいろと話が、ぶっ飛び過ぎて付いて行けない… 。
まず、この世界の全国家に対して宣戦布告をした理由。それは、この世界を治めるにふさわしいのは『伝説の魔人』であるからだそうだ。どうやらミウは完全にオレのことを『伝説の魔人』だと思い込んでいる。
次に、ミウがオレの事を『伝説の魔人』であると思い込んでいる理由だ。
一つ:大森林から生きて帰ってきたこと
一つ:魔物に遭遇していないこと
一つ:魔法詠唱無しで魔法を発動させたこと
一つ:普通の人間ではあり得ない身体能力を持っていること
一つ:他人には知り得ない部下がいること
一つ:『伝説の魔人』の名前が『フーガ』であること
以上である。
この大森林には魔物がいるので、普通の人間が結界の外に出れば、まず生きては帰って来れないらしい。そして、この森林に生息しているのはゴブリン種とコボルト種のみ。そう、オレはこの二種族に遭遇していない。スケルトンに遭遇はしたが、それはリサの暗殺を狙ったアドルフの部下である。そして、オレだけに見えていた一本道。それは『伝説の魔人』の力ではないのか? というのがミウの見解である。
あとは、魔法詠唱無しで大爆発を起こし、無傷であったこと。スケルトンの振りかざした剣を指二本で止めたこと。今更だが、確かに普通では無いと我ながらに思う。そして、スケルトンに襲われていた時に聞いた声… 。オレの事をマスターだと言っていたし、何となく聞き覚えがある声だ。そして、リサには全く聞こえていなかった。
最後に、追い打ちをかけるように『伝説の魔人』の名前が『フーガ』って!! なんだか、オレって本当に『伝説の魔人』なんじゃないかと思えてきた… 。
あと、『知を司る女神』というのはリサの事である。幼い頃から何でもわかってしまう天才少女だったらしく、容姿も淡麗であったことからそう呼ばれるようになった。彼女は古代の書物を普通に読むことができる力まで持っている。そして、稀にではあるが、リサにしか聞くことができない声が語りかけてくるらしい。「アドルフは人間ではない」や「今から大森林に行きなさい」など、その声が教えてくれたらしい。そしてオレに出会った時に聞こえた声が「あなたが本当に仕えるべき主です」だそうだ… 。
「あ! 忘れてたっ! 風牙くんとリサっち! ミウに付いて来て~」
ミウさん! あんた、やっぱり急にキャラ変わりすぎ! と思ったが心の内に秘めておくことにした。ミウは突然オレたちにそう言うと、手を床に向けて魔法を唱え始めた。すると地下へ続く階段が現れたのである。マジかよ! どこに連れて行く気だ? そんなことを思いながら、オレたちはミウに付いていった。
階段を降りると、薄暗い中に一本の長い通路が伸びている。左右の壁には等間隔でランプが掛けられていて通路を照らしている。例えて言うなら、悪魔城の地下的な雰囲気と思っても良いかもしれない。オレは行ったことも見たこともないが… そんな感じだろう… 。ミウは通路をまっすぐに歩いていく。通路の壁にはいくつかの扉があったので、この地下には何部屋かあるようだ。地下通路は意外と長く、やっと一番奥にたどり着いた。そこには一つの扉があった。
扉の前でミウは再び魔法を唱えた。すると扉が勝手に開き、部屋に入ることができるようになった。部屋の中はかなり広かったが、中央に黒い箱のような物がある以外には特に何もないように思える。
「お母さ~ん!! 風牙くん連れて来たよー!! 起きてー!」
ミウが黒い箱に向かって叫んだ。
そう言えば… ミウってヴァンパイアと人間のハーフだったよね… 今、お母さ~んって聞こえたような気が… てか、よく見るとあの黒い箱って棺桶に見えるよねー って!! ミウの呼びかけに反応するように棺桶の蓋が開き、中から一人の女性が現れた。その女性は、めちゃくちゃスタイルが良く、妖艶な美しさを持つお姉さんだった! ただ… 、背中にはコウモリの様な羽が生えてます… ヴァンパイア確定しました。
「フーガ様、お久しゅうございます。」
その女性は跪きオレにそう言った。てか、ヴァンパイアを跪かせるとか! 『伝説の魔人』ってパネェ~! それよりも、これで「実は人違いでした~」 なんて言ったら超絶ヤバそうな気がするんですけどぉ! どうしよう… オレは、どのようなリアクションを起こしたら良いのかわからずに暫く立ち尽くしていた。
「… あなた本当にフーガ様ですの? 」
「……… 」
「ミウ、このお方は本当にフーガ様なのですか? 答えてちょうだい… 」
口調は優しく穏やかだが、その美しい笑みの奥では、もの凄い殺気を放っている… 。そして、あの大魔導師であるミウが、しどろもどろになり、泣きそうな顔をしているのだ。
「あの~ え、えっと~ … ふ、ふ、風牙くんは、その~ 伝説の魔人… のはず! ……だと…思い…ま…す……… 」
ミウが自信なさそうに母親にそう告げると…
「そう… ミウがそう言うんだったら間違いないですわね。」
母親は笑顔でミウにそう答えた。
グッジョブだ! ミウ! よくやった!! と思っていると女性がこう言ってきた。
「フーガ様、せっかく久しぶりにお会いしたんですから、私と少々遊んで頂けませんか? 」
女性はそう言うと、背中の羽を大きく広げ、手のひらをオレに向けてぶつぶつ何か言い始めた。魔法詠唱!! しかも何か黒い禍々しいオーラが見える! 完全に戦闘態勢じゃねーか!!
「風牙くん逃げてっ!!! 」
ミウがオレに向かって叫んだ。てか、何処に逃げろってんだ!! もうしゃーない!! やけくそだ! やってやるよ! オレがそう思った時、聞き覚えのある声がした。
「やっと、やる気になったんですね、マスター!
どのタイミングで出てきたらいいのか迷っちゃいましたよ~。」
(おまえはスケルトンに襲われた時の… )
「よかった! 覚えてくれてたんだ!
それにしても、「エカチェリーナ」って相変わらずですよねぇ… 。
とりあえず急ぎなんで、軽く本気だしてきますよ~、マスター!
僕の言った通りにやってみて下さいね。
じゃ~、まず、左手で彼女を指差して、光を相手にぶつけるをイメージしてから「リヒト」って言うの! どう? 簡単でしょ!
今のマスターにわかりやすく説明するなら、指鉄砲から光の弾が飛び出すって感じかな… 。
でも軽くイメージしないとダメですよ!
あと~ …何だったっけかなぁ~…
あ、そうそう! 僕、大事なこと思い出しました!
「ゼータ」からお許しが出たんです。だから、何か聞きたいことがあれば、いつでも僕を呼んで下さいね。
僕の名前は「ゼロ」。それじゃ! 」
(それじゃ! って! おいおい、マジかぁ? でも疑ってる暇はないしなぁ… 。言われた通りにやってみるか! )
オレは「ゼロ」に言われた通り、彼女を左の人差し指で差し、光をイメージした。すると指先が光りだし始めた。って! マジかよっ!
「リヒト」
オレがそう言うと、指先から光の弾が飛び出し彼女を吹き飛ばした。光の弾によって奥の壁に叩きつけられた彼女は、今、床に倒れてこんでいる。オレは上位魔族であるヴァンパイアを簡単に吹き飛ばしてしまったのだ… 。
なんなんだ… ? オレは何者なんだ… ?
とりあえず、オレは自分の力に驚愕していた。